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第二話 修行を始めて

「ねぇ、ディン、これであってる?」

「ん、似合ってるよ。剣は出したりしまったりを出来る様になってるはずだ。剣をしまう事を念じれば手元から消えて、出す様に念じれば出てくる。まずはそれをやってみると良い。」

 着替えを終え、家の外で待っていたディンの元に、アリナが剣を担いで出てきた。

 身の丈程の剣、そして、鞘の存在しない剣、抜き身のままでずっと持っていたら大変だ、とアリナは考えていたが、そこに関しては問題が無い様子だ。

 ディンに言われた通り、しまう事を念じると、剣が目の前から消えて、出す様に念じると、剣が手元に出現する。

「持ち方って、どうすればいいの?私、狩りで短剣は持ったことあるけど、こんなに大きな剣を持った事、無いんだ。」

「それは自然と覚えるだろうな。アリナの魂の在り方、それが剣の事を教えてくれるだろう。試しに、構えやすいと思う方法で構えてご覧。」

「えっと……。」

 ディンに言われた通り、思ったように構えてみる、所謂正眼の構え、それがアリナにとってやりやすいと感じた構え方だった。

「ディンは剣を持っていないの?私を育てる為にいる、って言っていたけれど、武器を持たずに戦うの?」

「そうだな、俺の剣もアリナの剣と同じ様に、出したりしまったりが出来るんだよ。」

 ディンがアリナの疑問に答え、左手を目の前にかざす。

「竜の誇り。」

 アリナの剣よりは小さい、少し変わった形のバスターソード、柄に黄玉の填まった剣を出現させるディン。

 アリナは、それがディンの武器か、と納得し、ディンが戦う事に特化しているのだろう、と何処かで感じていた。

 竜神ではなく、竜神王だと名乗ったディン、母アリサは、竜神様を頼りなさいと言った、しかし、その竜神ではなく、竜神の王を名乗るディンが現れた、それは、竜神よりも強い存在なのだろう、と何処かで納得していた。

「暖かいんだね、ディンの剣は。」

「……。この剣は、闇を癒す剣だからな。人間相手に使う様な代物じゃない、モンスター相手に使う物でもない、この剣は、魔物を倒して、その闇を癒す為に存在しているんだ。」

「魔物って、どんな種族なの?モンスターとは違うの?」

「魔物、それは、生命体がその身に抱えられる闇の許容量を超えた時に出現する、いわば負の思念体の様なものだよ。アリナの剣も、その魔物を倒すだけの能力を持ってる、そして、守護者は、魔物と戦う為に存在するんだ。」

 この世界には勇者が存在する、それは、魔王やモンスターに対するカウンター、人類の戦士。

 それはアリナも知っていた、しかし、魔物と言うのは聞いた事も見た事もない、どんな形状をしていて、どんな敵なのか、どんな脅威なのか、それを知らない。

「怖い、のかな。」

「どうだろうな。俺は怖いとは思った事はない、それを倒して、元あった場所に還すのが竜神の剣だ、それは、竜神と言う種族に与えられた、宿命だからな。怖いだとか、そんな事を言っていたら、やっていられないから。」

「……。そっか、貴方は強いんだね。私は怖い、戦うなんていきなり言われて、守護者だなんていきなり選ばれて、お母さんはいなくなっちゃって、怖いよ。貴方がいてくれる、それはわかってる、貴方はきっと、私の傍にいてくれるって、そう感じるの。ただ……。戦う事は怖い、そう思っちゃうんだ。狩り以外で生物を殺めた事はないから、生きていく上で必要な事以外、してこなかったから。……。私に、守護者が務まるかな。」

「俺は、アリナにしか出来ない事だと思ってるよ。怖くたっていい、怖がる、それは人間としては正しい感情だ。だから、怖くたっていい。ただ、立ち向かう勇気がある、俺はそう信じてる。」

「……。まるで、私をずっと見てくれていたみたいだね。そんな事は無いってわかってる、初めて出会ったってわかってるけど、でも、何だろう。ディンの言う言葉は、とっても優しい。私を知ってくれてて、私を想ってくれてる、それがよくわかるんだ。」

 アリナは知りえない、ディンが一度世界を渡り、そして、アリナと出会うのが二回目だという事も、アリナを看取ったという事も、今度こそ、幸せになってほしいと願っている事も、アリナは知りえない。

 ただ、ディンの言葉には優しさがあった、投げ捨てる事は許されない、それは守護者として選ばれてしまった以上、投げ捨てるという選択肢を取る事は許されないのだろう。

 ただ、ディンはアリナを信じていた、アリナは、きっと戦うと。

 そして、世界を守って見せる、と。

「さぁ、修行を始めよう。何時魔物が出現するかはわからない、ただ、そんなに悠長に構えてる時間は残されてないんだ。」

「……、うん。ディン、お願いね。」

「任せろ。」

 戦いを知らないアリナに戦う術を教える、それは生半可な事ではないだろう。

 狩りをしていた、と言っても、それは動物相手であって、魔物が相手ではない。

 相手は明確に生命体に対し殺意を持っている存在、それと対峙する事、それを教えなければならない、と。


「えい!」

「もうちょっとこっちだな。」

「うーん……、まだ慣れないなぁ。」

 修行を開始してから三日、アリナは、魂が知っていると言っていたディンの言葉を信じて、修行に明け暮れていた。

 ディンは自身の能力を封印していて、それを解放せずに修行に付き合っているのだが、その時点では勇者とそう大差ない実力であるディンの動きを、まったく捉えられていなかった。

 この世界の勇者、それはこの世界の魔王を倒しうるだけの力を持った存在、それに対して、森で生活をしてきて、碌に何か修行をしてきたわけではないアリナを比べる事自体が間違っているだろうが、ディンはあまり時間はないと言っていた、ならば、とアリナは体力の限界まで修行に明け暮れていた。

「せい!」

「甘い!」

「きゃあ!」

 ディンの振るった刃、それの勢いに押されて、尻もちをつくアリナ。

 ディンは、この調子では間に合わないとはわかっていた、ただ、アリナに無理をさせない様にと丁寧に修行をしていた。

「はぁ……、はぁ……。」

「今日はここまでにしようか。アリナは少し休むと良い、飯は俺が作っておくから。」

「うん……。」

 朝起きて食事を取ってから、夜日が暮れるまで、碌に休憩もとらずに、アリナは修行に励んでいた。

 ただ、そもそもの体力がある方だとしても、それ以上をするのは今現状としては厳しいのだろう。

 ディンもそれをわかっている、アリナの状態を気にしながら、修行のペースを早めにと思っていたが、しかし、無理はさせない様に、と考えていた。

「さて。」

 アリナが家の中に入っていったのを確認して、ディンは狩りに出かける。

 と言っても、アリナが母アリサと一緒に仕掛けていた罠、それに引っ掛かった獣を捕まえに行くだけなのだが、今のアリナには修行に専念してほしい、とその役目を引き受けていた。

「ふむ。」

 セスティア的に言えばうり坊に近い獣が、罠に引っ掛かって絶命していた。

 それを拾い、近くの川で血を抜き、家に戻る。

「アリナは……、寝てるか。」

 疲労困憊なのだろう、すぐに寝付いてしまったアリナを起こさない様に、と静かに作業をするディン。

 動物の解体は、ディンとしては何度もやった事がある、世界が変わり、生態系が変わろうと、大元の生態系を熟知している身として、捌くのには何の苦労もなかった。

 小型の獣、少し豚や猪にいているそれを、てきぱきとナイフを使って捌いていく。

 皮をはぎ、部位ごとに分けて、臭みが出ない様にハーブと共に煮込む。

 焼くだけでも食べれそうな鮮度ではあったが、アリナに血なまぐさい物を食べさせたくない、という心遣いだろう。

「……。」

 ディンは、世界全体に探知の魔法を展開している。

 それは、その世界にいる場合、全ての生命体の個体識別が出来るレベルで、魂の発している波動を基に、ディンが情報処理をしている、という魔法だ。

 本来は魔物に対する魔法、魔物の出現を探知する魔法なのだが、ディンのそれは応用編、応用と改造をした結果、人間や他の生命体の識別が出来る様になった。

 勿論、それに対する魔力の消費がゼロ、という都合のいい話ではない、ディンは寝ている間に魔力を回復する、その間だけ、探知を魔物に限った状態に切り替えていた。

 セスティアでは、二十四時間魔物が何処で現れても戦える様に、とそうしていたのだが、ディンの息子の竜太、十一代目竜神王になる予定である息子は、それが苦手だと言っていた。

「……?」

 今は、以前の世界軸でアリナと共に戦っていた、三人の戦士の状態を探知していた。

 三人とも以前の世界軸と大差ない扱いや波動をしていて、そこが変わらない、それにホッとすると共に、少し悲しさを覚えていた。

 魔法を使えないが故に差別の対象となっている少年、逆に魔法には長けているが、少し間の抜けている魔法使いの女性、そして精霊の中では異端な考えを持っていて、精霊の泉を追放された若輩者の精霊。

 かつての仲間、ディンにとっては顔見知りで、相手にとっては知らない人間、な状態な彼らは、世界軸を移動しても、扱いが変わっていなかった。

「まったく……。」

 大概、何処の世界でもそうだ。

 ディンが二度訪れた世界、その世界達では、勇者や守護者の扱いは変わらない、それは、悲しい現実でもあった。

 魔物が常にいる世界では、それは当たり前の行為として捉えられる。

 魔物がごく稀にしか現れない世界では、それは異端とされる。

 ディンが経験してきた事、ディン自身が、セスティアでどういった扱いをされているか。

 魔物と言う、セスティアでは国家として存在する防衛装置、軍の一大隊を投入して、やっと五十体の魔物を倒せるかどうか、それも、大国家に限った話だ、というのは、百何十とある国全てに通達してあり、ディンや竜太は、魔物が現れた際にのみ、超法規的に国境を超える事を許され、そして戦闘行為を代行していた。

 国連、と呼ばれる世界的な議会、それに所属していない国でさえ、魔物に対するカウンターとしては、ディン達しか現状務まらない事を把握している、それを拒んだ国が一つ崩壊しかけた、と言う事実をもって、ディンはセスティアにおいて、魔物に対しては絶対的な権限を持っている。

 セスティアにおいては、魔物が現れるという事は、それだけの事態を引き起こす、というのが、首相始め国のトップの認識だ。

「……。」

 では、それはこの世界ではどうか。

 魔物、それはモンスターとは違う、負の思念体。

 数百年に一度現れ、そして守護者達によって討伐される存在、それが魔物だ。

 アリナの母、アリサは、長くを生きた精霊として、それを知っていた、その時には、この世界を管轄していた竜神が手助けに入り、そして魔物を打倒し、世界に安寧をもたらした。

 それはモンスターの消滅ではない、モンスターは、魔王によって生み出されている存在、そして魔物は、超自然的に生まれ落ちる存在。

 それをどうこうしようとした魔王や悪は在れど、そもそも出現を制御出来るわけではない、制御しようにも、それを出来る存在はごく限られている、とディンは誰かから聞いた事があった。

 それこそ、先代竜神王が世界を守護していた時に、その魔物の排出機構を用いて、世界を混沌の底に落とそうとした存在がいた、それは知っていたが、逆を言えば、それ位しか、魔物を制御出来る存在はいない、という話になってくる。

「アリナ……。」

 先代竜神王が生み出した、幾千に分かれた世界、年輪の世界群。

 ディンは、本来はその中心であるセスティアを守護する者、ただ、魔物によって世界が滅ぼされてしまった場合、何処か一つの世界が滅びの道を辿ったら、世界群全ての世界が崩壊する、という仕組みになっている、とディンは聞いていた。

 何故先代がその選択肢を取ったのか、そもそもそう言った選択肢しか無かったのか、それはわからない、ディンは先代に会った事はあるが、詳しい話を聞く時間はなかった。

 そして、今は竜神は殆ど残っていない、人間殲滅を掲げ、ディンと敵対し、そしてディンの手によって葬られた。

 その結果として、ディンは次元転移、という魔法を使って、世界群を行き来して守護者を独りで育てている、現在のディンは、見た目としてはアリナより年下に見えるだろうが、人間として年齢を換算するのであれば、千歳にはなっていた。

 竜神は何百万年と言う年月を生きる種族な為、見た目に年齢が追いつくのに時間がかかる、というのはあったのだが、年齢としては千年を生きた存在だ。

 しかし、ディンは万全の力を持ってはいない、時空超越、という魔法を発動した際に、一度全ての力を失い、そして現在は、ディンの為に死んでいった竜神達の力を行使している、ディン本来の魔力、能力と言うのは、三割も使えていない。

 時空超越、それはそれだけ膨大な魔力を使い、そして代償を必要とする、それはディンも承知していた、ただ、それを発動した結果、力を失うとまでは分からなかった。

「俺はな、アリナ……。」

 世界よりも、家族を守りたい。

 だから、過去に跳んだ。

 しかし、不完全な竜神王、人間の血が混じっていて、不完全な竜神王だったディンには、過去に戻るという事は出来なかった。

 結果、世界軸を移動し、元居た世界は大いなる闇によって滅んだ、パラレルワールド、とはそう言う事だ。

 結果として、ディンはここにいる、もう一度アリナに出会い、そしてアリナはまた、守護者として選ばれた。

 そうならない事を願っていた、ディンは、守護者として育てた子供達が、そう言った運命から外れて生きてくれる様に、と願っていた。

 ただ、それは叶わない願いだった、アリナは再び守護者として選ばれ、そして今こうして、修行をしている。

「……。アリナ、飯が出来たぞ?」

「ん……、ありがとう、ディン。」

 食事を運びながら、アリナを起こすディン。

 アリナは、そんなディンの想いをわかっているのだろうか、戦って欲しくない、というディンの想い、それに気づいているのだろうか。

 ディンにはそれがわかっていた、しかし、それを話そうとは思わなかった。

 ディンは心が読める、ただ、それは公言すべき事ではない、と感じていたのだから。

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