第75話 会わせたくない人間
坑道内での爆破行為。
そんなものが続けば、脱出口が埋まってしまうのも時間の問題です。
そうと分かれば、まずは脱出経路の確保が最優先でしょう。
「それでは皆さん。今から出口に移動します」
「でも、フレイおハナちゃんはどうするっスか!?」
「もちろん探しに向かいます。ですが、脱出経路も分かっていないまま探し回るのは、死にに行くようなモノでしょう」
カッツたちは少しだけ不安そうな表情をしていますね。
彼らはまだ、理解していないのでしょうか?
この場所には、リグレッタ様がいらっしゃるのです。
彼女が、ハナちゃんのことを放置するなんてことが、あるでしょうか。
いえ、絶対にありえないことです。
「ここで言い争いをしている暇はありませんよ。さぁ、急いでください」
「おう! おめぇらも、ぐずぐずするな! カッツ、そこの倒れてる見張りも連れてきてやれ!」
「りょ、了解っス!!」
ラフ爺の指示を受けた盗賊団は、非常にてきぱきと動くのですね。
なんだかんだ言って、彼らもいくらかの修羅場は経験しているのでしょう。
そういう意味では、彼らの存在はリグレッタ様にとっても有益なのかもしれません。
おっと。
今はそれどころではありませんね。
ラフ爺に引き連れられるようにして、全員が部屋から駆け出して行く。
最後に残った私は、誰も取り残されていないことを確認すると、すぐに通路へ飛び出しました。
通路を走りながら、私は坑道に異変が生じていることに気が付きます。
先ほどまでは無かったはずの岩の柱が、通路の至る所に張り巡らされている。
「さすがはリグレッタ様ですね」
恐らく、私達の居場所さえも把握したうえで、出口までの経路を確保してくださったのでしょう。
ラフ爺やカッツたちも、多くの崩れた通路を目の当たりにしたことで、状況を理解したようです。
ふっ。
これだけ見れば、さすがにリグレッタ様の偉大さを理解したと思って良さそうですね。
「器用な嬢ちゃんだぜ」
「ホントっスね。俺達にもこんな力があれば、何人救えたっスかね?」
のんきなことを言う男だ。
例え力を持っていたとしても、自分が逃げ出すことに使っただろうに。
もちろん、そんな言葉を口にすることはしないが。
それが私の、正直な感想だ。
リグレッタ様が作ってくれた経路をたどり、坑道の出口を目指す。
そうして、少し先に外の光が見え始めた頃、何かが私たちの眼前に姿を現した。
通路を歩く小さなゴーレム達。
以前、ネリネを造り上げる際に木を切っていたゴーレム達のようだ。
落盤に巻き込まれ、怪我を負った鉱山の作業員たちを外に運び出しているらしい。
「あれは!? ゴーレムっスか!?」
「それよりも今は走れ! カッツ!!」
足を止めようとするカッツに、喝を入れるラフ爺。
良い判断だ。
盗賊団はこのまま、外に出ていてもらおう。
次は私が動く番です。
色々とお礼をするために、リグレッタ様の元へ向かわなければ。
そう思った私が踵を返したその時。
シーツが坑道に飛び込んできました。
そのまま私の元へ来たシーツは、くるんでいた物を私に投げ渡す。
「これは、盾とナイフ?」
どこから持ってきたのか?
ナイフはともかく、ネリネには盾など置いてなかったはず。
となれば、恐らく監視砦のどこかから持ってきたのでしょう。
どちらにせよ、ありがたく使わせてもらいましょうか。
爆破魔法を相手取るとなれば、少々心もとない気はしますがね。
無いよりはマシです。
「一人でどこに行くつもりっスか!」
「先ほど言ったでしょう。探しに行くのですよ」
「さっきの通路を見なかったっスか!? 落盤だらけで、探しに行くなんて到底―――」
中途半端なところで、カッツの声が途切れる。
きっと、私に何を言っても意味などないことを理解したのでしょう。
そうと分かれば―――
「一人じゃねぇぜ。俺も行く」
「? なぜ着いて来るのですか?」
いつの間にか、すぐ背後に立っていたラフ爺。
彼は私の質問など無視して、入り口で愕然としているカッツに向けて叫んだ。
「おめぇら!! 外の奴らの面倒を見てろ! それと、ネリネから薬をたんまり持ってきとけ! 後で使うだろうからなぁ!!」
「―――っ! 了解っス!! ほら皆! 動け動けっス!!」
返事をしてすぐに走り去っていくカッツ。
そんな彼を見送ったラフ爺は、私の隣に並び立つと、口を開いた。
「ずいぶんと嬢ちゃんに心酔してるようだな」
「当たり前でしょう。彼女の偉大さには、頭が上がりませんからね」
「そいつは違いねぇ。が、死ってのは平等なんだぜ?」
「……何が言いたいのですか?」
「別に。分かろうとしねぇやつに、教えてやるつもりはねぇよ」
それだけ言い、ラフ爺は一歩を踏み出す。
背中から、これ以上話すことは無いとでもいうような雰囲気が、にじみ出ていますね。
まぁ良いでしょう。
私としても、おしゃべりがしたいわけではありませんので。
それよりも今は、私がするべきこと、考えるべきことを整理しておきましょう。
リグレッタ様なら、難なくハナちゃんを助け出すことでしょう。
ですが今回、彼女の前に現れるのは、単なる刺客ではありません。
プルウェア聖教国の、爆破魔法を使う刺客。
それがもし、彼女だったなら。
「ストレン。でしたか? あの女は危険ですからね」
死んでもいい。
少しでも、そんな考えを持っているリグレッタ様には、会わせたくない人間だ。
戦闘うんぬんよりも、私がするべきことは決まっていますね。
あの女が、リグレッタ様に変なことを吹き込まないようにしなければ。
急がねばなりません。リグレッタ様のためにも、そして、私たちの為にも。