表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
二章 街並みの中で
9/58

第九話 身体的修行

「ふー……。今日はここまで?」

「そだな、結構詰めて修行してたし、アリナも魔力の使い方が出来る様になってっし、後は俺の領分じゃねぇから。」

 修行を初めて一週間、アリナは魔力を膂力に変えながら戦う方法を模索していて、其れを掴みかけていた。

 そうなってくると、次は魔力の関係、ジンは自分が魔力を持たないと思っている、魔法は使えない為、次はソーラの出番だ、と考えていた。

 ソーラは一週間の猶予の中で、アリナにまず覚えてもらう魔法を考えていて、それを教える準備をしていた。

「じゃあ、明日からソーラの修行で、俺は自分自身の鍛錬しなきゃだな。守護者の仲間として、恥かしくねぇように、頑張らねぇと。」

「うん、ありがとう、ジン。」

 修錬場を出て、家に戻る二人。

 気候的にはそろそろ暑くなってくる時期だろうが、アリナは不思議と暑さを感じていなかった。

 それは、着ている革のジャケットに意味合いがあるのだが、それをディンに知らされていないアリナは、まだ涼しいな、程度の認識だった。


「ただいまー!」

「帰ったぞー!」

「お帰り、修行は順調かな?」

「おう、明日からはソーラに頼もうと思ってんだ。」

 日が暮れ、街には松明の明かりが灯されている中、二人が帰ってくる。

 モートの家は、魔法で灯りを点けていた、ランプに魔力を込めて、それを光源としていた為、松明や暖炉の灯りというのはいらない、ただ、アリナは最初にそれを見た時、随分と興奮していた。

 森で生活していた頃は、日が暮れたら寝る時間、という習慣があり、暖炉の明かりこそあったものの、それ以外の照明器具というのを見た事が無かった。

 それだけ、アリサがアリナに魔法に触れてほしくなかった、とディンは考えていた、アリサに直接聞いた訳ではなかったが、そうではないかと考察していた。

「アリナ、だいぶ強くなってきたな。」

「そうかな?嬉しいなぁ。」

 買い出しに出かけていたディンが帰ってきて、アリナの魔力の状態を見ると、循環をきちんとしていて、膂力に変える際にも戦闘中でも困らないだろう、というレベルまで来ていた。

 ソーラに魔法を教わった後、後はディンが直で稽古をつけるのが正しいだろう、と考えていて、その時にはジンとソーラ、モートにも参加してもらおう、と考えを纏める。

「今日の飯なんだ?」

「赤牛のソーセージが売ってたから、それを買ってみたよ。ソーラは葉野菜のサラダだな。」

「赤牛……。あーあれか!一回だけ大将が出してくれてよ!えらーく美味かったんだよな!」

「ソーセージ、ってどんなお料理なの?」

「そうだな、ソーセージは、肉をミンチにして、綺麗にした腸に詰めた加工品だよ。腸は豚のものを使うのが殆どで、たまに羊の腸を使ったりもするらしい。」

 ディンは台所に立って調理を始める、この世界では、基本的にガスや電気といった近代文明はない、その代わりに魔法文明が長けていて、殆どの人間が、子供の頃に一通りの魔法を習う。

 転送魔法を始めとして、炎と水の魔法は必ず習う、氷や風は人によっては習ったり習わなかったり、というレベルだ、とディンは認識していた。

 店屋では、氷の魔法を使って生ものを保管していたり、風の魔法を使った気球屋という職業があったり、上級者になると、自身に風を纏わせて、空を飛ぶ事も出来る、とジンが言っていた。

 ディンの使う竜神術の中に、清風という魔法がある、それは初歩も初歩の魔法で、空を自由に飛び回る魔法なのだが、それはこの世界ではまだ、上級者にしか許されていない魔法だ。

 転送魔法があって転移魔法がない、と言う一般認識、ウィッチやウィザードならば、知らない土地に跳ぶ事も出来るが、一般的な転送魔法としては、一度訪れて魔力でピンを留めて、そしてそこに跳ぶ、というのがこの世界の基本だった。

 ディンの使う転移魔法は、発動する種類や段階によって魔力の消費量が変わるのに対し、この世界の転送魔法は、距離に応じて魔力を消費する、それも一つの違いだろう。

 ディンは窯に火をおこすと、そこにソーセージを入れ、焼き始める。

「あらー、もうご飯の時間ー?」

「ソーラ、アリナに教える魔法は決まったかい?」

「そうねー、ある程度は絞れたわよー?」

 ソーセージに火が入り、いい香りがしてきた所で、ソーラが部屋から出てくる。

 ソーラの部屋は、一週間かけて運び込んだ魔導書で足の踏み場がなくなってしまう程で、それだけソーラが若いながらに魔法の鍛錬を積んできて、そして知識が深いという事が伺える。

 そんなソーラが、アリナに教えるレベルの魔法を考える、それは、ある程度復習にもなって良かった、とソーラは考えていて、改めて初級の魔法の大切さを感じ取っていた。

「私はお肉は食べないけどさー、美味しいって皆いうよねー?」

「そう言えば、なんでソーラはお肉を食べないの?お野菜しか食べてるの見た事ないけど……。」

「そうだねー。研究所って、動物がいたら困る事が多かったんだー。私の両親はウィッチとウィザードで、生まれた時からずっと研究所で過ごしてきたんだけどねー?その影響かなー、動物の肉を食べるって言う習慣が無かったんだー。今になって食べる、って言うのも違うかなーって思ってるから、お野菜しか食べないんだよー?」

 ソーラの両親は、この大陸では有名なウィッチをウィザードの夫婦で、ソーラは幼い頃から、魔道の真髄を叩き込まれてきた。

 ウィッチをウィザードが子を成すと言うだけで珍しい事なのだが、そのうえ才能に溢れた子供が生まれた、と大陸中に噂が流れ、そしてその子であったソーラは、自らすら研究対象として見られていた。

 魔法使いの真髄、それは、この世界のすべてを知る事、魔法と言う媒介を通して、世界の全てを知る、それが研究としての最終段階だった。

 その真髄に一番近い存在として、グランウィザードやグランウィッチがいる、ソーラの両親は、現在ではそのグランの名を冠する存在として活動している、それはソーラも風の噂で聞いていた。

 ただ、自分はそこに至るつもりはない、人間の為、世界の為にこの力を使いたい、と願ったソーラは、十二歳の頃に両親の元を離れ、そしてこの街にやってきた。

 それを世話していたのがモートで、十二歳という若過ぎる年齢でウィッチと呼ばれていたソーラを、気の毒に思っていたモートが、ある程度の世話を焼いていた、という経緯があった。

「この世界の外に何があって、どんな魔法があるのかー、なんて研究し続けてるより、人の為に生きた方が良いと思わないー?竜神様がいるって事は、この世界以外にも別の世界があるって言う証拠だー、ってお父さんは言ってたけどー……。でも、私、そんな事に興味も持てなかったんだー。だから、お父さんがディンを見たら、絶対に研究させてくれっていうと思うよー?」

「それは御免だな。俺達竜神を研究した所で、魔道の真髄には至れない、俺達の魔法は、魂の在り方によって発動する魔法だ。魔力を使う事には変わらないけど、でも使う魔力の質、量、出力の仕方、何もかもが違う。人間には絶対に解明出来ない様に仕組まれてるんだよ、俺達の存在はね。俺のいた世界でも、俺を研究対象として、っていう話があったけど、血液をサンプルとして取った所で、細胞をサンプルとして取った所で、何もわからない、が正解になるだけなんだよ。人間ではない証明、は出来るだろうけど、それ以上の事は、人間には理解出来ないだろうな。」

 セスティアで、試しに一度だけ、とディンは血液と細胞のサンプルを渡した事がある、国家機関に渡し、何が解明されて、何が解明出来ないのか、それを確かめる意味合いで、一度だけ、研究に協力する形で渡した。

 ただ、その結果は不明、が出てくるだけ、セスティア程科学が発達していたとしても、人間ではない何かである、生物としては成立している、という情報以外、何も結果は出てこなかった、という記憶があった。

 それはこの世界でも変わらないだろう、セスティアにはない、魔法と言うアプローチをした所で、「解明出来ない事が解明された」という事象以外、何も理解される事はない、というのが正しいだろう。

「ディンの魔法って、私達の使う魔法とは違うんでしょ?でも、今使ってるのはこの世界の魔法だよね?」

「俺達竜神はな、それぞれの世界に則した魔法を使う事が出来るんだよ。原理さえ知ってれば、の話だけどな。俺は全ての……。そうだな、他の世界の魔法の原理も知ってる、それを叩き込まれたからな。だから、どの世界に行っても、魔法が使えるんだよ。」

「なぁ、世界ってどんだけあるんだ?って聞いちゃいけねぇのかな。ディンがそーいうって事はよ、この世界以外にも世界が存在するって事だろ?」

「この世界では、その事は精霊が多くを知ってる、だったか。そうだな、世界は幾千に分かれている、先代竜神王が、その命の殆どと引き換えに、一つだった世界を幾千にも分けたんだ。世界群、って俺は呼称してる、竜神の造りし年輪の世界、それがこの世界群の呼称だよ。」

 知っているモートとソーラ、そして知らないアリナとジンでは、不公平かと感じたディンは、その事を話す。

 セスティアにおいて、それは基本的に禁忌事項だ、秘匿事項でもあり、ディンの息子でさえ、その事をぼやかした状態でしか知らない、それは、異世界に対する考え方の違いだ。

 捉え方の違いと言っても良いだろう、セスティアにおいて異世界とは、死んで転生して何か役目を持ちたい!という風潮が有り、異世界転生、というワードだけで一つのジャンルが成立してしまっている程だ。

 そんな所に、実際に異世界が存在して、などと提示してしまったら、死んで転生をして幸せになりましょう、などという宗教が興り、人間が犠牲になる、と。

 この世界における異世界の扱いは、精霊やグランの名を冠するウィザード達、そして魔王やその配下はその存在を認知している、という状態だ、だから、ある程度は話をした所で問題が起こりにくい、という話なのだろう。

「ほへー……。じゃあ、なんでその先代竜神王様ってのは、世界を分けたんだ?守るってなった時、大変じゃねぇか?」

「そこに関してはあんまり多くを語る時間はなかった、って感じだったな。ただ、竜神達の中で語られてる逸話って言うか、先代が遺した言葉としては、世界を魔物の脅威から守る為に、世界を分けた、って言う話だ。何でなのか、それを知ってる竜神はいなかった、ただ、魔物の脅威から俺達の世界を守る為、って言う話ではあったな。」

「俺達の世界、って言うのは、どの世界の事なんだい?僕も、世界が幾千に分かれている事自体は知っていたけれど、ディンがいたのは竜神様が集う世界じゃなかったのかい?」

「そうだな。世界群の中心、原型としてあった世界の名残、力を持たない存在が遺された世界、それが俺が本来守らなきゃならない世界、セスティアだった。本来、俺はセスティアの守護者だったんだ。それが、前に話した様に、竜神達がその役目を放棄した。だから、今は俺が幾千の世界を独りで守ってる、正確に言えば、竜神にも生き残りはいるんだけどな、そいつらは別の役割があるんだよ。」

 ディンが年齢を多く重ねている理由、そして数百年前にはいなかった理由、それをモートは考えていた。

 ジンとアリナはそんな世界があるのか、程度の認識だったが、ソーラはその事を両親から聞いていたし、モートはそもそもが精霊だ、知っていてもおかしくはないだろう。

 一万年前、と言っても、精霊からしたら、数世代を行くか行かないかのレベルだ、精霊はそれだけ長寿で、世界分割前から生きていた精霊もまだ現存している、それをディンは確認していた。

 だから、ではないが、本来は秘匿事項である世界分割の話を、していてもおかしくはない、と判断した。

「世界分割が五千年前だったかな?僕は記録としてしか知らないけど、世界によって時間の流れ方は違う、って言う話だったね?」

「そうだな。俺のいた世界では、世界分割からは、丁度一万年が経ったかな。この世界の時間の流れ方と、例えば他の世界の時間の流れ方では、それに差異がある、なんでそう言う風にしたのか、その仕組みにしたのか、それはわからないけどな。」

 時の流れの違い、それを生み出した竜神王である、先代はもうこの世にいない。

 魂の欠片として存在していた先代の力を継承する形で、ディンがその存在の命の灯を消した、だから、その真意を知る者はいない、という事になる。

 先代は世界分割以降、魂の欠片として、ディンが現れるのを待っていた、と言っていた、ディンに力を譲渡するのが、最期の役割なのだと言っていた、だから、それを誰かに伝える時間は残されていなかったのだろう。

「さ、勉強も良いけど、今日は飯を食べて、明日からは魔法の修行だ。ソーラ、頼んだぞ?」

「はーい。興味深いお話だけど、それはまた今度聞こうかなー。」

 食事が出来あがり、今日の講義はお終い、とディンが話を終える。

 アリナは、幾千に分かれた世界、というキーワードに心が踊っていた、まだ見ぬ世界、果てしない未来があって、それぞれの世界があって、そしてそれぞれの営みがあって。

 ディンは混血として、どう生きていたのか、セスティアにアリナが行ったら、どうなるのか。

 そんな事を考えながら、食卓についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ