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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
三章 戦いの始まり

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第二十話 探知

「ねぇディン、探知魔法って、どう使うの?魔物に対してって言うと、どうすれば探知出来る様になるの?」

「ん?そうだな、魔物の気配を覚える事が一番大事だな。でも、守護者は魔物のカウンターとして、基本的には生来持ち合わせてる魔力があるはずだから、それを行使すれば魔物の探知は段違いに楽になると思うぞ?」

「私達も出来る様になりたいんだけどー、それは出来ないのー?」

 宿に一泊し、朝食を宿の食堂で食べていた時間、アリナが昨日の話を思い出して、ディンに話を振る。

 ディンは何か知っている素振りを見せ、それをどう伝えたものか、と考えている。

「そうだな……。守護者の仲間たる存在にも、それは出来るはずだ。なんなら、体外的に魔力を持たないジンであっても、魔物に対する探知能力って言うのは、備わってるはずだぞ?要するに、それをどうやって発現するか、って話になって来るけど、そうだな。ジンには少し辛い役目かもしれない、普段魔力を使ってない身としては、探知魔法を使うって言うのは、少し難易度が高い話になってくるな。でも、出来ない事はないはずだぞ?」

「俺も?探知なんて、した事ねぇぞ?」

「魔物を本能的に探知する、それが備わってるって事だよ、ジン。感覚を研ぎ澄ませられれば、魔物が何処にいて、どんな形をしてて、って言うのがわかる様になるはずだ。」

 ジンは、自分が探知魔法と言う魔法を使える事に驚いていた、ディンが言っているのは厳密には魔法ではなく、本能による効果なのだが、まあ魔法を使うのと大差ないだろう、と考えていた。

 事実、以前の時間軸では、ジンが一番魔物の探知に優れていた、研ぎ澄まされた感覚は、ディン並みにとは言わないが、それなりに探知の精度を上げていた。

 ただ、体力を消耗する事は必然、体力勝負になってくる後半部分では、ジンは体力を付ける修行をメインで行っていた、というのがディンの記憶だ。

「まずは魔物が現れたら、その気配を覚える事から始めよう。それまでは、俺が探知を張ってるから、安心してくれ。」

「でもディン、疲れないのー?」

「大丈夫だ、セスティアにいる時は、四六時中探知の波動を張りっぱなしだから、慣れてるよ。」

 ディンは、魔物に限った話であれば、二十四時間探知を続ける事が出来る、そして、それと同時に、世界群の中の異世界の探知も行っていた。

 ディンにとってはそれが当たり前で、当然出来なければならない必須のスキルなのだろう、とアリナ達は感じ取った、それは間違いではないだろう。

 ディンにとって、この世界群の存亡は、十代に及ぶ竜神王の宿命だ。

 世界群と変わったのは先代の時、そして、その後継者であるディンは、異世界に対して探知を行えて当然、と本人は考えていた。

 事実、ディンが守護者の出現に間に合わなかった事は無い、魔物が現れた場合に限った話だが、魔物関係での探知は精度が桁違いだ。

 それ以外、例えば魔物ではなく、人間同士での争いになった場合、だとディンは基本的に動かない、それをしてしまったら、人間の営みを否定してしまう事になるから、とディンはそれをしようとしなかった。

 かつて、依り代を失った時、それが、人間に対して魔力を使った、唯一の出来事だった。

 ディンの魔法、それは名前すらついていない魔法が沢山ある、その中の一つ、死を疑似体験させるという、罰の意味合いで扱っている魔法があった。

 それを、依り代である悠輔が殺された時、それを行った犯人グループに向かって発動した、それが最初で最後、ディンが人間に対して発動した魔法だ。

 それ以来もそれ以前も、人間に対して魔法を発動する事はなかった、加護を掛けた事はあっても、魔法と言う類の物で、人間を害した事はなかった。

 それでも、世間はディンを化け物と扱う、それがディンにとっては当たり前で、そして悲しい現実だ。

「まあ、まだ魔物は本格的には現れてない、今は、魔王に関する情報が欲しいな。」

「そっか、魔王が魔物を使役している可能性がある、ってディンは言っていたからね。そうなった場合、魔王の討伐が最終目標になる、って。……。魔王について知っている人間、となると、ギルドの長とかが良いのかな。ギルドは基本的にどの街にも存在したはずだし、その長である人なら、勇者を送り出す事もあるだろうからね。」

「ギルドって、俺達の街だけじゃなかったんだな。」

「そうよー?都市にだって、ギルドはあるのよー?街とは比べ物にならない位、大規模だしねー。」

 当面の目標、それは魔物の探知が出来る様になる事と、ギルドなどでの情報収集になるだろう、とディンは目的を定めた。

 自分がでしゃばるのもダメなわけではないが、ディンは基本的に、そのあたりの事を守護者達に任せていた、それは、ディンが世界を離れた後でも、守護者達がきちんとやっていける様に、という想いからの思考だった。

 自分がいなかったとしても、世界を守れるだけの存在になってもらわないと困る、という考えもなくはないが、基本的には、主体性を持たせて行動を促す、それがディンのやり方だった。


「ギルドってここ?」

「そだな、俺達んとこよりしなびてっけど、まあ大丈夫だろ。」

 昼頃、街中を散策していた五人は、ギルドの看板を見つけて、中に入る。

 扉は中世のアメリカの様な板の扉で、キーキーと音を立てて、風に揺られている姿が何処か儚げだ。

 出入りになれているジンとソーラを先頭に、五人が中に入ると、何やら人はあまり出入りしていない様子が伺える。

「ギルド長っているかー?」

「ん?見ない顔だな。他の街の連中か?」

「そだな、ウェイルから来たんだぜ?守護者って事らしくてよ、情報収集がしてぇんだ。」

「守護者……?あぁ、それでか。……。勇者が魔王に討たれた、その時に見慣れないモンスターじゃない何かを使役してた、って言う情報があった。お前さん達が真に守護者だってのなら、それも納得だ。魔物が現れた、それをデモスが使役してる、ってところか。」

 ジンが声を張って人を呼ぶと、カウンターの中から禿げ頭に髭を濃く生やした老人が出てくる。

 老人は、守護者という言葉を聞いて、何かを知っている素振りを見せた、ディンが言っていた、魔物を魔王が使役し始めている、というのが、各街のギルドに通達されている、のだろうか、とジンとソーラは考える。

 ただ、ウェイルでは、その話は聞かなかった、まだ情報が出回る前だったのか、それともウェイルのギルド長がそれをジン達に話さなかっただけなのか、それは断定出来る情報が無かった為わからなかったが、この街では知られている事なのかも知れない、と頭を切り替える。

「情報が欲しい、って事は、まだウェイルじゃその話は出てなかったって事だな?もしくは、出入りをしなくなって情報が遅くなったか……。ふむ、そうだな。お前さん達の言葉を信用する、何か情報が欲しい。」

「ディンの事を話すのはありかな?」

「構わない、この世界では、竜神って言うのは広く知られている存在だから。」

「わかった。ギルド長、こちらにいるのは、竜神の長、十代目竜神王ディン。守護者である僕達を引き合わせて、育てる為にこの世界にやってきた、異世界の存在だね。」

「竜神王?そこのお前さんがか?確か、竜神王って言うのは、この世界ではない何処かを守る存在だった、って話ではなかったか?それがどうして、竜神を押しのけてこの世界に?」

 老人の疑問は当然だろう、それはモート達も感じた疑問なのだから。

 竜神の事は広く知られている、この世界では、数百年前に現れた神、それが竜神だ、という伝説がある。

 しかし、その長である竜神王がこの世界に来た、という話は何処にも出ていない、だから、疑問は当然なのだろう。

「竜神達はその役目を放棄した、その末に死んでいった。だから、その代役として、俺が世界を回っているんだよ。この世界の担当をしていた竜神、確かその名をチェーザ、若い男の竜神だったはずだ。そいつは、もういない。だから、俺が回ってきたんだよ、ご老人。」

「その証拠は?」

「そうだな、俺の剣を見てもらうのが一番早いか。」

 ディンはそう言うと、竜の誇りを出現させる。

 ギルド長は、それをジーっと見つめている、伝説にある、この世界では同じ形の武器を鍛造する事は禁止されている、その武器を眺め、ふむと唸った。

「成る程、それは確かに、伝説にある竜神様の剣だ。それで、竜神王様、お前さんが出張ってきた意味ってのは、どういう要件なんだ?この世界を守ってくださっていた竜神様、その名前を知ってるって事は、真実何だろうが。」

「それは言えない、竜神達の中でも、秘匿事項として扱わないといけない事だから。ただ、チェーザはもういない、この世界を守る存在であった竜神はもうこの世にいない、とだけ言っておくよ。」

 ジン達は、竜神の殆どが滅んでいる事を知っている、ただ、ディンが話さないという事は、何か問題が発生する可能性があるのだろう、と認識した。

 ギルド長は、その話を信じる事にした様で、店の奥から何かを引っ張り出してくる。

「これが魔王デモスの情報だ。本来なら勇者に選抜されたもんにしか見せない決まりがあるんだがな、魔王が魔物を使役し始めたって事は、勇者では勝てないという事になる、なら、お前さん達守護者を信じて、託す他なかろう。」

「感謝する、ご老人。」

 ギルド長が店の奥から引っ張り出してきたのは、この世界がこの世界として成立してから、ずっと記録され続けていた、魔王と勇者の戦いの記録だった。

 各街のギルド長は、これを共有して、勇者に情報を渡していた、そして、勇者以外にそれを見せる事は、元来禁止されていた。

 ただ、情報の足が早いだけはあって、守護者の出現までは知らなかったが、魔王が魔物を使役し始めている事、それは各ギルド長はもう知っている事なのだろう。

「最後の勇者が死ぬ間際、情報を寄こしてきた。魔王デモスが、モンスターではない存在を使役してきた、それに立ち向かったが、敵わなかった、とな。となると、それを出来るだけの存在、それは限られてくる。魔物、数百年前に現れ、守護者によって討伐された、勇者では敵わない敵。それが、魔王が使役している存在の正体だ、それはギルド長の中では有名な話だ。確か、それが回ってきたのが何日か前の話、お前さん達が知らんのは、そのあたりにウェイルのギルドに足を運ばなかったからだろうな。」

 ギルド長が持ってきた古い装丁の本、それには、数百年前の事も、それ以前の事も書かれていた。

 曰く、数百年に一度、魔物と言う存在が世界を脅威へと陥れる。

 そして、それに対する対抗存在、守護者が選ばれ、竜神と共に世界を守る、それは、この世界がこの世界として成立して以降、幾度となく 行われてきた事だ、と。

 先代の守護者、アリナの祖父の話も書かれていた、それは、モートから聞いた事があった、それに類する話だった。

「……。成る程、魔王が魔物を使役するのは、今回が初めてじゃない、と。ディンは、その事を知っていたのかい?」

「そうだな、知ってたって言えば知ってた。ただ、毎回同じとは限らない、だから断定は出来なかったんだ。」

「じゃあ、魔王が魔物を使役するって言うのはー、今回が初めてじゃなくてー、何度も何度も繰り返されてきたって事ー?」

「そうなるな。ご老人、この本を暫く借りても良いか?」

「構わんよ。守護者であるお前さん達にとっても、魔王の情報は必要だろうて。」

 あまり情報を口にしたくない、とディンは考え、その場を離れる為にも、本を借りる。

 アリナ達は、アリナが混血である事に起因する事だろう、と考え、それに従ってギルドを出た。


「それで、おじいちゃんの事も書かれてるの?」

「そうだな、先代の守護者、竜神チェーザと共に世界を守った者、ドーガン。精霊の湖畔の出身であり、アリサという娘がいた、ってところまでは書かれてるな。」

「じゃあよ、アリナの事はなんか書かれてねぇのか?守護者の末裔って事は、何かしらの情報が有ったりすんじゃねぇのか?」

「いや、そこらへんは隠されてたんだろう、何も書いてないな。アリナのお父さんが精霊と子供を成した事、それはウィッチ達が知ってるって程度だろう。精霊と人間の境界を越えようとした存在、として記録が残されてる位じゃないか?」

「そうねー。確かに、デュオに関する記録はそれ位だったわよー?精霊と人間、両方の素質をもって、両者の魔法を使える存在を生み出そうとしたー、って言う、眉唾な話がある位だねー。」

「お父さん……。会った事もないけど、どんな人だったんだろう?」

 アリナは父に会った事が無い、ソーラはデュオの存在を知っていたが、それをアリナに話してはいなかった。

 そして、ディンとモートは、何故アリサとデュオが子を成したのか、精霊と人間という種族の壁を越えて、子供を産んだのか、それを知っていたが、アリナには話す機会が無かった、と言った風だ。

「デュオ、彼はとても素敵な人だったよ。人間の身で有りながら、精霊としては異端だったアリサを気遣って、精霊の湖畔を一緒に出るきっかけを作った、って言っていたかな。アリサは、精霊の中でも迫害される存在だった、そんなアリサを憐れんで、一緒に逃げよう、って言って逃げた、そんな事があった覚えがあるよ。……。憐れんでいた、というも語弊があるかもしれないね。アリサは、精霊の湖畔を出たがっていた、それに応えてくれたのが、デュオだったんだ。」

「……、逃避行、って感じだったんだ。なんだか素敵だね、お母さんは、あんまり多くの事を話してくれなかったから、モートに出会ってなかったら、ずっと知らなかったかもしれない。ありがとう、モート。」

「……。僕は、アリサの事が好きだったから。乳母として、母の代わりの様な存在だったから、ずっとそう願っていた事も知っていたんだ。ただ、精霊である僕では、その役目は負えなかった、だから、デュオには感謝してるんだ。アリサを、あの場所から逃がしてくれてありがとう、って。その代償として、デュオは亡くなってしまったけれど……。でも、彼は間違った選択をしてはいないと思う。アリナの両親は、決して間違った存在なんかじゃない、それは僕にもわかるよ。」

 モートの話を聞いて、自分もいつかそうしたいと願うのだろうか、とアリナは未来を想う。

 ディンに頼んで、精霊と人間の混血が迫害される世界を脱する事を望むのか、それとも、この世界に殉じて逝くのか。

 それはわからない、だが、両親の話を聞いた事で、そんな未来があっても良いのかもしれない、と感じていた。

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