第一話 転生
お?客人か?
質問が沢山あるようだな、だが今は答えることができない。
まぁ一つ言えることは、あんたは転生したってことだよ、あんたは死んで生まれ変わったってことさ。
まず初めに、この世界の歴史の話をあんたにしておこうか。
はるか昔、魚と人間の2種族が存在していた。
魚と人間はそれはそれは仲良く暮らしていたのさ。
だがある時、そいつは産まれた…
今もなおこの世を支配している、魚帝コブダイだ。
コブダイは当時の人間に不満を持つ魚達を集め、兵を成した。後のコブダイ女王国である。
コブダイは、反乱を起こした。
人魔大戦…いや、人魚大戦が起こったのだ。
世界は人の住むランドと魚の住むシーに分かれてしまったのだが、次第に魚の力が人間の力を上回ってきていてな、人間が端に追いやられているのだ。
ってな感じだ。君の世界にもあるだろう?なろう系小説ってやつだ。
とまぁ、簡潔に言えばあんたにはこの世界の二種族の均衡を保ってもらいたいのさ。
もうちょっと率直に言えば、魚帝コブダイをなんとかしてほしいってことだ。
封印するのもいいし、倒すのもいいだろう。
だが、この世界の均衡を保つことは俺の役割なんだよ、頼まれてくれないか?まぁ拒否権はないがな!
俺の名前だぁ?んなことは転生しちまえばすぐわかるはずだぜ、それじゃあな!健闘を祈るぜ?
光が俺を呑み始める。これが異世界転生ってやつか。前世より楽しめればいいけどな…
魚帝コブダイ…どんな名前だよ魚帝コブダイって。この世界の人、と魚…だっけか?はネーミングセンス終わってんのか?
そもそも俺に語りかけてたやつは誰だったんだ?顔にもやがかかった感じで顔も見えなかったぜ…
そんなことを考えているうちに光は辺り一面を覆いつくし、俺は意識を失った。
目が覚めると、そこは目に見える限り広がる壮大な森だった。
淡く、木々の間から漏れ出している日光、鳥のさえずりと、心地よい風が俺を優しく包み込む。
日本にいた頃はこんなリラックスできた事なかったよな…転生して良かったのでは?
いいやだめだ、俺はなんとしてでも帰らなければならない。
第一、ここはどこなんだ?そして俺を転生させたあいつは誰なんだ?
数々の疑問が頭をよぎるが、まずはここを出ることが最優先だ。
俺は途方もない森を歩きながら、考えていた。
まず、あいつは魚と人間の二種族と言っていたが、どうやら俺は人間らしい。この世界の魚がどうかは知らないが、少なくとも俺は俺の知ってる人間の形をしている。
まずは一安心だな…。と思った矢先…
背後から巨大な影が近づいてくるのがわかる。
そこに現れたのは巨大な…
スライム?4mはあるのだろうか。
人間と魚の二種族じゃなかったのかよ…!あの嘘つきめ…
恐ろしいな…あんなのが襲ってきたら丸腰じゃなんもできないz…
スライムがこっちに気づいたようだ。どんどん近づいてくる。
おいおいこっちに迫ってきてるぞ!?
流石にスライムといえどあのデカさはやばいっ!!!
必死に逃げる俺、追いつきつつあるスライム。
スライムってあんなに早いのか??
否、俺が遅いだけだ。足がすくんで走ろうにも走れないのである。
焦ってる間にもスライムはどんどん俺との差を縮める。
やばい、やばいやばいやばいやばい…!
どうにかして撒かなければ…!だがどうする!?
何もできないことは分かっている。だがそれでもこの二度目の人生無駄にするわけにはいかない。
震える足をなんとか動かしてみる。だが足はそれを拒否するかのように微動だにしない。
妙に冷静になってくる。これが死ぬということか。
もうすぐそこにやつは来ている。
やり過ごせそうな場所はたくさんある、がそこまでいける訳がない…
影はすぐそこに来ていた。追いつかれたのだ。
もう諦めるしかない。そう思ったときである。
二つの剣筋がスライムを襲う。
あっという間に真っ二つである。
何が起こったんだ?
見上げてみると、目に付いたのは…剣を鞘にしまっている女性と光っている石。スライムの姿はない。
そしてなんと言ってもその女性にぶら下がっている二つのお山の大きさである。びっくり仰天である。どれくらいあるんだ…?Gか、Hくらいはあるな…
こんなピンチでもそんな事を考えてしまうのは最早病と言われてもおかしくはない。
茫然としていると向こうから話しかけてくる。
「あんた、こんなところで何をしてるんだい?しかもスライムなんかに手こずっちゃって…」
「実は、ここがどこかわかんなくて…」
「あんた、まさか転移事件の被害者かい!?まぁそれを聞いてもあんたにはわかんないだろうけどね。
いいよ、とりあえずあたしに付いて来な。」
キョトンとしていると、ちょっとイライラした様子で服の袖を引っ張られる。
「だから街に連れてってやるから着いて来いって言ってんだよ」
「あ、ありがとうございます」
惚れそうだ。やはり俺はMっ気があるのかもしれない…
だがこれはありがたい。このご厚意はいつか返させていただこう。
道中に色々なことについて聞いた。何しろタイプど真ん中の美人だったからな。恋愛事情とか…は聞かなかったにしろ基本的な自己紹介だな。
名前はクズリと言うらしい。姉貴とでも呼んでくれ、だそうだ。
そして少し歩いたところで町が見えてきた。真ん中にはいかにもな城。街中には傭兵。城下町と言ったところか。
宿屋が見えてきた。雰囲気の良い、あのド〇クエに出てきそうなTHE宿屋って感じだ。
姉貴は人の良さそうなおばちゃんに話しかけた後、一室に俺を案内してくれた。
THE宿屋の部屋だ。それ以上でもそれ以下でもない。
だが今の俺なんかじゃ泊まれなさそうな部屋だ。なにしろ一文無しなのだからな…
「あんた、今日は宿代出してやるからゆっくりしな、明日は忙しいよ。」
これから、俺はどうなるのだろう、その魚帝をなんとかしたら帰してもらえるのか?
でも死んだっつってたしな…ま、そんなことは考えても仕方ない。
別れ際、姉貴と次の日宿屋の前で落ち合う約束をして、その日は眠りについた。
次の日、姉貴と宿屋の前で待ち合わせて、ギルドへ向かった。冒険者登録をするのだそうだ。
冒険者登録かぁ…なんともゲームっぽいな。
「あぁ、そういえば名前を聞いてなかったね…なんて言うんだ?」
「まさおです、伊藤まさお。」
「まさお?この辺では聞いたことのない珍しい名前だね。ほら、これにサインしな。」
姉貴から渡されたのは一枚の紙だった。
訳のわからない文字が並んでいた。
困惑の表情を浮かべていると、察してくれたのか、気を使ってくれた。
「あんた、この文字が読めないのかい?流石は異国民と言ったところだね。ハハ…」
苦笑を返しておく。
「あんた、この国に住みたいなら言葉覚えてたほうがいいと思うよ?読み書きくらいは最低限だね。」
「そうですね、本でも買って覚えておきますよ。」
「じゃあ、それならあたしが教えてやるよ、あんたにはいち早く借りを返してもらわいといけないからね。」
やっぱりそうか…まぁ命の恩人なことには変わりない。
結局ここはありがたく姉貴の空いてる時間に読み書きだけでも教えてもらうことにした。
色々話している間にギルドカードが発行された。俺の身分証みたいなものらしい。
身分証は自動的に翻訳される機能があるらしく、俺でも読めた。
名前、レベル、性別、スキル、などなどが書いてある。
今のとこ魚の要素ないぞ…?もしかするとここは人間しか住んでないエリアかもな…
それにしてもスキルか、やはりこの世界は剣と魔法の世界なのか!
男たるもの、こんなのワクワクしないはずがないっ!!
姉貴に聞いてみるか。
「姉貴、このスキルってどうやって覚えるんですか?」
どうしても聞いておきたかった。どうしてもだ。
「そんな常識も知らないのかい!?それにしてもあんた何も知らないんだねぇ…まぁいいさ。
まずスキル、つまり魔術は、分けて四つの入手方法がある…が、4つ目はおすすめしないよ。
まずは人に教えてもらって覚える方法。これは、人によるね…すぐに覚えれるやつもいればてんでダメなやつもいる。
だがまだ落胆しちゃいけねぇ。二つ目、魔導書を読むことだ。人に教えてもらうとき、どうしても感覚で教えるやつが少なからずいるからねぇ、言語化はイメージするのを助けてくれるはずさ。だがこれもダメなら、三つ目だ。魔法店に売られている使い捨ての魔法陣に魔力を込める方法だ。」
「姉貴は四つあるといいましたが、四つ目はなんなんですか…?」
「あぁ、おすすめはしないが、四つ目の方法があるにはある。それが、古代の巻物を使う方法だ。巻物に載っているのは いまだ解明されていない古代魔術っていう魔術なのさ。だが一概に古代魔術と言っても、多種多様だ。戦闘や日常に役立つものから、使い道のない、いわゆる芥さ。この巻物は、魔力がなくても使えるよ。どうだい、理解したかい?言っておくが、四つ目は本当におすすめしないぞ、開けたら呪いにかかる巻物だって見つかったんだ、芥どころではないんだよ。」
古代魔術、恐ろしいな…だが気になる…多種多様…と言っていたな。ほかにもあんなスキルやこんなスキルまであるのでは…!?一つくらい試しに手に入れてみてもいいかもしれないな…
ギルとを後にして、近くの草原で早速スキルを教えてもらえるらしい。
姉貴によると、まずスキルには得意な属性、不得意な属性があるらしい。そしてそれを知るためには鑑定なるものをしないといけないらしい。
「あんた、鑑定もしたことないなんて、変わってるねぇ…ま、とりあえずこの水晶に手を触れてみな。」
言われた通り、水晶に手を置いてみる。
「これで光った色の属性が得意ってこった…おや?光らないねぇ…」
…
…
しばしの沈黙が流れる。
泣きそうだ。転生してなおこんなに扱いがひどいとは、とことん運がついていないようだ…
こんなザマなのにあいつはどうして魚帝を俺に任せた?くそっ!!
姉貴は察してくれたのか必死に慰めてくれる。
「ありがとうございます、ですが、なんとかなりますよ。多分…」
日はすでに暮れていたので、その日は別れた。
結局宿の部屋に水晶を持って帰ってしまった。何か特別なことがあるんじゃないか…?そう思っていた。
例えば、水晶の中から何か出て…
来た。
見た感じ巻物っぽいな…何の魔術なのかなっと…
広げてみた。読めないんじゃないかとも思ったが、無事に読めた。
どれどれ~??グフフ、透視能力、あるいは透明化だったりして…
そんなしょうもない妄想を広げつつ、読み進める。
「動物と意思疎通ができるようになるスキル」
え?
…
…
え?
拍子抜けした。
俺はターザンか何かなのか?こんな能力でどうしろと?
がっかりしてその日は眠りについた。