第46話 気の合う訪問者
2回目の会合は、なんていうか、すごく疲れたよ。
ブッシュお爺ちゃんに万能薬を渡して、もう少し数を用意できることを伝えたまでは、良かったんだけどね。
本当に万能薬なのか。
使っても大丈夫なものなのか。
そもそも解放者の言うことを、信じて良いのか。
心配性だとしても、ちょっと失礼だよね?
あまりに会合が長くて疲れちゃったから、言い返す元気も無かったけど。
あ~あ。
早く終われば、街を見て回ろうと思ってたのになぁ。
「散策は明日だね。今日はもう……ふぁぁ~。眠たいし」
暖かいお湯に浸かりながら、私は大きな欠伸を漏らす。
ハナちゃんも一足先に寝ちゃったし、私も早く寝ちゃおう。
やっぱり、ネリネで来てて良かったや。
「そういえば、ベルザークさんは今日、お城に泊まるって言ってたなぁ」
大丈夫かな?
カルミアさんと、喧嘩とかしてなけりゃいいけど。
あぁ~。
ダメだぁ。
もう頭が働かないや。
さっさとお風呂から上がって、お休みしないとだね。
止まらない欠伸を、手で隠しながら、私はお風呂を出る。
いつもよりちょっと早く寝るわけだし、明日は少し早起きして、朝の散歩でもしようかな。
なんて考えながら眠りについた私。
それからどれくらい時間が経ったのかな?
シーツに叩き起こされました。
「ん~? ……なに? どうしたの?」
寝室の扉のところで、なにかを伝えようとしてくるシーツ。
うん、何を言いたいのか分かんないや。
っていうか、寒いなぁ。
布団から出たくないよ。
眠たいし、欠伸止まんないし。それに眠たい。
「明日じゃダメなの? 私、眠たいんだけど」
枕を抱きしめてそう呟いたら、シーツにビンタされました。
ちょっと痛い。
でも、そこまでして起こしに来るってことは、ホントに大事なことなのかもしれないよね。
……もしかして、ハナちゃんに何か!?
前みたいに襲撃者が来て、ハナちゃんが狙われてるとか!?
でも、襲撃だったら、ガブちゃん(仮)が反応しないワケないよね?
とにかく、様子を見ておこう!
やけにテラスの方を指し示すシーツを、敢えて無視しながら、私はハナちゃんの寝室の扉を静かに開けた。
「うん……ぐっすり寝てるね」
だったら、別に慌てる必要ないんじゃない?
一応、テラスにも行ってみるけどさぁ。
絶対寒いジャン。
「ヤだなぁ。寒いよなぁ。風邪ひいたら、シーツのせいだからね? その時は鼻水つけるから、文句言わないでよ?」
あからさまに私から遠ざかってくじゃん。
まぁ、良いけど。
意を決した私は、ちょっと冷たい扉を開けて、そのままテラスに出ました。
寒っ!!
雪とかは降って無いけど、風が冷たい!
マフラーと手袋をしててよかった。
「で? 何があるの?」
テラスに出た私は、南の方に箒たちが集まってることに気が付いて、そっちに足を向ける。
「なにしてんの?」
テラスから下を覗き込む。
そして私は、地面に誰かが立ってることに気づきました。
「あれは……たしか、タイラーさんだっけ?」
前に、カルミアさんと一緒に私の家に来た、衛兵さんだよね?
何してるのかな?
こんな寒い夜中に、一人で外に突っ立ってるって、変だよね?
それに、なんていうか、前と全然違う見た目になってるような?
「ちょっと乗せてってくれる? シーツも、着いて来てね」
そう言って、箒に腰かけた私は、シーツと一緒にネリネの下まで降りました。
やっぱり、タイラーさんだ。
でも、衛兵の格好はしてないね。
顔は白くて、髪の毛は派手でモジャモジャだし、ポンポンの付いた帽子をかぶってる。
それだけじゃなくて、背丈まで低くなったような気がするよ。
でも、間違いない。タイラーさんだね。
「こんばんはタイラーさん。こんな夜遅くにどうしたんですか?」
「えぇぇぇぇ!? もしかして、吾輩が誰なのか、理解しているのですかぁ!?」
「あれ? 人違いでした? でも、タイラーさんだと思うんだよなぁ」
タイラーさん、吾輩とか言ってたっけ?
うぅぅ。そう言われると、ちょっと自信無くなって来ちゃうなぁ。
「えっと、やっぱりタイラーさんだと思うんだけど。違うの?」
「いえいえ。正解でございます。吾輩はただ、バレなければ良いなと思っていただけなのですよ」
「あはは。そういうコトね。ビックリしちゃったよ。それで、こんな時間にどうしたの?」
「驚かせてしまったようで、申し訳ない。ですが、吾輩。明確な目的を持って、ここに立っているのです」
目的?
なんだろ?
「話を始める前に。自己紹介をしておかなければなりません。吾輩の名前は、ライラック。タイラーと言う名は偽りの名なので、悪しからず」
「え? タイラーさんって名前じゃなかったの? そっか。ライラックさんだね。分かった。私はリグレッタだよ」
「ではさっそく! 本題に入らせていただきましょう」
そう言って、両手を広げたライラックさん。
そんな彼の言葉を、私は急いで止めました。
「あの、ライラックさん! その話って、長くなったりする?」
「ふふふ。何を隠そう、この吾輩。話をすることが大好きなのでございます。ですので、長話になることは、あらかじめご容赦頂きたいですな」
どうして得意げなんだろ?
べつに長話をすること自体は、どうでも良いんだけどね。
外でするのは、嫌ってだけなのです。
「さ、寒いからさ。ウチでお茶でも飲みながら、ゆっくり喋ろうよ」
「ほう。それは良いですな。吾輩、お茶には少々ウルサイが、よろしいか?」
「おいしいお茶だから、きっと気に入ってくれるはずだよ。それじゃあ、シーツ。ライラックさんを運んでちょうだい」
そのまま5階のキッチンに向かった私達は、冷えた身体を温めるために、お茶を啜りました。
お口にあったみたいで、よかったよ。
気が付けば、お茶について談笑してた私とライラックさん。
前に会ったときはそんなに話せなかったけど、結構気が合うかもだね。
そうして、そろそろ東の空が白み始めた頃。
我に返ったように、ライラックさんが立ち上がったのです。
「吾輩としたことが……本題を話すのを、忘れていました」
「そう言えば、そうだったね。でもちょっと待ってくれない? お茶、飲みすぎちゃった」
美味しいからって、飲みすぎは良くないのです。
ちょっとだけ反省しながら、私はトイレに駆け込んだのでした。