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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
三章 戦いの始まり

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第十七話 キャンプ

「ふー……、疲れたね。」

「今日はここでキャンプだな、食料を買っておいて正解だった。」

 初めて魔物と戦い、その夜、街道を歩いていた五人だったが、ディン以外の四人の体力の消耗が激しく、キャンプをする事になった。

 荷物はディンが転移で空間に保管していた、それを転移魔法で取り出して、街道の脇の邪魔にならない所にテントを張り、夕食の準備をする。

 テントは二個、男性陣と女性陣用に別れていて、現在の気温的にはいらないだろうが、中で焚火の暖房がつけられる様にと、焚き火用の窯があった。

 テントには簡易的な毛布と、敷物が備わっており、それだけで過ごすには少し心許ないかもしれないが、現状では問題ない、と言った感覚だろう。

「腹減ったー……。」

「すぐ出来るから、少し待っててね。」

 一日通して動き続けていた五人、特にジンは、三食しっかりと食べないと力が出ない、と言っていて、昼食を抜いたのが堪えている様だ。

 テントの傍の焚火に座り、モートがシチューを作っているのを眺めながら、待ち遠しいと遠い目をしている。

 逆に、ソーラは一日二食しか食べない生活をしていた、元々小食と言うのもあり、平気そうに持ち歩いている魔導書を焚火の火で眺めていた。

「ソーラ、その魔導書は何の魔法が書いてあるの?」

「えーっとねー。グランの座に立つ程の実力者じゃないと、発動が出来ない魔法よー?私、まだ使った事が無いからー、使えるかどうかもわからないんだけどー。もしもの時の為に、使える様に準備していた方が良いでしょー?」

 ソーラは、普通の人間では読む事さえ出来ない、特殊な魔術が掛けられた魔導書を持っていた。

 それは、ウィッチやウィザードと呼ばれる上位の存在でさえ、読む事は出来ても発動が出来ない、という類の魔法で、所謂天変地異を引き起こす様な魔法が書かれている。

 魔法を習ってまだ日が浅いアリナには、何が書いてあるのかさえわからなかった、そう言った類の隠匿魔法が掛けられているのだろう、それだけ、強大な魔法である事が伺える。

「隕石って言う、空から落ちてくる塊だったり、津波って言う、海がせりあがってくる魔法だったりねー?そう言う、本当に強い魔法が書かれてるのよー?街で発動なんてしたら、どんな被害が起こるかもわからないからー、使おうとも思わなかったんだー。でも、それもいつか使える様になれて、皆の力になれたら、素敵じゃないー?」

「精霊の使う魔法とは違うの?確か、モートが私の持ってた魔導書にも、天変地異を起こすだけの魔法が書かれてる、って言ってなかったっけ?」

「そうねー、似て非なるものかもねー?人間の使える魔法と、精霊の使える魔法はー、根本の部分は似てるけどー、出力の仕方が違うって、お父さんが言ってたなー。だから、私達人間には、精霊の魔法は使えないんだ、てー。」

「じゃあ、私ならどっちが使えるんだろう?ソーラに教えてもらった魔法は使えるから、人間の魔法なのかな。」

「うーん……。わかんないなー。アリナは人間と精霊の混血でしょー?どっちの使える可能性、って言うのもあると思うんだー。どっちかを極めようとしたら、それは出来ない事かもしれないけどー、どっちもある程度使う、って言う話なら、出来るんじゃないかしらー?」

 隕石を落としたり、津波を引き起こしたり、それは精霊の魔法にもある魔法だ。

 それこそ、アリサが遺した魔導書には、そう言った類の魔法が書かれていた、モートには発動出来ないと理解していたが、モートは、精霊の魔法の中でも最上級の魔法だ、という認識はあった。

 それと同等、ないし少し控えめな魔法、それをグランの座に就いた者達は扱える、それはソーラにとって、研究所を捨てた身だとしても、憧れなのだろう。

 発動方法を何度も何度も確認し、この魔導書だけは手放せない、と持ち歩いている、そんな大切な魔導書を、放置して出かけるという事は出来なかったのだろう。

「これはねー、ウィッチになった時、お父さんから渡された、人生で一回きりのプレゼントだったんだー。お父さん達は、ずっと研究に没頭しててー、碌に関わりもなかったしー、それに、育ててもらったのも違う人だけどねー?でも、そんな中で、いつかグランウィッチになった時にー、って、プレゼントしてくれたんだー。」

「そうだったんだ。お父さんも、ソーラの事を想っていたのかな。」

「どうでしょうねー?研究研究で、ずっと研究室に籠りっきりの人達だったからー。」

 ソーラの記憶では、ソーラの両親に育てられたという経験をした覚えがない。

 乳母だった女性は、ウィッチになりたての所謂グランの弟子にあたる存在で、ソーラの世話の傍ら研究をする、という事をしていた女性が、ソーラにとっては育ての親だった。

 実の両親、グランウィッチとグランウィザードだった両親は、研究室に籠って生活をしていて、食事ですら大気中の魔力を転換して摂取していて、睡眠を取る事すらせずにいた、と言う話を何処かで聞いた覚えがあった、グランの名を冠する者は、現在五名しかいない、そのうちの二人なのだから、それも当たり前かもしれない、ただ、ソーラにとっては、親の愛情というものを知らずに生きるきっかけになった、そんな記憶だ。

 碌に両親らしい事をしてこなかった父が、十二歳でウィッチになったソーラに、数年ぶりに研究室から出てきたと思ったら、この魔導書を渡してきた、それだけ期待していたという事だったのだろう、ただ、ソーラは研究ではなく、勇者の仲間になりたいという願いが強かった。

 勇者に助けられてからずっと、その憧れを捨てられず、ウィッチの使命である魔導の研究からも外れ、そして今では、守護者の仲間として、世界を守ろうとしている。

 それを両親が知ったらどう反応するか、どういった言葉を掛けてくるか、それはわかっていた、どうでも良い、そんな事に割く時間はない、それよりも魔導の研究を、と言っただろう。

「親に親らしい事ってされた事ないんだー。ただ、お父さんは、私に期待して、これ渡したと思うのよー。だから、これは手放せないなって、ずっと持ってるんだー。いつか使うかもしれないし、使わないかもしれないわねー?でも、魔王を討伐するってなったらー、それ位は使えておいて損はないでしょー?」

「……。ソーラは凄いんだね。私、お母さんの想いって、ずっと知らずにいたんだ。大切には想ってくれてた、それは知ってるけど、それ以外の事、何も知らずにお母さんはいなくなっちゃって……。でも、お母さんは、信じてくれてるんだなって、今は感じるんだ。だから、剣になってまで、私の力になってくれたんだな、って。」

 アリナは、アリサと二人きりの生活をしていた、それが全てだった。

 その母を失った、それは悲しい、そして寂しい、ただ、それでもアリサは傍にいてくれる、剣となって、アリナを守る事を選んだ、とアリナは思っていた。

 それは間違いではないだろう、守護者に与えられる武器、それは精霊の魂を変質させた物、それになった、という事は、アリナと共に世界を守る道を選んだ、という事になるだろう。

 だから、アリナは大切な母を思い出す時に、剣を握りしめる、怖い時、戦う時、そして忘れたくない時、剣を握りしめて、アリサを思い出す。


「モート、そういやモートってよ、精霊の湖畔を出てからずっと、あの街に居たんだろ?なんちゅーか、俺達以外に友達ってか、そーいうのいなかったんか?」

「そうだね、精霊である僕を受け入れてくれた女性、勇者の母だった老婆、それに大将、それ位しか交友関係はなかったかな。それこそ、ソーラが街に出て来た時に、部屋を貸してお金の稼ぎ方を教えて、それで、ジンが放逐された時に、ジンと関わり始めた位だよ。」

 シチューをコトコト煮込んでいるモートと、その香りに腹をならしているジン、二人は、そう言えばその手の話をした事が無かった、と思い出し、ジンから話を振っていた。

「そう言うジンは、交友関係は広かったんじゃないかな?レンジャーとして、色んな人と関わってただろう?」

「って言ってもよ、俺がお節介焼きのジンだ、って知ったら、大体のやつはうざがってたからなぁ。ダチっちゅーダチはいなかった、それこそ大将とソーラとモート位のもんだったぞ?俺みたいなやつに助けられた、それが屈辱だ、って言われてたな。でもよ、辞める気にはならなかったんだよ。気質って言うんか?モートが言ってたろ?俺は、そう言う気質の持ち主だから。、そう言う事を辞めないだろう、って。」

「そうだね、ジンは、生来人助けが好きなんだと思うよ。誰かに感謝される為じゃない、それが当たり前で、誰に感謝されずとも、人を助け続ける、それがジンらしさ、だと思う。僕から見たら、の話だけどね。」

 ジンは、十歳で放逐されて以降、ソーラとモートに助けられて、レンジャーとしての道を選んだ。

 魔力を持たない、と言われていた頃、体外的に魔力を持たないジンは、この世界では生きていくのにも苦労する、それ程、この世界では魔力を持つという事は当たり前で、魔力を持たないジンは異端で、人間として成立していない、とまで言われた事があった。

 ただ、それでもレンジャーとして人助けを続けたい、と願ったジンは、それこそお節介焼きのジンと言う蔑称が付けられる程度には、人を助けながら生きてきた、そして、それが当たり前だと思っていた。

 感謝されたい訳ではない、自分が異端だという事もわかっている、ただ、それでも誰かの為に生きて行きたい、それがジンの願った道、大将からレンジャーとしてのイロハを教えられていた頃から、ずっと思っていた事だ。

 レンジャーは、人を助け、時に苦心し、そして生きていく、それが大将の教えで、ジンはそれが当たり前だと思っていた。

 いくら魔法を勉強しようと、いくら発動しようとしても、発動する事が出来なかった、幼い頃は、まだ仕方がないと言われていたが、とあるウィザードがこの街に訪れた際に、ジンの両親がそれを相談した。

 その時に、ジンは魔力を持たない存在だ、と言われたと両親は言っていた、そして、そんな人間を家に置いておくわけにはいかない、と十歳で放逐された。

「俺はさ、そーいうのが好きなんだ、ってずっと思ってたんだ。誰に何を言われたとしても、大将が教えてくれた、生き方って言うんか?そうーいうんが、好きなんだろうなって。」

「大将も大将で、昔は苦労してたよ?僕が街に降りてきた頃、腕利きのレンジャーだった大将はね、依頼が多くて捌き切れない程、人気なレンジャーだったんだ。全部やってやりたい、でも、一人ではやりきれない、けれど、他の誰かに任せる事も出来ない、ってね。人気すぎるのが転じて、レンジャーを辞めるきっかけになった、って言ってたかな。食堂は元々、奥さんと娘さんが切り盛りしてたんだけど、大将が一番料理が上手でね。引退してから、ずっとあそこの食堂でご飯を作ってた、かな。それが十年前位、奥さんが亡くなったのが、三年前だったね。ジンも知っての通りだけど、大将は本当はレンジャーを続けたかったんだと思う。ただ、それが出来なかったから、ジンにイロハを教えてくれたんじゃないかな。」

「魔力を持たねぇガキに、イロハを叩き込んでくれたんだから、感謝してもしきれねぇよ。……。大将に、何も言わずに出てきちまったな。守護者である事、それは基本的に言わねぇ方が良いってディンに言われたからよ、何も言わずに出て来たけど、なんか一言位話しときゃ良かったかもな。」

「……。決別と決まった訳じゃない、もしかしたら、守護者の仲間としての役割を終えた後に、街に戻って来るかもしれない、だから、それを悔いる必要はないと思うな。僕達は、未来がある。ディンとは、守護者としての役割が終わったらお別れだけれど、僕達はそうじゃない、僕達には未来があるんだ。」

 未来、それは、精霊と人間とでは大きく違う意味合いを持つ。

 短くて数百年、長ければ千年程生きる精霊と、長くても百年しか生きられない人間では、その差が如実だ。

 ただ、それでもモートは、未来があると信じていた。

 それは、いつか来る決別かもしれない、ジン達の方が早く死んで、自分は遺されるのだろう、それはわかっていた、ただ、まだ皆には未来がある、それが何がどうなるか、はわからないが、未来があるのだ、と。

「モートはさ、精霊の湖畔に戻るつもりはねぇのか?俺達の方が先に死ぬだろ?その後とか、寂しくねぇんか?」

「……。寂しいと思うよ。ただ、湖畔の精霊達が僕を受け入れるとは思ってない、僕は自らの意思で出てきたんだから、戻るなんて都合の良い事を考えるのは間違いだ、とも思うね。」

 モートは、精霊の湖畔に戻るつもりはない、生涯を人間の街で暮らすつもりだ、と考えていた。

 それは、精霊達の在り方に見切りを付けたのだから、諦めたのだから、そこに戻る方が、苦痛だろうと。

 人間の素晴らしさ、儚くも美しいその在り方、それを見て居たい、と。


「ふー……。」

 四人がそれぞれの話をしている中、ディンは独りで煙草を吸っていた。

 この世界に煙草はない、それに似た物はあるが、それ自体が無い、という事もあって、皆の前では吸わない様に注意していた。

 煙草を吸うと思考が纏まる、とディンはセスティアで言うechoという銘柄を吸っているのだが、安煙草として知られているecho、それを吸い続けているのは、何故かと問われるとわからない、が正解だ。

 ディンは貧乏ではない、セスティアでは、世界有数の資金を持っていて、所謂億万長者の類だ、だから、安煙草にこだわる必要性は何処にもない。

 ただ、これが吸い心地が良い、と思っていて、これ以上に強くもなく弱くもなく、という煙草が他にないから吸っている、が正解なのだろう、とは感じていた。

「……。」

 魔王が、魔物を使役し始めている、それは探知と飛眼という魔法で理解していた。

 ディンの使うそれは、いわば千里眼の現在だけを見る事に特化した魔法、世界にいる時に限っては、その世界のどこでも見る事が出来る、それを妨害するだけの魔力を持った存在が居れば話は変わってくるが、ディンの魔力に対抗する程の魔力の持ち主、そしてそれに気づく魔力探知の使い手、というのは、そうそういないのだろう。

 前の世界軸と同じで、魔王がモンスターと魔物を合成して、キメラを生み出している、それを確認したディンは、やはり最終目標は魔王デモスの討伐になる、と確信し、煙草の火を消して四人の所に戻った。

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