第51話 見苦しいもの
それにしても、街の建物って、すごく頑丈そうだよね。
石で出来てるからかな。
パッと見た感じだと、横長い石を積み重ねてるらしい。
それだけだったら、ちょっと押しただけで倒れちゃいそうだけど、そんなことないんだね。
間に何かが入ってるみたいだし。
どうやってるのかなぁ。気になるなぁ。
ハリエットちゃんなら知ってるかと思ったけど、「知らないわよそんなこと」って言われちゃったから、あとでカルミアさんに聞いてみよう。
ネリネに使えるかもだよね?
そんな楽しい街の探索を終えて、そろそろ帰ろうかと話し始めた頃。
屋台の建ち並んでる通りで、なにか騒ぎが起きたのです。
「泥棒!! この!! そいつを捕まえてくれぇ!!」
遠くから聞こえて来るその声は、さっき、美味しいパンをくれたおじさんみたいだね。
怒ってる人と走って逃げてく人。
そんな2人の気配に意識を向ける。
パンのおじさんはともかく、走ってる人はこのまま遠ざかっちゃうと、見失っちゃいそうだね。
何があったのか後で話を聞いてみたいし、ちょっと追跡をお願いしようかな。
都合の良いことに、私は今、ハナちゃん号に乗っているのです。
ハナちゃん号を浮かしてくれてるのは、沢山のリーフちゃん。
そんな中から1枚のリーフちゃんを呼んだ私は、走ってる人を追いかけるように指示を出した。
これで、後から探しに行けるね。
「なにかあったのかな?」
「なにかって、泥棒よ。お店の商品を、勝手に持って行ったのよ」
「そっか、それはダメだよね。ちゃんと、持ってくよって、一言声を掛けなくちゃ。失礼だよね」
「いや、お金を払うべきでしょ」
「え? お金?」
「もしかして、お金も知らないの?」
「……知りません」
「はぁ……」
そんな深いため息を吐かなくてもいいジャン!
一応、お金について説明してくれたのは助かったけどさぁ。
でもそれって、私に必要ないものだよねぇ。
「ちなみに、さっきから食べてる串焼きとかは、そこの護衛がお金を払ってくれてるからね?」
「っ!? そ、それ本当?」
「は、はい。でも、私の自腹というわけではなく、カルミア隊長から、それ用に頂いていましたので。お礼なら、カルミア隊長に仰ってください」
「そっか。でも、ありがとうございます」
そういえば、衛兵さんの名前を聞いてないよね。
「衛兵さんのお名前って、なんて言うんですか?」
「わ、私ですか!? 私はそんな、名乗るような者では」
「今日、ハナちゃん達の護衛をしてくれたから、今度、お礼の手紙を書きたいんだけどなぁ」
「そう、ですか。私はカッシュといいます」
「カッシュさんだね。よろしく」
「よ、よろしくお願い致します!」
そんなこんなで、街の探索を終えた私達は、一旦お城に戻りました。
城門のところで、ハリエットちゃんとカッシュさんと別れて、私とハナちゃんは元居た広間に向かいます。
「ハナちゃん、楽しかった?」
「うん! また行きたいねっ!」
「そうだねぇ。串焼きも美味しかったし。あれ、作りかたを教えてもらえないかなぁ」
「作れるのっ!?」
「ん~。作り方さえ分かれば、なんとかなるかもねぇ。材料が揃わなかったら、無理だけど。それを知るためにも、まずは作り方を調べなくちゃ」
「リッタ、やっぱりすごいね!」
「急にどうしたの?」
「だって、なんでもできるジャン!」
ふふふ。照れるなぁ。
今すぐに、頭をワシャワシャってしたいけど、ガマンだね。
「ありがとう。ハナちゃんだって、何でもできるようになれるよ」
「いししっ」
そんなことを話してたら、廊下の奥の方から、ベルザークさんが歩いてきた。
隣を歩いてるのは、ハリエットちゃんのお兄さんだったね。
たしか、名前は。ペンドルトンさん?
2人の後ろには、カルミアさんと、他の騎士達も居るね。
「リグレッタ様。戻られたのですね」
「うん。ベルザークさんたちも、お話は終わったの?」
「はい。非常に有意義な話ができたものと思っております」
そう言うベルザークさんは、チラッとペンドルトンさんに視線を投げた。
なんか、意味深な視線だね。
なんて考えてると、ペンドルトンさんが口を開く。
「街は楽しんでいただけましたかな? リグレッタ殿」
「え? あ、はい! すごく楽しかったです! 串焼きが特に美味しくて、あれって、どうやって作ってるんでしょう? 作り方が気になってるんですけど」
「串焼きですか。それでしたら、さほど難しくはないはず。あとでカルミアから作り方をお送りいたしましょう」
「良いんですか!? それじゃあ、何かお礼を準備しないとだね。やっぱり万能薬が良いのかな? ……でしょうか?」
ダメだね、口調が元に戻っちゃうよ。
カルミアさんとベルザークさんの目つきが怖いや。
ペンドルトンさんが気にしてなさそうだから、別にいいと思うんだけどなぁ。
万能薬を頂けると助かる。
ペンドルトンさんはそんな固い返事を口にした後、ふと思い出したように、続けた。
「ところで、先ほど報告が来たのですが、街で騒ぎがあったとか。お二人とも、怪我とかはありませんか?」
「はい。大丈夫です。護衛のカッシュさんもいましたし。怪我とかはしてないです」
「ならば良かった。それにしても、お見苦しい物をお見せしてしまったようですね。盗人は必ず我らの方で裁きに掛けますので、ご安心を」
「はぁ。裁きに掛けるって言うのは、どういうコトなんですか?」
私、何か変なことを聞いちゃったのかな?
カルミアさんが、顔を引きつらせちゃったよ。
それに、ペンドルトンさんの様子が変だし。
「リグレッタ殿」
「はい」
「盗みを働いた者には、然るべき罰を与えるべきなのです」
あぁ。
なんか、ハリエットちゃんがお兄さんを怖がる理由が、なんとなく分かっちゃったかも。
怒った時、目が怖いね。
ここはあんまり刺激しないようにしておこう。
「そうですね」
「罰を与えるためには、多少手荒いことをしなければなりません。これも、ご理解いただけますね?」
「まぁ、悪いことをしたなら、仕方ないですよね」
「……」
少しの間、黙り込んで私を見つめて来るペンドルトンさん。
その後、小さく会釈をした後、そのまま廊下を歩き去ってしまいました。
カルミアさんも、黙ってついて行っちゃったなぁ。
聞きたいことがあったけど、明日にしよう。
今はちょっと怖いし。
「はぁぁぁ。緊張したぁ」
「リグレッタ様。あまり変なことを言わないでください」
「そんなに変なことだった? まぁ、私が街の人たちにとって普通じゃないってことは、今日だけでも充分わかったけどさぁ」
「ハナはリッタのこと、好きだよ」
「そう言ってくれるのは、ハナちゃんだけだよぉ!」
「私もリグレッタ様の事、慕っているのですが」
「ベルザークさんはちょっと、全然違う意味だよね?」
「まぁ、否定はしませんが」
なんだかんだ言って、この3人で居るのは、ちょっと落ち着くなぁ。
今日はもう疲れたし、このままネリネに帰ろう。
夜に、少しだけやりたいことができたしね。
早目に休んで、夜中に起きようかな。