第68話 分かんないよ
今日も、お手紙は入ってません。
おかしいね。
どうして届かないのかな?
ずっと前に出したのに。
もしかして、折り鶴さんが迷子になっちゃってるのかも!?
だってハナ達、ネリネで森から出ちゃったもんね。
むぅぅぅ。
リッタに見て欲しかったのにっ!
「ハナちゃ~ん。ちょっと手伝ってくれる~?」
リッタが呼んでるっ!
行かなくちゃ!
この声はきっと、畑だね!
カッツさんとラフ爺の声も聞こえるから、またコネコネをやってるのかな?
ハナも一緒にコネコネする!
ん。
違った。
コネコネじゃないや。
また畑で暴れ生姜がガオガオしてるんだね。
「ハナちゃんお願い! いつもみたいに!」
「わかった!」
「ちょっ! あんな小さい子に何をさせるつもりっスか!?」
「仕方ないでしょ! 私が触っちゃったら、鮮度が落ちるんだもん!」
「それどころじゃないっスよ!?」
「大丈夫だよ、カッツさん。ハナちゃんはすっごく強いんだからね」
えへへ。
リッタに褒められちゃった。
頑張るっ!
ハナの爪なら、暴れ生姜の根っこなんて、怖くないもんねっ!
スパッ、スパッと切ってくのは、お料理みたい。
ハナもいつか、リッタと一緒にお料理できるかな?
お母たんがしてくれたみたいに、あーんって、やりたいな。
「さすがハナちゃん! ありがとう~」
「うん!」
「す、すげぇ……っス」
「かっかっかっか、さすがは、獣人族ってところだなぁ!」
「ふふふ。もっと褒めて良いよっ!」
リッタもカッツさんもラフ爺も、みんな、ハナのことを褒めてくれるから好き。
ご飯も、皆で食べれるし、楽しいよねっ!
「こんなにちっこいのに、やるっスね! 盗みも上手そうっス」
「ちょっとカッツさん? ハナちゃんに変なこと教えないでよね!」
「わ、分かってるっスよ! こんなかわいい子に、犯罪なんかさせられないっス」
カッツさんが、頭を撫でてくる。
ラフ爺が、ゲラゲラしながら、背中を叩いて来る。
楽しいね。
楽しいけど、ハナはね、ちょっとモヤモヤしてるの。
何か、変なもの食べちゃったっけ?
ううん。
きっと違う。
お腹じゃないんだもん。
お腹より、ちょっと上の方が、少しだけキュッてなるの。
リッタなら、知ってるのかな?
リッタは何でも知ってるし、何でもできるからね。
でも、聞けないんだ。
だって、キュッてなるのはいつも、リッタを見た時なんだもん。
最近、ネリネに沢山人がいるから。
楽しいことが、増えてるのに。
ワクワクが、増えてるのに。
……痛くないから、大丈夫だもん。
『ハナちゃんはすっごく強いんだからね』
リッタもそう言ってるし。
「ハナ、今から『たんれん』してくるね!!」
「そっか! 頑張ってね、ハナちゃん! 応援してるよ!」
「鍛練っスか!? 頑張るっスねぇ」
「おうカッツ。俺らも仕事が終わったら、鍛練しに行くか?」
「か、勘弁してほしいっス!」
また賑やかになる畑。
あ。
ほら、まただよ。
笑ってるカッツさん達から、少し離れた位置で、リッタが微笑んでる。
怖くないよ?
痛くもないし。
もちろん、嫌いじゃない! 大好き!
リッタは綺麗だし、強いし、明るいし眩しい。
それなのに、キュッってなるんだもん。
どうして?
分かんない。
分かんないけど、分かんないときは、『たんれん』したら良いって、おいたんが言ってたよ。
だから、『たんれん』に行こう。
身体動かして、お風呂入って、ソファでくつろいでれば、お腹のキュッは起きないからね。
手紙も来ないし、キュッってなるし。
なんか、モヤモヤする。
「母たん、父たん、また返事してくれるかな?」
リッタと初めて森の外に出た時、すごくきれいなお返事をしてくれた。
その後も、何回かお返事をくれてたんだよ。
でも、最近はお返事くれないの。
忙しいのかな?
いつも、ハナのことを見てくれてるんだよね?
でも、忙しいなら、仕方ないよね。
ん。
おいたん、今日は『たんれん』してない。
いつも、先にいるのに。
なんか、ちょっと、寂しいな。
……リッタも、寂しいのかな?
母たんと父たんが、言ってた。
森の中には、一人で寂しい思いをしている女の子がいるって。
森からたまに聞こえて来る声は、その女の子の声なんだよね。
でも、今は森じゃなくてネリネに居て、リッタの周りには沢山人がいるんだよ?
それなのに、寂しいのかな?
「んー。わかんない」
「何が分からないのですか?」
「ふぇっ!? お、おいたん! いたの?」
「鍛練場に居ない私など、私ではないと言っても過言ではないでしょう……いえ、さすがに過言ですね。忘れてください」
おいたん、また変なこと言ってる。
いつも通りだね。
ちょっと安心。
「おいたん、今日は『たんれん』しないの?」
「するからここに来たのですよ」
「そっか」
それなら、ハナも『たんれん』を始めようかなぁ。
「あの、ハナちゃん」
「んー?」
「なにか、あったのですか?」
「……え?」
おいたんが、また変なことを言い始めたよ。
「気のせいだったら別にいいのですが、なんとなく、元気が無いように見えたので」
「ハナは元気だよ?」
「そうですか? では、何かあったら相談してくださいね」
「何も無いよ~」
「何も無くてもです。私は相談をして欲しいんですよ」
「変なの」
「そうですか? ではハナちゃんは、リグレッタ様から相談をされたら、嬉しくないですか?」
そんなのっ!
「う、うれしー……かも」
「でしょう? 私も、ハナちゃんから相談をされたら、同じくらい嬉しいのですよ」
「そうなんだ」
おいたん、やっぱり変なこと言ってるね。
でも、もっと変なのは、ハナの方だよ。
なんでまた、キュッってなるの?
分かんない。
分かんないよ。
「相談、無いですか?」
「……分かんないよ」
「そうですか。でも、それでいいと思いますよ」
「? どーいうこと?」
「ハナちゃんが抱えてる、その『分かんない』というもの。それが何なのか知って行くのが、楽しいのだと私は思うのです」
「分かんない」
「まぁ、取り敢えず。ハナちゃんはどんな時でも、リグレッタ様の傍に居てあげてくださいね」
そんなの、当たり前だしっ!!
おいたんは、ハナがリッタの傍を離れると思ってるのかな?
もしそうなら、ちゃんと分かってもらわなくちゃ!
「ずっと一緒だもん!!」
「ずっと、ずっと。ですね」
「うん!!」