表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/208

第95話 懐古の器:繫栄と風化③

 プロス・ペリテをおお雨雲あまぐもは、夜通よどおあめらせました。


 そのあめが、無数むすうそびえてる建物たてもの屋上おくじょうまり、まち獣人じゅうじんたちの生活用水せいかつようすいになっているそうです。


 出来でき仕組しくみですね。

 ですが、だからこそ、かれらはこの仕組しくみを手放てばなすことが出来できないのでしょう。


いたいことはかった。だが、それが本当ほんとうなのかどうか、確証かくしょうてる証拠しょうこなにもないのでは、どうすることもできないのぅ」

「そんな悠長ゆうちょうなことをってる場合ばあいですか? ワイズさん」

「おまえさんのいたいことはかる。だが、これはそう単純たんじゅんはなしではかろう?」


 ワイズさんのいかけに、イージスさまがってかろうとしています。

 でも多分たぶん、これ以上いじょうはなしをしても、納得なっとくしてもらうことはできないでしょう。


「イージスさま。これはかれらが選択せんたくするべきはなしだとわたしおもいます」

選択せんたくって……危険きけん状態じょうたい放置ほうちするのが選択せんたくなのか!?」

放置ほうちではなく、承知しょうちしているのでしょう。ちがいますか? ワイズさま」

「……手厳てきびしい指摘してきですなぁ」


 椅子いすこしかけたまま、ふかいためいきいたワイズさん。

 色々(いろいろ)かんがえたいことがあるのでしょう、かれしずかに視線しせんとしました。


 きっと、わたしたちがるとってしまいますよね。


 なによりも、わたしたちがこのまち長居ながいすることのほうが、かれらに危険きけんせてしまうかもしれません。


「イージスさま。すぐにまちましょう。きっとそのほういとおもいますので」

「……あぁ。かったよ。ワイズさん、一晩ひとばんめてくれてありがとうございました」

「そのようなこと、にする必要ひつよういぞ。2とも、達者たっしゃでな」


 こころここにあらず。

 とったかんじのワイズさんとわかれ、私達わたしたちかれいえました。


 もとより長居ながいする予定よていかったのです。

 べつ必要ひつようはありません。

 必要ひつよういのですが……どこかすこし、モヤモヤがのこってしまいますね。


 そうえばナフティくんませんでしたが、かけているのでしょうか?

 出来できれば、最後さいごわかれの挨拶あいさつをしたかったです。


「ソラリス」

「はい。どうしましたか? イージスさま」

「いやなんだ、昨日きのう風呂ふろ、すごくかったよな」

「はい、そうですね。あれほど心地ここち水浴みずあびできたのははじめてでした」

「だよなぁ。あんなかんじの風呂ふろがあるいえみたいよな」

「まるでゆめのようなおはなしですが、たしかに、んでみたいです」

「だよなぁ……だぁー、くそっ! やっぱりダメだなぁ、おれは」

「? どうかしたのですか? イージスさま」


 帽子ぼうしうえからあたまおさむイージスさま。

 あるきながらそんなことをしていたら、あぶないですよ?

 せっかくあめんだのですから、綺麗きれいそら見上みあげましょう。


 どこか元気げんきさげなイージスさまに、そんな提案ていあんをしようとしたとき

 ふとかおげたかれが、げたのです。


「ソラリス。口調くちょうもどってるぞ」

「え?」


 口調くちょうもどってる?

 そのようなこと……ありそうですね。


「もしかしていまわたしわらえていませんか?」

自分じぶんからない時点じてんで、わらえてないだろ?」

「そうですね」

「それと、“そうですね”もえてる」

「あ……」


 イージスさまは本当ほんとうにすごいです。

 どうしてそれほどまでに、わたし変化へんかくのでしょうか?

 まぁ、わたしえてくれたのもかれですから、当然とうぜんえば当然とうぜんなのかもしれません。


 本当ほんとうに、たすけてもらってばかりですね。


 きっといつか、わたしてをけて、かれ恩返おんがえしをしなくては。

 自分自身じぶんじしんゆるすためにも。


「イージスさま。ありがとうございます」

「いやいや、全然ぜんぜんにすることじゃないぜ! それに、リンもおしえてくれたしな」

元気げんきでた?』

「ありがとうリンちゃん! 2のおかげで、気分きぶんれましたよ!」


 にかけてくれるひと身近みぢかにいることは、うれしいことですよね。

 そのぶんわたしも2のことをにかけたくなります。


「よぉし! それじゃあなおして、元気げんきよく出発しゅっぱつしようぜ!!」

『しゅっぱつ~!』

きましょう!」


 まちふち到着とうちゃくして、3にん元気げんきよくこぶしげる。

 獣人じゅうじんたちにしろられてもかまいません。


 こうやってきてこうと、めたのですから。


 そうしてそのまま、がけからとうとした私達わたしたちは、ちいさなおといたのです。


 コポッ


 かすかなそのおとを、獣人じゅうじんたちがのがすはずがありません。


 街中まちじゅう獣人じゅうじんたちが逆立さかだてながら周囲しゅうい警戒けいかいはじめるなか

 わたしおと正体しょうたいとらえました。


 それは、ちいさなあわ


 プロス・ペリテじゅう建物たてもの地面じめんから、こまかなあわしてています。


「ソラリス!」

「はい! あれはわたし対処たいしょします! イージスさまはいそいでまち方々(かたがた)を―――」


 さけびながらそうとしたその瞬間しゅんかん

 つよ衝撃しょうげきともに、街中まちじゅう巨大きょだいなヒビがめぐりました。

 同時どうじに、まち中心部ちゅうしんぶからはげしい水音すいおんとどろいてきます。


おそかった!」

「いやまだだ! 獣人じゅうじんたちはつよいんだ! まだなおせる!」


 そうってワイズさんのいえかってけてくイージスさま。

 帽子ぼうしとしてることにもいていないようですね。


「では、わたしはあちらの対処たいしょかうとしましょう」


 かれにはかれの、わたしにはわたしの、るべき選択せんたくがある。


 後悔こうかいしないために。


 街中まちじゅうした気泡きほうは、けば水滴すいてきになって、おおきな水流すいりゅうへと変貌へんぼうげています。


 その水流すいりゅうは、まち中心ちゅうしんかってうごいているようです。

 そうして出来上できあがったのが、巨大きょだいみずものなのでしょう。

 すでにわたし位置いちからでも、その姿すがたることが出来できますので。


 プロス・ペリテの巨大きょだい建物たてものくようにして、周囲しゅうい見渡みわたしてるその姿すがたは、さながら、巨大きょだいなヘビのよう。


 残念ざんねんながら、その姿すがたわたしっているのでした。


「ティアマト……でしたね。これはまた、厄介やっかいなものをおくんでたようです」


 獣人じゅうじんたちがいくらつよくても、実態じったいがない相手あいてにはかなわないでしょう。

 いそがなくちゃ。


 はしっている余裕よゆうなんてありません。

 そう判断はんだんしたわたしが、地面じめんってそらがった瞬間しゅんかん

 ティアマトの巨大きょだいが、建物たてものひとつ、へしっちゃいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ