第54話 自由気ままに
「というわけで、街で騒ぎを起こしてた人を探しに、ここに来たんだよ」
私が説明を終えると、洞窟の中に沈黙が広がった。
なんか、さっきよりも警戒されちゃってるね。
まぁ、会ったばっかりだし、信用してもらえるなんて思うのは、無理があるかな。
それにしても、反応が無いのは困るんだけどね。
どうしよう?
目的の人はもう見つけてるから、正直に言おうかな。
ラフ爺の背後に集まってる人たちの中。
一番後ろから、私の方を覗き込んできてる男の子。
赤い短髪が似合う、活発そうな子だね。
そんな彼に視線を向けた瞬間。
まるで、視線を遮るように、カッツが前に躍り出て来た。
「……その、リグレッタはそいつを見つけて、どうするつもりっスか?」
「え? ちょっとお話が聞きたいんだけど」
「も、もしかして! 話を聞いたうえで、取って食おうって言うんスか!?」
「食べないよっ!! って言うか、私のこと、なんだと思ってるワケ!?」
「だって、死神っスよね? だったら、人間を取って食っても、おかしくないっスよ」
「先に言っておくけど、私、人を食べた事なんてないからね? 食べるつもりもないし! ほんとだよ!? なんでちょっと後退るの!?」
うぅぅ。
怖がられてるのは知ってたけど、ここまでだとは思ってなかったや。
なによ、人を取って食うって。
そんなことするわけないジャン!!
「まぁまぁ、落ち着かんかい、カッツ」
「でもラフ爺! 簡単に信じるのは危険っスよ」
「それもそうだなっ! ってなわけでぇ、解放者の嬢ちゃんよぉ。少しばかり、俺達に安心をくれやしねぇかい?」
「安心? それはどうすれば良いのかな?」
私の問いかけに、ラフ爺は当たりを見渡しながら呟いた。
「そうさなぁ。俺達は嬢ちゃんに触れられただけで、あの世行きだ。だからよぉ。嬢ちゃんには簡単に動けない状態になってもらいてぇんだ」
「なるほど。それは名案だね」
私が動けない状態なら、ラフ爺達も安心して話ができるってことだよね。
うん。良いんじゃないかな。
「それで、具体的にはどうしたらいい?」
「こっちに侵入者を捕まえるための穴を、こさえてるんだ。その穴に入ってくれねぇか?」
「分かったよ」
案内されるまま洞窟を進んだ私は、岩壁に空いた小さな穴を見つける。
ここに侵入者を捕まえてるのかぁ。
確かに、身動き一つ出来なさそうだね。
って、そっか。
皆、私に触れないから、自分で入らなくちゃダメなんだよね。
自分で入るとなると、ちょっと狭いなぁ。
ちょっとだけ、入り口付近の穴を、広げちゃってもバレないよね?
「よしっ。入ったよ」
「ん? 今、なんか……」
「おぉおぉ。なかなかいい塩梅じゃねぇか」
どうでも良いけど、穴から顔だけ出してるのって、ちょっとだけ恥ずかしいね。
っていうか、カッツが怪しむように私を見て来るよっ!
ど、どうしよう。
穴の口を広げたの、バレちゃったかな?
なんなら、穴の奥をこっそり広げてるのも、バレちゃったかな!?
「気のせいっスかね?」
「あはは。で、ラフ爺さん。これで良いかな?」
「あぁ。上出来だ。で、何の話だったっけか?」
「私が何をするつもりなのかって話かな?」
「そ、そうっス!! わざわざこんなところまで追いかけて来た理由は何っスか!?」
「う~ん。簡単に言えば、その子があの時、何をしたのか。教えて欲しいんだよねぇ」
「その子?」
あ……。
カッツの目が一気に鋭くなっちゃった。
「んで、どうしてそんなことを知りたいんだぁ?」
「ちょっとラフ爺。リグレッタが今、完全に失言したっスよ」
「なぁに言ってんだカッツ。この嬢ちゃんは今、俺達のために穴の中に入ってんだ。何もできやしねぇ」
「さすがに安心しすぎじゃないっスか!? 相手は解放者っスよ!?」
ラフ爺は話の分かる人だねぇ。
カッツは目ざといから、ちょっと気を付けなくちゃ。
ここはラフ爺に合わせて、話を進めちゃおう!
「どうしてそんなことを知りたいのか、かぁ。そうだなぁ。私ってさ、森の中に住んでたから、こんな大きな街に来たの、生まれて初めてなんだ」
「そうかぁ」
「それで、街に来て思ったんだけど、やっぱり、森の外には私の知らないことが沢山あるんだよ」
屋台とか、串焼きとか、お金とか。
全然知らなかったし、必要も無いものだったんだよね。
必要は無いんだけど、存在を知っちゃったら、気になっちゃうよね。
「だから、知らない物を見たり聞いたりしたら、とことん調べてみようって、思い始めたところなのです。で、今日の騒ぎも、どうして起きたのか、誰が起こしたのか、知りたいなぁって思って、ここまで来たんだよ」
「なるほどなぁ」
ラフ爺は頷いてくれてるから、きっと納得してくれたんだね。
カッツは……。
あれ?
なんか、カッツの表情が、ちょっと暗いような。
洞窟が薄暗いせいかな?
「えっと、どうしたの?」
「安心せい、ちょいと昔の思い出に心を揺さぶられとるだけじゃ。それより、リグレッタ。もうそこから出て来て良いぞ」
「あ、ホント?」
良かったぁ。
そろそろ、腰のあたりが痒くて我慢できなかったんだよねぇ。
それにしても、壁の穴に入るのは簡単だったけど、出るのは結構難しいな。
申し訳ないけど、穴を広げちゃおう。
出た後に元に戻せば、問題ないはずだよね。
魂を込めて、壁の形をいじくった私は、穴から抜け出た後、元の形に戻してみた。
ちゃんと戻せたかな?
そうして試行錯誤する私は、背後から漂って来る変な雰囲気に気が付いた。
「な……解放者って、そんなこともできるんスか?」
「うん。最近できるようになったばかりだけどね」
「そ、そうっスか。なんていうか、すごいんスね」
そんなにすごいのかな?
まぁ、ハナちゃんも喜んでくれてたし、すごいのかな?
そんなことより、今度は私の番だね。
穴を整え終えた私は、振り返りながらラフ爺に尋ねる。
「で、教えて欲しいんだけど。そこの赤毛の男の子は、街で何をしてたの? それと、ここは何? ラフ爺達は、どうしてここに住んでるの?」
「カッカッカッ! ずいぶんと知りたがるじゃねぇか」
「だって、知らないことだらけなんだもん」
そう言った私を、どこか優し気な目で見つめて来たラフ爺は、どこか誇らしげに告げたのです。
「俺達はなぁ、自由気ままに生きる盗賊団だぁ」