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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
最終章 道の果てにあるもの

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四十二話 後三日

「さて、それじゃあ、三日だけ修行をしようか。」

「って言っても、俺達強くなってんのか?あんまり実感がねぇんだけど……。」

「皆は強くなってるよ、自分達でも驚く程だと思う、俺も油断して掛かったら負けるかもしれないな。」

 精霊の試練を終え、都市に戻ってきた五人、アリナ達は、あまり強くなったという実感が湧いていない様子だ。

 ソーラは、自身の見に流れている魔力の質が上がっている事に気づいていたが、アリナとジンは、まだ魔力を正確には探知出来ない、それが要因となって、自身の強さを認識できていない、それが現状だろう。

「三日で足りるのー?」

「そうだな、三日が限度だ。」

「私も参加した方が良いのよねー?」

「そうだな、ソーラの本気を出してもらっても構わないよ。」

 今は、修錬場に来ている、他の勇者達は、そろそろ日が落ちるという事で、ギルドや宿に戻っている様子だ。

 今なら、アリナ達がどれだけの強さを持っていて、そしてどれだけ人間にとって脅威になり得るのか、それに関して見る者もいない。

 ソーラの本気、それは、グランに匹敵する、というより、そもそもがグランに引けを取らないだけの実力者だったソーラが、精霊の試練を受けた事によって、それがさらに強くなっている現状、今のディンの力では受けきれないのではないか?とソーラは考えるが、そこはディンにも考えがあるのだろう、と思考を整える。

「それじゃ、始めようか。」

「うん。」

『限定封印、第三段階解放……。』

 ディンが修錬場の真ん中に立って、今までより一段階強い解放を行う。

 第三段階開放、それは第一段階で解放した身体能力を、更に拡張して解放した状態、魔力の開放的には、第二段階解放と一緒なのだが、そもそもが魔力を膂力として変換してるディンは、それだけでも強化されるのだろう。

 纏っている空気、とでも言えば良いのだろうか、アリナ達は、自分達を守ってくれているはずのディンのその気配に、若干の恐怖を感じていた。

 それは間違いではない、不完全な竜神王、と言っても、ディンは歴代竜神王の力を継承している、それの半分程度の力、を解放した、という事は、世界に対する脅威に対処するのと同等か、少し下レベルでの解放だからだ。

「さ、どこからでもかかっておいで。」

「……。行くよ、ディン!」

「うっし!俺達も行くぜ!モート!身体強化ばりばりでな!」

「私も行ってもよさそうねー!」

 モートが身体強化と魔力強化を発動する、その時点で気づいた、今まで発動していたそれと同じ魔法を発動したはずなのに、それが桁違いの効力を発揮している事に。

 アリナ達も、それには気づいていた、モートが掛けてくる身体強化の魔法、それが段違いに質が上がっている、しかも、元来ならそのレベルの身体強化を受けた場合、体の方が持たないだろう、と言われていたのにも関わらず、それに平気で耐えられる体になっている、その事に驚く。

「竜神剣、竜の誇り。」

 ディンは竜の誇りを顕現させ、三人の攻撃に備える。

 アリナは、そう言えばと思い出す、竜神剣は、その軌跡を以て闇を癒す剣なのだ、とディンが言っていた、ならば、何故修行の際にディンは他の武具を使わないのか、闇ではない自分達との修行で、竜神剣を使う意味は、と。

 その答えは、ディン自身の能力に帰結する。

 ディンの能力、竜神王としての権能、とでも言えば良いのだろうか、能力は、闇を癒す事が出来る、それだけでは無い。

 大いなる闇と戦うだけの力を有している、ディンにとっての明確な敵、闇であって闇ではない、ディンが明確に倒さなければならない敵、その敵と戦うだけの力、それをディンは有している。

 詰まる所、何が言いたいのかと問われると、ディンには竜神剣以外を扱う事が出来ないのだ。

 出来ない、というのは、それを扱う技量が無い、というわけではなく、武器の方がディンの能力に耐えきれない、という意味であり、ディンが竜神剣以外の武器を使おうとした場合、握って魔力を籠めようとした時点で武器が壊れてしまう、という事だ。

「行くよ!」

「来い!」

 だから、ディンは他の武器を触らない、うっかり魔力を流して壊そうものなら、その守護者が持ちうる武器がなくなってしまう場合もある、だから、ディンは他者の武器に不用意に触れない。

 魔力を行使しようとしなければいいだけなのだが、癖でそれをしてしまう事もある、だから、ディンは他者の武器に触れない、を基本としていた。

「こっち!」

「まだまだ。」

 ソーラの炎の魔法を剣の風圧でかき消し、ディンはソーラに本気を出せと暗に言っている。

 ソーラは、それを認識していた、現状の限界を知る事も、それをディンが受けきれるのかどうかも、知っておかなければならない、と。 

 ディンとしてもグランウィッチ以上の力を持っているソーラの攻撃を、その程度だと言える程度には強くなければならないのだ、それを確認する意味でも、とソーラを誘う。

「二人ともー!避けて!」

「うん!」

「わあった!」

 アリナとジンが肉薄していたディンに向けて、ソーラは全力の魔力を杖に籠める。

『業火よ!』

 吹き荒れる炎、炎として最上級の魔法、太陽の如き熱を持つ巨大な質量の炎。

 それを、人間が扱えるだけの大きさにした、小さな天体とも言える、そんな魔法。

 それをディンに向けて放った、下手をすれば周囲が焼け尽きるだけの炎、ソーラが一瞬だけしか発動しなかった、ただそれだけの理由で、周囲の建物やアリナ達が無事でいられる、そんな攻撃。

『竜神術、氷冠』

 ディンは、静かに唱える。

 コンマ一秒で届き得る魔法、それに対して、防御魔法を放った。

 ディンの周囲を、一瞬で氷の壁が囲う、それはまるで、冠の様な形をしている。

 ソーラの放った業火が、ディンの氷冠にぶつかる。

「ちょっとー、今の本気だよー……?」

 氷冠に当たった瞬間、ソーラの業火が霧散した。

 ディンの使う防御魔法、竜神術氷冠には、魔力を霧散させる為のカウンターとしての魔力が備わっている、魔力による攻撃を防ぎ、その魔力を解除する為の魔力が備わっている、という事だ。

 だから、どんな魔法を放たれたとしても、氷冠の解除魔力を上回るだけの魔力量でなければ、打ち破る事は出来ない。

 そして、氷冠を討ち砕けるだけの魔力、というのはこの世界群には存在しない、ディンが不完全な竜神王だったとしても、そもそもが、他に存在していた竜神達も使える氷冠、それですら、この世界群には打ち破れる存在がいないのだから、ディンが使った場合、それは当たり前なのだろう。

「まあ、俺の今の魔法が対魔力特化なだけだよ。」

「ソーラの魔法、凄いと思ったけど……。ディンには、防げる一撃だったんだね。」

「俺じゃなかったら、多分防げてなかっただろうけどな。ソーラの魔力、それは、モートの魔力強化を加味した場合、グランをとうに超えてる。魔力強化をしていなかったとしても、グラン達に追随する程度の魔力を持ってるからな、だから、現状この世界で最強のウィッチは、ソーラだって言う事になるな。」

 ソーラの魔法、業火は、ウィッチが使える最上級の炎属性の魔法だ。

 それを現在のソーラの魔力で放った場合、殆どの存在は防御すら出来ずに焼き尽されるだろう。

 逆に言えば、ディンが氷冠という防御特化の魔法を覚えていなければ、ディンですら危うかったかもしれない、という事になる。

「ソーラの魔法って、つえぇんだな。俺、一瞬だったけど、焼けそうだったぜ?」

「そうだね。ソーラの魔法に指向性が無かったら、ディンは無事でも僕達は無事じゃなかったかもしれない。元々ソーラは強いウィッチだったけれど、ここまで強くなるとは、僕も思わなかったな。」

 ジンとアリナは、あれが指向性を持たずに、周囲全体を焼き尽す魔法だとしたら、自分達も無事では済まなかっただろう、と認識していた。

 モートはそもそもそれを知っていた、精霊として、人間が使う魔法は大概知っている、知識としては持っている、だから、その魔法を使えること自体は驚かなかったが、その威力には驚いていた。

 もしも、ソーラと同じだと言われているウィッチ達が業火の魔法を使った所で、ここまでの威力にはならないだろう、ディンが氷冠を発動した、という事は、それ相応の威力になっている、という証左でもある。

 今のソーラに敵うウィッチやウィザードはいない、それがディンの見立てで、歴代のグラン達とも遜色がない、どころかそれを追い越しているだろう、と。

「私達も頑張らなきゃね!」

「おうよ!」

 アリナとジンも、身体能力は飛躍的に上昇している、第三段階開放のディンと渡り合うだけの力、それを持っているのだから、その実力は相当なものだろう。

 第三段階、とディンが一言に何も言わずに済ませているのが悪いのだが、ディンの第一段階解放と、第三段階解放では、身体能力は五倍程違う。

 今までは第二段階開放、それは魔力をある程度解放しなければ、とディンが感じていただけで、ソーラがいなければ第一段階解放で済ませていた、それを第三段階まで解放させているのだから、アリナ達の実力も相当上がっている。

「そこ!」

「とうりゃ!」

「良い連携だ。」

 アリナとジンが呼吸を整えて攻撃をしてくる、それを弾いた所にソーラが魔法を差してくる、良い連携だ、とディンは笑う。

 これだけの実力、これだけの連携攻撃が出来れば、魔王に負ける事も無いだろう、と。

 ただ、現在時点での魔力量に慣れる為にも、もう少しだけ修行の時間は必要だろ、とディンは考えていた、自分達の魔力量をきちんと理解して、そして向かわなければ、無事では済まないだろう、というのがディンの考えだった。

 それ位の時間は残されている、大いなる闇に乗っ取れられる寸前な魔王デモスだが、まだそれには時間がかかる。

 それだけの時間、ぎりぎりの時間、それをディンが見積もった結果が、三日という修行時間だった。


「ふー……。ディンってやっぱり強いよね。」

「そりゃ、世界群の誰よりも強くなきゃいけないからな。」

「そうなんだけど、でも凄いよ。」

 修行を終え、夕食を食べていた五人。

 アリナは、改めてディンの強さを実感していた、自分達が強くなった事を理解したが、それ以上に強く、それでもまだ本気を出していないというディンの強さに、驚いていた。

 と言っても、ディンはこれ以上の力となると色々と制約が出てきてしまうのだろう、これ以上の力を出すつもりはない、と言っていて、現状それを超えてしまったら、この世界にアリナ達より強い存在はいない、という話になってくるだろう。

「ディンってよ、本気出す事あんのか?」

「ある、というより、あったな。今まででは二回、完全開放をした事がある。ただ、一回は戦う為に発動したわけじゃないから、戦いに用いたのは一回だけだな。」

「ディンが本気を出す相手ってー、どんな相手なのー?それこそ、世界群に対する脅威とかー?」

「いや、俺が本気を出したのは、竜太が暴走した時だけだよ。俺の息子であり、十一代目の竜神王たる子、竜太の潜在能力が暴走したことがあってな。それを止める為に一回使ったんだよ。」

「もう一回は?」

「……。それは、誰にも言えない事だ。俺だけの秘め事、俺だけの罪、誰にも贖えない、誰にも背負わせられない、俺だけの罪だ。それが、守護者だったとしても、それは言えないかな。それを言ってしまったら、俺にとっては生きる意味がなくなってしまう。知っている存在がいたとしても、俺の口からたやすく言える事じゃないんだ。」

 ディンが言っている事、それは、時間を逆行する為に使った、という事だろう。

 ディンは、それを家族には伝えていた、竜太にセスティアを一時的に任せるにあたって、それを伝えた過去がある、そして、現在では悠輔も共に生活をしている、それを説明しなければ、悠輔は謎の存在になってしまう、というのもあって、ディンは家族には話をしていた。

 ただ、それを世界群の守護者達に言うのか、と問われると、否と答えるのだろう、未来を知っている、と言っても、歴史の違いや現在、未来の違いはある、特にアリナに関しては、アリナが死ぬ事が未来である、人間に殺される、という未来がある、とは言えない。

 そうならない様にとディンは願っていた、その為に出来る限りの事をしていた、ただ、それが実るとも限らないのだ。

 アルファスとの交渉もその一つ、ディンは、アリナが殺されてしまう可能性、について細かく潰していた。

 それに意味があるのか、それともアリナが死ぬという運命は変えられないのか、それはわからないが、ディンは、出来る限りの事をしたい、と願っていた。

「ディンが本気を出す相手……。それが息子さんだったの?」

「そうだな、潜在能力をフルで生かした竜太は、俺より強いからな。」

「ディンより強い……。それは信じられないけれど、そうだね、ディンだって、まだ本気を出していないのだから、それを超える存在がいても、おかしくはないのかな。」

 ディンは気取られない様に、悟られない様に、アリナを死から救う道を模索していた。

 それは誰にも言えない、誰にも話してはいけない、過去の話。

 ディンが全てを捨ててでも守りたいと願った家族、その家族を守る為にも、誰かに言ってはいけないのだ、とディンは考えていた。

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