第十五話 旅立ち
「準備出来たか?」
「うん、出来てるよ。」
「私もー。魔導書に関しては、ディンがこのお家に結界を張っておいてくれるんでしょー?」
旅に出る、それは、魔物が現れるという証左。
覚悟を決めた四人は、家を出るべく片づけをして、ソーラの魔導書を保管する為にも、この家に人払いの結界を張る事になっていた。
ディンの使う人払いの結界には、認識阻害の結界も混ざっていて、傍目に見れば、そこには何もなく、そしてそれが当たり前だ、という認識をさせる、という効果がある。
誰かが帰ってきた場合には、それが自動的に解除され、一時的にそこを通りかかる存在の認識が変わる、という、この世界ではありえないタイプの結界、それを張っていた。
「それじゃあ、出発だ。まずは、各地の状況を見たいな。恐らく、魔王が魔物を使役してくるはずだ、それを対処するのが、第一目標、最終的には、魔物の浄化と、沈静化が目的になるだろう。その為には、魔王の完全消滅、それが関わってくるかもしれないな。」
「魔王デモス、南の大陸を支配し、モンスターを生み出し使役する存在、勇者によって、幾度となく倒されては、復活している存在。それを、完全消滅させる事が出来るのかい?」
「そうだな、この世界がこの世界となってから五千年、魔王デモスは人々の脅威として、君臨し続け、そして勇者によって打ち倒されたとしても、また復活し、活動を始める。それがこの世界の理であり、魔王と人間の戦いは、この世界の根幹にある儀式の様な事柄だな。ただ、それを打ち倒す事は出来る、永久に不滅と思われているデモス、その弱点を突けば、な。」
「魔王の弱点って何なんだ?何度も生き返る奴を永遠に殺す、なんて事が出来んのか?」
魔王デモス、その存在は、この世界にとっては、世界を存続させる為の歯車の一つだ、とディンは大図書館に記されている事を知っていた。
だからこそ、デモスは不滅であり、復活を遂げて勇者と戦う、それは、この世界をこの世界たらしめる儀式の様な事柄だ、と。
ただ、魔王が魔物を使役し始めた事により、その儀式は体を為さなくなるだろう、とディンは認識していた。
魔物とは、この世界においては、数百年に一度現れ、そして守護者によって討伐される存在、そして、その魔物と魔王が結びついた時、魔王もまた、守護者にとっての討伐対象となる。
守護者にとっての討伐対象となった場合、それは、魔に侵された場合の話だ、そうなった場合、世界の歯車という役割を離れてしまい、そして、世界を滅ぼす存在へと変貌してしまう。
ディンはそう言った経験を何度かしていた、世界の歯車であったはずの存在が、魔に侵されて、その役割から離脱してしまい、そして守護者によって討たれた、それを何度か経験していた。
それと同じ事が起こっているのであれば、デモスを完全に消滅させる事は出来る、という話になってくるだろう。
「魔王は何度でも復活する、それはこの世界の理だ。魔物は、この世界の理の外側の存在、大いなる闇によって支配された、世界を滅ぼす存在だ。だから、デモスが魔物を使役して、その魔物に影響を受けた場合、アリナ達にしか倒す事は出来なくなるし、そもそも復活するって言う選択肢がなくなるだろうな。この世界にとっては、それはチャンスとも言えるだろうな、魔王と勇者って言う、犠牲を払って成り立っている世界、それを覆すチャンスだ、ってな。」
「それじゃあー、私達以外の勇者では、魔王に勝てないって事になるのー?」
「魔物に影響を受けた場合に関しては、そうなるな。」
魔物、それは、人間や生物が、その存在の闇の許容量を超えた時に発生する、いわばそもそも存在自体はする存在だ。。
ただ、一万年前に、それを人為的に動かした存在がいた、それは、先代竜神王の敵だった、とディンは聞いていた。
その際、先代は世界を分ける事により、個々の守護者の負担を減らそうとしたのだろう、それぞれの地域や国を守っていた守護者達、その守護者達に世界を任せ、竜神達にその世界の守護の手助けをする様に、と決めたのが、先代竜神王だった。
それ以来、数百年前までは、竜神達が世界の運営と共に、守護者を育ててきた、という背景があった、しかし、ディンが世界を渡った頃から、竜神達はその役目を放棄していた。
厳密には、その役目自体は果たしていたのだが、同時に人間を滅ぼそうと画策していた、それが事実だろう。
「僕達が守らなければならない世界、そしてディンが守らなければならない世界群、その違いはきっと、無いんだろうね。この世界を守れなければ、世界群が滅びる、それは精霊の中での言い伝えだったかな。世界は無数に広がっていて、一つの世界が滅んでしまうと、全ての世界が滅んでしまう、だったかな?」
「そうなるな。先代がどうしてそう言う分け方をしたのか、までは聞く暇がなかった、ただ、先代はそうやって世界を守ろうとした、それが実際の伝承だ。俺達竜神にも、伝える暇がなかった、それ位、一万年前の戦いは苛烈だったんだろうな。この世界においては五千年前だから、精霊としては十代位の歴史の前か。」
世界によって時の進み方は違う、その差異が、ディンにとっては有難い事だった。
同時に複数の世界で魔物が現れ、という現象が起こってしまったら、それに対処するだけの竜神がいない、そして、ディンが対処する時間が足りない。
そうなった場合、世界は滅んでしまうだろう、先代が分けた世界、年輪の世界と呼ばれるこの世界群の、一つの綻びが、全ての世界の崩壊へと繋がる、それは事実だ。
それはそうとして、現在はこの世界が脅かされている、だから、ディンはこの世界にやってきた。
「まあ、世界群に関する事は、俺の領域だ。皆は、この世界を守る事に集中して欲しい。最終的に世界がどうなるかとか、そう言う事は後で考えれば良いんだから。」
「……。私達、戦えるかな。ちょっと前に剣を握ったばっかりの私が、魔王を討伐出来るのかな。」
「出来ると信じてる、だから俺はそのためのサポートをするんだ。」
家の施錠をして、五人は外に出る。
外の天気はからっからの陽気で、暑いと言えば暑い、そんな天気だ。
旅に出る、その為には少し暑いが、しかし天気が良く、旅立ち日和だ。
「行こうか。」
「うん。」
五人は、旅に出る、それは、世界を守る為の旅、世界を、魔物と言う脅威から守り、そして魔王を打倒し、この世界に安寧をもたらす為の旅、そして、アリナ達の、自分達の存在の為の旅。
街を出た事が無いジンや、精霊の湖畔やこの街しか知らないモート、そして、研究所を出てからこの街にずっと住んでいたソーラ、森で生活していたアリナ。
それぞれが、どんな都市があって、どんな人間がいて、それはわからない、ただ、守ると決めた以上、どんな人間であろうと、守りたいと願った。
それは間違った感情ではないだろう、それは、守護者として、至極当然の感情だろう。
「デモス……、貴様……!何を……!」
「魔物、伝承にある世界の破壊装置、何、それを借り受けただけの事よ。貴様らでは我を打倒する事は出来ぬ、諦めて死すが良い。」
「魔物……?なら、守護者が……!」
「下らぬ幻想だな。貴様らでは我を打倒出来ぬ、それだけが摂理である。さあ、我が腕に抱かれて、息絶えるが良い。」
「俺は……、俺達は……、諦めない……!きっと、守護者が……!」
「……。アルド、死体は好きにすると良い。傀儡として扱うも良い、配下に食わせるも良い、好きな様にせよ。」
「は、デモス様。」
「守護者よ、我を打倒出来る都思うているのであれば、それは驕りである。ふむ、興が乗った、試してみるとしよう。」




