第57話 お買い物
さっそく街に繰り出した私達は、ハリエットちゃんとホリー君の案内で、色んなお店を回ることになりました。
この間と同じように、私だけがハナちゃん号で皆の後を追いかける感じだね。
それに関しては、仕方のないことなんだよ。
うん。
間違っても、私が臭いから、そうしてるワケじゃないからねっ!!
そうしてたどり着いたお店は、街にある他の建物とかなり違う見た目でした。
簡単に説明すると、ピンク色でド派手!
お店の人は、ピンク色が好きなのかな?
そんなことを考えながら、ちょっと狭い入り口を、ハナちゃん号で無理やり潜り抜ける。
すると、お店の中に充満してた甘い香りが、私の鼻をくすぐったのです。
「わぁ……良い香り」
「でしょ? 私も、このお店の香り、大好きなのよ」
「あらぁ! ハリエット様! いらっしゃいませ~。今日は、お一人じゃないのですね」
「えぇ。今日はこの店の入浴剤を紹介しようと思って」
そう言ったハリエットちゃんが、私の方を見上げて来る。
同時に視線を注いできたのは、全身ピンク色の服に身を包んだ綺麗なお姉さん。
この人が、このお店の店主さんみたいだね。
なんていうか、一目瞭然って感じだよ。
とにかく、挨拶しておかなくちゃ。
「初めまして。私、リグレッタです。えっと、良い匂いのする入浴剤があると教えてもらったので、ここに来ました」
「……あらまぁ。まさかとは思ってましたけど、リグレッタちゃんってやっぱり」
「えぇそうよ。彼女があの解放者」
「話には聞いてたけど、想像以上に可愛らしいのねぇ~」
「かっ、可愛いですか? あんまりそんなこと言われ慣れてないので、ちょっと照れますね」
ピンクの店主は、シャローンって名前らしいね。
ハリエットちゃんの話だと、薬を作ったり、入浴剤とか香水とかも売ってるんだって。
そう言えば、お金を持ってないんだけど。あとでハリエットちゃんに相談しよう。
そうこうしているうちに、ハリエットちゃんが1つの壺を持ってきた。
「これが入浴剤。お風呂に入れて使えば、すごくいい香りに包まれるから、おススメかな。お肌もスベスベになるしね」
「スベスベッ?」
ハナちゃんが壺の中を覗き込んでるから、何が入ってるか見えないや。
なんとかして、壺をハナちゃん号の上に持ってこないとだね。
手袋さんに魂宿りの術を掛けて、そのまま壺の元に向かわせる。
手袋さんに気が付いたらしいハナちゃんは、すぐに壺を覗き込むのをやめて、引き渡してくれたよ。
多分、中に入ってるのが粉だけってことを知って、興味を失くしたんだろうなぁ。
周りに、もっと面白そうで綺麗な瓶とかが沢山並んでるから、そっちを見て回ってるね。
それからしばらく、私はハリエットちゃんとホリー君のおすすめしてくれる入浴剤と香水をあれこれと試したのです。
それにしても、沢山あるんだね。
取り敢えず、ハナちゃんからの評判も良かった、入浴剤と香水に決めたよ。
ハナちゃんは私よりも鼻が利くからね。
ベルザークさんも、ちゃっかり小瓶をシャローンさんに手渡してる。
なにか、欲しいものでもあったのかな?
準備をすると言って、店の奥に向かって行ったシャローンさん。
そんな彼女を見送って、私はハリエットちゃんに相談を持ち掛けることにしました。
「ねぇハリエットちゃん。ちょっと相談があるんだけど」
「どうしたの? もしかして、さっきの入浴剤の香り、気に入らなかった?」
「ううん。すごくいい香りだよ。そうじゃなくてね、私、お金を持ってないんだけど」
「あぁ。それだったら、私が代わりに出してあげるから、気にしなくていいわよ」
気にしなくていい。
そう言ってくれるハリエットちゃんだけど、そうも言ってられないよね。
昨日の夜。
街の地下で出会ったラフ爺達も、私と同じ、すかんぴんだったよね。
私も同じすかんぴんなのに、代わりに出してもらっても良いのかな?
よくよく考えたら、お金を手に入れる方法も、私は知らないワケなのですよ。
きっと、ラフ爺達も知らないんだ。
だったら、私がお金を手に入れる方法を調べて、教えてあげればいいよね。
「あのね、ハリエットちゃん。代わりに出してくれるのは凄くありがたいんだけど、なんて言うのかな? ずっと頼りっぱなしになるのは、ちょっと気が引けるんだよね」
「そうなの? どうして?」
「どうして? う~ん。なんて言えばいいのかな? 森で暮らしてた時もそうだったけど、やっぱり、何かをしてもらったら、その分、何かを返さないといけないかなぁ~って思うんだよ」
ラービさんとかラクネさんとも、色々《いろいろ》と交換をしてたしね。
そう言えば、皆元気かな?
そろそろ冬も明けるから、今度会いに行ってみようかな。
ふふふ。
ラービさんはきっと、ネリネをみて、びっくりするよね。
楽しみだなぁ。
「リグレッタ? なんでちょっと笑ってるの?」
「あ、ごめん。でね、良ければ、私もお金が欲しいんだけど、どうやったら手に入るのかな?」
「つまり、お金を稼ぎたいってことだよね」
「ちょっとホリー兄さん。乙女の会話に割り込まないでくれる!?」
「人前で話してるのに何を言ってるのさ。それに、リグレッタ様。そういう話なら、妹よりもボクの方が向いてると思いますよ」
「ホント!?」
得意げに眼鏡をかけ直すホリー君。
そんな彼を見て、あきれ顔をするハリエットちゃん。
少し離れた場所から様子を静観してるベルザークさん。
そして、お店の中を探検して楽しそうなハナちゃん。
こうやって、一緒にお店にやってくることを、お買い物って言うんだってね。
良いね、お買い物。
きっと、森から出なかったら、知る事の無かった楽しさだよ。
そんなことを考えた瞬間、脳裏を、彼の言葉が過りました。
『君は本当に、恵まれている』
『死神は、あの森から出るべきではありませんでした』
どうして今、そんな言葉を思い出しちゃったんだろう。
ちょっとだけ、気分が沈みそうになったから、私はハナちゃんの顔を見ました。
私と目が合って、すぐに満面の笑みを浮かべるハナちゃん。
あぁ、癒されるぅ。
なんて考えてると、ハナちゃんがピクッと耳を動かして、お店の外を見つめ始めました。
あれ?
なんか、この感じ、前にもあったような?
お店の前を、沢山の騎士達が駆け抜けていくね。
ガシャガシャって音が、店の中にまで響いて来るよ。
「……なにかあったのかな?」
「ここからじゃ、何も分からないね」
ハリエットちゃんとホリー君も、さすがに気が付いたみたい。
ベルザークさんは、既に警戒態勢に入ってるみたいだし。
あぁ、なんか、嫌な予感がするなぁ。
また襲撃を受けたりしないよね?
この場所にはお水が無さげだから、対応が難しそうだな。
何もありませんように。
そう思いながら、私は、外の様子を見るために、扉に近づいたのでした。