四十三話 後二日
「ディンー、極大魔法ってー、使っちゃ駄目だよねー?」
「ん?そうだな、あれは天変地異を起こす魔法だからな、実戦で土壇場、って言うのも辛いかもしれないけど、ここで使っちゃったら大変な事になるな。」
「そうよねー、ここで使っちゃったら、大変だよねー。」
修行開始二日目、ソーラは、極大魔法と呼ばれる、所謂グランの座にいる者のレベルではないと、発動すら出来ないだろう、と言われていた魔法に関して、使用して良いかどうかをディンに聞いていた。
それは、文字通り地割れや噴火など、天変地異を起こす様な魔法、それを都市の中で使う、というのは無理だろう、とソーラはわかっていたが、念の為に聞いた、という風だ。
「ただ、生物がいない所、であれば使っても問題はないか。そうだな、そうしよう。」
「何か手だてがあるのー?」
「グラン達が、自分達の力を確認する為に確保してる島があるだろう?あそこなら、生物はいないし、発動しても問題はないだろ。」
グラン達が自分達の実力を確認する為に、ひと払いをしている島がある、それをディンは思い出す。
ソーラは、その島の所在を知らない、という顔をしていたが、ディンなら知っていてもおかしくはないか、と考え直す。
「ソーラの魔法って、どんな魔法なの?」
「そうねー、皆になら話しても良いのかしらねー?天変地異、って言われる、所謂地震とか噴火とかー、そう言うのを起こす魔法だって書いてあるよー?」
「地震や噴火、吹雪から暴風雨、そう言った事柄を起こす魔法、それが、グランにのみ許された魔法、だったね。それは、本来であれば研究棟から持ち出す事は許されていないんだとか、そう言う話を聞いた事があるけれど。」
「そうねー。お父さんが、餞別代わりに寄こしてきたのが、この魔導書だったからねー。内容に関しては知ってたけどー、でも、発動できるとも思ってなかったからー。」
アリナ達も、ソーラの使える最大限の魔法には興味がある様子だ。
モートは、それをある程度知っている様子を見せる、精霊としては若輩者、と言っても、人間の扱う魔法には詳しいのだろう。
逆に、アリナが小屋から持ち出した精霊の魔法、に関しては、モートも発動した事が無いからわからない、というのが正解らしい。
「私も魔法って使えるのかな?お母さんが残してくれた本があるけど……。」
「アリナも使おうと思えば使えるよ。それだけの実力は持っているはずだ、ただ、アリナには合わない魔法かもしれないな。」
「合わないって、どゆことだ?」
「性質的に、というよりは性格的に、かな。アリナのお母さんが遺した魔導書は、それこそ対魔王に特化した魔法だ。魔王の魂に訴えかける魔法だったり、魔王の居城を破壊する魔法だったりな。魔王の魂に訴えかける魔法に関しては、覚える余地があるかもしれないけど、アリナは破壊する類の魔法は合わないと思うからな。覚えたとしても、使わないか使えないだろうな。」
ディンが転移の準備をしながら、話をする。
アリナの使える精霊の魔法、アリサが遺した魔導書には、魔王の魂を云々、という事が書いてあった、ただ、その意味をアリナ達は知らない。
結果としては、魔王を浄化するだけの魔法、なのだが、それは精霊の試練を受けた者にしか伝わらない幻惑の魔法がかかっていた、今のアリナであれば理解出来る事だが、少し前にモートが読んだ時、その部分に関しては理解が出来なかった。
最終的に、その魔王の魂を浄化する魔法、に関しては覚えてもらわないと困る、とはディンは考えていたが、それ以外、魔王の居城を破壊したり、魔王に対する弱点特攻とでも言えばいいのだろうか、そう言った魔法は使わないだろう、と考えていた。
ただ、選択肢として持っておくのは構わないだろう、とも考えていて、それも実戦する意味で、グランの座に到達した者達にしか所在を明かされていない、秘密の島に行く必要がある、という話だ。
「それじゃ、転移で行きますか。」
「はーい!」
「俺達もか?」
「そうだね、ジン達も、アリナとソーラの魔法を知っておいた方が良いと思うよ。」
修錬場から転移で飛ぶ、アリナ達は、何処にあるのか、を聞きそびれた、と思いながら、それに従った。
「さ、ここだな。」
「凄まじい魔力の残滓だね、僕でさえわかる程という事は、ソーラやアリナは凄まじいものを感じているんじゃないかな?」
「そうねー、歴代のグラン達の、魔力の残滓が残ってると思うわよー?」
「なんだか、ちょっと怖いね。」
「そうなんか?俺は魔力の残滓なんて感じねぇからよ、分かんねぇわ。」
島、というのには少し悲しい見た目、とでも言えば良いのだろうか、抉れ、分ち、荒れ果て、何もない小島が一つぽつんとある場所、そこがグラン達が確認の為に使っている場所だった。
地理的には、三つの大陸からなるこの世界の北端に近い場所で、精霊が統治している二つの大陸のそれぞれ東端と西端から、海に出て暫く行った場所、に位置する。
そんな小島なのだが、魔力の残滓、極大魔法を使った形跡と言うのは、大地に刻まれている、その結果が今の荒れ果てた小島であり、そして、強大すぎる魔法は、その魔力の残滓を大地に染み込ませている。
「って俺達浮いてんのか!?」
「今気づいたのか?」
「あ、ほんとだ!私達,空飛んでるの?」
島の南端にいた五人、ソーラは飛んだ事がある、というよりは飛行魔法を習得している為驚いていなかったが、アリナとジンはたいそう驚いていた。
空を飛ぶ、それはこの世界では珍しい事ではない、魔導士レベルの人間が扱う魔法、初級から中級に位置する魔法であり、転送魔法の後に覚える魔法、とされている。
流石に一般人が使える程安い魔法ではないが、しかし魔法を習っている者であれば、大概は使える、それが飛行魔法だ。
それを修錬してこなかったアリナと、そもそも対外的に魔力を持っていないジンは、初めての空中飛行、というものに感動していた。
「私達の使う飛行とは違うのねー?って言っても、解析も出来なそうだけどー。」
「そうだな、この世界の理である飛行魔法とは、少し趣が違うな。俺の使ってるのは、竜神術の清風って言う魔法だよ。竜神術の基礎の基礎、これが出来ない竜神は存在しない、って言う程、当たり前に使われてる魔法だな。」
とディンは言うが、現に使えない竜神も存在はした、ディンの息子の竜太は、最初清風が使えなかった。
かろうじて転移魔法は使えたが、他の魔法に関してはからっきしで、ディンが修行をつける様になって、やっと清風と探知魔法をある程度使える様になった、というレベルだ。
純然たる竜神ではない竜太と、他の竜神を比べる様な事をディンはしないが、最低限これだけは使えていてほしい、という願いはある様子だ。
「ソーラでもわからない魔法って、どんな魔法なんだろう?」
「まあ、それは竜神固有の魔法だと思ってくれれば良いよ。さ、やる事をやってしまおうか。」
「この島なら、確かに何をしても良さそうねー。じゃあ、行くわよー?」
一旦この話はお終い、とディンが言って、ソーラは魔力を集中させる。
精霊の試練を受けた事によって、魔力の質が上がっているのと同時に、人間というよりは精霊のそれに近しい魔力へと変わっている、それをソーラは実感していた、自身の身に流れている魔力が、モートに似ているものに変異している、と直感していた。
だからといって、精霊の魔法が使えるのか、と問われると、時間がかかるのだろうが、と答えるだろうが、出来ないとは思わない、というのが、ソーラの所感だ。
『大地よ!』
ソーラが唱える、それは、地割れを起こし敵をそこに落として、それを元に戻して圧死させるという魔法。
小島が真っ二つに割れた、と思ったら、その爪痕を残して元に戻る。
「ソーラ、凄いね!」
「ふふーん、次も行っちゃうわよー?」
「次はなんの魔法かな?」
『溶岩よ!』
次にソーラが放った魔法、それは噴火の魔法だった。
地面が盛り上がり、小さな山が出来た、と思ったら、そこから溶岩が噴き出して、島を飲み込んでいく。
小島を呑み込んだマグマが、新たに大地を生み出していく、魔力によって呼び覚まされたそれは、現実にあるものとして、島の表面を覆っていく。
「凄いね、こんな事が出来ちゃうんだ!」
「後はねー!」
楽しくなってきたのか、生来の研究者としての気質がそうさせているのか、ソーラのテンションは高い。
そして、底なしのソーラ、という二つ名を持っている、というのにふさわしく、次々と極大魔法を連発していく。
元来、極大魔法は一日に一発発動出来れば良い方だ、グランの座にいる者達ですら、二発が限界だ、というのが通説だった。
それ以上の魔力の連続行使は、体の魔力の回路に支障をきたす、と言われており、グラン達でさえ、覚えた極大魔法は一日一度しか発動しない、それが普通と言われていた。
そんな中で、ソーラが何発も極大魔法を連発できる、それは精霊の試練を受けた、という事もあるが、そもそもソーラの魔力は底なしと言われていて、グランの座にいる父と母からも、いずれグランの座を引き連れる長になる、という見立てを立てられていた程、底なしの魔力を有していた。
現状の事を、グラン達は気づいているだろう、グランの座に到達した者達は、それ相応の探知能力を持っている、精霊の湖畔を見る事は出来ずとも、アリナ達が精霊の試練を受けた事も理解しているだろう。
『津波よ!』
「すげぇな!」
ソーラが少女の様に喜びながら、魔法を連発している中、ディンはそれを見守りながら、これからの事を考えていた。
戦いが終わったら、ソーラ達はどうするのだろうか、アリナが亡くなった所までは見守ったが、それ以降の事を知らなかったディンは、ソーラやジン、モートがどういった未来を生きたのか、それを知らなかった。
どのような未来を生きて、そしてどの様に終末を迎えたか、それに関して、ディンは無責任と言える程触らない。
守護者を育てるのが竜神の役目、そしてそれを竜神達は放棄していた、ディンは、悠輔と一つの肉体を共有していた頃はそれをしていなかったが、自分自身としての肉体を得た後、世界群を回る様になった、それは、竜神達が役割を放棄した事を知ったから、そして、そのままでは世界が闇に堕ちてしまうと知っていたからだ。
そして、守護者を育てた後、大いなる闇の脅威を払った後、ディンは姿を消す、それがいつもの事だった、それ以降、その世界に行く事が無ければ、気にかける事もなかった。
「……。」
無責任だ、と言われても仕方はないのだろう、事実、ディンは世界を守った後については興味が無かった。
それは、竜神の代理としてやっているだけであって、元来の竜神王の役割、セスティアの守護に集中するべきであって、世界群の守護者全てに関して責任を取る、というのは、ディンには不可能だ、と考えていたからだ。
それに、と。
悠輔以上に大切な守護者はいなかった、アリナを大切な守護者と言っても、どの世界においても、守護者を大切にしている、と言っても、悠輔以上に大切な人間はいない、とディンは当時感じていたのを覚えている。
現在では、悠輔の他に竜太もいる、陰陽師の息子達もいる、デインもいる、そんな大家族なディンだが、最愛の人を守れずして何が守護者か、何が竜神王か、と自問自答を続けていた。
「ソーラ、凄いね。」
「でしょー?私、底なしのソーラって言われてたのよー?でもー、極大魔法って、意外と魔力の消耗が少ないのねー?」
そんな事を考えているディンをよそに、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすが如く、極大魔法を連発するソーラ。
モートは、精霊として極大魔法が人間には一日二発が限度、という事を聞いていた為、そこまで連発して尚、余力を見せるソーラに驚いていた。
アリナとジンは、そこに関しては理解していなかっただろうが、しかし、強大な力を持つ事に変わりはない、と感じていて、ソーラが本気で戦った場合、これを使って戦うのか、と認識していた。
実際には、実戦向きの魔法ではない物もある、それに関してソーラは試し打ちをしているだけで、実戦で使えるとも思っていないが、覚えた魔法は使ってみたい、それがソーラの信条だった。
人々の為に使える魔法を選別して、そして人々の役に立ちたい、それがソーラの目標であり、ウィザード達のあるべき姿なのだ、とソーラは考えていた、それはグランの座にいる者達からすれば異端なのだが、グランウィザードだったソニルがそうだった様に、ソーラはいつの日か、人々に魔法を伝えたい、と願っていた。
「さ、そろそろ戻って修行を再開するぞ?」
「はーい!楽しかったわー!」
あと二日、あと二日経ったら、アリナ達を南の大陸、魔王デモスが支配する大陸へと送らなければならない。
魔王は着々と、モンスターと魔物を融合する事で使役する、という手段を確立しつつある、それが完成してしまう前に、何とか決着をつけたい、と。




