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16:妥協とはなんぞや

ダンスが出てきますが、私はダンスに関してはさっぱりで…知識がないまま書いているもので、間違っていたらすみません…。

あくまでもフィクション、フィクションだと思ってください。


ちなみに、今回少し長くなりました。

城中の女子のハートをことごとくその手中に修め、はたまた魔獣までもを虜にする女、フレイア。

しかし現在、そのフレイアはいたくご立腹であった。


なぜなら…



「だから、半拍動くのが遅いって言ってんのよ!右足出すタイミングが遅い!!何回言ったらわかる!!」



その美しい顔を歪めながらもその美貌を衰えさせず、しかし怒号を響かせ、城の主であるはずのタロヒュージのダンスのレッスンを行っていた。



事の発端はこうである。



「お披露目会?なにそれ。」


「来月は陛下の即位10年目の節目の年になります。その為に花嫁候補の方々を国内外にお披露目を…という事であります。」


「ふぅん…。」



タロヒュージの即位10年の記念式典が来月に行われるに当たって、それまで内密にとされていた候補を一同に集めて、国内外の王侯貴族にお披露目しようという知らせが宰相からもたらされた。

即位10年にしては暗殺未遂とかされているし、いろいろと締めるべきところが締まっていないなと思うフレイアだったが、一つ引っかかった事がある。

春夏秋冬の候補は全員揃っているし、星の候補だと言う自分もいる。皆まで言われなくても気が付く。月の候補がまだ到着していない。もししているのであれば、この城の一室にいるだろうがそう言う話は聞いていなかった。



「ねえ、次郎さん。月の候補がいないけど、それはいいわけ?」


「…あのお方は式典直前ではないと到着しないと報告を承っております。」


「ふぅん…。ま、いいや。それで?どんな式典になるわけ?いちいちあたしに教えに来たんだもの。何かあるんでしょ?」



『彼女』の事を深く詮索されなかった事に内心安堵しながらも、フレイア相手に安心は出来ない。気を緩める事無く、彼女の質問に答えて行くジローリアス。



「祭典は二日に渡って行われます。式典前日には、宮中での晩餐会と舞踏会、当日には城のバルコニーにお出になってもらいます。そこで民にもお顔をお見せになっていただくのです。」


「誰かが王妃に選ばれるのに、皆が民に顔見せするわけ?それって選ばれなかった人はとんださらし者じゃなーいー?」


「そう言うわけではございません。もしも王妃になられなかった方でありましても、その方には陛下の寵室になれる機会が与えられます。」


「婚姻したばかりなのに、もう寵室?どれだけ節操ないのよ。」



きりりと放たれた矢がジローリアスに刺さる。その矢を放ったフレイアはと言うと、小さな愛玩用の魔獣をそこここに遊ばせている。さながら、小さな魔獣たちの女王であるかのように、彼等はフレイアに纏わり付いて離れない。それを嫌がる素振りを微塵も見せず、むしろ好きにさせてやっている彼女の意外に深い懐具合に関心しながら、宰相は話を続ける。



「王は…王家は、」


「ああ、わかってるわよ。子孫を残さなければいけないんでしょう?あたしだってそれは理解しているわ。ただ、寵室を持つなら少しばかり機会を考えて欲しいわよねー。って事。王妃云々と寵室が一緒くたになってるんだもの。傍目に考えてみればおかしいんじゃないの?ってことよ。ま、端からあたしは選ばれる気なんてさらさら無いし、寵室になんて土下座されてもごめんだけどね。」



さらっと聞き捨てならないことを聞いたような気がする。しかし、それも聞かなかった事にする。宰相たるもの、スルー能力にも長けていなければ務まらない。

一方スルーされたフレイアにしても、そう大した気にもしていなかった。というよりも、何故そんな事をいちいちジローリアスが言いに来たのかが疑問だった。



「次郎さん、もういいの?だったら早く戻んなさいな。仕事が溜まっちゃうわよ。」


「お気使いありがとうございます。つきましてはフレイア様、ダンスはお出来になりますか?」


「ダンス?種類は?」


「ワルツでございます。」


「踊れるわよ。と言うか、社交ダンスは全部踊れるわ。」



ラテンだって踊れるのよ!!と言っても、この世界にラテンを踊れる人がいるのかどうかはわからない。いなかったとしたら、自らが広めてもいい。情熱的なラテンの風をこの世界の人達にも体感してもらわねばもったいないではないか!!

情熱(パッション)を人知れず(ほとばし)らせるフレイアを尻目に、ジローリアスはほっと息を付く。



「前夜祭では陛下主催の舞踏会が行われます。そこで、候補の方お一人ずつ陛下と一曲踊っていただきます。フレイア様は踊れるということでしたので、教師をお付けしなくても大丈夫でございますか?」


「平気よ。あ、でも教師って言うのはちょっと必要ね。最近全然踊ってなかったから、鈍っているかもだし。」


「左様でございますか。ではこちらで手配を。」


「身長はあたしより大きい人をお願い。それと、あたしに男性用の服を用意してもらえないかしら。」


「…身長はともかく…、何ですか、その男性用の服とは…」


「あたし、男役も踊れるの。」



しれっと笑顔で答えたフレイアだったが、ジローリアスはどうしたものかと悩んだ。

はっきり言って、男性用の服なんぞ着せたらまた城中の女子達がフレイアに靡いてしまう。それは阻止しねばならない。

しかし、敵もさるものながら、宰相がはいと頷く前に侍女であるヴィクトリアにあっさりと男性用の服を差し出させたのである。しかもそれは、タロヒュージの第一級礼装ではないか!



「それは陛下の…っ!!」


「あら、そうなの?ヴィクトリア、どうしたの、これ。まさか盗ったの?」


「違います!フレイア様、それは私に対する侮辱ですわ!!これは陛下の衣装係から拝借したものでございます。断じて盗んだわけではございません!!」


「そう言う問題ではないだろう!!」


「とは言え…ね、次郎さん。ごめんなさいねー。…でもさぁ、太郎ちゃんって、腰細くない…?」



しげしげと服を見つめるフレイアは、盗ったどうのこうのより、服そのものが気になるらしい。しかもサイズ。

いよいよ頭が痛くなってきたジローリアスは、次いで開けられたドアの大音量に再び顔を顰めた。

そこにいたのは金髪の髪を振り乱し、ぜーぜーと息を切らしている自らの主…タロヒュージ国王である。



「フレイア!!余の服を返せ!!」


「あら、太郎ちゃん。」


「『あら、太郎ちゃん』ではない!余の服を勝手に持ち出すな!おい、ヴィクトリア!!そもそもの原因はお前か!!」


「私の主はフレイア様です。陛下ではございませんわ。それに、侍女として、主の願いを叶えるのが私の仕事ですもの。何か文句がございますか?」


「貴様…っ!不敬罪と窃盗罪で牢に叩き入れるぞ!」


「まあまあ、太郎ちゃん。ちょうどいいところに来たわ。ダンスの相手して頂戴。ここに来たって事は暇なんでしょ?どーせ。」



怒っているはずなのに、なんだろう。この虚脱感。

相変わらず第一級礼装の服はフレイアの手にあるし、しかも暇だと言われたもんだ。

暇ではない。暇ではないのだが、国王付きの侍従から衣装がないと言われて侍女を問い詰めてみたのだ。それから明らかになった真実…。フレイアの願いを叶えるためにヴィクトリアが女官長に頼みこんで、当初は何を言っているのだと一蹴したらしい。しかし、ヴィクトリアから耳打ちされた一言でその鉄の意志も熔解してしまった。



「女官長様はこの第一級礼装を着たフレイア様が見たくないんですか!?」



と。


その悪魔の一言で、真面目で有能、融通が聞かない事で有名な女官長はおずおずとタロヒュージの服をヴィクトリアに渡してしまったようだ、ちなみに、思いもがけずその場に居合わせた女官、侍女達はその女官長の行動に拍手で声援を送ったらしい。


その後、正式なお披露目会という場なので衣装合わせ的な日程が組まれ、タロヒュージが衣装室に赴いた際に今回の事件が発覚したのである。



「まぁまぁ、女官長を怒らないであげて。彼女は何もわるくないじゃないの。あたしがこの服を着たところを見たかったんでしょう?だったら仕方がないじゃなーい。」


「『ないじゃなーい』ではない!!余の衣装が無いのだぞ!しかも第一級礼装が!国の大事で着る大事な物だ、フレイア、お前がおいそれと着れるものではないわ!!」


「はー…うるっさい男ねぇ。そんなカリカリしてたんじゃ将来ハゲるか、高血圧でぽっくり逝っちゃうわよ。ま、仕方ないわね。ヴィクトリア、その服、太郎ちゃんに返してやってくれる。その代わり。太郎ちゃん、一曲踊ってくれるかしら?」


「は?」


「舞踏会の練習よ。私最近踊ってなかったら身体が覚えているか心配で。さ、太郎ちゃん。」


「…仕方が無い。一曲だけだぞ。」



そう言って、部屋の中央にフレイアの手を取って移動したタロヒュージとフレイア。

曲がないので、あくまでもタロヒュージのリードに任せる体で二人でワルツを踊る。その様はまるで、お伽話に出てくるような優雅さで、思わず居合わせた面々はほぅ…と感動のため息を吐いた。特に女性陣、ヴィクトリアといつの間にか見に来ていたイザベルやオフィーリア、サマンサ、イヴも二人を(主に、というかほとんどフレイアのみ)キラキラと羨望の眼差しで見ていた。他の女官や侍女もいた事はあえて割愛。


タロヒュージにしても、いままで美しいと思っていたフレイアがこんなにも近くにいるのは初めての事で、やはりその顔が近くにあると言う事で彼女の顔を穴があくほど見つめていた。

いつもいつも自分を怒らせて、呆れさせて、驚愕させてばかりいるフレイアだが、黙って踊っていれば極上の女だというのはわかる。今は節目がちになっている色の違う両目も、その絶対的な美しさを更に引きたてるものとして重要で、しかも踊っている最中のために身体が密着している。その感触もやはりいい。いつもであれば女を侍らせ高笑いをしているようなフレイアだが、別に男が嫌いだということは言っていなかったし、王妃が決定した際には寵姫の打診も本格的にしてみようと思う。

そんな事をつらつら考えていたタロヒュージは、フレイアの機嫌が急降下しているのに気付かなかった。



「もういいわ。」


「いいのか?では余はこれから、」


「下手くそすぎて一緒に踊ってるとイライラしてくる。」


「「は?」」


「ごまかすように自分の下手さを誤魔化してる感じが本当小ざかしいって言うか。普通なら気が付かない程度かもしれないけど、あたしの目と身体は誤魔化せないわ。太郎ちゃん、あなた半拍遅れてる。」



半拍…。

まさか自国の王であるタロヒュージのダンスが小ざかしいと貶されると思っていなかったジローリアスは、すぐさまそれを否定するかのように食い気味でフレイアに反論した。



「いいえ、フレイア様。陛下はとても上手に踊られていましたが。」


「上手?馬鹿も休み休み言いなさい。半拍。半拍なのよ。半拍遅れてるくせにリードしようなんてちゃんちゃら笑わせるわ。いい?ダンスは男性のリードで女がそれに着いて行くようになってるの。それなのに男が下手なんて…終わってるわ。こっちが逆に恥かくじゃないの。」


「…っ!言わせておけば…!!じゃあお前が見本を見せてみろ!!それが手本になるのだったら余はフレイア、お前にダンスを手ほどきしてもらおうではないか!!」


「上等。じゃあ、あたしが男性役、女性役はー…っと。身長的に…ヴィクトリ「お姉さま、わたくしが!!」「まあ、フレイア私ですわよね!?」「フレイア、そんな悲しい事言わないで。私ですわよね?」「私!!絶対私!」



はいはい!!と手を上げてきた女性達は凄い数にのぼってしまい、結局はじゃんけんで誰がフレイアのパートナーになるのか決める事になった。壮絶な戦いがあったことは割愛し、最終的な勝者は当初の通りヴィクトリアになったのである。恨みがましい女性達の怨念交じりのじっとり目線を肌で感じながらも、勝ち誇った笑みを浮かべたヴィクトリアは、ようやく愛しの主の元へとはせ参じた。



「あたし今着てるの動き難いのよね…。太郎ちゃんの服着れないし…仕方ない。ポーーーーーチ!!」


「はいっ!!お呼びですか、フレイア様!!」


「脱げ。」


「ははははいぃぃぃ!?」


「その近衛の制服全部脱げ。あたしがその服着るから。」


「嫌ですぅぅぅ!!すみませぇぇん!!!!」


「ポチ!!脱げったら脱げ!!ご主人の命令が聞けないの!!」


「あ、やっ!!フレイア様!!脱がさないでくださいよぉぉぉ!!いやぁぁぁーーーーーーー!!!!」



結局。ポチは抵抗空しく脱がされたものの、今度はフレイアの身体に合わない。股下が短すぎるのだ。つんつるてんな服を哀れに思ったのか何なのか知らないが、その惨劇を目の当たりにし、根負けしたタロヒュージが自分の服を差し出した。

きゃーーーーっと悲鳴を上げた女性陣を尻目に、フレイアは着替えるために一旦部屋を出た。



「陛下、よろしいのですか…」


「一度だけだ。それに、余のダンスが半拍遅れているだと。笑止!!余のダンスは講師らからも絶賛されているというわ!!」


「左様でございましたね。しかし、半拍となると気付くか気付かないか程度なのでは無いのでしょうか。それに、誰もそこまで見ていないと思われますがねぇ…」


「はっ!精々フレイアも恥をかくといいのだ!!」



結果。



第一級礼装を身にまとったフレイアが部屋に入って来るや否や、失神者続出。更にはダンスをしたヴィクトリアも最後まで踊ったものの、その記憶は曖昧でほとんど何も覚えておらず、イザベルらも全員が一度は相手になったのだが見惚れてしまってステップどころの話ではなかった。

それにも関わらず、やはり男性役も出来ると豪語したフレイアのステップとリードは完璧で、フレイアの色香に惑っていた彼女達全員はその確かなリードのお陰で最後まで踊りきる事が出来たのである。



「いい、わかった?全員ステップが踏めなくても男性がリードさえしてればようは上手く見えるの。それなのに、太郎ちゃんのダンスと言ったら…自分よがりな感じで…ケッ!て感じよね。」


「ぐぅ…っ!!半拍ぐらいは許容であろう!妥協せぬか!!」


「妥協…?妥協って何それ。どういう意味?」


「妥協も知らんのか!やはりお前は、」


「妥協なんて言葉はあたしの辞書、いいえ、このパーフェクトな脳髄のどこにも存在しないの。いい?妥協なんてものは存在しないのよ!?太郎ちゃん、このあたしに『妥協』なんて言葉でいい加減な事やってみなさい。その言葉を発した事の愚かさを身を持って体感していただくわ。」



その宣言どおり、フレイアの地獄の特訓は夜を徹して行われ、タロヒュージがダンスから解放されたのはそれから二日後の事だった。


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