第6話 だから私と
「なんでですか⁉ なんでですか⁉ ここは雰囲気的に『はい』の流れだったじゃないですか⁉」
「いや、雰囲気とか言われても」
「『はい』からの『二人は幸せなキスをして終了』のハッピーエンド確定だったじゃないですか⁉」
「勝手に確定させないで」
二次元ならその展開も分からないでもない。けど、ここは三次元なので。
「むうう。絶対いけたと思ったのに」
「神無月さん」
「何でしょう⁉ もしかして、付き合ってくれる気になりました⁉」
「そうじゃなくて」
「むうううう」
あ、あんまり不貞腐れないでほしいなあ。
ふうっと軽く息を吐く。胸に手を当て、奥底に眠る気持ちを呼び起こす。
「私、ね。神無月さんに好きだって言われたの、実はすごく嬉しかったんだ」
慰めじゃない。同情でもない。これは私の、心からの想いだ。
「私、人付き合い苦手だし。ずっとおどおどしてるし。自分でも嫌になるくらいのダメ人間だけど。こんな私のこと、好きになってくれてありがとう」
「四宮さん……」
「女の子同士で付き合うとか、私には分からない。けど、せっかくできた縁だし。神無月さんと仲良くなれたらいいな、とは思ってる」
私は、ゆっくりと手を伸ばす。
「だから私と……友達になってくれませんか?」
その言葉に、神無月さんの目が大きく見開かれた。
無言のまま見つめ合う私たち。
生温かい春風が、私たちの間を吹き流れてゆく。歩道橋の下を通る車の走行音が、妙に大きく感じられる。
そうしてどれくらい経った頃だろう。神無月さんが、私の手をとった。
「四宮さん、なかなか粋なことしますね」
……ん?
「粋なこと? えっと。友達になってくれるってことでいいのかな?」
「もちろんです。要するに、『まずは友達から』ってやつですよね。まあ確かに、友達期間を挟んでお互いを知っていった方が、恋人になった時に喧嘩とか少なそうですし」
「……あれ?」
おかしい。私は純粋に友達になりたかっただけなのに。なぜか恋人になる前段階にされてる。
「ボクたちが恋人になった後のことまで考えてくれてるなんて。さすがです」
「か、神無月さん。あのね。そうじゃなくて」
「これからよろしくお願いしますね、四宮さん!」
「あ、はい」
神無月さんの圧に押され、否定を忘れて頷く。相変わらず弱い私である。
「おっと。もうこんな時間。そろそろ帰らないとお母さんが心配しちゃいます。それじゃあ四宮さん。また明日」
言い残し、神無月さんは小走りで去っていった。私はただ一人、歩道橋に取り残される。
「……とりあえず謝れたけど。なんか、妙な方向に進んじゃったような」
♢♢♢
翌朝。少し緊張しながら教室の扉に手をかける。
ガラガラガラ。
「四宮さん! おはようございます!」
ピシャン!
びっくりした。神無月さんがすぐ目の前にいた。すっごい偶然。
ガラガラガラ。今度は向こうから扉が開けられた。
「あのー。なんで扉閉めちゃうんですか? というか、前にもこんなことありませんでした?」
顔をのぞかせる神無月さん。
「え、えっと。お、おはよう」
「おはようございます!」
「……な、なんで、扉の前にいたの?」
まるで、私が来るのを予期していたかのように。
「あはは。言ったじゃないですか。ボク、四宮さんのことなら大体分かるって」
やっぱり、こわ。
頬がピクピク痙攣するのを誤魔化しながら教室内へ。席に着き、ふうっと一息。
「四宮さん。今日、お昼暇ですか? 暇ですよね? 特別やること、ありませんよね?」
「……暇ですが何か?」
馬鹿にしてんのかコラー……と一応心の中で威嚇しておく。
「もしよかったら、一緒にお昼食べません? 実は今日、お弁当二つ作って持ってきてるんですよ。ボクの手料理、四宮さんにも食べてもらいたくて」
そう言って、机横に吊るされた学生カバンを指差す神無月さん。いつかも見た手作り感満載のキーホルダーが、カバンのふくらみに押されてちょっぴり苦しそう。
「そ、そうなんだ。ありがとう」
一緒にお昼イベント! すごい! アニメっぽい! あと、陽の者っぽい!
オーケー、落ち着け四宮真央。これはきっと、『私の胃袋を掴んで恋人に近づこう作戦』にちがいない。ここで食い気味に返事をしてしまってはダメ。あくまで冷静に。私たちは、友達なんだから。
「ちなみに、デザートはプチシュークリームです」
「ぜひご一緒させていただきます!」
……あ。
「ふふ。やっぱり四宮さんはシュークリームが好きですね」
私、シュークリーム好きを公言したことはなかったはずなんだけど。もう考えるだけ無駄なんだろうか。
高校入学から一か月。唐突にできた友達は、私とは正反対。クラスの人気者。これから私たちがどんな関係になっていくのか、さっぱり分からない。
けれどまあ、とりあえず、だ。
「ありがとうね、神無月さん」
私なんかのことを好きになってくれて。
「ん? 四宮さん、今何か言いました?」
「別に」
「あ。お昼ご飯の時、『あーん』とかもしていいですか? 何なら『口移し』でも……」
「いや、そういうのはちょっと」
「そんなぁぁぁああああ!」




