『魔王の裸を見たら結婚させられたけど、オオカミ守護者と世界を救うことになりました』
第一章:場違いな勇者と、裸の邂逅
世界が「9種族連合」と「魔族」の果てしない戦争に明け暮れていた頃、一人の青年が勇者として祭り上げられた。名は「ゆう」。動物をこよなく愛し、テイマーとしての才を持つだけの、どこにでもいる穏やかな若者だった。
「戦争なんて興味ないし、みんな仲良くすればいいのに……」
そんな彼の呟きは、血に飢えた軍上層部には届かない。ドラゴンをテイムした瞬間から、彼は軍令により、単独での魔王討伐を命じられる。
ゆうは相棒のドラゴンに乗り、雲を突き抜け、魔王の巨城へと突撃した。窓を突き破り、彼が転がり込んだ先は――あろうことか、魔王専用の浴室だった。
湯気の中にいたのは、禍々しい角を持ちながらも、息を呑むほど美しい女魔王、クシャナ。
「……貴様、死にたいのか?」
殺気立つクシャナに対し、純朴なゆうは真っ赤になりながら叫んだ。
「責任を取ります! 僕と結婚してください!」
その真っ直ぐすぎる瞳に、数千年の孤独を生きてきたクシャナの心が、初めて小さく揺れた。
第二章:白と黒の守護者
二人の結婚により、表向きの終戦が訪れるはずだった。しかし、長年の憎しみは止まらない。
ゆうは悲しんだ。戦場で流れる血を止めるため、彼は自らのテイム能力を使い、白と黒の毛並みを持つ無数のオオカミを放った。
「オオカミさんがみんなを守ってくれるから。これで誰も傷つかないね」
ゆうの言葉通り、オオカミたちは両軍の間に割って入り、過剰な殺生を力ずくで阻止した。数年間、戦死者はゼロ。世界は、一人の青年の「純情」によって、奇跡的な平和を維持していた。
第三章:踏みにじられた純情
だが、平和に慣れた人々は傲慢になった。
「あのオオカミが邪魔だ」「獲物を横取りされた」
自分たちの闘争本能を阻害するオオカミを、9種族も魔族も疎ましく思うようになる。やがて、戦場には毒を仕込んだ肉がばら撒かれた。
ゆうが我が子のように愛し、世界を救うために遣わしたオオカミたちが、苦しみながら次々と命を落としていく。
その報せを聞いたとき、ゆうの中から「光」が消えた。
彼は何も言わず、ただ涙を流しながら世界から姿を消した。
第四章:絶望の具現化
一年後。世界は、かつてない恐怖に包まれた。
図鑑に載っていない、この世のものとは思えない「化け物」の群れが戦場を蹂躙し始めたのだ。それは嘆き、悲しみ、憎悪を煮詰めたような姿をしていた。
10種族の長となったクシャナは、犠牲を払いながら調査を進め、ついに「世界地図の外」に広がる、魔物の国を見つけ出す。
そこには、巨大な山のような城がそびえ立ち、周囲を埋め尽くす化け物たちが、侵入者を拒んでいた。
クシャナは単独で城の深部へと突入する。最奥の部屋、光が漏れる扉を開けたとき、彼女が見たのは――神聖なまでに禍々しい魔獣に抱かれ、氷のように冷たく眠る「ゆう」の姿だった。
「ゆう……!」
駆け寄るクシャナ。しかし、魔獣が吐いた一息で、彼女の右腕は瞬時に石化し、ボロボロと崩れ去った。
「……今は、触れることすら許されないのか」
クシャナは撤退を余儀なくされる。
第五章:裸の魂、愛の回帰
現世に戻ったクシャナは、全種族に事実を告げた。
「私たちが殺したのは、オオカミではない。彼の心だったのだ」
右腕を失った女王の姿に、世界は初めて自分たちの罪の重さを悟り、慟哭した。
そして、再遠征。
クシャナは再びあの部屋の前に立った。今度は、鎧も、服も、魔王のプライドもすべて脱ぎ捨て、生まれたままの姿で。
「ゆう。責任を取るって、言ったじゃない」
神聖な魔獣が彼女を見つめるが、今度は攻撃してこない。
クシャナは残された左手で、ゆうの頬に触れた。凍りつくような冷たさが彼女の体を侵食し、意識が遠のいていく。
「愛してる……」
魂を込めた最後の口づけ。
その瞬間、ゆうの心に閉じ込められていた「絶望」が、クシャナの温かな「愛」によって溶かされた。
異界を、そして現世を埋め尽くしていた化け物たちが一斉に動きを止める。
ドス黒い皮膚が剥がれ落ち、そこから現れたのは――かつての、つぶらな瞳をした巨大なオオカミたちだった。
終章:新しい命の謳歌
それから数年。
現世に帰還したゆうとクシャナの姿は、王宮のベッドルームにあった。
「ゆう、次は双子がいいわね」
「クシャナ……たまには休ませてよw」
失われた右腕の代わりに、ゆうの愛によって再生した不思議な腕で、クシャナは夫を強く抱きしめる。
外では、巨大なオオカミたちが庭を駆け回り、二人の間に生まれた大勢の子供たちの遊び相手をしている。
人の純情を踏みにじった世界は、一度滅びかけ、そして、一人の女魔王の「裸の愛」によって、かつてないほど騒がしく、愛に満ちた場所へと生まれ変わったのである。
(完)




