君を愛することはないと言われた、三日目
「これからも、君を愛することはない」
結婚三日目の寝室で、シル伯爵令嬢は夫になった男に初日と同じ台詞を言われる。
「どうして、そんなことをおっしゃるのですか?私は旦那様がやさしい人だと知ってます。旦那様が私のことを大切に思ってくれていることも知ってます。それなのに何故?」
「理由などない。私が自分勝手な人間なだけだ」
「旦那様。私に旦那様の本心を話してください」
「話すことなどない」
新婚の二人は静かに言い合いをする。
その二人に、その寝室の本来の主である魔王が言った。
「そんなのは自分の屋敷でやれよ!」
新婚の二人は、怒鳴った魔王をちらっと見る。
そして、二人の世界に戻る。
「もしかして、旦那様は私のためにそんなことを言ったのですか?」
「・・・違う」
「旦那様は嘘をつくのが下手ですね」
言い争いをしながらも二人は見つめ合う。
魔王が再びつっこみを入れようとして、王国騎士団七番隊隊長に口をふさがれる。
(駄目ですよ。お二人の邪魔しちゃ)
声を潜めて魔王に注意をする七番隊隊長。
(ここは魔王城で我の寝室。何であいつらが乳くり合っているんだよ?)
(そりゃあ、あなたが古代兵器争奪戦に、手下のスライム怪人を送り込んだからですよ。そのせいでお二人の寝室がスライム汁まみれになっちゃって、それでここに来たんじゃないですか)
(なんで、新婚がセットで来るの?)
(あなたへのお礼参りにきたわけじゃなくて、新婚夫婦がベットを確保に来たんですよ)
(謝るから帰ってくれよ。もう手を出さないから。古代兵器争奪戦から手を引くから)
(今夜はあきらめるしかないですよ。またシル元総隊長にボコボコに蹴られますよ)
魔王の寝室には、声を潜める七番隊隊長と魔王、お互いを思いやる新婚夫婦がいた。
「僕の領地は陰謀が渦巻いている。それに君を巻き込みたくない。僕が君を冷遇していると周知されれば、誰も君には興味を持たないだろう」
「そんな気遣いは無用です。私は王国騎士団に所属していました。荒事には慣れています」
「僕は君の騎士団時代のことを知っている。君は英雄扱いされていたけど、本当は苦しんでいたんじゃないのか?君は誰かを傷つけることで、自身の心も傷ついていたはずだ。君はいつも英雄の笑顔を作っていた。でも、その瞳はいつも苦しそうだった」
(あの男、人を見る目が無さすぎるだろう。あの女、戦いで心痛めるタマじゃないぞ)
シル伯爵令嬢は顔を伏せる。
「あなたは私の苦しみを見抜いていたのですね。あなただけです、私の心の底に封印した悲しみに気がついてくれた人は」
(あの女、ボケ旦那のボケに乗っかりやがったぞ)
シル伯爵令嬢は顔を上げ、壁にかけられた肖像画を見上げる。
「私の父上は厳しい人でした」
(あの肖像画、我の父親だぞ。あの女の父親みたいな雰囲気だしているぞ)
(雰囲気って大事ですからね)
「父上には剣の技術を仕込まれました。剣は好きです。でも、その剣で誰かを傷つけるのは嫌いです。自分でも身勝手な言い分だとわかってます。でも、私は誰かを傷つけたくないんです」
(嘘つけよ。あの女、絶対にそんなこと思ってないぞ)
(疑うのは良くないですよ。シル元総隊長が誰にも知られないようにやさしい心を隠していた。今、その傷ついた心を、夫になった男性が癒す。感動的じゃないですか)
(じゃあ、おまえ賭けるか。我はあの女が嘘ついている方に賭けるぞ)
(私だって、そっちに賭けますよ)
新婚夫婦は手を取り合い、見つめ合う。
二人の唇が近づいていく。
(もう我慢できぬ。我の最強魔法でふっとばし、ごほっ)
重なる唇。
(あの女、旦那とキスしながら、我を雑に蹴りとばしやがった)
(勝てないのは思い知ったでしょう。あきらめてください)
寝室に魔王の部下が飛び込んでくる。
「報告します。魔物領辺境地で反乱が発生しました」
(なんで我の部下、あの女に報告するんだ?)
(シル元総隊長は貫禄がありますからね)
「旦那様。私は民のためにいかなければなりません。私はまた誰かを傷つけてしまうでしょう。私はあなたのやさしさにふれてしまった。おそらく、私はもう泣くのを止められないでしょう。戻ってきたら、あなたの隣で泣かせてください」
「もう帰ってくれよ!」
「でも、反乱鎮圧しないと。私、集団戦の指揮、最近してないんで楽しみなんですよ」
「魔王軍の指揮をしようとするな」
「ちょっとだけですよ」
「駄目だよ。元部下のお前からも言ってやれよ」
「シル元総隊長。いま旦那さんの元に帰れば、慰めセックスですよ」
「こんなひどい言葉、初めて聞いた」
「そうですね。確かに、今帰れば慰めセックスですね」
「その下品な単語、流通しているのか?」
「わかりました。私は帰ります」
「帰ってくれるか?」
「寝室に戻ります。そして、旦那様と一緒にあなたの帰りをお待ちします」
「本当に帰ってくれよ!」
おわり




