第65話 自分で蒔いた種
「はぁ~」
疲れた時って、深いため息が出てきちゃうよ。
皆も同じなのかな?
きっと同じだよね。
だって、ベルザークさんがため息を吐く私に向かって、声を掛けてくれたんだもん。
「お疲れのようですね」
「まぁねぇ~。今日は色々あったからさぁ。そりゃ疲れるでしょ」
下水道でラフ爺たちと会ったのが始まり。
翌朝には、ハナちゃんに臭いって言われて。
ハリエットちゃん達と入浴剤と香水を買いに行ったっけ。
その後、騎士とラフ爺達のイザコザに遭遇して、ペンドルトンさんとの仲裁に奔走したのです。
1日で色々ありすぎじゃない?
ついさっき、ペンドルトンさん達が街に帰ってくのを見送ったところ。
本音を言えば、今すぐにでもベッドに飛び込んで、眠っちゃいたいよ。
でも、改めてゆっくりとお風呂にも入りたいし、ご飯も食べたいな。
なんて考えながら、ソファでぐったりしてる私の前に、ハナちゃんがピョンピョンと駆けてきました。
「今日、楽しかったね」
「そうだね~。買い物とかもできたし。そう言えば、もう臭いは大丈夫?」
「うん! リッタ、良い匂いがするよ!」
「よかったぁ~。ふぁ~……安心したら、眠くなってきちゃったよ」
もうむり、眠たい。
これは、お風呂もご飯も、今日は我慢だね。
そうは思っても、中々ソファから立ち上がれないのです。
そんな私を見かねたのかな?
ベルザークさんが近くにあった箒を私の方に差し出しながら言いました。
「それでしたら、後の事は私に任せて、早くお休みになられてください」
「うん。そうするよ。ありがとね、ベルザークさん」
言いながら、頭の上あたりに差し出された箒に両手を掛けると、いい具合に箒が私の身体を引き上げてくれた。
そのまま、ベッドまで引きずって行ってくれるみたいだね。
あぁ、楽ちん。
いつもなら、ハナちゃんの前でこんなだらしないことしないんだけど。
今日くらいは良いよね?
……ハナちゃんが笑ってる気がするけど、見なかったことにしましょう。
そのまま、ベッドに辿り着いた私は、すぐに眠りに落ちたのです。
やっぱり、睡魔には勝てっこないのですよ。
朝までゆっくり休んで、また明日を元気に迎えましょう。
なんて思ってた私だけど、翌日から、更に忙しい日々が始まったのでした。
まぁ、自分で蒔いた種だから、自業自得なんだけどね。
「とりあえず、ラフ爺達にはこのペーストを沢山作ってもらいたいんだけど、出来そう?」
「おう、取り敢えず、やってみるぜ!」
ネリネの作業場で、元気に返事をするラフ爺。
私は今、彼とカッツさんに、万能薬の元になるペーストの作り方を教えていました。
それがもう、大変で大変で。
昨日の自分を、引っ叩いてあげたくなったよね。
ラフ爺もカッツさんも、物覚えが悪いわけじゃないんだよ。
でも、そもそものお話として、2人は私と一緒の空間に居ることに慣れてないのです。
2人が何気なく腕を動かして、私に触れちゃったら、死んじゃうんだからね。
お互いに、緊張しちゃった結果ってことかな。
これこそまさに、死と隣合わせだね。
なんて言ってみたりして。
冗談になってないかな?
そんなことはさておき、今回、私が2人に教えた万能薬は、塗り薬タイプのものです。
飲み薬タイプも作れるけど、大量に作るとなると、塗り薬の方が管理が簡単なんだよね。
それに、飲み薬の方は材料集めも大変だし。
「それじゃあ、ちょっと材料のマンドレイクを採ってくるから、2人はエントさんの葉を砕いててね」
「ちょ、マンドレイクを採って来るって、ここに居たら危ないっスよね?」
そういうカッツさんは、作業部屋から見える階段を凝視してる。
「なんで? なにも危ないものは無いけど?」
「マンドレイクを引き抜いたら、けたたましい鳴き声で、死ぬって聞いたことがあるっスよ!?」
「あぁ、そういうこと。大丈夫だよ。だって、私が引き抜くんだし」
「は? はぁ。あぁ、そっか。そうっスね」
なに、その反応。
ちょっと面白いんだけど。
2人が作業に取り掛かり始めたのを見て、私はすぐに畑のある1階に向かった。
持ってきてたバケツにマンドレイクを入れる。
今回はとりあえず、1個で良いかな。
練習みたいなものだしね。
2人がペーストの作り方を覚えたら、本格的に他の盗賊団のメンバーにも手伝ってもらわないとだね。
今日から、2階の部屋には来てもらってるけど、さすがにまだ緊張してるみたいだし。
やっぱり、知り合いから教わった方が、良いよね。
ハナちゃんもベルザークさんも、盗賊団の受け入れには納得してくれたみたいだし。
今頃、ハナちゃんが皆を案内して回ってるのかなぁ。
良いなぁ。
私も、もう一回案内してもらおうかな。
なんて考えてたら、作業部屋に到着!
お、2人ともちゃんと葉っぱを粉々にできてるね。
「それじゃあ、今度はマンドレイクの根っこをすり潰して、今作った粉と混ぜ合わせてみて」
「こ、これを……すり潰すのか」
「ちょっと、抵抗を感じるっスね」
「確かに、顔っぽく見えるから、ちょっと嫌だよねぇ。分かる。うん。分かるよ」
「共感するんスか!? そこはもっと、慣れた感じのオーラを出して欲しいっスよ!!」
そんなこと言われてもねぇ。
誰しもが通る道なんだから、頑張ってね。
そんな軽い気持ちで作業を促したら、ラフ爺が苦虫を潰したような表情で呟いたのです。
「やっぱり、死は平等ってことだよなぁ」
「な、なるほど。さすがはラフ爺っス!!」
「いや、そんな深い意味なんて無いからね!?」