第80話 ノームの迷宮
ノームの迷宮にお宝。
そんな話を聞いたハナちゃんが、大人しくしてるワケ無いよね。
「行こっ!」
「うぅっ!」
キラッキラした目で、まっすぐにお願いされちゃったら、断りにくいよっ!
それに、綺麗に編み込まれた髪型も似合いすぎてて……。
だ、ダメだぁ。
やっぱり断れないよ。
可愛いすぎる。
ハリエットちゃんめぇ。
可愛くおめかししすぎだよぉ。
お礼も言いたいけど、複雑なところだね。
「実際よぉ、迷宮の探索をするのが一番手っ取り早いんじゃねぇか?」
「ラフ爺!? 何を言ってるっスか!?」
「何って、迷宮を探索して、坑道と繋がってる穴を塞ぐんだよ」
「そうですね。私としては、ストレンの動向も気になりますので、賛成です」
意外だ。ベルザークさんは反対すると思ってたよ。
でもそっか、あの爆発は危ないからね。
どこに行ったのかくらいは、把握できた方が良いかもしれない。
「お宝もあるしね。ハナちゃんも、そう思うでしょ?」
「うん! 探検だねっ!」
「……マジで行くんスか?」
ダメだぁ。
これはもう、ハナちゃんも連れてノームの迷宮に入るって流れになってるよ。
嫌がってるのはカッツさんくらいだね。
ソワソワしたり、ワクワクで目を輝かせたり、なにやら覚悟を決めたように真剣な眼差しをしたり。
皆が迷宮に挑もうとしてる中、ファムロス監視長がボソッと呟きました。
「ノームの迷宮か……」
「ファムロス監視長、どうしたんですか?」
「大したことではないのですがね、クイトも同行させることが出来れば良かったのにと思いまして」
「クイトさんを? 確かに、クイトさんって地面の中を潜って移動できるんですよね?」
彼女のあの能力があれば、坑道と迷宮を繋ぐ穴を探すのが、ちょっとは楽になる気がする。
「彼女のあの力は、ノームの杖によるものなのです」
「ノームの杖!?」
「はい。監視塔で代々使用されているもので、大地や植物を操れるようになります」
「ほう。そんなものがあったのですね」
驚く私とベルザークさんに視線を向けたファムロス監視長は、小さく頷いた後、話を続けます。
「彼女は他の誰よりもノームの杖との相性が良く、その力を一番使いこなすことが出来ているのですよ」
「へぇ。それはどうしてなんだろ」
「恐らくですが、彼女がノームに愛されたエルフの末裔であることが関係しているのでしょう」
エルフだってことは知ってたけど、ノームに愛されてるってのは、知らなかったなぁ。
ていうか、愛されてるってどういうこと!?
そのままの意味?
聞いてみたいけど、多分、あんまり関係ない話だよね。
今は自重しておこう。
でもそっか。
で、ノームの迷宮に行くなら、ノームに愛されてるクイトさんも連れてった方が良いんじゃないかって、ファムロス監視長は考えてるんだね。
杖を使いこなせるのと同じように、迷宮でも何か恩恵があるんじゃないかって。
「で、クイトさんって今、どこに居るんだっけ?」
「……」
なんか、皆黙り込んじゃった。
どうしたんだろ。
ハナちゃんとハリエットちゃん、ホリー君の3人は、私と同じで何も知らない感じだね。
何か隠してる?
そう感じた私は、同じく、さっきから気になってたことを、ラフ爺とカッツさんに尋ねることにしました。
「赤毛のフレイ君って、どこにいるの?」
「っ!? そ、それはっスね、えっと……」
「カッツ。お前さんはちょっと黙っとれ」
言葉を濁すカッツさんを、止めたラフ爺。
彼は真っ直ぐに私に向き直ると、深いため息を吐きました。
「フレイは今、ネリネの部屋で休んでる」
「昨日の怪我が治らなかったの?」
「いいや、怪我はもう治ってるぜ。でも、あいつの心は今、ズタボロになっちまってるからよ」
「心が?」
「あぁ。フレイにはな、セツっていう仲の良かった幼馴染がいたんだよ」
仲の良かった幼馴染が、いた。
彼のその言葉が何を意味してるのか、全部聞かなくても、なんとなく分かっちゃうよね。
「セツを探して、坑道の奥まで向かったフレイはよぉ。今日の朝、知っちまったんだ。あの子がもう、死んじまってるってことをな」
「そっか……」
なんというか、救いのないお話だね。
どうしてあんな坑道の奥深くに、フレイ君とハナちゃんが居たのか、気になってたけど。
その、セツって子を探してたんだね。
でも、この話とクイトさんが居ない理由は、繋がってるの?
私がそんな疑問を抱いた瞬間。
ファムロス監視長が続けました。
「セツは、クイトの妹なのです」
「え……」
「数年前、このラズガード鉱山から大量の脱走者が出た後、セツは落盤事故にあい、命を落としました。その事故を受け、クイトは心を壊してしまったのです」
「……」
「ノームの杖で地面に潜っている間、彼女はセツが傍にいるように思えると言って、最近まで落ち着いていたのですがね……」
ファムロス監視長が口を閉ざしちゃった。
そういえば、彼はよく、落ち着けって自分に言い聞かせてたよね。
それって、クイトさんの事情を知ってたから、あんまり強く怒れなかったってコトかな。
「で、そのクイトさんは、どこに行ったのですか?」
「ちょっと兄さん! 今はそんな雰囲気じゃないでしょ!?」
「雰囲気とか言われてもなぁ。そんな物より、今は考えるべきことが沢山あると思うんだけど」
「そんなもの無いわよ!」
「あるでしょ。坑道に魔物が溢れてる。そんな状態でもし、クイトさんが坑道に、もしくはノームの迷宮に迷い込んでたら、危ないじゃないか」
「うっ」
確かに、ホリー君の言うことも正しい気がするね。
皆の反応を見る限り、クイトさんが安全な場所にいるって保証は、なさそうだし。
「うん。分かったよ。それじゃあこうしよう。今から準備を整えて、坑道に入る。目的は大きく3つ。魔物が入って来てる道を確認すること。クイトさんを探すこと。そして、白いフードのストレンの足取りを追うこと。これで問題ないかな?」
全員が大きく頷き、各々が準備を始めます。
私も、監視塔にあった剣とか盾に『魂宿りの術』を施したよ。
油断はできないからね。
ファムロス監視長は同行しません。
外に残る人たちをまとめる役目も必要だからね。
ホントはハリエットちゃんとホリー君も残って欲しかったけど、頑なに拒否されちゃった。
勝手に着いて来られるのは困るから、仕方なく連れてくことにするけど。
ちゃんと守ってあげないとだね。
そんなこんなで準備を整えた私達は、さっそく坑道に足を踏み入れるのです。
「ほ、ホントに行くんスかぁ~?」
「荷物持ちが1人は必要だ。いい加減、腹を括らんかい!」
「っ……うっス」
「たんけ~ん! いこ~!」
「こらハナちゃん。遊びに行くんじゃないからね!」
「は~い!」
ハナちゃんの元気な声が、坑道の中に響き渡る。
ちょっと緊張感が足りない気がするよ。
でもまぁ、これくらいが良いのかも。
だってさっきから、ベルザークさんとかラフ爺の雰囲気が、とても重たい気がするんだもん。