四十七話 純血たるレビル
「ここが結界の起点の一つだね。」
「そうねー、さっさと解除しちゃいましょー?」
大陸の北部、アリナ達はダモトスの担当していたであろう結界の起点の場所に到着した。
南の大陸自体、転移を使えばそこまで距離はない、そして、結界の起点までは、ダモトスと戦った場所から半日程度で到着する距離だった。
転移が基本使えない、と言っても、この大陸の中を移動する分には問題はない、とソーラは感じていた、結界によって大陸が閉鎖されているだけで、大陸内の移動に関しては出来るのだろう、と。
ただ、ダモトスの結界までは距離が無かった為、まだ使っていない、それが現状だった。
「結界の解き方ってよ、アリナ達はわかんのか?」
「うん、今ならその方法がわかるよ。多分、ディンの結界とかは解除出来ないんだろうけど……。でも、この世界における結界、については問題が無いかな。」
アリナは、結界の起点になっている場所に立ち、魔力を発現する。
名前を言えと言われたらわからないと答える魔力、ただ、アリナはそれを知っていた、知っていて、結界を解除する魔力として認識していた。
「……。うん、これで大丈夫、あと三か所かな?」
「そうだね、後三か所、結界の起点があるね。転移での移動は出来るかな?でないと、幾分か時間がかかってしまうけれど……。」
「大丈夫よー?この大陸の中、であれば転移魔法が使えると思うわよー?大陸の外から転移魔法が使えない様になってるだけみたいねー。」
「じゃ、急ごうぜ。」
ソーラの転移魔法で次の結界の起点の場所に飛ぶ四人、探知魔法を使っていたから、ディンが独りで魔物と戦っている事は理解していた、だから、早く魔王を倒さなければ、と少し焦ってもいる様子だ。
しかし、焦った所で結界を破壊しなければ魔王の居城には入れない、それも理解していた、と。
「ここが次の結界か?」
「来たか、守護者とその連れ立ちよ。吾輩は魔王様が配下の一人、純血たるレビル。そこの戦士よ、決闘を申し込む。」
「俺か?俺と戦うんか?」
「その通り、貴殿と決闘をする、それが吾輩の役割なのだ。」
結界の近くに転移してきた四人を迎えたのは、背の小さな老齢に見える剣士だった。
どうやらジンとの一対一での勝負を求めている様子があり、ジンはそれに是と答えて独り前に出る。
「吾輩の我欲を聞いてくれるとは、感謝なり、戦士よ。」
「ジンだ。」
「では行くぞ、ジンよ。」
レビルは、腰に携えた剣を抜くと、ジンが剣を抜くのを待っていた。
ジンは、腰にあるブロードソードを抜く、それを実戦で使うのは初めてだったが、今まで修行で使っていただけあり、手にはなじんでいる。
昔、師匠である食堂の大将から譲り受けたブロードソード、それとよく似た剣を、現在は使っている、精霊達が拵えたというブロードソードは、守護者の仲間であるジンの為に造られただけあり、しっくりと来る。
「……。行くぞ!」
「来るがよい!」
深呼吸をして、自分より格上であろうレビルに攻撃をしかけるジン。
自分が役不足ではないか、それとも魔王と戦うのにふさわしいのか、それが今わかるだろう、とジンは感じていた。
アリナ達と違って魔法を使えない、対外的に魔力を持たない自分が、果たして本当に守護者の一行としてふさわしいのか、それとも実力不足としてここで息絶えるのか。
ジンは、冷静に相手を分析しながら、そんな事を考えていた。
「迷いがあるようだな、ジンよ。」
「……。敵に心配されるほど、落ちぶれちゃいねぇよ!」
「そうか、ならば迷いを捨てて掛かってくるがよい、その迷いは、命を落とすぞ?」
「……。わかってらぁ!」
その迷いを剣を通じて感じたのか、レビルは言葉をなげかけて来る。
それは、何故かジンを心配する言葉だった、敵であるはずのジンを心配する言葉、態度、剣を交えながら、レビルはジンを慮る様な言葉すら口にする。
ジンは、思考が読まれていると感じていた、レビルはジンの思考を読んで、そしてそれに対して語り掛けている、と。
その理由まではわからない、剣を交えただけで思考が読めるのであれば、苦労はしない。
ただ、なんとなくその理由を知ろうとしていた、敵でありながら、その言葉を投げかけてくる理由を、ジンは探していた。
「ふー……。」
もう十万体程魔物を倒しただろうか、ディンは消耗している様子すら見せず、アリナ達の様子を飛眼という魔法を使って観察していた。
現在、ジンがレビルという魔王の配下と戦っている、一対一で、正面をきって戦っている。
攻防としてはレビルが優勢、ただ、レビルは決定的に、倒すという意思が無いとディンは感じていた。
レビルは、ジンと戦っているという意識はある、ただ、ジンを倒そうという意思が介在していない、それを露ほども意識していない。
ディンの飛眼には、そう言った思考を読む力はない、そもそもが偵察用の魔法であり、それを目的としていない。
ただ、剣を交えている姿を確認して、その様子を見ていると、ジンが決定的な隙を見せているにも関わらず、それを攻撃しない、ジンの攻撃を誘って、自分から当たりにいこうとしている節さえある。
「……。」
次の魔物の出現場所に向かう傍ら、ディンは少し考える。
以前の時間軸では、魔王デモスの意図までは掴めていなかった、魔王デモスが魔物をモンスターと配合して使役しようとしていた、それは理解していた、ただ現在、魔物は魔物であり、モンスターではない。
ならば、魔物が現れた理由は魔王にあったとしても、それが魔王の意思とは限らない。
大いなる闇、それに魔王が支配されそうになっている、だからこそディンはこの世界にやってきたのだが、もしかしたら、とディンは思考する。
魔王は、操られる事を是としていない、そもそもが、守護者に倒される事を望んでいるのではないか、と。
なら、アリナ達の元に魔物とモンスターの配合した存在を送り込まない理由にもなる、魔王は、そもそも世界を統括しようとしているのだろうか。
魔王と勇者の歴史、それは知っていたディンだが、魔王の意思に関してはノータッチだった、ならば、それに関して熟考する理由はあるだろう。
「まさか……。」
精霊が、この世界における魔王と勇者の仕組みを生み出した、それは前提知識だ。
そして、魔王が世界を掌握したがっているのか、それに関しては不明な点だ。
魔王が大いなる闇に囚われようとしている、それはディンだけが知っている事実、竜神として持っていなければならない現実。
だとしたら、とディンは考える。
魔王が守護者を狙わない理由、配下を今までアリナ達の元に向かわせなかった理由。
「まったく……。」
ならば、回りくどい事をしている、とディンは感じた。
魔王もディンも、そしてアリナ達も、目的自体は一致している、そして、それを完遂する為には、アリナ達が強くなければならなかった。
そう言う意味では、魔王の取っている行動は正しいのかもしれない、と。
「そこだぁ!」
「なんの!」
「ジン……。」
ジンとレビルの戦い、それは拮抗していた。
ダモトスの時と違い、魔力を発現できていないジンにとって、レビルは強敵だった。
ただ、勝つ手段がないのか、と問われると、あるはずだ、とジンは考えた。
戦う以上は勝ち負けがあり、それに関して、一方的に勝敗が決まる程、自分とレビルの実力に差はないはずだ、と。
勝ち筋、それを見逃してはいけない、それを見逃したら、自分はここで、アリナ達の前で死んでしまうだろう。
それは嫌だ、守護者の仲間として、世界を守りたいと願ったのに、こんな所で死んでたまるか、とジンは気合を入れ直す。
「む……!」
「負けてたまるかぁ!」
気を引き締めて、戦いに集中する、魔王の配下相手に、思考をしながら勝てるとは思っていない、全力で戦わなければならない、でなければ、負けて死ぬのがオチだろう。
そう感じたジンは、一旦思考を止めて、全霊の力をもってレビルと相対する。
「いっけぇ!」
「ガハ……!」
一瞬、レビルが隙を見せた。
それは一瞬だった、瞬きの間だった、しかし、ジンにとってはそれで十分だった。
全身全霊の力、渾身の力を籠めて、レビルに一撃を加えた。
レビルは、一瞬だけ判断が鈍ったのか、その攻撃を真正面から喰らった、その攻撃は、人間と同じ体の性質であるレビルにとっては、致命傷だろう。
「はぁ、はぁ……。」
「……。ジン、といったな、若き戦士よ……。貴殿の覚悟……、しかと、受け取った……。」
ドサ、っという音と共に、レビルが倒れる。
「……。俺の覚悟を知る為に、わざと、だったのか?」
「……。吾輩達、魔王様の配下は……。そうさな、魔王様をお慕いし、仕える者達……。そして、その魔王様が……。救われる事を、望んでいるのだよ……。」
「魔王が、救われる事……。それって、アリナが魔王の魂を解放する事を望んでる、って事か?その為に、死んじまったとしても?」
「……。」
その通りだ、と倒れたレビルは笑う。
ディンがレビルの攻撃に殺意を感じなかった理由、そして、レビルがジンに戦いを挑んだ理由。
それを憶測として話をしても仕方がない、ただ、現実として、レビルはジンを殺さなかった、殺意を見せなかった、そして、今こうして倒れている。
それが、魔王が救われる事を望んでいた者達、かつての勇者の仲間たるレンジャーのレビル、その人間が、死して尚叶えたかった願い。
魔王が呼び水となって、蘇った腹心達の願い、それが魔王の救済だとしたら。
「……。馬鹿だな、あんた。死んじまったら、魔王が救われたとしても、それを見られねぇじゃんか。」
「……。良い、のだ。貴殿の、覚悟を、引き出した……。それだけ、でも……。吾輩、は……。」
こと切れる、純血たるレビル、数十年を魔王と共に生き、そして、現在の魔王が魔王として生まれてから、最初に殺されたレンジャー、レビル。
勇者として、共に戦った者を、そして、魔王になってしまった者を、最期まで案じた存在。
レビルは、光の中へと帰還する、ジンの攻撃、それはアリナ程ではないが、光を内包している、それが守護者たる所以、仲間たる所以だ。
そんなジンの攻撃によって、魂が解放される。
ダモトスと同じ、魔王が勇者だった頃に共に戦った仲間として、魔王に仕えていた者として。
アリナ達になら託せる、そうレビルは感じて、消えていった
「……。行こうぜ、アリナ。」
「……。良かったの?」
「そだな、良かったんだろ。あいつは、最期まで魔王の仲間として、勇者だった人間の仲間として、生きたかったんだろ。だから、俺達がそれを引き継げば、あいつも天国に行けるだろ?」
ジンは、覚悟をした。
迷いはない、もう迷いはない、ジンは、守護者の仲間として、戦う事が出来るのか、それとも、道中で死んでしまうのかそれはわからない。
ただ、迷いはない、迷う理由はなくなった、と。




