二十四話 修行の続き
「さ、今日からは俺が修行を付けるか。ソーラとモートも参加してくれ、怪我をさせるつもりはないけど、それなりに厳しくいくからな。」
「わかったよ、ディン。」
「私はどれ位の魔法まで使って良いのかしらー?」
「全力で来てくれて構わないよ。」
身体強化の魔法に慣れてきた頃、ディンは何度か魔物を探知していて、アリナ達を連れてその場に赴いていた。
そして、魔物の探知が出来るレベルまでその感覚を染み込ませ、ここからはピッチを上げて修行をしなければ、魔王デモスが魔物の使役を本格的に始めるだろう、という予感がしていた。
魔物を使役する、というのは厳密には不可能な事ではある、だが、デモスはそれをモンスターとの融合によって可能にする術を持っている、というのがディンの記憶で、それをし始めた頃に前回の時間軸では倒したのだが、今回はそうも言っていられない、すでに魔王デモスはモンスターと魔物の融合をし始めている、そして、それを手段として扱うだけの知識を身に着けている、というのがディンの立てた予想だった。
「私の全力ってー、ディンでも怪我しちゃうんじゃないー?」
「そこは問題ないよ。」
ソーラが、仮にもウィッチである自分が全力を出して魔力を行使した場合、ディンに怪我をさせてしまうのでは、と疑問を持つ、それもそうだろう、ディンの体から漏れ出ている魔力は、ソーラよりだいぶ少ない。
それをこの世界の尺度だけで測る事はしないが、しかし魔力という共通項において、ディンではソーラの魔法を受け止めきれない、と感じていた。
『限定封印、第二段階開放……。』
「あらー!ディンの魔力が一気に大きくなったわねー!」
「これならソーラの魔法を打たれても大丈夫だろう?」
限定封印、それはディンが五段階に分けて封印している、ディンが行使する竜神の魔力の枷。
一段階目と三段階目は身体能力を、二段階目と四段階目は魔力を、それぞれ「本来ディンが発揮出来る」能力へと解放する仕組みになっていて、五段階目、完全開放と呼称している枷は、ディン自身二度しか解放した事がない。
完全開放、それはディンが竜神王として行使出来る全ての能力を解放した状態、それを今現在やってしまうと、ディンの左腕から左半身にかけて伸びている、竜の刻印が体を覆い、そしてそれが全身を覆った場合、ディンは竜の姿となって、二度と人間の姿には戻れなくなってしまう。
現在のディンは不完全な竜神王、歴代の竜神王の力を継承している、と言っても、完全開放をした所で、歴代全ての力を行使出来る訳ではない。
ただし、ディンの肉体の状態を代償に、強大な力を得る事は出来る、それこそ、ディンは息子である竜太の、扱いきれていなかった潜在能力の一部を、その力を使って封印してみせた事があった。
「ディンの魔力って、暖かいんだね。なんだか、私達と修行をするのに、私達を守ってくれてるみたいだよ。」
「……。俺の力は、本来人間に発動するものじゃないからな。闇に対する一番の対抗手段、それが、竜神王の与えられる力だ。」
今のディンは、二段階解放をしている。
その状態のディンにたどり着く事、それはアリナとジンには難しい事だろう。
身体強化と体力強化の魔法をモートに掛けてもらったとしても、ディンの能力開放に追いつく事は出来ない、それほどに、ディンの力は強大なものだった。
ソーラが全力を出して追いつくかどうか、というレベルの魔力を有していて、それでさえ、ディン本来の能力にはほど遠いのだから、それだけディンの強さが伺えるだろう。
「さ、始めよう。時間はあまり残されてない、甘い修行は付けられないからな。」
ディンが竜の誇りを出現させ、少しぴりついた空気が修錬場を支配する。
四人は覚悟する、この状態のディンに追いつくだけの力を手に入れなければ、デモスには勝てないのだ、と。
「ジン!アリナ!使ってー!」
「分かった!」
「おう!」
ソーラが炎の属性のエンチャント魔法を二人の武器に掛けて、それを元に攻撃を仕掛けるジンとアリナ。
ディンは、連携としてはまだまだだが、基礎的な部分としては合格点だろう、と考えながら、二人からの不規則な攻撃をいなしていく。
『炎よ!』
アリナとジンの攻撃を弾き、少し距離が出来た所に、ソーラが火炎弾を放ってくる。
それはソーラの使える中でも上級に値する魔法で、やや難しいと評されるレベルの魔法、本来であれば詠唱を必要とするが、ソーラは詠唱や固有の魔法名を言わずとも、その魔法本来の威力を発揮する事が出来る。
『絶対の氷結よ……。』
ディンは氷属性の魔法剣を発動し、それを防ぐ為に剣を地につけ、回転させた。
すると、氷の壁が出来上がり、ソーラの炎を防ぐ様にかき消し、次の攻撃を待つ為にディンは氷塊を砕いた。
「今のは良い連携だったな。」
「まだまだ!」
「こっちも行くぜ!」
ディンが魔法剣を解除したのを確認した所で、アリナとジンが攻撃を仕掛けて来る。
炎を纏った剣、それは氷に対して効果的なはずだったが、今の二人に対して氷属性の魔法剣を使うと、怪我をさせてしまう可能性がある、とディンは考え、それを解除していた。
効果的だ、と言っても、氷冠と呼ばれるディンの氷属性の魔法、それは防御用の魔法なのだが、第一段階解放の状態から使えるのにも関わらず、世界群の魔法の殆どを防げる、という硬度を持つ魔法で、それを帯びた剣である瓦解撃は、攻防一体の魔法剣、そして、氷柱の様に相手に刺さる、それを危惧しているのだ、と。
『水よ!』
『氷冠』
普段の間の伸びた声のソーラは何処へやら、魔法を発動している時のソーラは、真剣そのものだ。
それにアリナ達は少し驚いていたが、ディンは驚かなかった、それを知っていたから。
「……。」
氷の壁に魔法が防がれたのを眺めながら、モートは繊細な魔力操作で、アリナ達に魔力を供給していた。
そもそもが精霊の魔法は人間に掛ける事を前提とされていない、ただ、それを出来るだけの魔力操作が、モートには出来る、と言っても、集中しなければそれを維持する事は出来ない。
一度掛けてお終い、ならばそこまで集中力を必要とはしないが、しかし掛け続ける、維持をする、となると話は変わってくる、三人の体力や魔力の量、心身の状態によって、発動する魔力の量を変えなければ、人間であるジンとソーラは勿論の事、混血であるアリナの体には、負担がかかったり異変が起きてしまったりする。
一口に後方支援、と言っても、それをするだけの集中力と綿密な魔力操作を要求される、それに加えて、実戦では回復魔法を使う事もあるだろう。
それを前提にモートは魔法を掛けていた、それだけの事程度は簡単に出来る様にならないと、これから先戦っていく事は出来ないだろう、と感じていたからだ。
「こっち!」
「どうだ?」
「きゃぁ!」
「アリナ!」
アリナ達は、必死になってディンに喰らい付いている、そもそもが漏れ出た魔力だけで修行を付けていた状態で、ぎりぎりの所だったのにも関わらず、今日になっていきなり第二段階解放をしたディンとの修行になったのだ、まだまだついていけていない部分があるのだろう。
それはモートの身体強化があったとしても、という話だ、身体強化の魔法が無ければ、そもそも解放すらディンはしなかっただろう。
漏れ出る魔力、それを膂力に変えているディンだが、それを魔力として発露すれば、ソーラの魔法には対応出来る、その程度の実力をディンは持っている、だから、それを加味して今第二段階解放を行っていた、それはソーラの元々の魔力に足して、モートの魔力強化があるから、という理由だった。
それが無かった場合、ディンはソーラの魔法を解放無しで受けていただろう、受けきれていただろう、ウィッチと呼ばれるこの世界では上位に位置するソーラの魔法でさえ、ディンにとっては普段から持っている魔力で事足りる、というのが現実だ。
それがグランウィザードやグランウィッチだったとしても、ディンにとってそれは変わらない、ディンの中では、ソーラはもうグランの座にたどり着いているだけの力を有している、そんなソーラの魔法でさえ、だ。
『風よ!』
『舞い上がる旋風よ……。』
ソーラの風の魔法と、風のエンチャント魔法に対して、ディンも風の魔法剣を発動する。
風と風がぶつかり合う、暴風とも言える風が駆け抜けて、モートは目を開けていられなくなる。
目をつむり、風を手で防ぎながら、何とか目視をして魔法を掛けようとする、しかし、元来戦闘に向いていないモートは、それが出来なかった。
「うぉ!?」
「ジン!」
「よそ見をしてる場合か?」
「アリナ!」
ジンが風に吹き飛ばされ、それに気を取られてそちらを見てしまったアリナの剣を、ディンが蹴り飛ばして吹き飛ばした。
たいした怪我はしていない、ただ、石畳の地面に体を強打し、少し呼吸が出来なくなってしまう。
「ここまでにしようか。モート、アリナとジンの回復を頼んだ。」
「う、うん、わかった。」
呼吸がままならず、悶えている二人に対して、モートは回復の魔力を注ぐ。
モートの魔法、それは何も怪我に限った話ではない、ある程度の病も治せるその魔力は、回復魔法を扱う精霊の中でも、稀有な魔力だった。
呼吸が少し出来ていない程度であれば、なんの問題もなく治癒出来る、その程度の事は些末な事だ、とディンは考えていて、自分には出来ない事を出来るモートに、その部分で信頼を置いていた。
「二人とも、大丈夫かい?」
「……、ふー……。大丈夫、ありがとうモート。」
「ひー、ふー……。ディンってよ、洒落にならねぇくらいつえぇんだな。」
モートの回復魔法で呼吸を整えた二人と、魔法を悉く防がれた事で、自分がまだまだ至っていないと感じたソーラ、ソーラは少し離れた場所にいて、アリナ達は体を起こしてディンの強さに驚いていた。
「ディンって強いのねー。そりゃ、竜神王様なんだから、強いのはわかってたけどー……。私って、まだまだなんだねー。」
「ソーラはもう、グランの座に行ける位には育ってるよ。ただ、俺が規格外って言うか、そうだな、俺が少しベクトルが違う強さだ、って言うだけだ。もう少し修行を重ねれば、第二段階の俺には追いつける位には強くなるさ。」
「私達は、まだまだ頑張らないとだね……。ディンの強さが指標、って言う訳じゃないけど、でも、ディンと肩を並べて戦える様になりたいもん。」
「そだな、ディンに勝つってのは出来ねぇ話かもしれねぇけど、でも戦うんなら、ディンと肩並べて戦えるくらいにはなりてぇよな。」
それぞれ、目標が見つかった気がする、と感じていた。
ジンとアリナは、当面の目標として、ディンの力にある程度追いつく事、それは、モートの身体強化を込みで考えた話かもしれないが、それでも、そこに到達したい、と。
ソーラは、グランの座に到達している強さならば、それ以上の強さを求めている、守護者の仲間として恥のない様に、今より魔法の鍛錬を積んでいこう、と。
モートは、そもそもの戦闘経験が無さすぎる自分を何とかしたい、今はディンが手を抜いて修行を付けてくれているのだから、まだ平気だが、ここから先はそうも言っていられないだろう、と。
「それぞれ、何が足りなくて、何が使えて、どんな連携があって、それをこれから覚えていけば良いんだよ。皆は十分強い、アリナだって、修行を始めた頃に比べたら、比較にならない位には強くなってる。だから、そこから導ける戦法を考えれば良いんだ。」
ディンのアドバイス、それはディンが戦わないからこそ、最終的には守護者達に任せるからこそ、の言葉だった。
ある意味、アリナ達を信じている、アリナ達ならやってみせるだろう、という確証があった、デモスの状態が違ったとしても、アリナ達ならきっとやり遂げるだろう、と確証めいたものがあったから、こその言葉だった。
「さ、今日は宿に戻ろう。」
「はーい。」
認識阻害の結界を解いて、五人は宿に戻る。
ディンはデモスの状態を探知しながら、そして四人は魔物の出現を探知しながら、しかし少し休む時間が必要だろう、と考え、撤収した。




