第72話 内緒の探検
王都でのスパイ騒ぎを受けて、ラズガード鉱山は検問所としての役目も担っている。
とかなんとか、ファムロス監視長が教えてくれたよ。
だから、ここを通るためには、通行証が必要なんだって。
「持ってないんだよねぇ。まぁ、貰わずに勝手に出てきちゃったから、当然なんだけどさぁ」
「そうなんだ」
「でもさ、私が解放者だってことは、見た目で分かるでしょ? 分かんない?」
「分かるよ」
「だよね!? だったら、別に皆を閉じ込めちゃう必要は無いと思うんだけど、違うかなぁ?」
机を挟んで座ってるクイトさんに同意を求めてみたけど、あんまり意味は無かったみたいだね。
小さく首を傾げるだけで、全然反応してくれないや。
ファムロス監視長から通行証を求められた私は、正直に、持ってないことを伝えました。
当然だけど、彼は反応に困ってたね。
その後、ファムロス監視長が王都に確認をするとのことで、ネリネに居た全員を監視塔に閉じ込めちゃったんだ。
ちなみに、ネリネは監視塔の近くまで着いて来てもらったよ。
置いてけぼりは寂しいだろうしね。
それにしても、確認って、どれくらい時間が掛かるのかな?
クイトさんと2人、この部屋に通されてから1時間くらい経ってる気がするんだけど。
「ねぇクイトさん。まだ部屋から出ちゃダメなのかな? そろそろお腹が空いて来たんだけど」
「ん。私もお腹空いた」
「あ、そうなんだ」
お腹を摩るクイトさん。
そのまま椅子から立ち上がって、部屋から出て行っちゃったよ。
「もしかして、見張りをしてること忘れちゃってるのかな?」
別に、誰に見張られてても、強引に逃げ出すことは出来るワケで。
でも、それをやっちゃうと、色々と迷惑を掛けることになっちゃうんだよね。
もとはと言えば、私たちが勝手に出発したのが原因だし。
大人しくしておいた方が、良いよね。
「おまたせ。食べる?」
「え? あ、良いの?」
静かに戻って来たクイトさんが、何かを机の上に置いた。
なんだろ、これ。お皿に乗ってるから、食べ物だよね?
見た感じ、薄く切った何かで野菜とお肉を挟んでるものみたい。
クイトさんも食べ始めたし、取り敢えず食べてみよう。
「ん。美味しい」
ちょっと固いけど、野菜とかを挟んでるのはパンみたいだね。
母さんが、パンを作るための材料は希少だから、滅多に食べれないんだよって言ってたっけ。
「森の外なら、材料が手に入るのかな」
「?」
「あ、ごめん。こっちの話だよ。それより、美味しかったです。ありがとう」
「皿は置いてていい」
「うん」
お腹も満たせたし、ちょっと散歩でもしたいな。
許されればだけど。
あぁ、ハナちゃん達、今どこにいるのかな?
大丈夫かな、無事かな。
怪我とかしてないよね。
一応、どこにいるのかだけでも調べておこう。
意識を集中して、周囲を見渡す。
そうして私は、ハナちゃん達と思われる沢山の魂を、視界に捉えたのでした。
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「クソッ! 結局捕まるのかよ!!」
おっきな部屋に、ラフ爺の声が響いた。
怒ってるみたい。
『とーぞくだん』の皆も、ソワソワしてるし。
なんか、落ち着かないね。
「落ち着きましょう、先ほどあなたも仰っていたように、彼らも迂闊に危害を加えたりはできないはずです」
「そ、それはそうっスけど、落ち着けと言われて落ち着ける場所じゃないっスよ、ここは」
おいたんとカッツさんが喧嘩を始めちゃった。
みんな、カリカリしちゃってる。
ハリエット姉ちゃんとホリー兄ちゃんは、お部屋の隅に座ってるし。
なんか、暇だね。
きっと、リッタがなんとかしてくれるから、怖くないし。
今だってほら、どこかからリッタの声が聞こえて来てる……気がする。
ん、聞こえないね。
気のせいだったみたい。
でも、大丈夫。
リッタは、なんでもできちゃうから。
ハナ達のことも、すぐに助けてくれるよね。
だから、この薄暗い部屋も、怖くないんだよ。
「お空、見たいな」
怖く無いけど、窓が一つもないこの部屋は、あんまり好きじゃないです。
どこかに窓はないのかな?
壁のところに積まれてる木箱の裏とか、見てみる?
そうだ!
窓を探して、部屋の中を探検しよう!
ワクワクしてきたね!
あっちにもこっちにも、箱が置いてあるから、窓が隠れててもおかしくないはず!
おいたん達も、窓があることを知ったら、きっと喧嘩を止めてくれるよね。
そうと決まれば、じっと座ってるわけにはいかないの!
この部屋はおっきいからね。
木箱の間を進んだら、壁があったよ。
あとは、この壁に沿って歩けばいいよね。
「た~んけ~ん、た~んけ~ん。楽しいなぁ~」
いいお歌が出来たから、あとでリッタに教えてあげよう。
でも、その前に。
「なにしてるの?」
「……」
壁に沿って歩いてたら、なんか、壁に右手を突っ込んだ状態の男の子がいました。
たしか、『とーぞくだん』の赤毛君だ!
「こんにちは、ハナだよ。お名前、教えて下さい」
おいたんが教えてくれた、じこしょーかい。
あとで上手にできたよって自慢しなきゃだね。
でも、今は。
赤毛君の手元が気になるのです!
「そこ、穴が空いてるの?」
「しっ! バカッ! 大きな声を出すなよ!」
怒られちゃった。
なんで大きな声を出しちゃダメなのかな?
分かんないけど、静かにしようね。
「なにしてるの?」
今度は小さな声で聞いてみたけど、何も教えてくれない。
イジワル。
だったらハナも、イジワルし返しちゃうもん!
「ふぅ~」
「なっ!? ちょ、バカ!! 声を出すつもりじゃないだろうな!?」
「ふっふっふっ」
「っ……分かったよ。その代わり、皆には言うなよ?」
そう言った赤毛君は、穴に入れた手を、なにやらごそごそと動かした。
すると、カパッと小さな音と一緒に、壁にヒビが入ったんだよっ!
ひび割れをこじ開けて、そのまま小さな穴を作っちゃった赤毛君。
「なにしたの!? すごいね!!」
「別に凄くはねーよ。それより、早く着いて来い!」
誘われるまま、ハナは赤毛君と一緒に壁の穴に潜り込みます。
おぉ。
探検だねっ!
狭くて暗くてゴツゴツしてるけど、怖くは無かったよ。
そんな道を潜ったハナ達は、どこか別の部屋に出ました。
「おぉ~。面白かったね! もっかい行こっ!」
「バカ! 戻ってどうするんだよ! 先に進むんだ!」
また怒られちゃった。
「ねぇ、どこ行くの?」
「なんでもいいから、黙って着いて来いって!」
やっぱり、赤毛君はなんにも教えてくれないみたい。
でも、小さく呟いた声だけ、聞こえちゃった。
「せっかく戻って来たんだ。今度こそ、一緒に連れてくぞ……セツ」
セツって誰だろ。
そもそも、赤毛君って何て名前なの?
教えてくれないから、分かんないよ。
ハナ、分かんないことばっかりだ。
いつか、リッタみたいに、何でも分かるようになれるのかな?
なれるなら、少し楽しみだね。