第45話 2回目の会合
応接間の扉の隙間から、ヒョコッと姿を現したのは、綺麗な金髪の女の子でした。
彼女は、部屋に居る私達を一望した後、静かに中に入ってきたよ。
誰なのかな?
すごくきれいな服を着てるけど。
自己紹介とかした方が良さげ?
なんて考える私を余所に、カルミアさんが声を上げる。
「ハリエット様!? どうしてここへ?」
「しーっ!! カルミア、声が大きいわよ! バレちゃうでしょ」
「……もしかして、また、誰にも告げずに来られたのですか?」
「皆、目が節穴だからね。で、その子が、例の解放者なの?」
ちょっと得意げに、小さな胸を張る女の子。
名前はハリエットっていうみたいだね。
髪の毛も綺麗に編み込んであるし、すごくお洒落だなぁ。
って、そんなこと考えてる場合じゃないよね。
ハリエットちゃんが、こっちに向かって来てるワケだから。
用があるのは私、ってことだよね?
「こんにちは。私が解放者のリグレッタですよ」
「こんにちは。私はハリエットよ。ところで、教えて欲しいんだけど。アナタって何歳なの?」
「私? 15歳だよ」
「……そ、そっか。歳上なんだ」
「えっと。ハリエットちゃんは何歳なのかな?」
「ちゃ……ちゃん!? まぁ、良いけど」
え?
ちゃん呼びはあんまり好きじゃなかったのかな?
っていうか、年齢教えてくれないの?
私よりも歳下なんだってことは、分かったけど。
もう一回聞いてみる?
「ハリエットちゃんは、何歳なの?」
「別に何歳でも良いでしょ? それより、まだ教えて欲しいことが―――」
そこで急に言葉を切った彼女は、バッと扉の方を振り返った。
どうやら、扉の向こうから聞こえて来る足音に気が付いたみたいだね。
「もうバレたの? 仕方ないわね」
呟くと同時に、扉の方に駆けて行くハリエットちゃん。
直後、閉じられてた扉が開かれ、ゾロゾロと騎士達が中に入って来ました。
ちなみに、扉の脇に立ったハリエットちゃんは、うまい具合に扉の影に隠れることができたみたいだね。
隠れ慣れてるなぁ。
それはさておき、新しく入って来た騎士達が、私達の前に整列し始める。
そして、先頭に立つ騎士が頭の装備を外して、口を開きました。
「突然で申し訳ない。私はこの国の王子のブッシュ・カルドネル・ペンドルトンだ」
そんな自己紹介をした金髪の男の人。
キリッとした印象のお兄さんって感じだね。
馬に乗ったら様になるんだろうなぁ。
そんな王子様が、話を続けます。
「実は今、妹のハリエットを探しているのだが。こちらに来てはいないだろうか?」
「えっと……」
まさかの、ハリエットちゃんのお兄さんだったんだね。
ハリエットちゃんなら、アナタの後ろ、扉の陰に隠れてます。
って言いたいところだけど、そんなこと言ったら後で怒られちゃいそうだね。
扉の影から、こっちに向けて、シーッてやってるし。
なんて答えようか、ちょっとだけ私が悩んでいると、不意にハナちゃんが口を開いた。
「シーッなんだよ」
「ハ、ハナちゃん!?」
「ふむ。つまり、ここに来たことは間違いないと言うことだな」
そんなこと言っちゃったら、王子様だって気が付くよね。
当然、部屋の中をくまなく探し始めた騎士達に、ハリエットちゃんはあっけなく見つかっちゃいました。
「ちょっと!! どうして余計なこと言っちゃうのよ!」
「ご、ごめんなさい」
ふくれっ面のハリエットちゃんに怒られて、ちょっとしょんぼり顔のハナちゃん。
可愛いけど、可哀そう。可愛いけどっ!
そんなハナちゃんを、意外にも王子さまがフォローしてくれる。
「気にすることは無い。元はと言えば、ハリエット。お前が悪いのだからな」
「そ、それは」
「言い訳無用。悪いと分かっていたがゆえに、隠れていたのだろう?」
「うぐっ……」
ペンドルトンさんだっけ?
かなり厳しい人みたいだね。
私も怒られないように気を付けなくちゃ。
それはそうと、また扉が開いたよ。
まだ誰か来るのかな?
今度現れたのは、金髪の男の子だった。
これはもう、確実にペンドルトンさんとハリエットちゃんの兄弟だよね。
肩口で切り揃えられたサラサラな金髪を揺らしながら、部屋の中を観察した彼は、大人しめの声を発する。
「ハリエットは見つかったみたいだね。それより兄さん。そろそろ父さんが到着するけど、どうします?」
「そうか。なら、このまま私が客人を案内しよう」
「分かったよ」
それだけ言葉を交わすと、サラサラ君は部屋の外に戻って行っちゃった。
賑やかな兄弟だ。
特に、ハリエットちゃんが元気っぽいよね。
なんて考えてると、静かになった部屋にペンドルトンさんの声が響く。
「カルミア隊長。ここまでの案内、ご苦労だった。この後の案内は俺が受け持つ。悪いが、ハリエットを父上の元まで連れて行ってはもらえぬか?」
「承知致しました。ではハリエット様。向かいましょう」
まだちょっと不貞腐れてる様子のハリエットちゃんが、カルミアさんに連れられて、出て行く。
私たちの案内を、王子様がしてくれるみたいだけど。
案内って、どこにだろ?
「あの、ペンドルトンさん。案内って―――」
「貴様! 王子に向かって無礼だぞ!」
「よせ。それくらい構わん。それよりも、今は護衛任務に集中しろ」
お、怒られちゃったよ。
幸い、王子様自身は怒ってないみたいだから、良かった。
でも、部屋の中の空気が一気に張りつめちゃったなぁ。
ベルザークさんも、ちょっと怒ってるっぽいし。
ハナちゃんは怯えちゃってる。
そんな空気の中、気軽にお話なんてできるわけも無く、私達は待った。
時間が来ると、王子様が私達をどこかに案内し始める。
大人しく着いてくと、大きな広間に通されました。
沢山の人で溢れかえってる広間。
そんな広間の一番奥に、ブッシュお爺ちゃんとカルミアさん、それからハリエットちゃんとサラサラ君がいる。
「す、すごい沢山の人だね……」
「それはそうでしょう。森の外の人間は皆、リグレッタ様に興味津々でしょうから」
どうしてベルザークさんがちょっと得意げなの?
まぁ、良いけどさ。
まさかこんなに大勢に囲まれた状態になるとは思ってなかったけど。
私はブッシュお爺ちゃんと再会を果たしたのです。
こんにちは。
そう挨拶をしようとした時。
ベルザークさんが小さく呟きました。
「丁寧に、挨拶しましょう」
「……ありがと」
そうだよね。
ついさっき、怒られたばっかりだもんね。
私は失敗から学べる大人なんだから。
「ブッシュ様。お久しぶりです。リグレッタです。お元気でしたか?」
その言葉を皮切りに、2回目の会合が始まりました。
直後、周りの人たちがザワザワし始めた気がするけど。
私、変なこと言ってないよね?
ちょっと自信ないなぁ。
会合が終わった後に、カルミアさんに聞いてみようっと。