第6話 重い腰
花火を見終えた私達は、そのまま真っ暗な森に戻った。
そろそろお腹もすいてきたし、早く家に帰って夕ご飯を食べたいな。
こういう時、『ひでんのしょ』が役に立つんだよね。
「これ、どーなってるの?」
「これは燃える魂って術だよ。魂を光らせてるだけだから、触っても熱くないんだよ」
「ほんとだぁ! すごいね!」
「触りすぎると嫌がるから、ちょっとだけだよ? それじゃあ、これで足元を照らしながら帰ろっか」
「うん!」
久しぶりにお父さんとお母さんに会えたと思ってるからかな?
ハナちゃんはいつにも増して上機嫌だ。
「はらはらぺっこぺっこぐ~ぐ~ぐ~♪」
「どんな歌なの、それ」
「おなか減ったの歌! 知らないの?」
「初めて聞いたなぁ~」
「それじゃあね、ハナが教えてあげる!」
「教えてくれるんだ。優しいねぇ」
そこらへんで拾った短い木の枝の先で、青白く輝くウィルオウィスプを突くハナちゃん。
そんな彼女に唄を教えてもらってたら、あっという間に家に帰り付いちゃった。
結構な距離があるはずなんだけど、楽しいとあっという間に時間が過ぎちゃうよね。
お昼に入り損ねちゃったお風呂に入って、夕ご飯を食べて、すぐにベッドに向かう。
そういえば、干し肉の残りが少なくなってきてたなぁ。
やっぱり、ハナちゃんがいる分だけ、減るのが速くなっちゃってるね。
「そう言えば、そろそろ私でもアレを使えるかな」
食料の調達は大事です。
特にお肉は、狩りをするのが難しいから確保するのが大変なんだよね。
そんな時こそ、『ひでんのしょ』が役に立つ!
「まぁ、今日は色々あって疲れたし、もう寝よう」
花火とお風呂と夕ご飯と。
色々とはしゃぎすぎたらしいハナちゃんは、既にベッドシーツに連れられて就寝中だ。
元々母さんと父さんが使ってた部屋の中で、寝息を立ててる彼女。
幸せそうな表情の彼女の頭を撫でてあげたい衝動を抑えつつ、私は自室のベッドに戻って眠りについた。
翌日。
目を醒ました私は、ハナちゃんと朝食を摂った後、『ひでんのしょ』とにらめっこをしてる。
2冊目の30ページ。肉狩のゴーレム。
まだ父さんがいた頃は、このゴーレムに肉を摂りに行ってもらってたっけ。
あの頃の私には扱えなかったこの術も、きっと今なら使えるはずだよね。
だって、あれからもう1年以上たってるんだし。
それだけ私は、お姉さんになったってことだよ。
準備するべきものは、大きな岩だけ。
1年前から川の付近に転がってるのは確認してたから、岩は確保してるようなものだよね。
取り敢えずはその岩を、助っ人たちに手伝ってもらって、畑の近くに運んだ。
「さてと……あとはこの岩に魂宿りの術をかけて、形を作ってあげるだけ」
父さんは言ってた。
己の魂の形に、岩を削り取ってやればいいんだっ!
「意味わかんないんだけどなぁ……母さんの言う通り、イメージを作る方が良いってことだよね」
イメージ。
狩りをしてくれるゴーレムのイメージ。
ってことは、強い方が良いってことだよね。
狩りか……。
そう言えば、熊はとっても強いから気を付けなさいって、母さんがいつも言ってたな。
「うん。決めた。熊にしよう」
岩に手を添えながら、私はゴーレムの姿を思い描く。
すると、数秒後。不意にパキッという乾いた音が鳴ったかと思うと、岩の表面にひびが入って、バラバラと崩れ始めた。
そうして崩れた瓦礫の中から、体長2メートルを超える巨大な熊のゴーレムが出てくる。
と、瓦礫の崩れる音を聞き取ったのかな、ハナが家の中から飛び出して来た。
「どーしたの!?」
「大丈夫だよ。ちょっとゴーレム造ってただけだから」
「ごーれむ?」
私と熊のゴーレムを見比べるハナちゃん。
え?
私がゴーレムだと思ってる?
そんなわけないよね。
「この熊さんが、お肉を獲って来てくれるんだよ」
「お肉を!?」
「うん。だから今日は、久しぶりに干し肉じゃなくて、新鮮なお肉を焼こうと思ってる」
「うまし!?」
「そうだねぇ。うましだと思うよ」
「やったぁ!」
尻尾を振りながら喜ぶハナちゃん。
そうこうしている間にも、熊のゴーレムはのそのそと森の方に歩き出して行った。
『ひでんのしょ』に書かれてる通りなら、夕方頃には成果物を持って帰ってくるはずだね。
それまで、今日は何をしようか。
なんて、もうやることは決まってるんだけどね。
「よし。それじゃあ、杉の木を探しに行こうかな」
「でかける?」
「うん。お風呂場に焦げ跡がついちゃってるから、綺麗にしたいでしょ?」
大きく頷いたハナちゃんは、何かを思い出したように家の方に駆けてった。
そして戻ってきた彼女の手には、小ぶりな斧が握られてる。
「これ、使う?」
「ありがとう。ハナちゃん」
すぐに斧を受け取って、魂宿しをする。
ハナちゃんに持たせておくのは、ちょっと危ないからね。
かといって私も、扱いに慣れてるワケじゃないからさぁ。
「木彫りの人形って、どうやって作れば良いのかな……なんにしても、材料がないと始まらないよね」
わざわざ木彫りで準備しなくちゃいけないのには、何か理由があるのかな?
肉狩のゴーレムみたいに、形をイメージさえすれば良い、って方が楽だったけど。
「考えても、分からないよねぇ。時間は有限だし。行こうか、ハナちゃん」
「うん!」
そうして私は、念願だったお家の改築のために、重い腰を上げたのでした。
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