その日の夜
ゲーセンと言ってもこの世界のゲーセンは単純な物だ。自動カジノマシーンや(カジノと言っても賭け事では無く、一つの景品をカードで争う物である。)バーチャル乗馬レース、ゴング鳴らし、(読者諸君の世界でいうパンチングマシーン。)FPSなどが主に上げられる。
「アアッ!クソッ!!このステージ難し過ぎだろ!」マオがVRゴーグルを外しながら言った。
彼がやっているゲームはバーチャル乗馬レースだ。スマホ版が発売されているが、VRゴーグルを使ったゲーセン版の方が格段に没入出来る。
「なら俺に貸してみな。」
ケンタロウが言ってVRゴーグルを着けた。
「こういうヤツは得意だから。」
ハイッ!ケンタウロスがどうやって乗馬ゲームをやるか気になった読者諸君。
コレは乗馬と書いているが乗らないのだ。
このVRゴーグルには無数の粒子が組み込まれており、脳の電気信号を感知する。それに粒子と画面を繋いでいるファイバーが反応し、電気信号をデジタル信号化して画面のキャラクターを動かす....という物だ。
さすが日頃から足が馬の人だ。もう難関ステージをクリアしてしまった。
「コツを掴めば簡単だよ。」
「スゲーッ。」
マオが感心していると後ろから誰かが肩を叩いた。
後ろを向くとシレナ、ゾーラ、キカイが紙袋を手にいっぱい持っていた。カジノの景品らしい。
「ドヤッ。」シレナが自慢げに言った。
「カジノ系は上手いんだ。」
「今日の目玉景品はコレだった。」
そう言うとゾーラが紙袋からバカデカいマグロのぬいぐるみを取り出した。
「いるか?」マオが呆れたように聞いた。
「実用性は無いけど..............SNSにアップするとか?」ゾーラが答えた。
「まあ........確かにな.....。」マオはまだ腑に落ちてない。
そんな話をしていると、ゲーセンの入り口の方から警察官がやって来た。
ただ奇妙なほど重装備だ。服装は暴動鎮圧隊の制服で頭にはライオットヘルメットをかぶっている。背中には警察の防護盾と鞘に入った剣を背負っていた。
「何だ?お前警察沙汰の事したか?」
ケンタロウが言った。
<魔王が現れた。>
次の瞬間、警官は両手をマオ達の方に突き出した。その手にはトカレフ拳銃が握られていた。
<勇者のターン。乱射。>
マオは悟った。
「ふせろ!!!」
ババンッ!!ババンッ!!!
マオ達の頭スレスレを弾丸が飛んでいき、後ろの広告看板に当たった。ガラスが物凄い音を立てて砕け散った。
ババンッ!!ババンッ!!
カチッ!カチッ!
勇者は弾が切れたと分かると無造作にトカレフ拳銃を放り投げた。
<当たらなかった!ピストルの弾が切れた!>
「ゾーラ、刀貸してくれる?」
マオが伏せながら聞いた。
「いいよ。」
答えを聞くや否や、マオはゾーラの腰から小刀を引き抜いた。
<魔王のターン。斬りつけ!>
「お前いい加減にしろよ!!」
マオは小刀を振り上げた。
勇者は剣を抜くとガキンッと小刀を受け止めた。そして剣の柄でマオを殴り倒した。
<ガード!魔王に20ダメージ!>
「ブヲワッ!!」
マオは床の上に吹き飛ばされた。
<勇者のター......。>
「ちょっと待った!!」突然誰かが叫ぶとシレナが、勇者とマオの間に車椅子で華麗なドリフトをして割り込んだ。
「こっちが相手だ!」
<人魚が参戦して来た!>
<人魚のターン。突き刺し!>
シレナは背中に背負っていたトライデントを取り出すと、勇者の腹に向かって突き出した。
勇者は防護盾を素早く向けてトライデントを弾いた。
ガァン!!
<ガード。>
弾いた衝撃で車椅子がマオの上に飛んでいき、シレナは壁に投げ飛ばされた。
<勇者のターン。トドメ。>
勇者は無表情でマオの前に立つと剣を振り上げた。ヤバい、殺される。そう思ったが、すでに遅い。勇者は剣を振り下げた。
マオはグッと目を瞑った。
バララララッ!!
一瞬何が起こったのか分からなくなったが、マオの額に生暖かい液体がかかった。
目を開けてみるとその液体の正体がわかった。
血だ。
ワインレッド色の液体はマオの後ろにあった壁をネットリと伝い、床の血溜まりに落ちた。辺りには赤色の肉片が散乱している。
勇者は呆然としていた。まるで自分でも何が起こったか分からないと言うように、口をポカーンと開け、目は空中を見つめていた。
腹には大きな穴がぽっかり綺麗に空いていた。
その穴を通して反対側には、キカイが右手を向けながら突っ立っていた。
彼女の右手はミニガンに変形しており、銃口からは青い煙が立ち上っていた。
「ホヘッ.............。」マオも呆然としていた。
勇者はバランスを崩して、マオの丁度前に倒れた。
貫通した穴からは内臓がはみ出ており、銃弾によってバキバキになった背骨がぶら下がっていた。
<魔王の勝利!>
<Game over>
「......正当防衛さ。」キカイの方は何ともなかったように、ミニガンに弾を装填していた。
「いや......コレはやりすぎじゃね.....?」
ケンタロウが言った。
「お腹を貫通したんだから.......。」
<続けますか?(復活した場合は事前にセーブした場所に復活します。)>
→<続ける>
<やめる>
次の瞬間、勇者の体がパッと消えた。
そう、まるで蒸発したようにパッとだ。同時に血痕も何も無かったように無くなり、割れた広告看板も一瞬で元に戻った。
元に戻っていない唯一の物は吹き飛ばされた車椅子と、マオ達の記憶だった。




