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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
二章 街並みの中で

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第十四話 旅の前

「ふむ……。」

「ディン、どうかした?」

「そろそろ魔物が現れる、アリナ達の戦いが始まるって事だよ。」

 ディンの本音を聞いてから三日、ディンの予感に従って、急ピッチで修行をしていたアリナ達だったが、とうとう魔物が現れる、というディンの発言に、少し固まってしまう。

 モンスターとはまったく別の存在、そして、世界に害を成す存在、というのは、伝承でしか知らない、数百年前に魔物が現れ、そして守護者によって討伐され、世界に安寧をもたらした、と言う伝承しか残っていない、どういう形をしていて、どういう攻撃をしてきて、という事を知らない。

 そんな魔物が現れる、それに対して、ディン以外の四人は、探知する能力が無ければ、対抗手段があるのかどうかもわかっていない。

 怖がるな、という方が間違っているだろう、魔物とは、世界全体に脅威をもたらす存在だ、というのが、この世界における伝承だ。

「戦える、かな……。」

「大丈夫だ、それが出来る様に、鍛えてきたんだからな。」

「俺達も戦えっかな?アリナはほら、母ちゃんが武器になったって言ってたろ?でも俺達は、普通の武器しか持ってねぇぞ?」

「そうだな、そろそろか。」

 ディンはそう言うと、転移魔法を発動する。

 それは物質を取り出す類の転移魔法で、この世界における転送魔法とは、少し趣が異なる。

「これが、精霊達が用意してた、守護者に与えられる武器だよ。精霊達は人間に渡すのを渋ったけど、流石に竜神王の言葉って言うのは、聞かざるを得なかったんだろうな。モートが失った杖も、回収済みだよ。」

「これ、精霊の湖畔を出る時に没収された物だけれど……。ディンがまさか持っているなんて、想像も出来なかったな。」

「俺の武器もあんのか?こっちの杖はソーラのか?」

「あらー、私にまで貰えるのー?……。そうねー、魔力の流し方が少し違うだけで、出力的にはこっちの方が強く出来そうねー?」

 三人の武器、ジンの持っている物に似た、柄に宝玉の填まったブロードソード、ソーラの為に拵えられた、精霊の湖畔でしか生み出せないという、巨木から削り取った杖、そして、モートが精霊の湖畔を出る際に精霊達によって没収された、手持ちの杖。

 それらを、ディンは用意していた、まるで、最初からそうであった様に、最初からわかっていたかの様に、さも当然のごとく、それを出した。

 精霊の中には、予言者に似た立ち位置の存在がいる、とモートは聞いた事があった、会った事はないが、そう言う存在がいて、そして世界に関する予言をし続けているのだ、と精霊の湖畔にいた頃に聞いた事があった。

 その精霊の元、武器が造られていたのだろう、という風に解釈すれば、納得は出来る、ただ、その予言をする存在は、精霊の中でも秘匿的な存在とされていて、本当に世界の存続の為に運営を行っている存在しか、話す事を禁じられていた、というのが、モートの中の認識だ。

 その存在とコンタクトを取っていた、精霊の中でも上位に入る存在達と、それを交渉していた、という事実、それにモートは驚く。

「良いんか?俺達が精霊の造った武器なんて使ったらよ、罰が当たるんじゃねぇか?」

「大丈夫だよ。その武器達は、守護者の仲間にしか扱えない様に細工がされてる、つまり、ジン達なら使えるって事になる。そもそも、ジン達の為に造られた装備だ、とも言えるな。精霊達の力が込められてて、扱いやすい様になってるんだよ。」

「凄いねー?私の杖も、私の魔力に合わせて作ってもらったけどー、こんなに魔力が籠めやすい杖って、あったんだねー?」

 ソーラは、試しに魔力を注いでみると、普段より使い勝手が良い事に気づく。

 ジンも渡されたブロードソードを持つと、何やら体の内側から力が湧いてくる様な、そんな感覚になる。

 モートはと言うと、十何年か前に没収されてしまった杖が戻ってきた事に驚いていたが、精霊はその持ち主の魔力に一番都合が良い杖を渡される、それを思い出していた。

「皆、それぞれ武器があるんだね。」

「そうだな、アリナはお母さんが変質した剣だけど、皆のはそれぞれ、精霊が生み出した武器だからな。」

「精霊達が、守護者の為に与える武器、それは精霊の魂を変異させた武器だ、とは聞いた事があったけれど、僕の分まであるとは思わなかったな。でも、僕の杖に関しては、精霊の魂は関係ないんだろう?」

「そうだな……。モートの杖、それは、モート自身の魂を基盤に造られてる、いわば、モートの魂の一部って言う事になるな。それを用いて、精霊は初めて本来の力を発揮出来る、それは、魂の一部を使用してる杖だから、その杖の持ち主に一番近い物だから、とも言えるな。」

 モートは、杖の成り立ちを知らなかった、というより、殆どの精霊は、杖の成り立ちを知らない。

 知っているのは、杖職人と言われる精霊達と、統治者足る精霊達だけで、それだけ機密の情報として扱われていた、という背景があるのだろう。

 杖職人、と言うと杖を製造する、というイメージになりそうだが、元来精霊の杖職人は、精霊の魂の一部を削り取って、杖の形の型に填める、という役割を持った一族で、家伝の技、魂を削るという秘術をもって、杖を作成する。

 一子相伝のその技は、何千年何万年と、世界分割が行われる前からずっと続いてきた歴史があり、現在を生きる精霊達は、必ず杖を所持している、それは、その杖を持って始めて、精霊が能力を上限まで行使出来る、という性質の存在で、それだけ杖と精霊は切り離せない物なのだろう。

 それを取り上げられていたモートは、本来の力を発揮出来ずにいた、それはモート自身理解している事だったが、杖が魂から造られる、とまでは知らなかった、というのが感想だろう。

「ディンは、一体何処までを知っているんだい?僕達でさえ知らされていない、精霊の中でも秘匿事項だった、杖の製造方法まで知っているなんて、驚いたよ。」

「竜神の治める世界、竜神の集う世界があってな、そこには、あらゆる世界の真髄が記録された図書館があるんだよ。アリステス、賢竜と呼ばれる一族が管理をしていて、そこで俺も教わったんだ。数百年はあそこにいたからな、それなりに知識は叩き込まれたよ。」

 ディンが過ごしていた世界、竜神の世界と呼ばれる、竜神のみが行き来が出来る世界があり、そこには、大図書館と言われる、世界群全ての情報が収納されている図書館があった。

 そこを管理していた賢竜アリステス、その竜神は、竜神の中でも穏健派で、ディンに協力的な数少ない竜神の一人だった。

 そのアリステスから、様々な世界の事を学び、修行の合間に大図書館に足を運んでいたディンは、それなりに知識はある。

 それは、異世界で活動するのに必要な知識であり、そもそもその大図書館は、竜神達が持ち寄った知識の群れであり、世界毎に管轄の竜神がいた頃に、それぞれが知識を持ち寄って、担当の竜神が次世代に引き継がれた時に、問題が起こらない様にと用意された場所だった。

 アリステスはその図書館の全ての知識を持っていて、それをディンに教えていた、だから、ディンはどの世界の事でもある程度、真髄に至るまでの知識を有していた。

「竜神様の集う世界、そんな世界があるんだね。確かに、拠点になる場所が無ければ、竜神様達は何処にいるんだ?ってなっちゃうけど、そこまで考えた事はなかったよ。」

「そうだな、基本的には、人間や他種族は立ち入れない場所だから、伝承にも残らなかったんだろう。今じゃ、何人かの竜神が残ってるだけなんだけどな、寂しくなったもんだよ。さ、それは良いとして、武器の扱いは大丈夫だろうから、そろそろ出発だな。長い旅になるかもしれない、どういう結末を迎えるかはわからない。ただ、魔物を何とかしないと、世界群が滅びる、それだけは確かなんだ。皆には苦労を掛けるけど、頑張ってくれ。」

 この話はお終い、明日には出発だ、というディンの言葉に、四人は覚悟を決める。

 世界に魔物が現れ始めたら、ディンはすぐに探知を出来る様に、世界中に探知の網を広げていた。

 それは魔物に限った話ではあるが、三つある大陸からなるこの世界、その世界中に、探知魔法を掛けている、と言えば、その強大さが伺いしれるだろう。

 そもそもが、セスティアにおいてはディンとその息子である竜太、その二人しか戦う事が出来ない、そして、竜太は現在、魔法を苦手としていて、魔物が現れた際には自動的に探知が出来るが、ディンの様に、常時展開して、という事は出来ない。

 それに比べれば、この世界全体に探知の網を広げる事、それ自体はディンにとっては難しい事ではないのだろう。


「明日出発かぁ……。私に出来るかな。」

「不安なのかい?」

「うん。不安がないって言ったら、嘘になるかな。私、ひと月前まで、戦う方法すら知らなかったから。お母さんが森での生き方は教えてくれたけど、それ以外の事は何も知らなかった。だから、戦えるか不安なんだ。それが、私達にしか出来ない事だって言われても、怖い、のかな。」

 ディンとジンが買い出しに出かけ、ソーラは自室で魔導書を読み耽っている、そんな中、リビングでアリナとモートは話をしていた。

 今は夕暮れが近い、もう外の気温は暑くなってきていたが、アリナの着ている服には魔法が掛けられている、たとえ極地であろうと、活動に不自由が無い様に、と精霊とディンが加護を掛けた服を着ている、だから、暑い寒いは感じない、ただ、外の陽気が暖かいと感じる程度だ。

 モートは、部屋の温度を下げる為に氷の魔法を張っていて、部屋の中では涼しいが、外は暑い、という風な認識だったが、そもそも温度変化の少ない精霊の湖畔の出身なモートは、街の急激な気温の変化が苦手だった。

「怖い、それは間違いじゃないと思うんだ。僕も、精霊としてはまだまだ子供、若輩者も良い所だ。そんな僕が選ばれていた事、アリナが、僕を守護者の仲間として選んでくれた事、予言されていた事、それを知らずに生きてきて、これからどうしたら戦っていけるのか、それは僕にもわからない。ただ、戦わないといけない、世界を愛した者として、世界を守る為に戦う、それは誇らしい事でもある、とも言えるね。アリナは、街に出て来てまだ日が浅いから、そう言った実感が持てないのかもしれないね。」

「……。人間を愛する事、それは素敵な事なんだ、ってお母さんがずっと言ってたんだ。お父さんと体を重ねて、それを後悔した事はない、って。ただ、そのせいでお父さんが死んじゃった、それも事実だったって。……。私、まだわからないんだ。人間の為にとか、世界の為にとか、そう言う、大仰な事を考える暇がなかったし、考えるきっかけもなかった。そんな私が、守護者に選ばれて良いのか、って思っちゃうんだ。」

 アリナは、自分に世界が守れるのか、人間を守れるのか、それをずっと不安がっていた。

 それはディンにも伝えていた、ただディンから返ってくる言葉は、アリナを信じている、という言葉だった。

 信じられている、それだけでも、頑張れる原動力にはなる、原動力にはなるのだが、というのがアリナの現在で、世界を守り切れるのか、それはまた別問題だと考えているのだろう。

 実際、現時点ではディンとジン、ソーラに修行をつけてもらっているが、まだまだ三人を超える事は出来ていない、そもそもディンを超える力、というのはありえないのだろうが、ジンとソーラとは、肩を並べて戦える位には強くならなければならない、それは痛感していた。

 そんな状態の自分が、世界を守れるのか、それがアリナの不安であり、疑問だったのだろう。

「アリサなら、きっと出来るだろうって信じてくれただろうね。だからこそ、自分の魂を武器に変えて、アリナを守ろうとした。先代の守護者であるアリナのおじいさん、そして守護者の戦う武器として、変異したアリナのおばあさん。そう言った家系である事、それ抜きにしても、アリサは覚悟をしてたんだと思う。選定されて、武器になる事を、覚悟していたんだと思う。それがアリナではなかったとしても、アリナだったとしても、それは変わらなかったんだろうね。……。ただ、アリサはずっと、アリナを守りたいと願ってた。アリナの為に、この子の為だけに、命を掛けたい、って言ってたんだ。」

「そっか、モートはお母さんと知り合いだったんだっけ。お母さんって、どんな人だったの?モートから見たお母さんって、私の知ってるお母さんと、少し違う気がするんだ。」

「そうだね……。アリサは、僕の乳母だったんだ。幼い頃、親の代わりに育ててくれた人だった。僕が守護者の冒険譚をせがむと、決まって先代の守護者であるおじいさんの事を話してくれた、自分に何かあった時には、アリナを頼みました、って言う話を、この街に来る直前に言われたかな。アリサが生きている内は関わると面倒が多いけれど、自分が死んだ後、いなくなってしまった後、アリナをお願い、そう言われていたよ。」

 それは、小さい頃と言うべきか、何十年か前の話だ。

 モートが幼かった頃、乳母だったアリサは、モートに父から聞いていた守護者としての冒険譚を聞かせていて、将来守護者が現れた際には、それをサポートしてあげてほしい、と常々言っていた。

 モートはそれを真に受けていて、いつか出会うであろう守護者の手助けをする為に、小さい頃から回復魔法の修行を重ねてきて、現在では、精霊の中でも指折りの魔法を使える様になっていた。

 それは、精霊の大魔法には遠いかもしれない、ただ、普通の、というには個体数が少ない精霊だが、一般の精霊の中では、指折りの回復魔法を使える様になっていた、それは、アリサの言葉があったからだろう。

 モートは、ずっと守護者の手助けをしたいと願っていた、それが叶って今があるのか、と問われると、守護者とその仲間は、魂の在り方によってそれが決まる、とディンが言っていたから、もしかしたら、アリサはその事を知っていたのかもしれない。

 だからこそ、そう言った手助けが出来る様に、とモートに言い聞かせていたのかもしれない、とモートは感じていた。

「僕もね、回復魔法しか使えない僕が、戦えるのか?って聞かれると、どうなんだろう?って思うんだ。ただ、ディンが言っていた様に、僕達が出会った事、仲間になった事は、意味がある、意義がある、必然ともいえる、運命と言い換えても良いかもしれないね。ただ、僕達は、自分の意思でここにいる、それは、誰かに強制されたものじゃない、とも思うよ。」

「……。私は、どうなんだろう。ディンに、守護者に選ばれた、って言われて、お母さんに、選ばれたって言われて、それで戦おうとしてる。……。でも、世界を守りたい、って言う想いはあるんだ。それが、守護者としての在り方、なのかな。」

「そうかもしれないね。」

 モートは、これはアリナ自身が答えを出さなければならない事だ、と気づいていた。

 アリナ自身が、戦う理由を見つけて、そして守護者として成っていかないといけないのだ、と心のどこかで理解していた。

 恐らく、ディンもそう考えているのだろう。

 選ばれた事はなかった事には出来ない、ただ、守護者としての在り方は、その本人に委ねられる部分名のだろう、と。

「旅の中で答えを見つける、それもありかもしれないね。」

「……。そうだね。私はまだ、世界を知らない。知らずに守るなんて、そんな事も言えない。だから、旅の中で、答えを見つけなきゃね。」

 旅に出てしまったら、もう覚悟を決めるしかないのだろう。

 きっと、アリナに残された選択肢は、少ないのだろう。

 守護者として世界を守るか、世界の崩壊に身を任せてそれを放棄するか、どちらかしかないのだろう。

 ただ、モートは感じていた、アリナは、きっと守護者としての道を選ぶだろうと。

 勘と言うには具体的で、しかしぼやけた輪郭の思考、その中で、アリナはきっと、と。

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