06:無駄な努力
目を見開いてあたしを見ている周囲を尻目に、カップに残っていた紅茶を一気した。
うーん、我ながらいい飲みっぷり。
それを蒼白な顔で見ていた太郎ちゃんが、慌ててあたしの持っていたカップを奪った。
「毒って、お前…体に異常はないのか…」
「ん?だから言ったじゃない。あたしは毒じゃ死なないって。ま、致死量にはちょおーっと足りないけど、普通の人間だったら意識が飛ぶわね。これじゃ。」
「マクシマス!その女を捕まえろ!!」
「はっ!!」
次郎さんが怒鳴った。
もう、怒鳴らなくたっていいじゃない。頭に響くんだけど。マッチョメン隊長が腕を後ろにひねり上げて拘束しているけど、そんなにしなくてもヴィクトリアは逃げないと思うわよ。
もとい、逃げられないのよ。
「ねぇ、マッチョメン隊長さ。離してやってよ、ヴィクトリア痛そーじゃない。」
「フレイア、何言ってるかわかってるか!?ヴァルハラ国王を毒殺しようとした女だぞ!?牢にぶち込むのが筋だろ!」
「だからー、あの量じゃ死なないって。精々、数日寝込む位ね。」
「それでも、拘束の手を緩めるわけにはいきません。取り調べをして、裏にいる人物を洗い出さねば。」
次郎さんまで怖い顔であたしを見てる。
はーっと溜め息を付いて、組んでいた足を下ろす。そして、紅茶が注がれていた違うカップを手にとって一口飲んだ。
「誰が許すって言ったのよ。腕を解放してやってって言ったの。どうせ、ヴィクトリアは動けないわよ。あたしが経穴突いたからね。ね、ヴィクトリア、指一本でも動かせる?」
驚いた表情のマッチョメン隊長が、急いでヴィクトリアを解放してやった。あたしに経穴を突かれていたヴィクトリアは、解放された途端に膝から崩れ落ちる。
苦々しい目線をヴィクトリアから感じるけど、それだけじゃあ、あたしはビクともしないわよ。お嬢ちゃん。
「お…おのれ…貴様、いつから気付いて…」
「いつからって言われたら~、最初からよ。」
「何だと?フレイア、最初から気付いてたと言うのか?ヴィクトリアはこの国の子爵家の娘だぞ?それが、初めて会ったお前が何故そんな事を知り得るのだ!」
うん。今から説明するから待ってね。
ヴィクトリアの近くに寄って、動けなくなっている彼女を見下ろす。
ギリギリとあたしを睨んでいるヴィクトリアの表情は垂涎物だわ。
「あたしねー、元の世界で心理学の学位取ってるの。それにクアンティコにあるFBIのBAUの研修も受けてるから犯罪者の雰囲気ってわかるのよね。ヴィクトリア、あなたってあたしのプロファイル通りに行動してくれるんだもん。途中から吹き出すかと思っちゃった。」
うふっと笑ってヴィクトリアの顎をつま先で掬った。
あ、ちなみにシャワーから出た状態で、こっちに呼ばれたから裸足のままなのよね。太郎ちゃん達も気付いてくれりゃあいいのに、そう言う所は雑よねぇ。
「くあんてぃ…?えふびーあい?一体何のことだ?」
「まぁまぁ。詳しく知りたいんだったら、とりあえずヴィクトリアの問題を片付けちゃいましょう。ねぇ、ヴィクトリア。太郎ちゃんに毒飲ませようとしたのは何で?」
「くっ…!誰が貴様なんぞに言うか!!」
「やっぱり言わないわよねぇ。だって、太郎ちゃん。どうすんの?」
「どうするもなにも。余に毒を盛ろうとしたんだぞ。処刑するのが筋だろう。」
「…くっ!!」
…あー、ヤバいヤバい。ヴィクトリア、超ピンチ!!あたし好みのナイスバデーが…このまま指加えて黙ってるわけにはいかないのよぅ。だいたい毒盛ったって言っても、あたしが飲んだわけだから、太郎ちゃんに害はないじゃないねぇ。
皆に囲まれて、偉そうにソファーにふんぞり返っている太郎ちゃんをじーっと見つめた。
その視線に気付いた太郎ちゃんと目が合う。綺麗なエメラルドみたいな緑の眼ね。
ちなみにあたしの誕生日はダイヤモンドよ。
「ていうかさぁ、太郎ちゃんだって最初から気付いてたじゃない。んー、ちょっと違うか。太郎ちゃん、ヴィクトリアが毒入れた時、気付いてたでしょ?」
あたしの発言に唖然としている太郎ちゃん。
ふーう。そう言う反応を見せるのってまだまだ未熟者なのよね。この国、大丈夫なのかしら。
なんだか心配だわ。
FBIはわかると思いますが、クアンティコとBAUについての説明をちょびっと。
BAUとは、FBIの中の部署で、犯罪心理を専門としたプロファイラー軍団って言えばいいのでしょうか。
で、そのBAUの本部があるのがクアンティコ。…あれ、FBIの本部があるのがクアンティコだっけかな。
ちゃんと知りたい方はググって下さいませ。もしくはウィキ…。




