第87話 ご飯に夢中
坑道とか迷宮の中って、ひんやりしてて気持ちいいけど、暗いからちょっと慣れないよね。
少し先に見える出口を見て、小走りになっちゃったハナちゃんの気持ちが、分かるもん。
尻尾まで振っちゃって、可愛いなぁ。
そんなハナちゃんを先頭に、私達は外に出たのです。
「おぉ! 戻って来られましたか!」
「うん。全部の目標を達成できたから、安心してね、ファムロスさん」
「全部ですか!? それはまた、さすがですね」
そう言いながら、坑道から出て来たクイトさんを見た彼は、小さく息を吐き出してる。
よっぽど心配だったんだね。
確かに、ストレンの魔法で迷宮が揺れるたびに、クイトさんは小さく悲鳴を上げてたもんなぁ。
もしかしたら、妹さんを落盤事故で亡くしちゃったって話と、何か関係があるのかも?
まぁ、推測だけど。
今も、ビクビクと怯えてる彼女のことは、落ち着くまでそっとしておくしかないでしょう。
ネリネに連れてって、お風呂に入れてあげるのもいいかもね。
うん。
クイトさんは、それで良いんだよ。
良いんだけどさぁ。
「あの、ベルザークさん。そろそろ泣き止めないかな?」
「ず、すみません……ですが、ですがぁ!!」
なんか、私が後悔についての話をした後から、ずっと泣いてるんだよね。
理由を聞いても答えてくれないし。
どうしたらいいの?
「おいたん、お外着いたよ」
「はい、ありがとうございます。ハナちゃん」
「あの、これ、使っても良いから」
「ハリエット様まで、ありがとうございます」
ハリエットちゃんからハンカチを受け取ったベルザークさんは、慣れない手つきで涙を拭いてる。
うん、彼のことは2人に任せておこうかな。
今回もそうだけど、ベルザークさんって意外と涙もろいよね。
私がそんなことを考えてると、ファムロスさんがポロッと呟きました。
「ハリエット様……やはりそうですか」
「どうかしたの? ファムロスさん」
「あ、はい、実は先ほど王都からのハトが届きまして、色々と伺いたいことがございます」
「あぁ……」
これは、色々とバレちゃったってことで良いのかな?
マズいって顔のハリエットちゃんと、眼鏡をかけ直すふりをして顔を隠そうとするホリー君。
そんな2人を、ファムロスさんは凝視してるしね。
「そうだね。色々と話さなくちゃいけないことがあるかな。でも、その前に。ファムロスさんにお願いしたいことがあるんだ」
「お願いですか?」
「うん」
頷きながら、私はハナちゃん号から飛び降りて、両手を地面に添える。
そろそろだね。
「お願いって言うのはね、ストレンさんを預けたいってコトと、ミノタウロスさんの面倒を見てあげて欲しいってコトなんだ」
「はぁ……はぁ!? え、今なんと」
「話すより見せた方が分かり易いと思うから、ちょっと離れてくれない?」
ボコボコと隆起し始める地面を見て、私の周りが少しだけ開けました。
うん、これだけ開ければ、大丈夫だね。
あとは、迷宮から伸ばして来た階段の出口を作ってあげれば……。
ボコボコと盛り上がる地面。
見た目を門みたいな感じに整えてっと。
「これで完成!」
「こ、これは……!?」
「ノームの迷宮に入るための階段を作ったから。これでいつでも中に入れるよ」
「そ、そんなことをしてしまったら!!」
顔面蒼白になって叫ぶファムロスさん。
でも、彼の言葉はズシンって鳴る足音にかき消されました。
「ま、眩しいもぉ……」
「ミ、ミ、ミノタウロス!! それにゴブリンまで!!」
「一応、ストレンさんも居るんだけどね」
眠らせたストレンさんを、ミノタウロスさんに連れてきてもらったんだよね。
寝てるし、杖は壊しちゃってるから、もう攻撃はできないと思う。
それでも、ファムロスさんとか他の見張りの人たちは、やっぱり怖いのかな?
明らかに、ミノタウロスさんを警戒してるね。
「えっと、ミノタウロスさん達は私の友達になったから、攻撃とかしないでよね」
「と、友達!?」
「うん。ほら、ミノタウロスさんも、挨拶しなきゃだよ!」
「あ、そうだったもぉ。えっと、オラ、ミノタウロスだもぉ。よ、よろしくだもぉ」
まだぎこちない感じだね。
まぁ、ずっと迷宮に閉じ込められてたワケだから、当然かな。
「というワケで、ファムロスさん。ミノタウロスさんが迷宮の外に出たがってたから、ここで少しの間、面倒を見てあげて欲しいんだ」
「な、なぜ?」
「ホントはね、私達と一緒に連れて行ってあげたいんだけど、まだ外の世界に慣れてないから、迷宮の近場で練習した方が良いかなって話になったの」
「練習……」
さすがのファムロスさんでも、混乱しちゃってるみたい。
ちょっといきなりすぎたかな?
「リグレッタ。ボクから話しても良いかな?」
「ホリー君? うん。大丈夫だよ」
「ありがとう。ファムロス監視長。もう既に知ってると思いますが、ボクは……私はブッシュ王国の王子ブッシュ・カルドネル・ホルバートンだ」
「はっ。先ほど届いた文にて把握しております」
「そうですか。では王族の命令として聞いてもらいたい。そこのミノタウロスを、しばしラズガード鉱山にて預かってくれないか」
おぉ。
なんか、ホリー君が急に命令し始めちゃったよ。
これが、王族の力なのかな。
それからホリー君は、坑道の修復とか人員補充とかについて話し始めちゃった。
ちょっと難しい話だから、良く分かんないね。
まぁ、ミノタウロスさん達には、坑道の修理を手伝うようにお願いしてるから、その話をしてるんじゃないかな。
ホントは私がやっちゃえば、すぐに直せるけど。
ホリー君の提案で、ミノタウロスさん達に手伝ってもらうことになったのです。
確かに、一緒に作業とかすると、仲良くなれる気がするし、名案だと思う。
そんな話が終わった後、ようやくファムロスさんもミノタウロスさん達を怖がらなくなったよ。
ホリー君って、交渉とか上手なのかもしれないね。
「それじゃあ、難しい話はこの辺で終わって、ご飯にしよう! はぁ~。もうお腹ペコペコだよ」
「ハナもお腹減った!!」
「だよねぇ~」
坑道と迷宮の探検も、いま思い返せば楽しかった。
まだまだ考えなくちゃいけないことは沢山あるけど、ちょっとくらい休憩しなくちゃだよね。
「食事なら、既に準備は出来ていますので……あぁ、ただ、まさかミノタウロスを連れて来るとは思っていなかったので、量が足りるか分かりませんが」
「オラ、腹は減ってないから、大丈夫だもぉ」
「そ、そうですか。それは安心ですね」
ファムロスさんの今の安心は、色んな意味が含まれてそうに見えたけど。
まぁ、気のせいかな。
「ふぃ~。安心すると腹が減るっスねぇ」
「だらしねぇなぁ。シャキッとしろカッツ!」
「ムリっスよ、ラフ爺」
「では、皆さんこちらへ。食事をしながら、色々と積もる話をしましょうか」
そう言ったファムロスさんは、ハリエットちゃんとホリー君に視線を投げたね。
あぁ、私はご飯に夢中になってても大丈夫かな?
「話をするのは良いけど、リグレッタにも事情を聞いてよね!」
「もちろん、そのつもりです」
あぁ。ダメみたいだぁ。