07:異世界の花嫁候補はよく喋る
「ていうかさぁ、太郎ちゃんだって最初から気付いてたじゃない。んー、ちょっと違うか。太郎ちゃん、ヴィクトリアが毒入れた時、気付いてたでしょ?」
フレイアと名乗った目の前の女を穴が開くほど凝視した。
周りが目を見張るほどの美女だが、毒を飲んでも死なないと豪語し――実際死ななかったが――、ヴィクトリアの正体を最初から見破り――じゃああの身体をまさぐっていたのは身体検査か?――、おまけに経穴を突いてヴィクトリアの動きを封じた――恥ずかしい話だがいつ突いたのかまったくわからん――、フレイア。
その上、余が毒を仕込まれていたのを知っていたのも気付いていたとは。
全くこの女は、元の世界でどんな事をしていたのだろう。ため息を付いて、フレイアを元のソファーに座らせた。
「確かに気付いてはいた。だが、余は飲むつもりはなかったし、まさか、お前が飲むとは思わなかった。大体、余も毒を仕込まれていても死なぬがな。」
そう言うと、呆れた。と言うようにフレイアは眉をピクリと動かしたが、それだけだった。
「あら、一応耐性はついてるのね。まぁ、王家とかって暗殺紛いの毒殺とかって日常茶飯事っぽいしね。でもね、知ってる?犯罪心理学から見るとね、毒殺って大抵女の犯行なのよ。」
「そうなのか?」
「そう。ほら、女って絞殺とかー、撲殺するには力がないじゃない?だから、簡単な毒を使うのよ。まぁ、これはあくまでも犯罪心理だから、男が毒殺する場合だってあるけどね。」
楽しそうに話すフレイアを見て、なんだか疲れてきた。
今日の所は、これで終いにして明日に持ち超そう。そう思って、動けないヴィクトリアに視線を移す。どうやら本格的に動けないらしい。これはどうしたことかと思っていると、フレイアが妙に艶っぽい目線を余に寄越した。
………
…何やら嫌な予感がするのだが…一応ここは聞いた方が良いのか?だが、絶対聞かなかった方が良かったと思えるだけの自信はあるぞ。
「……何やら言いたい事がありそうだな、フレイア…」
「あ、気付いちゃったー?やーん、太郎ちゃんったら読心術の心得があるの?ちなみに私、読心術も読唇術も出来るんだけど、この世界の言葉でも読唇術って出来るのかしら?て言うか、言葉が通じてる時点で無問題って感じだけどねー!」
…こいつは本当によく喋る…。
余は王だ。あまねく貴族令嬢や、他国の王女達とも社交の場で会ったりすると話しかけられたりする。その時彼女達は、余を讃辞する言葉をかけ、さり気なく自分達のアピールをする。まぁ、あからさまにする者もいたが。
現に、フレイア以外の花嫁候補は、楚々として上品な貴族令嬢や、フレイア程ではないが美しいと評判の隣国の王女だったりする。その彼女達は、腹の中ではどう思っているのかは知らぬが、表だって余を貶したり、この国を貶したりはしない。
それがだ!
会ったばかりのフレイアは、余を『たろうちゃん』とちゃん付けで呼んだばかりか、召喚長をださい、キモい、気色悪い、剛毛、腕毛フサフサとまで宣い、マキシマスを投げ飛ばした上、余に全く敬意を表さん!!!
そうだ、全ての疲労とイライラの原因はそこだっ!!!!
「そんな事はどうでもよい、何故お前はそんな目線を余に寄越す?」
「うふっ、わかってるでしょー?ヴィクトリアをあたしの部屋に置いていって。」
「置いていってどうする。余に毒を盛ろうとした女だぞ。反逆者で断罪せねばならんのに、何故お前が?」
「んふー!朝になってからのお楽しみー!」
艶やかに笑い言って、余達を部屋から追い出したフレイア。
ドアが閉められた後、漏れ聞こえた声はあまりにも聞くに耐えない嬌声だったが…。
言われた通り、次の日の朝、フレイアの部屋をノックする。
早くせねば、朝の謁見に間に合わん。ジローリアスも懐中時計を気にしている。
「起きているか、フレイア?」
「はぁ~い…起きてるわよ~…」
何とも間延びした声が聞こえたと思ったら、ドアが開いた。
開いた先にいたのは…
「おま…フレイア!!なんでお前は全裸で出て来るんだ!!」
「朝からおっきい声出さないでよ、ヒステリーねぇ。それに、全裸って言っても、シーツ巻きつけてるでしょう?」
「お前には恥じらいと言う物が無いのか!?」
「あるわよ。一応。」
しれっと言い放ったフレイアを見て、側にいたジローリアスは頭に手を当てて唸っている。
マクシマスと他二人は目線をさまよわせているが、チラチラと見ているのが丸わかりだ。
「わかった。もういいから、服を着ろ…。朝から何だか疲れたな…。」
我知らず深い深いため息を付いて、フレイアを部屋に押し込めたら、またまたフレイアは余達の想像を竜巻並みの破壊力でぶっ飛ばしてくれた。
え?何をしたって?誰だ、お前は!まぁ、良い。
フレイアはだな…
「何でここでシーツを落とすんだ!!!!!!!」
「え?だって服どこにあるかわかんないから、ここで着替えようと思って。」
あまりの光景に、ジローリアス他三人は唖然としている。そして、我に返った彼らは急いで後ろを向いた。
…お前達…顔が真っ赤だぞ…
朝日に照らされたフレイアの身体〔全裸〕を見ながら、こいつは絶対に花嫁候補から外そうと思った。
…しかし、いい身体だ。




