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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
四章 向かうべき場所

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三十八話 魔王の在り方

「精霊の試練って、何をするんだろう?」

 ミルト達では相手にならないだろうと言われた翌日、今日は精霊の試練を受けに行く、とディンが言っていて、今はその為に朝食を食べていた。

 ディンは席を外していて、恐らく煙草を吸いに行ったのだろう、と推測出来るが、そうなってくると、精霊の試練について知っている人物はいるのか?とアリナが疑問を口にする。

「精霊の試練、それは身体的試練ではなくて、精神的な試練だ、って聞いた事があるかな。精神的な修行の究極の地点だ、っていう事だったかな。」

「じゃあー、どういう修行になるのー?」

「……。それは僕にもわからない。精神的な試練、という所までは知っているけれど、それ以上の事は担当の精霊と、上位に位置する精霊しか知らされていない事だったから。僕みたいなはぐれ者には、情報は与えられて無かったんだよ。」

「精神的修行……。って言ってもよ、どういうのをすんのかは想像つかねぇな。だってよ、精神的に強くなった、って言っても、それが身体的修行に繋がるってのが、よくわかんねぇ。」

 この場にいる誰も、詳しい内容は知らない様子だ。

 そもそもが精霊の中でも秘匿とされている試練の内容を、人間であるジン達が知っている訳がないのだが、そうはいっても、モートですらその内容を知らない、という話になってくると、いよいよもってディンしかその内容は知らないだろう。

 そして、そのディンは現在離席中、煙草を吸いに行っているのか、そもそも違う事をしているのか、それすらわからないが、ディン以外誰も知らない、それが事実として存在していた。

 漠然とした不安、それは各々が持っている感情だろう、モートですら、不安を抱いていた。

「って言っても、受けるしかないんだもんね。不安に思ってても、受けなきゃ勝てないってディンは言ってたもんね。」

「そうねー?私でさえ勝てないって言ってたしー、受けなきゃ誰も勝てないんでしょうねー。」

「ソーラが勝てねぇ相手、なんて想像もつかねぇけどな。大概の相手なら、戦う前に決着がついちまうのに、それでも勝てねぇってんだから、魔王ってのはつえぇんだろうな。」

 魔王デモス、その伝承は、倒しても倒してもまた復活し、そして何度でも世界を征服しようとする、それがレンジャーやウィッチ達の認識だった。

 勇者にとって、魔王は討伐するべき存在、宿敵として語られる事が多い、そして、勇者として生き残った者達は、後世にこう伝えていた。

「魔王、それは世界の理でもある。」

 と。

 世界の理、つまり、何度も輪廻を繰り返して、そして復活し、また倒されて、それを繰り返してこの世界は循環している、そうして世界は守られてきた、そう勇者達は告げていた。

 ただ、その真実を知っているのはごく一部の存在だけであり、大概の人間の認識としては、魔王がまた現れて、そして勇者に討伐されて、という程度の認識だ。

 ディンの認識はもしかしたら違うのかもしれないが、四人の共通認識としては、魔王と言うのは、輪廻を繰り返している存在だ。

「でも、魔王を倒してもさ、何十年と経ったら、また魔王が戻ってくるんでしょう?それを倒したからって、世界が守られるのかな。」

「魔王が魔物を使役した場合、守護者にしか打倒する事が出来なくなる、そうディンは言っていたね。確か、アリサも同じ事を言っていた気がするな。魔王の在り方、それは代々違うものなのかもしれないね。」

 精霊であるモートでさえ、その真実は知らない、知らされていない、知る由もない。

 それ以上の事を知っている存在がいるとしたら、それは精霊の中でもごく少数の存在なのだろう、それ以外に秘匿とされている程、魔王の在り方というのは不鮮明で、不透明で、不可視で、そう言った存在だ、というアバウトな情報しか与えられていなかった。

「取り合えずよ、魔王を倒さなきゃ、ディンも元の世界に戻れねぇんだろ?なら、倒してやらねぇと、ディンが安心して帰れねぇだろ?」

「……。ディン、帰る場所があるって言ってたもんね。私達とずっと一緒に居てほしいと思ったけど、家族がいる、守るべき家族が、なんて言われたら、それは我儘なんだな、って思うしかないよ。」

 アリナは、少しぼやく程度に話した事があった、ディンとずっと一緒に居たい、元の世界に帰って欲しくない、自分を独りにして欲しくない、と。

 ディンは困った顔をしながら、それは出来ないと答えていた、ディンには守るべき世界があり、守るべき家族がいて、この世界に来た事がイレギュラーなのだ、と。

 それはまだ、アリナが独りで修行をしていた頃の話だ、今の話ではない。

 ただ、寂しい、その感情は消えなかった、いつかはディンと別れの日が来る、それは変えられないのだ、と。


「……。」

 魔王デモス、その在り方。

 それについて考えながら、煙草を吸っていたディンは、精霊達の中で秘匿とされているこの事について、交渉の材料にするかを悩んでいた。

 アルファス程の重鎮ですら知らない事実、下手をすれば、現在の精霊の長でさえ知らない、この世界の仕組み。

 精霊がこの世界を治めるにあたって、作り出した魔王と勇者の歴史。

「ふー……。」

 悲しい現実だ、とディンは感じていた、それをアリステスから教えられた時、悲しい現実を目の当たりにして、心が曇った覚えがあった。

 セスティアでも、ディンや息子の竜太の事は公表していないが、公表しろ、処刑しろ、私刑にしろ、という意見は少なくはない、人間は、守られているのにも関わらず、悪辣なのだとディンは知っていた。

 悠輔を一度失った理由、それも人間によって殺されたからだった、人間として生きようとしていた悠輔は、人間の手によって殺されてしまった、それは、化け物だと言われて、拒絶され、そしてその結果だった、とディンは感じていた。

 それと同じ様な経験を、この世界の勇者達はしていた。

「まったく……。」

 結論、魔王が何故転生を繰り返しているのか、そして、何故勇者は魔王を討伐しようとするのか、何度討伐されたとしても、また蘇る魔王、その意味は。

 魔王は人間だった、と誰かに言ったとしても、それを信じられる人間はどれだけいるか、どれだけの人間が、それは元々人間であり、自分達を守っていた存在だったと認識出来るのだろうか。

 勇者だけが知っている、そして、魔王に告げられてからすぐに、魔法によって忘却される事実、それは、この世界がこの世界として運営を始めた直後に、その当時の長であった精霊によって定められた、この世界の宿業であり、宿命。

 勇者の魂の成れの果て、魔王として生きる者の宿命、そして、人間と精霊にとって、魔王というのが元来どういった意味合いであったのか。

 それを知っているのは、ディンとアリステスだけだ。

 現在の精霊の長は知らないだろう、とディンは予測していた、知っていたのであれば、それを交渉材料に使って来ない事を疑問に思ってきただろう、それを疑問に思わなかったという事は、つまりそう言う事なのだろう。

 あくまで、人間を嗾けて精霊と人間の交わりを断絶した、という事だけを交渉材料としとした、という事は、現在この世界でそれを知っている存在は、魔王デモスだけなのだろう。

「ふー……。」

 それを知っている者がいない、それは悲しい現実だ。

 魔王はそれを知っているだろう、自分の在り方、そして自分がそうなった理由、魔王が魔王たる所以、それを知っているのだろう。

 そんな魔王相手に、アリナ達を向かわせなければならない、それは、決別の意味を籠めているが、それが決別になるとも限らない。

 以前の世界軸、ディンがかつて過ごしていた世界軸では、最終的に、この世界はそうなった、アリナの死をきっかけに、決別の道を選んだ、ただ、この世界軸でそうなる確証はない、確信もない、わからない事ばかりだ。

 ディンはディンなりに、そうならない未来を願っていたが、現実はそう甘くはない、そうなってしまったからには、そうなったなりの未来を観測するしかない。

 ディンに、未来を変える選択肢は許されていない、それは、世界の営みに干渉する事に他ならない、それをしてしまったら、世界群が滅んでしまう。

 だから、ではないが、そうならない事を祈る事しか出来なかった、それを祈って、そしてそうなる様に導く事、それをしたかった、そうしたかった、そうなって欲しくないと願っていた、ただ、それを主導する事、それは竜神の掟に反する事だ。

 竜神の掟は破ってしまったら世界が滅ぶ、そして、一つの世界が滅んでしまったら、全ての世界群が滅んでしまう。

「……。」

 ディンはそれを望んでいる訳ではない、破滅願望があるという訳でもない、ただ、アリナにそうなって欲しくない、と願っていた。

 ただ、その願いが叶う保証は何処にもない、その願いが叶わない可能性の方が、格段に高い。

 ディンの願い、それは、アリナの運命を捻じ曲げてしまう事になる、その代償は。

「世界群の破滅、ね。」

 その代償、アリナ一人を救いたいと願ったその代償が、世界の滅亡。

 それは、ディンにとっての最悪のシナリオだった、今のディンには、それを覆すだけの力が無い、残されていない、完全な竜神王になった場合、それは叶う事かもしれないが、現在の不完全な竜神王の状態でそれをやったとしても、出鱈目に世界を失い、そしてディン自身が死んでしまうだけだ。

 そうなった場合、世界は行き場を失ってしまうだろう、ディンと悠輔だけが覚えている、以前の時間軸、それは、竜神王という守護者を失って、滅んだ。

 今回の世界がそうなるか、と問われると、竜太が跡を継ぐのだろうが、竜太でさえ、大いなる闇に勝てるという確証はない。

「アリナ……。」

 そうなってしまったら、ディンはそれを受け入れるしか無い。

 そうする他に方法を知らない、ディンは、そうなって欲しくないと願っていたが、そうならない為に出来る事が限られていた。

 出来る範囲で、アリナの生存確率を上げたい、と願っていたが、それも何処まで通用するか、何処まで干渉を許されているのか、それすらわからないのだ。

「今は……。」

 それはそれだ、今は精霊の試練を受けさせる事に集中しなければならないだろう。

 ディンは考える、そうならなかった未来の話、そうならなかった、先の話を。

 それは、悲しいが、嬉しい事でもあるのだろう。

 それを願っていた、ディンは、世界よりも大切な存在がいるのだから。

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