五十六話 手助け
「……。一つだけ聞かせて、どうして貴方は世界を滅ぼそうとするの?世界が滅んでしまったら、貴方だって滅んでしまうんじゃないの?」
「ククク……、それを知ってどうする?小娘よ。貴様はここで息絶える、それだけを知っておれば良いのだ!」
「話は出来ない、んだね……。……、わかった、戦うよ。アストレスを開放する為にも、貴方を放っておいちゃいけないと思うんだ。」
「アリナ、勝てるのかい?あんな闇を持っている相手と、戦った事はないだろう?」
大いなる闇、に乗っ取られたデモスは、その精悍だった顔を歪めて、醜く笑っている。
アリナは会話を試みる、会話が出来るのであれば、もしかしたら戦わずに済む未来があるのかもしれない、ディンにとって、有益な未来を用意出来る可能性があるのかもしれない、と考えていたが、それを諦める。
相手は竜神王が戦い続けてきた相手、一介の守護者であるアリナに、それを止める術は無いのだろう。
「戦えるか、それはわからない。ただ、ディンが彼と戦う運命にあるって言うのなら、ディンは必ずここに来る、なら、それまで持つだけでも良い、そんな弱気な事を言ってたら、それも出来ないのかもしれないけど、でも、まずはソーラ達と合流するまで、戦い抜く事を第一に考えないと。」
「クハハ!我と独りで戦うという、その無謀を讃えてやろうではないか!忌々しき竜神王のもてなしに!貴様のはらわたをくれてやろうて!」
「モート!身体強化、限界までお願い!私独りで何処まで戦えるかはわからないけど、出来る限りをするから!」
「わかったよ!」
戦いが始まる、それが空気でわかる。
「行くぞ!」
大いなる闇が、両刃剣を持って突進してくる。
その質量の多さ、重さ、攻撃の強さ、重みに、アリナの体がついて行かないかもしれない、とモートは感じる一撃だったが、アリナはそれを防いで見せた。
ガキン!という金属音、アリナのライトリュミエールはそもそも金属では構成されていないが、その質量は鉱石に似ている、金属製と言っても過言ではないだろう、それを一生懸命に振り抜き、大いなる闇の攻撃を防いだ。
「ほう?中々やるではないか!貴様!」
「まだまだ!こんなもんじゃない!」
今度はアリナから攻撃を仕掛ける、アリナの得意技、左の脇に剣を溜めて、それを右に向けて振り抜くという攻撃、ディンに教えられた、それの逆版。
ディンは右腕を持っていない、だから、右に剣を溜めて左に振り抜くのだが、アリナは右利き、それを逆にした攻撃を得意技としていた。
ガキン!
再びなる金属音、大いなる闇が少しアリナから離れ、態勢を立て直す。
「小癪な小娘よ!」
「せいやぁ!」
態勢を立て直させない、とアリナから攻撃を繰り出し、接近戦に持ち込む。
そもそもアリナは魔法を殆ど使えない、近接戦闘型なのだから、それが正しい形だろう。
魔法を使うのは苦手、と自分自身で言っていたアリナは、母アリサが遺した魔導書を読んだ事はあったが、それが発動できるとも思っていなかった。
モートが言っていた、天変地異を起こす様な魔法、それを使えるとは露ほども思っていなかった、それをするくらいなら、近接戦闘の腕を磨いた方が早い、と自分自身の中で思っていた、最初ジンに修行をつけて貰っていた、というのもあるのだろうが、そもそものアリナの在り方として、近接戦闘の方が得意、というのはあるようだ。
「っ!」
「喰らえ!」
「まだまだ!」
弾かれて、次の攻撃が来る、それを何とか防いで、攻撃に転じる。
今までの修行とは全く違う、実戦という名の現実と、アリナは戦っていた。
「アリナ……!」
モートは、それを見ながら、身体強化を限界まで発動する、元来精霊の中では初歩的であり、殆ど魔力を消費しないはずの身体強化、それを魔力を明らかに消費する量で発動する、それはアリナにとっても、モートにとっても、賭けの様な状態だった。
今までここまでの魔法を掛けた事はなかった、それを実戦でいきなりやるという博打、そして、アリナの体に影響が出てしまうかもしれない、という考え、それを念頭に置いたとしても、それだけの魔法を掛けなければ戦えないであろう、大いなる闇という存在。
ジンとソーラがいた所で、戦いになるかどうかはわからない、アリナが守護者足り得るからこそ、戦える相手なのかもしれない、という予感がある、守護者の仲間だったとしても、仲間でしかない自分達には、攻撃すら許されない相手なのだろう、と。
戦えるのは、守護者であるアリナと、竜神王であるディンだけだ、そうモートは感じ取っていた、それだけの相手なのだ、と。
「獄炎よ!小娘を燃やし尽くせ!」
「っ!モート!危ない!」
「僕の事は気にしないで!戦いに集中して!」
「っ……!」
アリナを狙っていると見せかけて、モートを攻撃した炎の攻撃を、アリナが庇って防ぐ、ジャケットの防御によって腕は平気だったが、手を火傷してしまう。
「アリナ!今治す!」
「モート……!」
剣を握る力が入らない、火傷が思った以上にダメージとして存在している、とアリナは感じた、ただ、モートが来る方向に、攻撃が飛んでいるのを見て、モートを弾き飛ばした。
「……!」
「アリナ!」
デモスが持っていた両刃剣が、宙に浮いていたかと思えば、モートめがけて飛んできた。
それをアリナが庇い、右の胸を貫かれる。
「アリナ!しっかりするんだ!アリナ!」
「……、……。」
まだ生きている、ただ、それもいつまでもつかはわからない。
まだ生きているのであれば、モートの回復魔法で何とかできるかもしれない、ただ、そうした所で、アリナの心が折れてしまっていたら、戦えない。
だが、ここで死なせる訳にはいかない、しかし、胸を貫かれている状態で回復をしても、意味がない。
「アリナ!」
モートの叫び、このままではアリナが死んでしまう。
「これで終焉だ!小娘の死を今!」
大いなる闇が、さらに攻撃を仕掛けてこようとしている、虫の息になっているアリナに、とどめを刺そうとしている。
モートは呪う、自らの無力さを、非力さを、愚かさを。
攻撃が来る、目をつぶってしまう、このままでは共倒れだ。
「……。アリナ、まだ大丈夫だな?」
「げほ……、ディン……?」
刹那、アリナとモートが、瞬間移動をした。
そして、アリナの胸に突き刺さった剣が抜けた、と思ったら、アリナの傷がふさがっている。
代わりにと言ってはなんだが、現れた光、ディンの胸が一瞬血まみれになり、そしてそれが一瞬で消えた。
「ディン?来てくれたのかい?」
「あぁ。間に合ってよかった。アリナ、まだ戦えるか?心は折れてないか?相手に、気圧されてないか?」
「……。私は、最後まで戦うって、決めたから。貴方の為に、世界の為に、愛する人達の為に、戦い続けるって、決めてたから。だから、大丈夫。」
「貴様!魔物の相手をしていたのではなかったのか!?まさかあの量の魔物を、独りで倒したと!?」
「……。大いなる闇、それは群の存在ではなく、個の存在。デインを乗っ取ってたお前と一緒なんだから、あの程度の魔物の量で俺が何とかなると思う方がおかしいだろう。」
ディンは、第三段階開放をしていた、デインと戦った時が第四段階解放だったのに対して、少し手を抜いている、と言われそうなものだが、それはディンの現在に起因する事柄だった。
デインを救出する際、ディンは明確に、先代や母、祖母と父から、魂を譲渡されている、それは、ディンが無意識の中で使いたがらなかった力、使ってはいけないと思っていた力、それを解放する準備だった、とディンは考えていた。
現在のディンは、命を魔力に変える魔法、そして先代竜神王達の力、ディン自身の力を扱っている状態であり、まだ制限している部分は多かれど、デインと戦った時の第四段階解放、と同じだけの攻撃力、を第三段階解放で持っている状態だった。
第四段階解放以上で使える魔法や魔法剣、に関しては使えないが、しかし、基礎的な能力としては、そう言った状態だ、と言えるだろう。
「アリナ、立てるか?」
「うん、ありがとう、ディン。」
ディンがアリナの手を取って、起こす。
アリナは立ち上がると、剣を持って構える、強さに絶望的な差があったとしても、敵の攻撃は一撃必殺だったとしても、一撃を喰らっただけでこうなってしまったのだとしても、まだ心は折れていない、と立ち上がる。
ディンも剣を出す、竜神王剣竜の誇り、ディンが持つ最大の攻撃力、最大の戦力足り得る、そして、大いなる闇にとって、守護者と同じか、それ以上に脅威足り得るそれを、しっかりと握る。
「行くぞ、アリナ。」
「うん、行こう。」
最終決戦、それが終わったら、ディンは元居た世界に帰ってしまうのだろう、二度と会えるかどうかすらわからない。
保証はない、とディンは言っていた、世界を守った後、この世界に踏み込む権利が自分にはないのだ、とディンは言っていた、ならば、この戦いが終わったら、決別なのだろう。
それでもいい、それでも、愛したことは忘れない、それはディンにとっても、アリナにとっても、変わらない事実だ。
生きる世界が違えど、生きる時間が違えど、愛し合った事に変わりはない、そして、アリナ達守護者を、ディンは生涯忘れないだろう。
いつか、アリナがその在り方を失ってしまったとしても、それでも、ディンにとってアリナはアリナなのだ、とディンは結論を付けていた。
だから、今は戦う、今は目の前にいる宿敵と、戦って勝たなければならない。
「これが終わったら……。そうさな、アリナ。」
「……?」
「自由に生きろ、俺がいなくなった後、どう生きるのか、それに関しては定められていない。だから、自由に生きろ。」
「……。うん。」
今は戦う、戦いに集中せずに勝てる程、弱い相手ではない。
だから、祈る。
ディンは祈る、アリナが生きてくれる事を、生きて人生を謳歌してくれる事を。




