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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
二章 街並みの中で
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第七話 それぞれの生きた道

「ジンー、こっち手伝ってー?魔導書が多いのよー!」

「はいよ!」

「アリナとディンは何か家に置いてきたものは無いのかな?」

「うーん……。強いて言うのなら、家を置いてきたって感じかな。お手入れをしないと、そのうちダメになっちゃいそうだよ。」

 ジンとソーラがそれぞれの荷物を取りに行って、ジンは腰にブロードソードを装備していて、ソーラは大量の魔導書を抱えて戻ってきた。

 ジンがソーラの魔導書を半分請負い、二人で一緒に二階に上がって、部屋に魔導書を運んでいる。

 アリナとディンは置いてきた物はない、アリナは、この旅や戦いが終わった後の事を考えていて、家が傷んでしまわないか、と心配していた。

「あ、そうだ。お母さんが遺してくれた魔導書があった様な気がするよ。それだけ取ってきても良い?」

「うん、行ってらっしゃい。」

「ディン、お願いしても良い?」

「わかった。」

 そう言えば、とアリナが思い出した事があり、それだけを取りに行く為に、ディンの転移を使って森へと飛ぶ。


「えーっと、ここだったかな?」

「随分古い本なんだな?」

「うん、お母さんが、精霊の使う魔法を纏めてある魔導書だから、絶対に触っちゃいけませんよ、って言ってたんだ。でも、今は必要な気がするんだ。」

 森の住処の床下、隠し床になっていた床下収納に、古い魔導書が一冊あった。

 これは、アリサが精霊の魔法を書き連ねえた魔法だと言っていた、一度だけ見せてもらった事があるが、それ以降見てはいけない、という言いつけを守っていた、しかし、世界を守る為には、それを覚えなければならない、そうアリナは感じていた。

 アリサがどんな意図でそれを残していたかはわからない、ただ、今の自分には必要になる、とアリナは直感で感じとっていた。

「それだけで大丈夫か?」

「えっと、洋服はどうすればいい?」

「街で買った方が良いな。麻布のローブって言うのは、精霊が基本的にする格好だから、あまり街でしない方が良い。」

「わかった。」

 アリナは、家の外に出て、家を眺めている。

 十七年間、ずっと住み続けてきた家、ここにしか居場所はないと思っていた、そんな家。

 思い出も、絆も、ここにある。

 母アリサを恨んだ事は無い、精霊と人間の混血に生まれたアリナを、守ってきてくれたのだから。

 そして、これからは人間と共に暮らしていく、人間の社会に生きて、世界を守らなければならない。

 その果てに何が待っているのか、それはアリナにはわからない、ただ、母が守りたいと願った世界、自身の魂を武器に変えてまで守りたかったもの、それを守りたい、そう願った。


「おはよー……。」

「ソーラは朝が弱いんだね、朝ごはん出来てるよ?」

「はーい……。」

 共同生活、モートの住まう一軒家に住み始めて、二日目の朝。

 朝陽と共に起きるアリナや、寝る時間の短いディン、そして習慣的に朝早くに起きる事が多かったジンやモートが食卓に着いて待っていると、ソーラが部屋着で降りてくる。

 ソーラの寝間着はシルクのローブで、これじゃないと眠れない、とソーラは話していた。

「サラダ、用意してあるからね。」

「ありがとー、モート。」

 ソーラは基本的に菜食の人間で、動物を食べようとしない。

 それを嫌っている訳ではないが、習慣的にそうなっていた、というのが正しい所だろう。

 逆に、ジンは野菜が殆ど食べられない、子供舌と言えばそこまでなのだが、活力の為に朝から肉を喰らう、それがジンの食生活だ。

 それを知っていたモートは、昨晩のうちにそれを買ってきていて、アリナとディンが何を食べるかはわからないから、と言って、果物を用意していた。

「それじゃ、頂きます。」

「食べようぜー!」

「頂きまーす。」

「頂きます!」

 それぞれのペースで、それぞれの食事を食べ始める。

 アリナは、森では食べた事が無かった果物を見て、どんな味がするのか、とわくわくしていた。

 その果物は赤い薄皮に黄色い果実をしていて、香りとしてはやや薄め、食べてみると、みずみずしい水分に酸味と甘みが絶妙な味をしていた。

「美味しー!これなんて言う果物なの?」

「リンゴ、って言う果物だよ、アリナ。食べた事がなかったかな?この街の農家では、結構名産品として扱われてるんだよ。」

「そうなんだ!私、野苺とかは食べた事あるけど、こういうのは食べた事なかったなぁ。ディンは食べた事あるの?」

「ん、厳密には違う種類だけどな。こっちの方が美味しい、とは思うな。俺のいた世界って言うか、竜神達の集う場所のは、自生してるのを食べるって感じだったから、品種改良なんかもしてなかったんだよ。」

 ディンは、少しだけ嘘をつく。

 精霊であるモートは、世界が幾千にも分かれている事を知っているだろうが、ジンとソーラはそれを知らない、そして、それは言ってはいけない事だ、というのが竜神達の掟だ。

 先代竜神王が世界を分けた時に定めた掟、それは、他世界に関する情報を、基本的にはその世界に属する人間に話してはいけない、というものだった。

 それをしたからと言って、何が起こる訳ではない、ただ、他世界の事を話すのは禁ずる、それが先代の敷いた秩序だった、それはディンも把握していた。

 だから、ではないが、竜神の集う世界がある、という話はしていたり、知っている人間や種族に関して話をしてはいけない、という事ではないが、知らない存在がいる前提で動け、というのが、ディンの習慣だった。

「サラダ美味しー、大将のお店の味とは違うけどー、でも美味しいよー?」

「それは良かったよ。ジンはどうだい?普段食べている赤豚のソテーにしてみたんだけれど。」

「美味いぜ!大将のとこのステーキとはちょっち違う味だけどよ、モートって料理上手なんだな!」

「精霊としては若輩者だけど、これでも五十年は生きているからね。人間としては、もう高齢になって来るのかな。大将とは、年齢的にはそう変わらないからね。」

「そっか、精霊って、人間より長生きだから、若く見えるんだ。ディンも、竜神様で、寿命が長いから、若く見えるって言ってたもんね?」

 モートが五十を超えた辺りから年齢を数えなくなったのは、人間的には高齢者の部類に入る事になる、と理解した頃だった。

 精霊と共に湖畔で生きていた頃、五十歳というのはまだまだ若輩者というか、子供と言う扱いで、三百歳を超えた辺りから、やっと成人として見られる、と言うのが当たり前だった。

 しかし、人間は違う、六十か七十の歳で死んでしまう、五十歳となると、もう高齢者なのだ、というのを、モートはこの街に来てから痛感した。

 人間は脆い、すぐに死んでしまう、とアリサが言っていた言葉、その意味を知ったのは、街に降りてきた際に、家を貸してくれた大家の女性が六十で亡くなった時だった。

 その時に、この一軒家を譲り受けた、本来は、その女性が家族と住んでいたのだが、息子夫婦は勇者として選抜され、そして魔王に殺されてしまったのだ、と言っていただろうか。

「俺はこれでも千年は生きてるからな。細かい年齢は忘れたけど、大体千年位、って感じだな。」

「竜神様って、何百万年と生きる種族なんでしょー?そしたら、ディンもまだまだ子供って事かしらねー?」

「そうだな、今残っている竜神の中では一番若いのは俺だろうな。って言っても、一万歳になっても俺とそう変わらない見た目の年齢な奴もいたりするから、竜神が所謂大人の見た目になるのは、数万年生きた結果、だろうな。」

「今残ってる、ってどーゆー事だ?竜神様って、沢山いるんじゃねぇの?」

「そうだな、今までは、数千人の竜神がいた。居たんだけど、死んでしまったんだ。俺が殺した、と言い換えても良いな。」

 ディンの言葉を聞いて、三人は驚いている。

 世界を守る存在である竜神、その統括である竜神王のディンが、他の竜神達を殺した、という事実に、思わず食事の手を止めて、何があったのかと目線を投げかけている。

「……。竜神達はな、人間を殲滅する事で、魔物の出現をなくそうとしていたんだ。そんな事をしたら、残留思念や行き場を失った闇が暴走して、世界が滅ぶ、そんな事もわからずにな。結局、道を違えてしまった以上は、戦うしかなかった。言葉での説得、それは出来なかったんだ。それで、人間を守るべきだって言う数人の竜神と、人間を殲滅するべきだと言う幾千の竜神が別れた、俺は、人間を守るべきだという代表として、その竜神達を屠った。それが、竜神王として、世界を守る者としての、けじめだったんだ。」

「じゃあ、竜神様の殆どが、人間を殲滅する道を選んでしまった、という事なのかな。世界を守る為に、そうか、竜神様は、人間を守る為の存在ではない、とは聞いていたけれど、人間を滅ぼす可能性、については考えなかったな。」

「モート、冷静だな……。俺、ショックだぜ?竜神様って、伝説に語られる程の神様なんだぞ?その神様達の殆どが、俺達を殺そうとしてたなんてよ……。でも、ディンはなんでそっちじゃなかったんだ?竜神王様って、王様なんだろ?王様の意見なら、皆聞きそうなもんだけどな。」

「……。俺が若すぎた、って言うのがあるだろうな。それが起こった時、俺は八百歳位だったか、王としては未熟も良い所、それに、俺は人間と竜神の混血でな、俺の祖父に当たる人物は、人間だったんだ。そんな混ざりものの意見を、聞いてくれるのは殆どいなかった。人間の血の混ざった異物、そして歴代の竜神王が受け継いでいく名前、ディン。それに反発してた、先代竜神王の弟がいてな、殆どの竜神は、そっち側だったんだよ。」

「ディンも混血だったの?」

 そう言えば、アリナにもこの話はした事が無かったか、とディンは思い出す。

 人間と竜神の混血でありながら、竜神王である理由、それはディン自身わかっていない部分があった、初代がそう予言していた、と先代から聞いていた、ディンを名乗る事を許されるのは竜神王だけだ、と母レイラが言っていた、そして、セスティアを守護する役割を持つのは、竜神王だ、という話程度しか聞いてこなかった。

 何故自分が竜神王足り得る座にいるのか、そして、竜神王の名であるディンを名乗る事を許されているのか、それを知らずに生きて来たな、と。

「そうだよ、俺は混血だ。俺の祖父、リュートアストレフ、彼は、特別な人間だ、って母さんは言ってたな。何か特別な力、異質とも言える力を持っていて、それがきっかけで子を成した、それが俺の父さんのディランと、叔父さんであるデインだって。そして、そのディランと母さんの間に生まれた俺は、クォーターヒューマン、って所だな。デインは千年前に守護者として俺達の世界を守って、そして封印された、父さんは、母さんとの間に俺を産んで、魂として眠った。そして、俺は竜神王に選ばれた、それが何でなのかはわからないんだ。」

「んー?って言う事は、お母さんとお父さんは元々親子だったのー?」

「そうなるな。竜神王を産む母体、それは竜神王の系譜の女性にしか担えない、特別な役割だったんだそうだ。竜神からは竜神王は生まれない、竜神王の系譜からしか、竜神王足り得る存在は生まれない、だったかな。」

 人間で言うのであれば、近親相姦という事になるだろうが、ディンが生まれた時点で、竜神王の系譜の中で、竜神王を産む事の出来る母体、それが母レイラだけだった、とディンは記憶していた。

 叔母のアイラや、従弟のケシニアという女性の竜神王の系譜の竜神もいたが、彼女達に与えられた役割は、竜神の集う世界の守護だった、とも。

 それは、ディンが世界軸を移動しても変わらなかった、世界軸を移動した事で、新たな十代目竜神王ディンが現れる可能性、というのもディンは考えていたが、結果として、現在竜神王は自分だ、というのがディンの現状だ。

 ディンには息子がいる、竜太という、人間と竜神の魂を融合した息子、竜太という少年、彼は、ディンが死んだ場合、十一代目竜神王になる子供だ。

「なんだかムズイ話なんだな。でも、竜神様が俺達みたいにポンポン増えてたら、意味がねぇってなっちまうもんな。」

「そうだな。竜神王になった理由、選ばれた理由はわからないけど、結果として今俺は、竜神王として成立してる、それが漠然とした現状だな。」

 アリナは、ディンも混血だった、という話を聞いて、何かを考えている様子だった。

 アリナは精霊と人間の混血、そしてディンは、竜神と人間の混血。

 似た境遇、ではないが、疎まれていた、という意味では、似ているのだろう、と。

「混血である事で、何か不都合は生じているのかな?竜神様とは違う、何かがある、とか。」

「そうだな、竜神は人間と竜に姿を変える事が出来る、それは、竜神が竜神たる所以、竜である証拠だな。ただ、俺や父さんは竜になれない、竜になってしまう、それは、人間の姿に戻れなくなってしまう、結果だそうだ。他の竜神達との決定的な違い、それはそこだろうな。それに、俺達は力を使えば使う程、人間としての魂の在り方が、竜神としての魂の在り方に変わっていくんだ。俺が力を使い続けたら、いつかは竜の姿になって、戻れなくなるんだろうな。」

「……。悲しいんだね。ディンには人間の家族がいる、って言ってたもんね。その人達と、一緒に居られなくなっちゃうのかな。」

「そうだな。俺の世界では、竜なんて存在しない、そうなってしまったら、家族とは一緒に居られなくなるだろうな。」

 ディンが守りたいと願った、人間の家族。

 今では父親として接していて、以前の時間軸では兄として関わっていた、大切な家族。

 その家族達と一緒に居られなくなる、それは嫌だ、とディンはずっと考えていた。

 いつかは、人間としての天寿を全うし、別れの日が来るのだろう、とは考えていたが、自分が竜になってお別れ、というのは嫌だ、とディンは思っていた。

「それは良いとして、それより今はこの世界を守る事に集中する事だ、アリナ。守護者として、一人前になるまで、悠長に時間を使ってる訳にもいかないんだ。皆もそうだ、守護者の仲間として、一人前になってもらわないと困る。魔物って言うのは、それだけ強大な力を有してるからな。」

「俺、戦えっかな……?モンスター相手にゃなんとかなるけどよ、魔物、ってもっとつえぇんだろ?」

「それを出来る様にするのが、俺達竜神の役目だからな。守護者を育み、世界の脅威たる魔物に打ち勝つだけの力を与える、それが俺の役目だ。だから大丈夫だよ、魔力を持っていなかったとしても、出来る事はある。」

 この中で、特に不安が大きいのはジンだろう、魔力を持たないというディスアドバンテージがある中、魔力を持っていて、その中でも上位に組みしていたソーラや、精霊として生きた時間が長く、回復魔法に長けているモート、そして守護者だと言われているアリナ、そんな中に放り込まれて、どうすれば良いのか、どうすれば対等に仲間として戦えるか、それが不安なのだろう。

 しかし、ディンは知っていた、ジンは、体外的に魔力を放出する術を持たないだけで、内に秘めている能力は高い、と。

 だから、それを引き出す修行をすればいい、と考えていた、それはまだジンには伝えていなかったが、知っている身として、出来る事があるはずだ、と。

「さ、飯を食い終わったら、修行を始めよう。ソーラとモートには、アリナに魔法を教える役割も担って貰う事になるかな。精霊の用いる魔法はモートに、人間の使う魔法はソーラに、それに、基礎的な戦い方に関しては、ジンに、それぞれ教わると良いな。」

「みんな、お願いね!」

「おうよ!」

「はーい!」

「わかったよ。」

 守護者が選ぶ仲間、その魂の在り方には、意味がある。

 それを知っていたディンは、それぞれに役割があって、それぞれに意味がある、と信じていた。

 守護者が意味もなく仲間を集う事はない、守護者が選んだ仲間、それは近しい魂の持ち主だ、と。

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