第61話 死は平等
カッツさんの過去を消す方法なんて、私が知るワケないよね。
だって、私はカッツさんの過去を知らないし。
ペンドルトンさんの過去だって、知らない。
なんだったら、森の外で過去に起きた事も、知らないんだもん。
私が知ってるのは、ほんの少しだけ。
森の外に出たらダメだってコト。
そして、人に触れちゃいけないってコト。
だからかな。
ペンドルトンさんの言ってることが、理解できないや。
つまり、罪を犯した人は、命を奪われちゃうってこと?
だって、過去を消すなんて、出来るわけないもんね。
もし、それがホントだったら、私はとっくの昔に殺されちゃってるはずだよ?
解放者なんだしさ。
今もこうして、森の外に出ちゃってるし。
うん。
やっぱり、間違ってると思うな。
「ペンドルトンさん。やっぱり、私には理解できないよ」
「……そうですか」
「うん。だって、まだまだ話し足りないんだもん」
「?」
「だから、ちょっと強引になっちゃうけど、時間を作らせてもらうからね」
私の言葉を聞いて、即座に槍を構えるペンドルトンさん。
だけど、反応するのがちょっと遅かったね。
わずかな時間があれば、放り投げた手袋が、槍を押さえてくれる!
その間に、私がやったことは、単純なものでした。
「帽子も、マフラーも、靴も、コートも!! みんなでペンドルトンさんを邪魔して!! あ! コートはちょっとだけ、風を起こしてチョーダイ!!」
すかさず飛んでく衣服たち。
ちょっと寒いけど、今は我慢だね。
コートから貰った風で、右手にシルフィードを構築しながら、左手は足元に添える。
洞窟の奥からこっちの様子を伺ってた騎士達が、腰元まで地面に埋まっちゃった。
まぁ、私がやったんだけどさ。
カッツさんとラフ爺を助けるのを、邪魔されちゃ困るからね。
傷薬は……ズボンのポケットに入れとこう。
「よし。それじゃああとは、ペンドルトンさんだけかな」
邪魔が入らない環境を確認しちゃえば、こっちのものだよね。
四方八方を飛び回って、ペンドルトンさんの視界を奪ったり、足元を掬ったりしてる衣服たち。
シルフィードの風に乗ってるから、目で追うのもやっとの速さだね。
翻弄されてるペンドルトンさんも、頑張ってるけど、私に注意を向ける余裕はなさそうで良かった。
「ちょっと失礼しまーす」
風に巻き込まれない程度に、ペンドルトンさんに近づく。
そして、カッツさんを捕まえてる彼の腕に狙いを定めました。
「ノーム。頼んだよ」
『ひでんのしょ』5冊目の38ページ。
土の分身。
私の足を伝って意思を受け取ったノームが、ペンドルトンさんの足元から顕現する。
今の私に出来るのは、腕を形作るくらいかぁ。
ホントは、全身を作ってあげたいところだけど。
まぁ、今回は腕だけでも充分かな。
狙い通り、ペンドルトンさんの腕に向かって伸びたノーム。
ノームが彼の腕を掴んだおかげで、カッツさんを解放できたみたいだね。
良かった。
「っく!! 放せ!!」
「うんうん。落ち着いたらゆっくり話しましょう」
「そうじゃなっ!! くそっ!! な、何をするつもりだっ」
まだまだ元気がありそうだから、ペンドルトンさんには、少しだけ大人しくしてもらいましょう。
彼の全身に絡みつく衣服たちが、渦巻く風に乗って、回り始めた。
当然、ペンドルトンさんも一緒に回ることになるよね。
横で見てるだけでも、ちょっと気分が悪くなってきちゃった……。
そろそろ、止めてあげた方が良さそうだね。
シルフィードと衣服たちに、止めるように指示を出す。
すると、ようやく回転から解放されたペンドルトンさんが、その場に倒れこんじゃった。
「うぐっ……」
「ご、ごめんね。ちょっとやりすぎちゃったかも」
帰って来た衣服たちを身に着けても、まだ倒れたままのペンドルトンさん。
彼が落ち着きを取り戻すのは、数分後になりそうだね。
その間に、ラフ爺の治療を進めておきましょう。
それから、やっと上半身を起こしたペンドルトンさんは、虚ろな目で私を見て来ました。
あぁ……なんとなくだけど、あとでベルザークさんに怒られそうだなぁ。
「ペンドルトンさん。大丈夫?」
「……自分でやっておきながら、白々しいな」
「ごめんって。ちょっとやりすぎちゃったよ。でも、ペンドルトンさんだって、強情になってたんだし、お相子でしょ?」
ムスッとした表情を見せるペンドルトンさん。
直後、どデカい笑い声が、洞窟に響き渡りました。
「カッカッカッ! お相子だとよぉ!! こいつぁ愉快だぁ……ゲホッゲホッ!!」
「ちょ、ラフ爺! まだ大声出さない方が良いっスよ」
「ラフ爺さん。良かった、怪我はもう治ったみたいだね」
「おうよっ! さすがは嬢ちゃんだなぁ」
ニカッといい笑顔を見せたラフ爺は、よっこらせっと立ち上がった。
そして、ペンドルトンさんに視線を移して、告げる。
「死は全ての生き物にとって平等ってのはぁ、良く言ったもんだぜ。そうは思わねぇか? 王子様よぉ」
「いちいち講釈を垂れるな」
そう言ってゆっくりと立ち上がるペンドルトンさん。
念のために、槍を没収してるから、皆を襲ったりはしないみたいだね。
それじゃあ、続きのお話を始めよう。
でも、洞窟の中で話すのも、なんかあれだよね。
どうせなら、美味しいお茶を飲みながら話したいところ……。
それに、お風呂にも入りたいな。
「うん。決めた。ペンドルトンさんとラフ爺、それとカッツさん。一緒にネリネに行こう。そこでお茶でも飲みながら話しましょう!」
「「ネリネ?」」
「あぁ、私達のお家の事だよ」
新しく買った入浴剤と香水も試してみたいしね。
そうだ、盗賊団の皆も呼ぼうかな。
でも、ベルザークさんが怒るかも?
まぁ、なんとかなるでしょう!