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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
二章 街並みの中で

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第十二話 ディンの想い、アリナの想い、ソーラの想い。

「そうだ、ディンは、人間の事をどう思っているの?世界を守るのが守護者の役目で、それをサポートするのが竜神様の役割なんでしょう?なら、ディンは人間の事をどう思ってるのかなって。」

「どう思ってるか、それを聞いて後悔しないか?俺からアリナの望む答えは出てこないと思うぞ?」

「……。それでも、聞きたい。ディンがどう思って世界を守ってるのか、沢山の世界を守って、沢山の人間を助けてるのか、知りたい。」

 修行開始から二週間が経った、その修行の終わり際。

 アリナがディンに、そう言えば聞いた事が無かった、と問いかける。

 それは、自分自身がどう思っているか、何故人間を守るという道を選ぼうと思ったのか、何故世界を守る守護者として選ばれたのか、そういった事が聞きたいのだろう、とディンは考える。

 その上で、アリナの望む答えを持っていない、ここにいる誰にとっても、世界を守りたいと願って共に戦う事を選んだ、守護者達にとっては、望ましい答えを持っていない、それがディンの回答だ、と考えた。

「……。約束だったんだよ。人間を愛して、人間を守って、それが、約束だったからだ。どれだけの人間が穢れていて、どれだけの人間が腐っていて、そんな事は些末な事だ、愛する人を守って、世界を守って、それが今際の言葉だったからだよ。俺は、人間を守る価値を見出せない、守護者達や、家族を守りたい、その感情はある、ただ、それ以外の大多数の人間を守る、その感情が持てない。ただ、約束だったんだ。それだけだよ。」

「じゃあよ、ディンはその約束ってのが無かったら、人間を見捨ててたって事か?」

「そう言われると、違うと答えるだろうな。人間が滅んだら、その余波で抱えきれなくなった闇が、世界群を覆う事になる。その闇の集合体と戦って勝てるか、と問われると、俺は勝てないだろう。だから、そうならない為には、人間を守る必要がある、って事だ。」

「……。竜神様は、人間の為に戦っている訳じゃない、って事でしょー?でも、私なんとなくわかる気がするなー。人間を守りたい、それは私達の共通項だと思うけどー。伝承に語られる竜神様は、人間を守る為にいる訳ではなかった、って何処かで読んだよー。」

 ディンの答え、それは明確なものだった。

 約束だった、とある守護者との約束、そして、同じ末路を辿るのだとすれば、同じ約束をするであろう、そんな約束。

 とある世界、ある守護者がいた。

 その守護者は、人間を守りたいと願い、そしてディンも、当時はそれに賛同していた。

 しかし、彼女は人間に殺された、無残にも、惨酷にも、殺されてしまった。

 その直前に、ディンは人間の醜さをこれでもかと見せつけられていた、それは、ディンの依り代であった少年「悠輔」が人間の手によって、怨嗟の声によって殺された事だった。

 まだ、ディンはその時点では、人間を愛する事は、きっと間違っていないはずだ、と考えていた。

 しかし、その守護者は、人間によって殺された。

「……。俺はな、人間の醜さをこれでもかと見て来た。人間は、守護者に対して悪辣で、時に惨酷で、悲惨な最期を迎える守護者は、少なくなかったんだ。……。俺の依り代だった子も、人間に殺された。それは、恐怖だとか、そう言った感情からじゃない、単純に、人間ではないと判断されたからだ。竜神王である俺の魂を肉体に宿いていた子、その子は、人間によって殺された。結局、人間はそう言う存在なんだ、って言うのに気付かされたのは、その後、とある守護者が殺された時だったな。人間は悪辣で、醜くて、守るに値しない、そう言う意味では、多くの竜神が人間を滅ぼそうとした、その歴史も間違いでは無かったのかもしれない。」

「でも、ディンは人間を守るって決めたんだよね?それは、何故?」

「俺の家族、人間の家族は、美しい存在だった。守護者だとか、竜神だとか、そんな事は些末な事でしかない、って本気で考えてて、俺を受け入れてくれた。俺はそれを美しいと感じた、だから、その子達を守りたいと願った。人間の身でありながら、竜神である俺との生活を受けいれて、家族として接してくれた、そんな子達を、悲しませたくなかったんだ。それが、というか、殆どそれだけが、人間を守る理由だよ。」

 モートの質問に、ディンは悲し気に答える。

 ディンの家族、その家族は、一度デインと言う竜神の手によって、殺されている。

 その後、ディンがデインを屠り、そしてその現実を受け入れられなくて、ディンは時間を跳躍した。

 ただ、ディンが未熟だったのか、そもそもがそう言った類の魔法だったのか、ディンがたどり着いたのは、自分が生きた過去ではなく、別の「世界軸」の過去だった。

 別の世界軸、パラレルワールドともとれるディンが行きついた先、そこでは、竜神達が人間を滅ぼそうとしていた。

 そもそもディンが元居た世界軸ではどうだったのか、それはわかっていない、ディンには知らされていなかったし、ディン以外の竜神がセスティアに来る事は基本的に許されていなかった、そして、竜神達はその役割を放棄し、ディンが代理として動いていた、という事実だけが残っていた。

「ディンが美しいって言う、そんな素敵な家族、会ってみたいな。きっと、私が混血だったとしても、分け隔てなく接してくれるんだろうね。」

「そうだな、俺の家族はそんな事気にしないだろうな。……。だからこそ、守りたいと願っただからこそ、守るに値すると感じたんだ。人間だとか違う種族だとか、そんな事を気にしない、人間として美しい魂を持っているから、俺は守りたいと願ったんだ。」

「じゃあよ、ディンにとって俺らってどうなんだ?モートは精霊だからちげぇかもしんねぇけど、俺とソーラは人間だぜ?」

「……。守護者の選ぶ仲間、それには魂の在り方が関係する、それは前に話した事があったか。守護者のその仲間は、人間や他種族問わず、美しい心を持ってるんだよ、ジン。ジンやソーラ、モートは、守護者の仲間に足る魂を持っている、それは、俺達竜神が守護者を魂で見分ける様に、守護者達が無意識下で行ってる、ある種の選別と巡り合い、端的に言うなら、そういう運命だった、って言えば良いのかな。」

「運命だなんて、素敵だねー!私達、出会うべくして出会ったって事でしょー?そう言うの、ロマンチックで好きなんだー。」

 ジンは、ディンが人間を守る意味がわからない、という顔をしていて、ソーラは、そう言う運命だった、という言葉にうっとりしていた。

 前の時間軸と変わらない、あの頃はまだ、ディンも知識不足だったり、そう言った懸念点が沢山あったが、そう言った受け答え、それが変わらない事に、嬉しいと共に、寂しさを感じる。

 もしかしたら、の未来の話ではあったが、デインを倒した後、ディンが世界軸を移動した事により、世界は大いなる闇によって滅んだ、その滅びに巻き込んでしまった、それが悲しい、と。

 ジンとソーラ、そしてモートは、人間の闇に苦心しながら、しかし生き抜いた、という記憶がディンの中にはあった。

 守護者を失い、そして人間同士の争いが主になった世界で、必死に生き抜いた、と。

 その未来を、ディンは自らの欲の為に潰してしまった、今の世界軸では三人は生きている、それはそうだろう、しかし、ディンのよく知っている三人は、そうして滅んだのだ。

「ディンが世界を守る理由、なんとなくわかったよ。でも、それでも構わないと思うんだ。私は、人間を信じてる、混血だとか、そう言って人間と精霊を分けちゃってたとしても、きっといつか、人間は精霊と一緒になる事が出来る、そうお母さんが言ってたから。」

「……。その想いがなくならない限り、アリナが守護者としての在り方を失う事はないだろうな。きっと、アリナなら世界を守って見せるって、俺は信じてる。勿論、アリナだけじゃない、三人も一緒に、世界を守って見せるって、信じてるよ。」

 修錬場から家に戻りながら、アリナはディンの背中を見つめる。

 その背中は、大きくて、頼り甲斐があって、それでいて、何処か小さくて、寂しそうで。

 何処か、悲しそうにも見える、ディンの背中。

 きっと、ディンにはディンなりの人生があったのだろう、竜神として、竜神王として、自分達とは比べ物にならないレベルの重責を、背負ってきたのだろう。

 殆どの竜神は殺した、と言っていた、そして、今ではその竜神達の役割を独りでこなしている、というのも言っていた、だから、ディンにしかわからない苦しみがあるのだろう、と。

 ディンは孤独なのだ、と悟るのには、もう少しかかりそうだったが、ディンは独りぼっちなのではないか、と心のどこかで感じる、それが嫌だとも感じる。

 アリナは、ディンに恋をしている、そうディンが言っていた、この感情の出所を知らなかったアリナに、ディンはそれは恋だと教えてくれた。

 三週間という、短い間しか生活を共にしていない相手に恋をするのか?と問われると、またそれも疑問だが、アリナはそれを理解していた、自分は、ディンに恋をしているのだ、と。

 だから、その重荷を一緒に背負いたい、一人にさせたくない、ディンに、孤独だと思ってほしくない、そう感じていた。


「そろそろご飯が出来るから、ソーラを呼んできて貰えるかい?」

「うん、わかった。」

 夜のとばりが降り、アリナは自室で魔導書を読みふけっているであろうソーラを呼びに、二階に上がる。

「ソーラ、そろそろご飯が出来るってー。」

「分かったわー!」

 ソーラの自室、魔導書で床が見えなくなってしまうと錯覚する程、魔導書が積みあがった部屋。

 ソーラは、ウィッチとしてはグランウィッチに最も近い存在と言われていて、成人する頃にはグランウィッチになっているだろう、それが周囲からの期待であり、重責だった。

 そんな中、ソーラがマイペースに生きている、それは、奇跡にも近いのだろう、とアリナは心の何処かで感じていた。

「ソーラは本当に、勉強熱心だね。私、教えてもらってて思うけど、ソーラは凄い人だよ。勿論、ジンもモートも凄いんだけどさ。グランウィッチになりたかったの?」

「そうねー。最初は、グランウィッチになって、勇者の手伝いをしたいと思ってたんだー。ただ、あそこは何処まで行っても研究機関でしかないからー、勇者の手伝いがしたい、って言ったら、白い目で見られたんだよー?こんなにも魔法を習得して、こんなにも戦う力を持って、それでもそうしようとしない、って言うのが、私は嫌でねー?だから、飛び出してきちゃったんだー。」

「お父さん達には何か言われたの?」

「そうだねー。勇者の仲間になりたいって言ったら、即答で拒絶されたねー。あの人達、世界がどうなろうと、人間がどうなろうと、自分達が研究さえ続けられればそれでいい人、達だからー。私は違ったんだー、私は、勇者の仲間になりたかったんだー。それは結局叶わなかった願いだけどー、でも、今はこうして守護者の一行に加わってるんだから、もっと凄い事よねー?」

 ソーラは、魔導書を片づけながら、アリナの質問に答える。

 ソーラの家庭事情、グランウィザードとグランウィッチの間に生まれたソーラは、小さい頃から魔導の深淵に最も近い存在、としてもてはやされていた、と言えば聞こえはいいが、小さい頃から、ずっと研究しかさせてもらえていなかった。

 幼い頃に、本当に小さい頃に、一度研究所を飛び出して、外の世界を見たいと願った、そして、その時に、モンスターに襲われかけ、そこを勇者に助けられた。

 だから、ではないが、ソーラは人間として、勇者の仲間になりたい、とずっと願っていた、それが叶うのであれば、両親との決別も致し方ない事なのだろう、と割り切っていた。

「憧れって言うのかなー。私を助けてくれた勇者の人は、魔王に殺されちゃったっていう話を聞いたなー。でも、そう言うものだって割り切るしかなかったし、悲しかったけどー……。でも、なら助けられた私にも、出来る事があるんじゃないのかなー?って思ったんだー。それ以来かなぁ、お父さん達と離れて、この街で暮らす様になったんだー。それが、十五歳の頃だったかなー?」

「それは……。納得してるの?お父さん達と離れ離れになっちゃった事とか、グランウィッチになれなかった事とか、後悔してないの?」

「後悔ねー。してないって言ったら、そうなの?って思う事もあるんだー。ただ、それは研究所を飛び出した事じゃなくてねー?お父さん達も、勇者の為に、世界の為に戦ってほしかったなー、って言う、ある意味侮蔑って言えば良いのかなー?自分達だけが得をして、魔導の根源を目標にする、っていう目的の為だけに、人間で実験したりするんだよー?そんなの、私は嫌だったんだー。だから、お父さん達にも、人間と一緒になる良さって言うか、そう言うのを知って欲しかったんだー。ただ、それは叶わなかったけどねー?」

 ソーラの思い出、十五歳の時に、研究所を離れて、都市を離れて、そして勇者の為に力を使いたい、と両親と数少ない会話をした時。

 両親の言葉は、「そんなくだらない事の為に魔法を使おうとするな。」だった、とソーラは記憶していた。

 人間の為に、世界の為に魔法を行使する事、それを下らないと言われたソーラは、決別しか道は残されていない、と直感した。

 グランウィッチになって、という一つの目標を捨てて、ウィッチの身で、この辺境の地に居を構える、と決めたのは、そう言った経緯からだ。

 幸いな事に、魔導の研究によって、多額の金銭を得ていたソーラは、家を借りたりする事には困らなかった、魔法が使えないから、という理由で放逐されたジンと違って、最初から独立するだけの資金を持っていた。

 何処の街に住むか、と世界を転々としていた時に、モートに出会い、そして、モートの在り方に近しい物を感じたソーラは、この街に住むことを決めたのだ。

 それが間違いだとは思っていない、それが正しいとも思っていない、それがソーラの出した結論だった、というだけで、多くのウィザード達からは忌避の対象として見られたとしても、自分らしくありたい、という想いは、止められなかったのだろう。

「皆、立派な人だね。本当に、私とは大違い。私は、つい二週間前まで、森以外の生活を知らなかった、何も知らずに、自分が混血である事しか知らずに、生きてきたんだ。でも、守護者だって言われて、ディンに鍛えてもらう様になって、それで、初めてこの街に訪れて。……。ディンの言う事、わからなくはないんだ。お父さんは、混血を生んだ、って言う理由で殺されてしまった、それは知ってたから。……。ただ、人間を守りたい、そう願う想いもあるんだ、私が何も知らないからかもしれない、私が馬鹿なだけかもしれない。ただ、人間を守りたい、世界を守りたい、その想いは誰かに強制された事じゃないと思うんだ。」

「素敵な考えだと思うよー?私も、誰かに強制されたわけじゃ無いと思うんだー。継承するもの、って言うのかなー?アリナのおじいちゃんが守護者だったのと、似てるのかなー。私の場合、助けてくれた勇者にだけどー。アリナは、きっとおじいちゃんやお母さんの意思を受け継いでるんだ、って思うよー?」

「私、おじいちゃんの顔も見た事ない、名前も知らなかった、守護者だって事も、知らなかった。でも、その血が私には流れてる、お父さんもお母さんも、きっとそう言ってくれるよね。……。お母さんは、それが最期の役割なんだ、って言って、剣になっちゃった。でも、お母さんが傍にいてくれる、それはわかってるんだ。だから、私は私に出来る事をしたい、それが、世界を守るって言う大きな事だったとしても、たとえ小さな事だったとしても、その想いは変わらないと思うんだ。」

「アリナ、素敵だよー?さ、そろそろご飯食べに行こー?ジンがお腹空いた、って待ってるかもよー?」

「そうだね。」

 アリナは森に生きた人間と精霊の混血として、そしてソーラはグランの名を冠する二人の子供として。

 守りたいと願ったものがあった、存在があった、それは憧れかも知れない、ただの幻かも知れない。

 ただ、それに縋るのではなく、それを糧に生きていく、それは間違いではない、とアリナは考えをまとめた。

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