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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
最終章 道の果てにあるもの

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五十一話 エジン・レスティア

「……。どうして精霊がこの大陸にいるんだい?」

「ふむ、貴殿は吾輩の気配に気づいたか、精霊としては若輩者、と侮っておったが、そうか、精霊の試練を受けたのだな?」

「そうではなかったとしても、貴方位の魔力を持ってる精霊の事だったら、気付くよ。」

「そうか、吾輩も過大評価されたものだな。それで?魔王を討ちに来たか、精霊である貴殿が、人間に与する事、それは嫌悪されていたのではないか?」

「なら、貴方だってそうだろう?魔王の配下をしているという事は、元々は勇者だった彼と、縁があったという事になる、という事は、精霊の禁を破って勇者の仲間になったんじゃないかな、僕はそう感じたけれど。」

 西の結界の起点に来ていた四人、何処からともなく聞こえてきた声に、モートが反応する。

 他の三人は気付かなかった、魔力探知の得意なソーラでさえ、その魔力に気づかなかった、その存在は精霊だ、とモートは言っている。

 精霊であり、そして、縁がある者だ、と。

「貴殿は吾輩を存じていると考えるが、貴殿の名は?」

「モート、モート・レスティア。僕は、レスティアの名を継ぐ最期の精霊、次代には残らないとされていた、異端の精霊、貴方の子供だ。」

「……。吾輩の子息、である根拠は?」

「勇者と縁がある精霊は少ない、その中で、勇者に与した精霊はもっと少ない、今代の魔王デモスが何時現れたのか、によりけりだけれど、そうだね、最後に勇者が魔王を打ち倒した五十年前の勇者、アルトレスの仲間として精霊の湖畔を追放された精霊、その名前を、エジン・レスティア。僕の父の名前であり、そして勇者の仲間として世界を守った、そんな精霊の名だ。」

「モートの、お父さん?モート、両親の事は知らないんじゃなかったの?だって、小さい頃にいなくなっちゃって、それで私のお母さんに育てられた、って……。」

 声の主、それをモートは知っていた、正確には、覚えていた。

 エジン・レスティア、レスティア家という、精霊の中でも回復の魔力に特化した一族、その最後の長であり、レスティア家没落の原因を生み出した、と言われいてる異端の精霊。

 精霊でありながら、人間の勇者と行動を共にし、剰えその身を捧げた、と言われている、精霊の中では禁忌の一つである、精霊と人間の調和を乱した者、として断罪された、と言われていた、レスティア家最後の当主。

 それが声の主であり、モートにとっては、父になるという話、そんな話は誰も聞いた事が無かった、モートは両親の事を知らないと言っていた、生まれた頃にはいなくなっていて、そしてアリサに育てられたのだ、と。

 モート程ではないが、レスティア家の当主として、申し分ない魔力を持っていた、そして、回復魔法を研究し続けていた、ただ、それが五十年前、モートが生まれた直後の話、モートが一歳だった頃、父であるエジンは消えてしまった。

 モートは、エジンの事を話す事を禁じられてしまった、それは精霊にとっては不都合な歴史、そして、何故消えてしまったのか、を知るまでは、モートにとっても、母にとっても辛い記憶だった。

 その事をアリサから聞いていたモートは、せめて父であるエジンの魔力の形を覚えておきたい、いつか巡り合った時に、父と認識出来る様に、と願っていた。

「……。モート、懐かしい名だ。吾輩の子は独り、モートのみ。レスティア家の血をすたれさせるべからず、とミーナには伝えておいたはずだったが。」

「貴方が勇者と行動を共にし始めてすぐ、母ミーナは処刑された。レスティア家、という汚点を残さないために、精霊達が下した決断、それは当主である貴方の事を禁忌とする事だった。ドーガンの娘、アリサに育てられた僕は、その事をアリサから聞いていた、アリサは、守護者の末裔というだけあって、精霊の中でも禁忌に触れるだけの権力を持っていた。だからこそ、アリナが生まれた時に、都合が良かったんだろうね。エジンの事を覚えていて、それを伝えるだけの権力と、武力行使をするだけの力を持っていたアリサを追放する機会を、ずっと精霊達は伺っていたんだろう。僕が湖畔を離れるといった時、杖を没収されたけれど、それでも引き留められなかったのは、汚点としてのレスティア家の生き残りがいなくなる、それが精霊にとって都合の良い事だったから、僕はそう認識しているよ。」

「……、そうか、ミーナが……。モートよ、貴殿はそれでも、世界を守りたいと申すか?穢れ切った世界、精霊の私利私欲の為だけに消費される世界、それを是とするか?そこの娘は、アリサの娘なのだろう?アリサ、覚えておるよ、美しい方だった、そして、気高い魂を持っている方だった。吾輩が若輩者だった頃、良く父である守護者ドーガンの冒険譚を聞かせてくれていた、それが、レスティア家を継ぐ鍛錬を続けていた吾輩にとって、唯一の楽しみだった。そうか、そちらの貴公は守護者であり、アリサの娘なのだな?よく似ている。……、という事は、アリサは……。」

「私のお母さんを知ってるの?……。モートによく似てるって言ったら、変なのかな。でも、親子だって事は似ててもおかしくは無いもんね。お母さんは、私の傍にいてくれる、ずっとずっと、傍にいてくれてる。」

 姿を見せていなかったエジンは、それでは敬意に欠けるだろう、とその姿を表す。

 精霊が着ているひざ丈のローブ、そして金髪に赤い瞳、モートによく似た姿を、そのまま大きくした様な姿の青年、それがエジンの姿だった。

「父よ……。母さんは、最期まで貴方の決断を過ちだとは言わなかった、そうアリサは言っていたよ。精霊として間違った選択をしていたのだとしても、それが世界の摂理に反する事だったとしても、精霊にとっては不都合で、不愉快で、不敬だったとしても、それでも。それでも、母さんは父さんの選択肢を誇っていた、処刑されるその日まで、その瞬間まで、アリサにそう伝えていた、と僕は聞いているよ。母さんは、わかっていたんだろうね、父さんが勇者の仲間として魔王を討った場合、その後継者としての魔王の付き添いをするだろう、って。だから、処刑される事を拒まなかった、僕達一族が継承していた回復魔法の真髄をアリサに託して、母さんは死んでいったんだろうね。……。どうして、僕達を置いて行ったのか、どうして、僕達と離れ離れになる道を選んだのか、それはわかっているつもりだよ、父さん。僕だって、父さんと同じ道を辿ろうとして、守護者の仲間として、現在を生きている、だから、勇者の仲間になった父さんを咎める権利は、僕にはない。ただ……。どうして、どうして、連れ出してくれなかったんだい……?母さんが処刑される時、僕がアリサに育てられていた時、父さんは何をしていたんだい……?」

 モートは、伝えるべき事を伝える、モートの母であり、エジンの妻であった精霊、ミーナは、後悔する事もなく、エジンを責める事もなく、処刑されていった。

 ただ、モートはどうしてもこの言葉を投げかけずにはいられなかった、父として、勇者の仲間として、精霊に処刑される母の姿を見た者として、どうしても聞かずにはいられなかった、それは。

「モート……。吾輩を、恨んでいるか?」

「……。そうとも言える、違うとも言える、僕の感情、それは……。」

 エジンは、とても悲しそうな顔をしている、モートはこんな顔を見せないだろう、という悲し気な顔、モートと違って、大きな瞳を涙で濡らして、そして問いかける。

 モートは、久しぶりに会う、そして、初めて会話をする父に、感情をぶつけていた、戦わなければならないのであれば、戦おう、それは、モートにしか出来ない事だろう、とモートは感じていた、ただ、親子でありながら、そして、共に世界を守る事を選択した者として、戦う事を躊躇う、それは当たり前の感情なのだろう。

「……。モート……。吾輩の言葉を聞いてくれるのであれば、そうさな……。愛している、ずっと愛している、それは、父として、息子を想う気持ちは、生涯なくならない、という意味だ。吾輩は、全てを投げうって魔王の討伐に助力した、そして、現在では魔王の配下、魔王の在り方を悲しみ、そしてそれを救う手立てを探す為に、この地に残った者。それを、父として出来ぬ事、それは悲しい。ただ、モートよ。吾輩は、誇りに思おうぞ。吾輩の息子たるモートが、守護者の仲間として、連れ立ちとして傍にいる事、そして、精霊を恨んだとしても、人間や世界の在り方を憎まずにいられた事を。……。アリナ、といったな、貴公は、アリサによく似ている。その父であるドーガンにも、よく似ている。吾輩が持っている記憶、それを渡す術を持っている、のであれば、貴公らに渡すのが筋だろう。……。モート、吾輩を恨んだとしても、ミーナを恨むべからず。ミーナは、最後まで、貴殿の為に残ってほしい、と訴えておったのだ。涙ながらに、吾輩を止め、世界の為ではなく、父として貴殿の為に生きてほしい、と。だが、吾輩はそれを選べなかった、その選択を出来なかった、それを恨まれても仕方のない事、それは承知の上だ。ただ……。ミーナは、君の母はな、モート。君を愛していた、私が君が生まれてすぐに、精霊の禁忌とされる勇者への合流を果たそうとした時、最期までミーナはこの子の為に生きて、と訴えてきた。この子、モートの為に、生きてほしいと。私はね、モート。世界の為に生きた、それを後悔はしていない、ただ、ミーナの最期を看取れなかった事、君を育てるという事を出来なかった事、それを悔やんでいる、と言えるのかもしれない。……。結界を壊す為には、吾輩を殺めなければならぬ。それは、貴殿の役割だ、モート。貴殿の刃、それが魔王に届き得る事を、ここで証明するのだ。」

「……、モート……。」

「……。わかってる、わかってた事なんだ。勇者の在り方、そして勇者の仲間の魂の在り方を知った時点で、父さんがそうなっている事、については確定事項の様な事だったから、わかってる……。父さんを解放する事が出来るのも、僕達守護者の一行だけ、そして、戦うのであれば、それは僕の定めだろう。わかってる、わかってるんだ……。でも、でもね、父さん……。僕は……。僕は、父さんと違って強くないんだ……。僕は、弱いんだ……。母さんと同じ想いをするのが嫌で、勇者の仲間にもならないで……。それで、今まで生きてきて……。父さんが、そうなっていた、それは知っていたんだ……。ただ、それでも、そうじゃない未来を見たかった、そうじゃない現実を、見たかった……。アリナ達が決意している中、僕は……。僕は、独り憂いていてた、父さんと戦う事を、父さんを、殺さなければならない事を……。」

「……。甘ったれるな!守護者の、その仲間になったのだろう!ならば、吾輩を打ち倒して見せよ!吾輩を!闇に染まりし哀れな精霊を!救って見せよ!それが!貴殿の役割だと覚悟をしていたのだろう!その覚悟は!吾輩の息子は!……。そんな事で挫ける事はない!そう信じていた!吾輩を思うのであれば!その願いを叶えて見せよ!」

 涙を流しながら吐露するモートに、エジンは大声を出した。

 泣きながら、元来の涙脆さ、それを隠そうともせず、悲しみと、誇りと、喜びと、憂いと、それらが混ざった涙を流しながら、モートを怒鳴った。

 声がかすれている、本来のエジンは、怒鳴る事などない、温和な性格の人物だったのだろう、元来の性格として、温厚な性格だった、モートはそうアリサから聞いていた。

 そんなエジンが怒鳴っている、その意味は、モート鼓舞する為、その為に他ならなかった。

 守護者と勇者の仲間の末路、その役割と、定めは決まっている、守護者は魔王を解放する者、そして、勇者の仲間をその闇から解放する者。

 そうなってしまった以上、それ以外の選択肢はない、エジンも、モートも、それをわかっていた。

 ただ、それでも尚、モートは戦いを拒んだ、そうならない道、を探そうとしていた、そして、エジンは、モートが精霊として、守護者の仲間に選ばれた時点で、自分の運命が決まった事を知った。

 望まずとも、戦わなければならない日が来る、そして、アリナ達はきっと、魔王デモスを解放してくれるだろう、とエジン達は信じていた、ソニル達がデモスを憐れんで隣にいたのであれば、解放をしようとして傍にいたエジンとしては、悔しいとも取れる結果になるのだろう。

 ただ、それを任せられるだけの力、それをアリナ達は持っている、それだけの覚悟を、アリナ達は持っている、そう信じていた、だから、モートを突き放した。

「……。父さん……。」

「さぁ守護者のその連れ立ちよ!吾輩の胸を貫け!その刃を以て、魔王を救って見せよ!」

 それは、生来の気質として、攻撃用の魔法を使ってこなかった、そして意識して鍛えていなかった、モート唯一の攻撃魔法の事を言っているのだろう。

 モートは回復魔法と支援魔法しか使わない、使えないと自称していたが、しかし、エジンは知っていた。

 レスティア家に相伝で語られている、守護者としての在り方を示す為の魔法がある事を、それが、攻撃用の魔法である事を。

 それが何故、回復系の神官であったレスティア家に伝えられてきたのか、それは誰も知らない事、だった。

 ただ、エジンは確信していた、それは。

 未来を見るという事をしていた、精霊の祖先、何千年前かに、未来を見ていたという精霊、その精霊が遺した、モートの為の魔法だったのだろう、と。

「……。父さん、必ず、魔王を救いだすよ。必ず、父さんの意思を引き継いで見せる。だから……。おやすみなさい、ゆっくりと休むんだ。」

「モート、それってよ……。槍、か?」

「そうよねー?モートが槍を使うなんてー、想像も出来なかったわよー?」

 黙って見ていたジンとソーラが、そろそろ良いかと口を開くと、エジンは嬉しそうに笑う。

 それは、自分の選択肢が間違っていなかった事、人間を愛して、人間と行動を共にした事、それが間違っていなかった、と確信したから、なのだろう。

 モートが杖の先から放った魔法、槍による投的攻撃、それを受けて、エジンは嬉しそうに笑っていた、それを発動できるのは、守護者の連れ立ちだけだろう、と知っていた、だから、その資格がモートにはきちんとあるのだ、備わっているのだ、守護者の仲間として、正しいのだ、と確信をし、そして。

「さようなら、私の可愛いモート。」

「……。さようならだ、父さん。」

 エジンは、光に包まれて消えた。

「これで最後の結界だね、後は魔王の居城に行って、やるべき事をやるだけだね。」

「……。モート、良かったの?お父さんだったんでしょう?お父さんと、もっとお話をしたかったんじゃないの?」

「その我儘は、きっとディンの負担になってしまう。アリナ達も気づいているだろう?魔物がその脅威を増している、ディンが戦っているのがわかる、ディン独りに任せる訳には行かないんだ、だから、僕達は僕達の成すべき事を成さないと。」

 エジンを見送って、モートは寂しそうに笑う。

 涙の跡を残して、寂しそうに笑った。

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