第99話 ゆっくりまったり
ノームの迷宮と風の台地。
ここ数日だけでも、色々なことが起きたよね。
王都を出てから、まだそんなに日が経ってないことに驚くばかりです。
それでも、風の台地を出発してから既に二日ほど経ってるんだ。
色々と慌ただしかった後だから、ゆっくり出来る時間を確保できたのは、ありがたいことだと思っています。
でもまぁ、ハナちゃんにとってはつまんないかもだね。
「もっと高くだよ!!」
「ムリっスよ!! 俺は獣人じゃないんスよ!?」
「カッツ兄ちゃんなら出来るよ!!」
「フレイ! っく、後で話があるっスよ」
「フレイ君をイジメちゃダメだよ!!」
ハナちゃんとフレイ君に囲まれたカッツさんは、深いため息を吐きながらも覚悟を決めたみたいです。
そうして、ハナちゃんの脇を抱えた彼は、全力を振り絞ってハナちゃんを空高くに投げ上げました。
「うおりゃあぁぁぁ!!」
「きゃあはははは!! たかぁーい!!」
「次は俺の番だぜ、カッツ兄ちゃん!」
「くぅっ……腰を痛めそうっス」
ハナちゃんを泣かせてしまったお詫びとして、カッツさんは1日間なんでも言うことを聞くことになりました。
そしたらハナちゃんが、高い高いをして欲しいと言い出して。
今こうして、テラスで元気よくはしゃいでいるのです。
まぁ、簡単に言えば自業自得なのですよ。
でもハナちゃん、高い高いなら私でも出来るんだよ?
いつだってお願いしてきて良かったんだよ?
なんでカッツさんなの?
私、ちょっとだけ寂しいよ。
「リグレッタ様、心底羨ましいという気持ちが表情に出ていますよ?」
「う、うるさいなぁ!」
「これは失礼しました」
ベルザークさん、絶対イジワルで指摘したよね。
別に私は、ハナちゃん達の様子を見たいからテラスにいるわけじゃないからね!?
ただ、たまにはお外でお茶を味わいたいなと思って、わざわざテーブルと椅子を出したんだから。
これはそう、ゆっくりまったり過ごすという、大人の余裕なんだからっ!
「ところでベルザーク様。このお菓子、どうでしたか?」
「えぇ、非常に口当たりが良く美味しいので気に入っておりますよ」
「そ、そうですか!? じ、実はですね、そのお菓子、わ、私が……」
「もしかして、ハリエット様が作られたのですか? それはそれは、本当に才能に溢れていらっしゃいますね」
「ベルザークさん。あんまりハリーを褒めすぎないでくださいよ。調子に乗って馬鹿をやらかした時、尻拭いするのはボクなんですから」
「ホリー兄さん? ちょっとお話しできますか?」
ははは。
ハリエットちゃん、顔を真っ赤にして怒ってるね。
いや、ベルザークさんに褒められて照れてるのかな?
多分、両方だね。
実際のところ、ハリエットちゃんの作ったお菓子は、とても美味しいのです。
クッキーってお菓子だっけ?
さすがは、王都で沢山のお店を練り歩いて来ただけはあるみたいだね。
「うん。すっごく美味しい」
「あら、リグレッタも褒めてくれるの? 嬉しいわ」
「だって美味しいもん。だからあとは、キッチンの片づけもしっかりできるようにならなくちゃだね」
「うぅ……」
お料理は作るところまでじゃないのです。
片づけまでしっかりと出来るようにならなくちゃ、だよね。
母さんもそう言ってたし。
「ハリエット様。片づけが苦手なのでしたら、私を呼んでください」
「え? ベルザーク様を?」
「えぇ。こうしてご馳走していただいているのですから、お礼も兼ねて、片づけの手伝いぐらいはやりたいと思います」
「そ、そんなこと」
「いいじゃん、2人っきりになるチャンスだよ」
「に、に、兄さん!? 何を言ってらっしゃるのかしら!?」
んー。
和やかだねぇ。
お天気もいいし。
凄く気分が晴れやかになるよ。
でもそろそろ、休憩時間は終わりだね。
下に行って、畑の手入れと万能薬作りの続きをやらなくちゃ。
盗賊団の皆が、作業をしてくれてるはずだからね。
交代して、休憩してもらう必要があるのです。
「さてと……」
コップの中身を飲み干して、立ち上がる。
そうだ、ハナちゃん達にも声を掛けなくちゃだね。
そう思って、カッツさん達の方を見ると、力尽きた彼がテラスに大の字に寝転がっているのでした。
それだけなら、なんとも思わないんだけど。
さっきまではしゃいでたハナちゃん達が、興味津々な様子で手すりに駆け寄ったのです。
「なにあれ!?」
「すっげぇ!!」
前方を指さしながら口々に叫ぶ2人。
そんな風に言われたら、気になるよね。
私だけじゃなくベルザークさん達も手すりに向かって歩き出す中。
同じように歩き出そうとした私は、異変に気が付きました。
なんか、身体が重たいような?
どうしてなのかな?
体調が悪いとかそんな感じじゃないよ?
痛みとか、苦しみとか。そんなのも感じないし。
周りに怪しい気配がある感じもしない。
もしかして、攻撃されてる?
でも、それっぽいことは何も無かったしなぁ。
あ、ダメだ、瞼が重くなってきちゃったよ。
それに、頭もフワフワしてきたし。
なんだか、心地いい気分。
ん~。
なんかこの感じ、良く知ってるような気もするなぁ。
毎日、同じ感覚を味わってるような。
そっか、眠たいんだ。
それだけ分かれば、十分だよね。
やっぱり私は、睡魔に弱いのです。
でもどうしよう。
このままだとぐっすり眠っちゃって、皆のことを守れなくなっちゃうかもだね。
困るなぁ。
なんとかして、皆に伝えなく……ちゃ……。