第53話 ラフ爺と仲間達
「この水路、ちゃんと掃除してないよね。あぁ、臭いなぁ。服に臭いが着いちゃったらどうしよう……そう言えば、ハナちゃんは鼻が利くんだよね。ヤバいかも!?」
リッタ、臭い。
なんて言われたら、立ち直れないよぉ。
話を聞き終わったら、なにか方法を考えなくちゃ。
頭の中のやることリストを整理した私は、少し先に見えて来た目的の場所に意識を戻す。
ドドドドドッ
という音を立てながら、流れ落ちる汚水。
そんな汚い滝の裏に、シダ植物に覆われた横穴があるみたいだね。
天井から垂れ下がってるシダは、まるで、誰かが道を隠したみたいだ。
「できれば通りたくないけど、仕方ないかな」
汚水の飛沫を浴びたまま、ボーっと突っ立ってるような趣味は、私には無い。
そういう所は、さっさと通り過ぎた方が良いに決まってるよね。
シダをかき分けて横穴に入った私は、すぐに燃える魂を呼びました。
所々に松明が掛けてあった水路と違って、横穴には灯りが無かったのです。
かき分けてもかき分けても、シダが垂れ下がってる。
こんなんじゃ、灯りを置けないのは当然かな。
この先に何かがあるって分かって無いと、普通なら引き返しちゃうところだよ。
「すごい所に住んでるなぁ。って、森の中に住んでた私が言えることじゃないのかな?」
シダを抜けた先に何が待ってるのか、ちょっとだけワクワクしながら進んだ私は、ようやく横穴を抜けました。
そこに広がってたのは、水路よりは狭い洞窟。
こっちは、自然の洞窟みたいだね。
でも、人の手が全く入っていないわけじゃなさそう。
って言うか、少し先の角に、1人隠れてるんだよねぇ。
今日のお昼に、走って逃げた人じゃなさそうだけど。
一応、声を掛けた方が良いかな?
「あのー。そこに隠れてる人。良かったら出て来てくれないかな?」
急に飛び出して来て、触られたりしたら危ないもんね。
だけど、全然出て来てくれないや。
「そっちに行くから、急に飛び出してきたりしないでよ? 危ないからね」
「っ!? どうしてバレてるんスか!?」
「やっと出て来てくれた。あの、よかったら」
「こうなったら!! ラフ爺! 早く来てくれよぉ!!」
そう言って飛び出して来たのは、若い男みたいだね。
赤いバンダナを頭に巻いてるのが特徴的だ。
お手製の槍を持ったバンダナ君は、まっすぐに私を睨み付けながら、突進を繰り出してくる。
「ちょっと! 危ないでしょ!」
咄嗟に服の中に隠してたリーフちゃんを呼び出した私。
直後、ブワッと辺りに広がったリーフちゃんが、瞬く間にバンダナ君を取り押さえてくれました。
「うわっ!? どうなってるっか!?」
「危ないから、拘束させてもらったんだよ。感謝してよね」
「葉っぱ!? こんなので拘束なんて……なんで動けないんスか!?」
「こう見えて、リーフちゃんは結構力持ちなんだよ」
「リーフちゃん? 何か、その適当な名前は」
「失礼なっ!! 可愛いでしょ!?」
うぅ。
バンダナ君の呆れた目つきが、心に刺さるよぉ。
なんてやってると、洞窟の奥から沢山の足音がこっちに向かって走ってくる。
私が追いかけてたリーフちゃんも一緒に近づいて来てるね。
「おぉい!! 助けてくれっス!!」
「カッツ!! おめぇ、何やってんだ」
「見た目に騙されたっス! ラフ爺達も気を付けるっス!!」
「情けねぇやつだなぁ!!」
ゾロゾロと仲間を引き連れてやって来た中で、先頭を走るその男の人が、どうやらラフ爺みたいだね。
ベルザークさんよりも大きな人だ。
右目は怪我しちゃってるのかな?
大きな眼帯をつけてるね。
片目だけでも迫力のある目力を持ってるみたいだけど、若くはないみたい。
かき上げられた長い黒髪の中に、白髪が目立ってる。
とても大きなツルハシを担いでるけど、何に使うのかな?
もしかして、この洞窟を掘ったとか?
そんなわけないよね?
観察はこのくらいにして、今はラフ爺と話をしてみよう。
「こんにちは。えっと、私はリグレッタ。死神って言ったら分かるかな? ちょっと、用事があってここに来たんですけど、お話とかできるかな?」
「なんだぁ!? こんなところまで来て、話だぁ!? なにを頓珍漢なことを……」
そう言いながら、担いでたツルハシを前に突き出すラフ爺。
もしかして、死神って言っても通じてないのかな?
出来れば、手荒いことはしたくないんだけどなぁ。
なんて考える私に、詰め寄ろうとするラフ爺。
でも、私が懸念するような事態にはなりそうにないね。
ラフ爺が私に気づいてなくても、その後ろにいたお仲間さん達はみんな、顔を真っ青にしてるからね。
そんなお仲間達の内の数人が、ラフ爺を引き留めながら、何かを耳打ちしてるし。
「んあ!? 解放者だって!? んな馬鹿な話があるかい!! こんな掃き溜めに、解放者が来るワケねぇだろ!」
耳打ちしたお仲間さんにそう告げたラフ爺は、私を指さしながら言った。
「ええかぁっ! いま王都に来とる解放者ってのはなぁ、白髪でぇ、小柄でぇ、めんこい女の子だぁ! それと、たしか名前は、リグレッタとかいったなぁ!」
うん。あってるよ?
っていうか、めんこいって、何?
「ラフ爺……まさにその解放者っスよ」
「んあ? カッツ。何を言って……」
リーフちゃんに拘束されたままのカッツに、何かを言おうとしたラフ爺は、私に視線を向けて固まった。
数秒後。
口をあんぐりと開けたラフ爺が、お仲間達を振り返って叫ぶ。
「おめぇらぁ!! 解放者が現れたぞぉ!!」
「だから、そう言ってるじゃないっスか!!」
「ふふふ。気づいてくれたみたいで、良かったよ」
ラフ爺のおかげで場の緊張がほぐれたみたいだね。
取り敢えず、カッツさんを拘束する必要はなさそうだし、解放してあげよう。
私に触らないように注意をしたうえで、カッツさんを解放する。
そして、興奮冷めやらぬラフ爺達に、私は事情を説明することにしたのです。
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