風を切る音
自転車のかごの中で、ぼくは不思議な気持ちであたりを見まわした。
生まれてから今日まで、ずっと薄暗い場所にいた。
兄弟がどれくらいいるのか、ママはどんな顔なのか、それすらも知らない。
手がかりがあるとすればそう、ニオイだけ。
それなのにギューイは、ぼくに可愛らしい名前をつけてくれた。
それだけじゃない。
食べ物もミルクもあたえてくれた。
なによりも、ママたちをいっしょにさがしてくれるという無償の愛までプレゼントしてくれたんだ。
こんなことってあるのかなぁ?
ギューイの運転する自転車のかごの中で、ぼくはまた考える。
景色が流れて、いろいろ見えるけど。
ぼくはやっぱり、ママたちといっしょがいいな。
ねぇ、ぼくのママが見つかったら、ギューイはどうするの?
ギューイのお父さんとお母さんは、また仲良しになれるのかな?
それはムリかもしれないけど。
ギューイのこころはもう動いている。
だからきっと、大丈夫なんだ。
ねぇ、ギューイ。
ギューイがウソをついたのって、きっと家族でしあわせに暮らしたかったからだよね?
それくらいのことなら、ぼくにもわかるんだよ。
ねえギューイ。
もしぼくのママたちが見つかったら、ギューイのお父さんにいっしょにあやまりに行こうよ。
それがいい。
ぼくを振りほどいてゆく風。
その風を切る音。
たくさんのガソリンのニオイに、人のニオイ。
だけど今だけは、ギューイのニオイが一番安心するんだ。
つづく




