第49話 名誉挽回
火傷の跡が、万能薬を塗ると同時にどんどん消えてく。
うん。
我ながら、上手く作れるようになりました。
それもこれも、『ひでんのしょ』のおかげだよね。
すぐに治療を終えた私は、キッチンに向かいます。
カルミアさんとベルザークさんを待たせてるし、ハナちゃんも起きちゃってるからね。
ついでだし、散歩にでも行こうかな。
そんなことを考えながらキッチンに入った私に、カルミアさんが声を掛けて来る。
「知ってはいましたが……あれほどの火傷がここまで綺麗に治るとは」
これで、薬の効果は証明できたよね。
ブッシュお爺ちゃんたちも、安心かな?
「万能薬だからね。それよりカルミアさん、この後、街を見て回りたいんだけど、大丈夫?」
「大丈夫……と言いたいところですが。街は今、混乱の只中ですので、もう少し待った方が良いかと」
「混乱?」
確かに、街の方からざわめきが聞こえて来てる。
まだ朝早いのに、皆元気なんだね。
「リグレッタ様が戦ったのは、邪龍ベルガスクと言って、巷を騒がせている危険な奴なのです。まぁ、そんな奴も、リグレッタ様には敵わなかったワケですが」
「逃げられちゃったけどねぇ」
もう少しで捕まえられたんだけどなぁ。
そしたら、いろんな話を聞けたんだけど。
まぁ、今更悔やんでも仕方ないか。
私は悪くない。
ただライラックさんが一枚上手だっただけなんだ。
次があったら、絶対に逃がさないようにしなくちゃ。
反省を次に活かしてこそ、大人のレディだと思うのです。
「それにしても、突然こんな場所に現れるとは……姿を現す前兆は何もなかったのに」
ん?
もしかして、カルミアさん達はベルガスクの正体がライラックさんだってことを知らないのかな?
これは名誉挽回のチャンスかもしれないよ!!
「えっと。カルミアさん。前に、ウチにやって来た時、一緒に居たタイラーさんっていたでしょ?」
「……はい。いましたね。彼が何か?」
私の言葉を聞いて、カルミアさんは一瞬身体を硬直させた。
これは……手ごたえありかな?
「実はね。タイラーさんがね、ベルガスクに変身したんだよ」
「なっ!?」
「リグレッタ様!? その話、もう少し詳しく話していただけませんか!」
おぉ。
思ったより驚いてくれたみたいだ。
良かった良かった。
なんて考えた私は、2人に催促されるままに、ことのあらましを話したのです。
「なるほど……姿を変える能力ですか。あれほど巨大なベルガスクになれるとなると。普通じゃありませんね」
「そうだよねぇ」
「そうだよねぇ。ではありませんよ!! リグレッタ様!! どうしてその男をネリネに入れたのですか!!」
「……ごめん」
怒られちゃった。
ハナちゃんが、気まずそうに視線を落としてるよぉ。
「前から思っていましたが、リグレッタ様。今回ばかりは危機感が無さすぎると思います!」
「ごめんってば。でも、ちゃんとネリネは無事だったから、良いでしょ?」
「そこじゃないんですよぉ!!」
「落ち着いてくださいベルザーク殿。まぁ、気持ちは分かりますが。今はそんなことを言っている場合ではないでしょう」
フォローしてるようで、カルミアさんもベルザークさんに同意するんだね。
うぅ。
2人して責めなくてもいいジャン。
って言うか、2人ともなんか、ちょっと仲良くなってない?
違うかな。
仲が良いって言うか、喧嘩しなくなった感じ?
良いことなんだけど、矛先を私に向けるのは止めてよね。
「とにかく、説明も兼ねて、今一度城までご同行していただきたいのですが」
仕方ないかなぁ。
これ以上ベルザークさんに怒られたくないし。
「うん。分かったよ。その代わり、お話が終わったら、街に散歩しに行っていいよね?」
「良いでしょう。ですがその際は、護衛の騎士も連れて行ってください」
「は~い。ハナちゃん、お話が終わったら、一緒に街を探検しようね」
「うんっ!」
あ、やっと私の目を見てくれたっ!
ふふふ。
街の探検、楽しみだなぁ。
ハナちゃん号を準備しておかなくちゃだね。
その後、私達は昨日と同じ広間に連れられて、ブッシュお爺ちゃんたちと話をしたんだ。
そういえば、今日はハリエットちゃん達は居なかったな。
万能薬の効果と、ベルガスクの襲撃、そしてライラックさんの話を終えた私達。
あーだこーだと言い合いを続けるブッシュお爺ちゃんたちの許しを得て、広間から脱出してきたワケなのです。
今回ばかりは、ベルザークさんも話し合いに残るみたいだから、ハナちゃんと2人きりだね。
あ、でも、城門のところに居る騎士さんを一緒に連れて行かなきゃダメなんだった。
カルミアさん達と約束したし。
取り敢えず、城門まで向かおうと廊下を歩き始めた私達の前に、可愛い女の子が現れたのです。
「ねぇ。ちょっと!」
「あ、ハリエットちゃん。こんにちは」
「こ、こんにちは……じゃなくて!! さっきの見たわよ」
「さっきの?」
「ベルガスクと戦ってたでしょ?」
「あぁ。うん。そうだね」
ちょっとだけ言葉を詰まらせるハリエットちゃん。
どうしたのかな?
考え込んだ彼女は、まるで言葉を選ぶように、ゆっくり聞いてきた。
「どうやったの?」
「私は解放者だからね。術を使ったんだよ」
「術?」
術って言っても、あんまり伝わらないのかな?
これはもう、実際に見せた方が良いのかも?
でも、変に騒ぎを起こすと、またベルザークさんが怒りそうだよね。
「リッタはね、すごいんだよ! 何でもできちゃうんだよ!」
「ははは。まぁ、父さんと母さんの方が、もっとすごかったけどねぇ」
「へぇ。とっても強いってコトね。それじゃあ、私を城から連れ出してよ」
納得するように頷いたかと思ったら、ハリエットちゃんが変なこと言いだしたよ。
「お姉ちゃん、お城から出て行きたいの?」
「このお城は、ハリエットちゃんのお家なんでしょ? だったら、勝手に出れば良いんじゃないの?」
「私は王族だからね、そんな簡単にはいかないのよ」
「ねぇリッタ。おうぞくってなに?」
「ごめんハナちゃん。私も良く分かってないや。騎士に守られてる人ってことくらいは知ってるけど」
「王族って言うのは、とっても偉い人の事なのよ!」
偉い人なら、私に頼らなくても、自分でお城から出れるんじゃないのかな?
まぁ、そんなこと考えたところで、意味なんかないのかもねぇ。
「つまり、一緒にお城から出たいんだよね? だったら、今から私たち、街を見て回るんだけど、一緒に来る?」
「え、良いの?」
「うん。ハナちゃんも良いよね?」
「うんっ!」
元気よく頷くハナちゃんと、私を見比べたハリエットちゃん。
そんな彼女は、ちょっとだけ嬉しそうに、はにかんで見せたのでした。