四十八話 迷いと決意
「これで結界は二か所目だね。ソーラ、次の結界の場所まで、転移をお願い出来る?」
「良いわよー?でも、また誰かが待ち受けてそうよねー。」
「そうかもしれないね。ダモトス、レビル、次はどんな敵が出てくるのか、それは考えておいても良いのかもしれないね。」
「……。レビルもダモトスもよ、あいつら、悪い奴らじゃねぇんだなって、そう思ったぜ?魔王に従ってる理由だって、魔王が解放されるまで傍にいてやりてぇから、だろ?それなのに、魔王の仲間だって理由だけで、倒しちまって良かったんかな……。」
ジンの迷い、それは今までの守護者の仲間としてふさわしいのか、という話ではなく、魔王の仲間に関して、そんな純粋な心の持ち主達を倒してしまって良いのか、という事柄に変わっていた。
それはアリナ達も持っている疑問だっただろう、ダモトスと言い、レビルと言い、伝承に語られる悪である魔王の配下、とは思えないほど、仲間想いの敵だった。
その配下達が魔王を解放して欲しい、と願っている以上、戦う事に疑問はあまり持たなかったが、しかし、疑問が無いわけではなかった。
それが、ジンやソーラが勇者の仲間だったら、そして魔王を討伐し得るだけの力を持っている存在だと仮定したら、その立場にいたのは自分達かもしれない、自分達も、守護者が魔王を打ち倒すまで、傍にいたいと願っていたかもしれない、魔王の配下、として勇者や守護者と戦う立場だったのかもしれない。
それを考えると、魔王の配下だからと言って倒してしまって良いのか、、という迷いが生まれる、それはソーラもモートも同じだった。
「……。私達が戦う事を辞めて、それで世界が何とかなるのなら、戦う事を放棄して、魔王と勇者の真実を広める、って言う未来もあったのかもしれない。でも、私達は守護者、戦わないと、世界が滅んじゃう。だから、私は迷わない、誰が相手だったとしても、世界を守るうえで戦わないといけないのなら、私は戦う。……。皆に、それを強制する理由も無いけどね。皆は、私と違って、勇者の仲間になりたいって言う道があったんだもんね。私は違うけど、思う所があるのはわかるよ。だから……。ここからは、私一人でも戦うよ。」
「……。それは違うのよねー。アリナ独りで戦わせるって言うのはねー、違うと思うのよー。魔王とその配下について思う事があったとしてもー。でも、それでもねー?戦わない事は違う、守護者の仲間として、世界を守る者としてねー?そう、私達は戦う定めにあった、魔王の真実を知って、その想いを託されるだけの存在としてー、戦う道を選んだと思うのよー。それはね、私達にしか出来ない事、アリナだけでも、私達だけでも出来ない事。アリナが独りで戦うって言うのはね、違うと思うの。私達は運命共同体、だと思うのよ。世界の命運を背負って、ディンに鍛えられて、世界を守る為に生きて。だからね、アリナ。
そんな寂しそうな顔をしないで?私達は、ずっと仲間よ?」
アリナが寂しそうに伝えると、ソーラは普段とは違う面持ちで言葉を紡ぐ。
それは、確かに迷いとして存在するかもしれない、迷いがないのかと問われたら、あるのだろうと答える、ただ、だからと言って戦わないのか、と問われると、それも違うだろうと答える。
それはジンもモートも変わらないだろう、今更アリナ独りに背負わせて、戦いを放棄して、という事を、信念として許せないだろう、それは、守護者の仲間だからだとか、勇者としての矜持だとか、そう言う事でもなく、ひとりの人間として、それを許さないだろう、という事だ。
今更になって独りで戦うという決心をするくらいなら、最初から独りで良かったはずだ、ディンに修行をつけてもらっている以上、それを叶えるだけの実力が、アリナにはあるのだろう、しかし、アリナは仲間を見つける事を選んだ、ならば、最後まで仲間だ、と。
「俺達の悩みってのはさ、アリナにとっては小さい事なんかもしれねぇ。世界を魔物の闇から守る、っていう俺達の目的からすれば、魔王の配下だから、だからなんだ、魔物を利用しようとしてる事、それは変わんねぇ。……。だからよ、アリナ。俺達も戦う、俺達も、守護者として責任を果たせねぇといけねぇと思うんだ。俺達をアリナが選んだ理由、ってのは、魂が云々ってディンが言ってただろ?それって、要するに俺達はそうなる運命だった、って事だと思ってんだ。でもよ、俺達が戦う理由、までは運命には刻まれてねぇだろ?俺達が戦う理由、それは俺達が決める事で、精霊様達が決める事じゃねぇ、と思うんだ。」
「運命、そうだね。僕達は出会う運命だった、それはディンが言っていた事だ。そして、僕達は出会い、自分達の意思で戦う事を決めた。僕は、アリナが独りで戦う事が在ってはいけない、と思ったから、というのもあるけれど、そうだね……。僕達は、自分達の意思でここにいる、そして、魔王の配下達は、僕達に未来を託した。魔王の救済、それを願った。だから、僕達も戦い続ける、それは変わらない事実だよ、アリナ。」
「皆……。うん、ありがとう。私、独りで戦うって言っても、本当に一人になっちゃったら、きっと戦えなかったと思う。皆がいてくれるから、私は戦える、世界の為に、お母さんの為に、未来の為に、そして、ディンの為に。……。行こう、私達に遺された時間は、そんなに多くはないと思う、ディンは今も一人出魔物と戦ってる、世界中に現れた魔物と、独りきりで戦ってる。それは、私達が魔王を助けられるから、って信じてるんだと思う、だから、独りで魔物と戦う道を選んだんだと思う。だから、私達は私達に出来る事をしないと。」
アリナの一言で、次の結界の起点に転移をする四人。
ソーラとジン、モートは、その迷いに関しては、必要だという結論に至った。
その迷いがあって、そして救う為に戦うのだから、元人間だったとしても、それは必要な迷いなのだろう、と。
「さて、次はどこに行くか。」
魔物相手にまさに無双をしていたディンは、城塞都市と呼ばれている西の大陸の都市の手前、そこで魔物を倒していた。
今の所取りこぼしはない、魔物による人的被害は出ていない、そして、ディンの体力的にもまだまだ行けるだろう、というのがディンの考えだった。
アリナ達が迷っている事も理解していた、その感情に関して、理解をしていたが、選択肢を誤る事はないだろう、と信頼をしていた。
人間を守る為、世界を守る為に、戦う道を選ぶだろう、武器を捨てる道は選ばないだろう、それがディンの持っていた意見であり、アリナ達に選んでもらいたかった道だ。
それを選んだ、という事は、後は魔王を討伐するのみ、なのだが、結界を破らない事には魔王の居城には侵入する事が出来ない、そしてその結界の起点には、配下が用意されている。
魔王は魔王なりに思う所があり、そして配下達も配下達なりに感情があるのだろう、それに関して咎めるつもりは、ディンはなかった。
そもそもが世界を守った末の結末が魔王なのだから、それに関して何かを言える程、ディンは自分は偉くないと思っていた。
アリナ達がどうやって世界を守るか、何を以てして世界を守ったというか、に関して、ディンは口を出すつもりはなかった。
それが魔王の盗伐だったとしても、魔王の救済だったとしても、魔王の救出だったとしても、それに関してディンは決定権を持っていない、と。
「ふー……。」
煙草を一服しながら、次の魔物の群れの場所を確認する。
次の場所は、数こそ少ないが、今までの場所での戦闘以上に、敵が強いだろう、と予測が出来る。
それこそ、ディンの結界を破れるレベルの魔物、というのがいるのかどうかに関しては懐疑的だったが、現実として、大いなる闇に囚われたデインは、一度結界を破っている。
それは現在使っている竜陰絶界、という結界術ではなく、五重結界という下位の結界だったのだが、ディンが張った結界、を破ったという過去を持つのは、デインだけだ。
現在ディンが使っているのは竜陰絶界、ディンが死のうと滅ぼうと、ディンの意思次第で永遠に続く結界、それは、大いなる闇でさえ閉じ込める事が出来る結界だ。
魔物相手にそこまで大仰な結界を張る必要があるのか、と問われると否だろうが、ディンが基本的に使っている結界が、竜陰絶界だから、という理由で、ディンはそれを発動していた。
魔力消費、に関しては、結界術は魔力を消費しない、という特性がある為、問題はないのだろう。
「良し、次行くか。」
煙草を吸い終えて、次の場所へと向かうディン。
アリナ達が何を思って、どういった答えを出すか、それは前回と同じなのか、そうではないのか。
それはディンにはわからない、わからない事だったが、アリナ達が決断を間違える事は無いだろう、最終的に世界を守るという選択肢を取るだろう、とディンは信じていた。
だから、自分は魔物の相手をする事を選んだ、引き受けたのだ、と。




