第十九話 次なる街に
「そろそろ次の街につくかな?」
「そうだな、転送魔法を使うのもありだったけど、最初位はそう言う旅情緒って言うのはありだと思ったからそうしたけど、まあ正解だったな。」
「そう言えば、私は転移魔法も使えるけどー、ディンは使えるのー?」
「使えるぞ?って言っても、ちょっと方式が違うって感じだけどな。」
夏の陽気な街道を歩きながら、そう言えばとソーラは思い出す。
ソーラは転送魔法ではなく、転移魔法が使える、最初からそれを使って移動すれば楽だっただろうが、ディンがそうしなかった理由、について考える。
旅情緒、と言っていたが、最初から転移魔法に頼っていたら、という考えがあるのだろう、と考察したが、ディンも転移魔法を使えるのであれば、なんとなくそれも腑に落ちる、と言った風だ。
「転送魔法と違うんか?転送魔法って、確か行った事あるとこに行けるんだろ?」
「転移は違うな、この世界の転移に関しては、魔力で行く先を決めて、そこが行ける場所だったら行く、って感じだ。」
「ディンの使う転移魔法は違うのかい?」
「そうだな、俺の使う転移魔法は、座標と位置さえわかってれば、どこでも行けるな。例えばだけど、ここから南の大陸の魔王の城に飛ぶ事も出来る、って感じだ。」
ソーラ達ウィッチや、この世界の住人が使う転移魔法は、魔力によって行き先を決めて、そしてその場に行けるだけの条件が揃っていれば、行けるという趣の魔法だ。
対するディンの使う転移魔法は、一歩間違えれば壁の中に跳んでしまった、が起こる程度には自由度が高く、逆にそれだけ危険な魔法だ、ともとれるだろう。
ディンは基本的に転移を使う時は空中に飛んでいるか、知っている所に飛ぶ為、そこまで危険を感じた事は無いが、息子の竜太は、危うく壁に埋まるところだった、という事が一度あった、と言っていた。
「他の街って、行った事ねぇから分かんねぇけど、どんな感じなんだろな?」
「街自体はそんなに代り映えはしないと思うよ。ただ、都市に行くと、圧巻かも知れないな。」
「この大陸にある都市はねー、私の生まれ故郷でもあるけどー。凄いのよー?人が多くて、建物も立派でー、街とは大違いだ、って最初思ったものー!」
「なんだか楽しみだね、ディンは行った事があるの?」
「ん?そうだな、世界を移動する際には、大体の場所には足を運んでから動く様にしてるから、行った事があると言えばあるかな。」
以前の世界軸でも、同じ質問をされたことがあるな、とディンは思い出す。
以前の世界軸、アリナは都市という場所にあこがれを持っていて、どんな所なのか、としきりにソーラやディンに聞いていた、それだけ好奇心が旺盛なのだろう、そして、ソーラはその都市の出身であり、そこを出た身として、懐かしいと言っていただろうか。
モートは精霊の湖畔を出てから、住んでいた街にずっといたから、と言っていて、ジンもまた、街から出た事が無かったから、と言って、興味が尽きないと言っていた。
追体験、本当に、世界軸が変わったとしても、アリナ達守護者は変わらない、それに安心すると共に、悲しいと感じるディン。
このまま行ったら、アリナは同じ最期を遂げる事になるだろう、人間によって殺される、それがアリナの運命となってしまうだろう。
それを回避したい、と願っていたディンだったが、どうすれば回避出来るのか、どうすればアリナを生還させられるのか、それはわからなかった。
「到着だな。」
「綺麗な街だね!この街の名前はなんていうの?」
「確か、ウィザルだったかな。僕達の住んでいた街がウェイル、そしてこの街がウィザル、交友があった街だったはずだから、何度か行商人と会った事があるよ。この街の特産品は、水筒って言う、竹で作られた水入れだったかな。この街、ものづくりで発展してきた、伝統工芸の街だったはずだよ。」
次なる街、ウィザルに到着した五人は、街の入り口から、少し住んでいた街とは趣が違う事に気づく。
竹細工が有名なこの街は、ものづくりに特化した街で、果樹園が有名だったウェイルとは違い、石畳の道が多く、土を固めて道にしていたウェイルとは、そこが大きく違う感覚だった。
「すげぇな、綺麗っていうか、俺達の住んでた街とは大違いだ。」
「そうだね、だいぶん違いがあるかな、街によって特産のものだったり、名産のものだったり、そういう違いがあるから、それを楽しむって言うのは、ありかもしれないね。」
五人は、客自体は珍しくないと言った風な街の人々達に見られながら、宿を探す。
街並みに差異があって、それがまた珍しい、と感動していたアリナとジン、そして都市でこういった街並みになれているのか、懐かしいと感じているソーラ、行商人から話だけは聞いた事があったモート、その反応はそれぞれだ。
ディンにとっては、この街並みもまだまだ科学としては発展途上、セスティアでは石畳を超えて、コンクリートで舗装された道が多い、というのが当たり前だった為、まだまだ発展のしようがある、と感じていたが、感動に水を差す様な真似はしたくないのだろう、それは黙っていた。
「宿はどこだろう?あ、お金……。」
「俺達、金持ってくんの忘れてたな……。」
「そうねー?街で暮らしてるうちはあんまり必要なかったから、忘れてたわー?」
「そうだね、大将はいつも破格の値段で料理を出していたし、僕も買い物はたまにしかしなかったから、そうだね……。」
四人は、旅に出るにあたって、金銭の事をすっかり忘れていた様子だ。
こういう時しっかりしていそうなジンでさえ、金銭を持ってくるのを忘れていて、モートの家に金銭関係を置いてきてしまっていた。
「野宿か?」
「いや、それは大丈夫だ。俺が金銭関係は持ってきてるよ。」
「流石ディン!私達と違って、旅慣れてるね!」
旅慣れている、というよりも、様々な世界を回っているディンは、大体の事は把握している、そして、大体の世界で生活出来る様に、とその世界の金銭類を持っていた。
守護者達には世界を守る事に集中して欲しい、という願いもあり、そう言った事を入念に行っていた、セスティアにおいては、過去の世界軸での出来事を思い出して、株投資などをしていて、それでディンは金持ちだ、という話になっている。
「でも良いのかい?僕達もしっかりしないと、やっていけないと思うんだけれど。」
「最初位は良いんだよ、モート。最終的には皆に戦ってもらう事になる、俺達竜神の役目は、守護者を育てる事であって、戦う事じゃない。俺の戦場は、また別の所にある、だから、それに集中する為にも、皆のサポートはしないとだからな。」
ディンは、レンジャーであるジンや、それに携わっていたモートとソーラなら、金の稼ぎ方は知っているだろう、と考えていて、その元手になる金銭だけは出すつもりだ、という話をする。
アリナはまだ、金銭を稼ぐ方法を知らないだろうが、それも知っていって、そして生活が出来る様になってくれれば良い、とディンは考えていた。
「取り合えず、今日の宿を探そうか。」
「そうだね、食事処と宿は探さないと、拠点が出来ない。」
「あっちからいい香りがするわよー?」
まずは食事を、と夕暮れに染まってきた街を探索する、荷物は基本的にディンの転移でしまってある、だから身軽、という訳ではないが、まずは食事が優先なのだろう。
ソーラが言った方向に歩いて行って、食事処に入って、食事を取ろうと動き始めた。
「ふー、食った食った、こっちの街の料理ってのも、うめぇんだな。」
「そうだね、森で食べてた猪のお肉に似てるかな、元居た街では出てこなかった料理だね。」
夕食を食べ終え、宿に移動してきた五人、ひとまずディンが立て替えるから、と金銭を出し、ロビーに当たる部分で休憩をしていた。
宿は、ディンが一人部屋、ジンとモート、そしてアリナとソーラは二人部屋、という形になっていて、ディンは今外に煙草を吸いに出ている。
煙草の用法や形式が違う、という事もあるのだが、ディンは元々屋内で煙草を吸わない、匂いがついてしまったら、という習慣があり、それもあって外で吸っている、という話の様だ。
「それで、これからはどうするんだろう?街でお金を稼ぐのは一つとして、魔王デモスの居城に行くまでの修錬だったりだとか、魔物の対処だったりだとか、そう言うのも必要になってくる、と思うんだけれど。」
「そうねー。私は魔物の探知は出来ないから、出来る様にならないとねー。ディンにまかせっきりじゃ、だらしないと思うのよねー?だから、私達が出来る範囲の事はー、私達がしないとだわねー?」
ソーラは、人間を探知する能力と、モンスターを探知する魔法は使える。
ただ、魔物に対しては、それまで存在しか知らなかった状態、実情を知らなかった身として、出来ないが正しいだろう。
ディンは、魔物に関してに限定した場合、寝ている間だったとしても、探知を張り続けている、それだけの事をしなければ、世界を守るなどという事は出来ないのだろう、とソーラは考えていて、自分にそれと同格の事が出来るか、と問われると、否だろうという結論を出していた。
ただ、それではディンに負担が掛かる、ディンは守護者を育てるのが目的であって、という話は再三されていた、だから、自分達がそれを出来る様にならないと、この先やっていけないだろう、とも感じていた。
「アリナとモートにも、手伝ってもらえばー。私達でも、魔物の探知が出来るかもねー?ジンは体外的に魔力を持たないから、難しいかもしれないけどー。」
「魔物の探知、探知魔法を使える様になったら、出来るのかな?モートはどう?出来ると思う?」
「そうだね……。僕は精霊の魔法しか使えない、逆に言えば、精霊が使える魔法であれば、使えるとも言えるね。探知の類の魔法は習得した覚えがあるけれど、魔物に対してと言われると、まだわからない、が正解かな。アリナは、精霊と人間の両方の魔法を使える素質があるから、もしかしたらすぐに使える様になる、かもしれないね。」
「こーいう時よ、魔法が使えねぇって言うの、悔しいな。」
「それは仕方のない事だよ、ジン。ジンは体内での魔力の循環に特化してる、ってディンが言っていたし、それはそれで、使える力があるという事だろう?なら、それに特化している、そこに焦点を当てるのが良いと思うな。」
ジンは、自分が魔法を使えない事で、三人に置いていかれてしまう様な感覚になっている、それをモートは理解していて、その言葉を話した。
ジンの魔力、体外に放出する事が出来ない、体内での循環に特化した、その性質。
それは、戦いにおいては必須なものだろう、逆に、戦う為の魔法を知らないモートは、戦闘では後方支援しか出来ない、だから、補いあう事が大事なのだ、と。
「じゃあ、明日から探知の特訓だね!魔物が出てきたら、最初はディンに探知を任せないとだけど……。でも、私達ならきっと出来るよ!」
「そうねー!頑張りましょー!」
互いに補い合い、そして戦う。
それが、守護者とその仲間の在り方だ、とディンが言っていた。
だから、ではないが、共に戦う者達として、精霊であったとしても、人間であったとしても、混血であったとしても。
守護者である事、そしてその仲間である事、それは変わらないのだ、と。
「さて、どうなってるやら。」
アリナ達が中で会話している間、ディンは煙草を吸いながら探知をしていた。
魔王デモス、デモスは、魔物とモンスターの合成を本格的に始めていた、それが結果を結んだ場合、勇者ではモンスターを倒せなくなる。
だから、それが結果を結ぶ前に倒しておきたい、それがディンの考えだ。
今のまま魔王の所に行ったとて、勝ち目はない、アリナ達は、人間の中では強い部類になるだろうが、魔王を討伐し得る力を持っているか、と問われると、まだ持ちえていない、というのがディンの結論だった。
魔物は各地に現れ始めるだろう、暫くはそれに対処し、それを討伐しながら、鍛錬を重ねて魔王を打倒するだけの力を身に着ける、それがアリナ達にとっては最良だろう。
もしも間に合わなかった場合、ディンが魔物を引きうけ、アリナ達にはその本丸である魔王の討伐に集中してもらう事になるだろう、とも。
「ふー……。」
煙草の吸殻をもみ消して、携帯灰皿に入れて、これからの事を考える。
もしも、同じ結末を辿るのだとしたら。
もしも、違う結末を迎えるとしたら。
ディンに、未来を見る力はない、だから、そればかりは願うしかない、アリナ達が生還し、そして弾圧されない事を、願うほかなかった。




