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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
四章 向かうべき場所

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二十九話 デュオの決意

「ふー……。」

 宿に到着し、一呼吸おいて、ディンは外に煙草を吸いに出ていた。

 相変わらず守護者達の前では吸わない、を徹底しているディンは、宿の陰に隠れ煙草を吸っていて、昼間は天気が良かったのに、今現在夕方は雨が降っていた。

 夕立、と呼ばれる類の通り雨だろうが、激しい勢いで降る雨、そして鼻で呼吸をするとわかる雨の匂い、それはこの世界でも変わらない。

 温暖な気候であるはずのこの地域で雨が降る、それは年に十回あるかないか、というレベルなのだが、この量の雨が降るという事は、恐らくウィッチやウィザードが研究で雨を降らしているのだろう、と推察出来る。

「まったく。」

 研究者として、ウィッチやウィザードが優れているのはわかっている、そして、その研究が巡り巡って世界の為に動いている事も、ディンは理解していた。

 グランウィザードやグランウィッチからウィザードやウィッチに、そしてそこから魔導士や魔法使いへと継承されていく魔法、その中の一部が、勇者達の為になっている、それはわかっている。

 ただ、基本的に研究が第一であり、世界の存亡は二の次なウィザード達の意識、それに対しては、ディンは辟易していた。

 逆に言えば、ソーラの様に世界の為に何かをしたい、と願うウィッチの方が少ない、というよりは、殆ど現存していない、過去にはウィザードやウィッチとしての名声を捨てて、勇者の為にと戦った者もいた、という記録は残っているが、それも過去の話だ。

 グランの座にいる者達は、生命の限界を超えて活動をする者もいる、寿命という限界を超えて、魔法で無理やり身体能力を補完して、そして研究を続ける者もいる。

「……。」

 ただ、そのグランの座にいる者達は、世界の運営に興味はないのだろう。

 ただ研究に没頭し、人間性すら失って、肉体が朽ちるその時まで、研究を続ける、それは並大抵の精神力では出来ない事だろう、ただ、それをした所で、最終的には残るのは虚無だ。

 どう足搔いた所で、魔導の真髄には至れない、それがこの世界の摂理であり、ルールだ。

 アカシックレコード、とセスティアでは呼ぶのだろうか、この世界のすべてを知る為に、何もかもを犠牲にして生きている、それがグランウィザードや、グランウィッチの常だ。

 ただ、それを許されているのは精霊だけ、そして、精霊に関する研究というのは、基本的に禁じられている、隠れてしている者もいなくはないが、他の存在から告発をされて、処刑される、それが一般的な流れだった。

「まだ降るかな。」

 軒下で煙草に火を点けるディン、雨はまだ降っていそうだ。

 では、デュオはどうだったのか。

 精霊であるアリサと子を成し、そして殺された、と言われているグランウィザードだったデュオ、彼はどうして、研究を放棄して精霊と子を成すに至ったのか。

 デュオに一切の打算が無かった、と言えば嘘になるだろう、魔導の深淵、世界の底を知る為に、アリサと子を成すに至った、それはあながち間違いではないだろう。  

 ただ、精霊の中では伝わっていた、それだけではない、それだけが理由ではなかった、デュオには、明確に理由があった、動機があった、目的があった、と。

「ふー……。」

 それは、アリサを湖畔から連れ出す事、だと精霊達は認識していた。

 人間には伝わっていない、グランの座にいる者達の中では、精霊と子を成す事によって、魔導の真髄に至ろうとした、そう伝わっているが、事実は少々異なる。

 憐憫、人間の中にも伝わっていた、アリサの精霊の中での扱い、精霊としては異端で、人間の味方をしようとした者、として扱われていたアリサを、救いたかった、それがデュオの目的だ、とディンは認識していた。

 気まぐれ、と言い換えても良いのだろう、グランの座に治まり、そして世界をどうするわけでもなく、研究に没頭するだけの人生に嫌気がさしていた、それを変える為に、この都市を出て、旅に出た。

 そして、精霊と接触する機会があった、その時に聞いた、アリサという存在、その存在を守りたいと願った、助けたいと願った、それがデュオの本心だろう、と。

「まったく……。」

 結果として、アリサは精霊の湖畔を出る事が叶った、その代わりに、デュオは処刑されてしまった、人間達の糾弾にあい、そして死んでしまった。

 では、何故アリナは生まれ、そして現在まで、精霊と人間の混血である事が知られていなかったのか。

「……。」

 煙草の煙を吐きながら、ディンはその答えを慮った。

 それは、デュオが死と引き換えに発動した、忘却の魔法だった。

 それは精霊には通じない、人間の魔法は、どう足搔いた所で精霊には通用しない、ただ、同じ人間であれば、通じる。

 デュオは、死の間際、その魂の在り方と引き換えに、人間に忘却の呪いを掛けた。

 魂の在り方、というのは、その魂が二度と転生をせずに、思念として残り続ける代わりに、アリナとアリサに関する一切の事を、人間の記憶から忘却する、という魔法だ。

 それを、デュオは死の間際に発動した、結果として、アリナとアリサの事を知っている人間は、この世界からいなくなった。

「アリナには……。」

 この事を何故ディンが知っているか、と問われると、以前の世界軸でそれを聞いたからだ。

 精霊の長である、この世界の統治者から、その話を聞かされた、世界を守る交換条件として、その言葉を受け取った、という経緯がある。

 それをアリナに伝えるべきか、それはずっと悩んでいる事だった。

 アリナはその事を知らないだろう、知るすべもないだろう、ただ単に、自分は人間と関わりが無かったから、知られていなかった、と認識しているだろう。

 アリサはその事を知っていたが、しかしアリナには伝えていなかった。

 モートは知っているだろうが、その事をモートいう様子もない、だから、話すとしたら、それはディンの役割になってくるだろう。

「ん、やんだ。」

 雨がやみ、夕暮れの茜雲の隙間に虹が出て来る。

 綺麗だと感じる心はまだ残っている、人間を醜いと感じているディンだったが、自然の美しさには敏感だった。

 セスティアの日本の様に四季があり、季節によって咲く花が違い、趣が変わり、そう言った風景が、ディンは好きだった。

 この世界では、夏と冬の二つの季節が織り交ざって巡っている、今は夏の半ば、そろそろ暑くなってきて、そして冬季に変わっていく、そんな時期だ。

 色々な世界を見てきて、色々な景色を眺めてきて、ディンはその度に心が少し楽になる、と感じていた、心情の洗浄とでも言えば良いのだろうか、そう言った感覚を持っていた。

「さて、そろそろ夕飯か。」

 雨上がりの湿った空気の中、ディンは宿に入る。

 明日からは、コルド達とは比較出来ないレベルの勇者達と、アリナ達とで修行をさせる事になる。

 ディン自身、気を引き締めなければ、と感じながら、水たまりをぱちゃぱちゃと歩き、宿に入っていった。


「雨やんだねー。って言う事は、研究が終わったのかしらねー?」

「そうなの?」

「そうよー?この場所で雨が降るのは、大体はウィッチとか、ウィザードが研究の為に降らせてるからー。雨に魔力も交じってたしー、だから、そうだろうなーって。」

 アリナとソーラは、同室で窓から外を眺め、虹を見ていた。

 虹、と言うのに心を奪われていたアリナは、ソーラの言葉を聞いてい驚く、都市全体に雨を降らせるだけの魔法があり、そしてそれを少しの間でも行使出来る魔力を持っている、という人間がいる事に、驚いていた。

「ソーラはそう言う事は出来るの?」

「そうねー、雨と雪を降らせる魔法なら、使えるわよー?ただ、雪は冬にならないと出来ないけどねー。グランの人達は、夏に雪を降らせたりするんだよー?暑いのに雪が降って、急に寒くなるなんて事もあったわねー。」

 ソーラは、基本的に自分が快適な気温でいられる様に、寒暖差を阻害する魔法を使っている、常時展開型の魔法で、それを使っているから、夏場でも長い丈のローブを着ていても暑くない、という事だ。

 アリナの場合、そう言えば暑さをあまり感じないな、程度の認識だったが、それは精霊に与えられた洋服、革のジャケットとミモレ丈のスカートに、ブーツの効果で、魔法がかかっている為、暑さ寒さを感じにくい、という話になってくる。

 だから、ではないが、ジンはよく汗をかいている、ジンの洋服にはそう言った効果はない為、季節をダイレクトに感じるのだろう。

 ただ、ジンは基本的に運動量が多く、真冬にならない限り、基本的に今と同じ恰好をしている、真冬になったら、師匠でもある食堂のマスターからのおさがりであるジャケットを着る程度だ。

 下半身の重装備は機動力を阻害する、が考えの中にあるジンは、基本的に厚着をしない、しなくても大丈夫になる様に、鍛えられてきた。

「虹って、綺麗だよね。」

「そうねー。魔力の雨でも、虹が出てくるって言うのは知ってたけどー。でも、久々に見るとー、綺麗よねー。」

 虹の美しさに心を奪われているアリナと、珍しいと眺めているソーラ。

 二人の感情は少し違うものだったが、自然を尊ぶ、という意味合いでは似ている感情だろう。

「守らなきゃね、この世界。」

「そうねー。こういう綺麗なのも、世界がなくなっちゃったら、見れないものねー。」

 改めて決意をする、それは、儚い決意だったかもしれない。

 儚い決意、この景色をまた見たい、今度は守護者ではなく、一人の人間として、この美しい景色に心を奪われたい。

 アリナは心にそう誓いながら、景色を眺めていた。

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