第44話 初めての街
山の頂上にあるお城と、それを囲むように広がる街。
そして、それらの街を取り囲む大きな城壁が、今、私の目の前にあります。
え?
デカすぎない?
街を囲んでる城壁が、ネリネよりも高く聳えてるんですけど。
目測だけど、ネリネの2倍くらいの高さがありそう。
「デカ……」
「お城って、こんなに大きいんだね」
隣でアングリと口を開けてるハナちゃんに、私は同意しました。
後ろで可笑しそうに笑ってるベルザークさんは、知ってたんだね。
知ってるなら、教えてくれてもいいのにっ!
城壁の向こう側からは、なんだか賑やかな声が沢山聞こえて来るよ。
きっと、大勢の人が住んでるってことだよね。
あぁ。
これで私も、本格的に外の世界と関わりを持つことになるんだよね。
そう考えると、緊張して来たなぁ。
寝癖とかついてないよね?
服はいつも通りで良いのかな?
って言うか、街に入る時、どうやって人と距離を取れば良いんだろう。
あ、そうだ。
ハナちゃん号に乗って行けばいいジャン。
手が届かないところに居れば、触れられる心配もないよね。
なんて考えてたら、背後にいたベルザークさんが声を掛けてきた。
「リグレッタ様。城門が開きます」
「え? ホントだ」
「誰か出て来たよ!」
ハナちゃんの言う通り、ゆっくりと開いた城門から、騎士が1人出てきたよ。
しかも、馬に乗って!
やっぱり、馬に乗ってる騎士はカッコいいよねっ。
って、あれ?
もしかして、カルミアさんかな?
「リグレッタ殿! やはり、見間違えではなさそうですね」
「カルミアさーん! こんにちは~」
「こんちわ~」
地面からテラスに居る私達を見上げて来るカルミアさん。
大きく手を振ったら、少し周りを気にしながらも、小さく手を振ってくれたよ。
「カルミアさん! 私たち、今から下に降りるから、ちょっと待っててくださいね」
「分かりました」
そういう彼女の返事を聞いて、私達は急ぎ、一階に向かう。
テラスに居たまま会話するのは、喉に悪そうだからね。
それにしても、カルミアさんが出て来てくれてよかった。
街に入った後、迷ったりしたらどうしようかと思ってたからねぇ。
ガブちゃん(仮)に、この場で待機するように命令した後、ハナちゃん号に乗ってカルミアさんの元に向かう。
「お待たせしました」
「いえ。お久しぶりです。リグレッタ殿。ハナちゃん。それと、ベルザーク殿」
「お久しぶりですね。カルミア様」
興味深そうにネリネを見上げてたカルミアさんは、すぐに挨拶を返してくれる。
今の所、ベルザークさんと喧嘩を始めたりはしないみたいだね。
良かった。
「早速ですが、リグレッタ殿。どうしてこんなところに? それと、この家? は何かあったのですか?」
「あはは。別に何か問題があったわけじゃないんだけど。手紙を送った後、直接会いに行けるような家を作れば、わざわざ手紙でやり取りする必要ないんじゃないかって思って」
「みんなで作ったんだよっ!」
えっへん。
と胸を張るハナちゃん。
カルミアさんが微笑む気持ちが分かるよ。
「さすがというか、なんというか。私には到底想像もできなかったので、驚いてしまいましたよ。とまぁ、立ち話はこれぐらいにして、よろしければ、城の方で話をしたいと考えているのですが、いかがでしょうか」
「そうだね。私も、その方が助かるかな。外はまだ寒いし」
「リッタ、寒いの? だいじょぶ?」
「大丈夫だよ。ところでハナちゃん、鼻水を拭いておこうね」
私がそう言うと、ハナちゃんの着てる上着のポケットからハンカチが飛び出して来て、丁寧に鼻水を拭ってくれた。
ハナちゃんも慣れちゃったのかな?
されるがままに、鼻をもぞもぞとさせてるよ。
「準備は整いましたか?」
「うん!」
「私も大丈夫。ベルザークさんもそれで良いよね?」
「もちろんです」
「あ、街の中では、上裸にならないでよ」
「分かっていますとも」
得意げに言うベルザークさん。
ホントに理解してくれてるよね?
あんまり信用できないけど、今は彼の良心を信じることにしましょう。
騎乗したカルミアさんの後に続いて、私達はハナちゃん号で城門を潜りました。
潜ってビックリ!
門の中には、沢山のお家があって、色んな人が私達を見に集まってるみたいです。
しきりに解放者と叫ぶ人々。
私達に聞こえないように、何かをヒソヒソと話してる人々。
ハナちゃんとベルザークさんを見て、首を傾げてる人々。
そんな声に雑じって、カルミアさんの名前を叫ぶ人々も、いるみたいだね。
実は、カルミアさんって、有名人だったりするのかな?
女の人ばかりが、甲高い歓声を上げてる気がするけど。
ま、それは後で聞くことにしよう。
そういえば、城に着くまでに知ってる人の気配を感じたなぁ。
確か、前に私の家にやって来た騎士さんだった気がするけど。
姿は見えないや。
きっと、お仕事中なんだよね。
そんなことより、今はもっと気になることがあるのです。
「か、カルミアさん! なんか、すごく、美味しそうな匂いがするんだけど!!」
「うましの香り!」
「あぁ、このあたりには屋台がありますので。あとで衛兵に持ってこさせましょうか?」
「屋台!? こ、こんな美味しそうな匂いの食べ物があるなんて。屋台。作り方も覚えなくちゃだね」
「あ、リグレッタ殿。屋台と言うのは……まぁ、後で説明しますね」
あ~あ。
ハナちゃんの涎を、ハンカチが延々と拭き取り続けてるよ。
お城に着いたら、洗える場所を教えてもらわなくちゃだ。
「リグレッタ様。初めての街は、どうですか?」
「うん。なんか、すごく楽しいね! 屋台って食べ物も気になるし、皆が着てる服も、いろんな種類があるし! 知らない音も聞こえて来るし!」
「ねぇリッタ! あとで探検しても良い?」
「探検!? ぐぬぬ……私も行きたいけど……」
ハナちゃんだけで行かせるわけにはいかないよね。
かといって、私はハナちゃん号から降りない方が良いだろうなぁ。
「ベルザークさん。ハナちゃんの付き添い、お願いしても良いかな?」
「モチロンですよ。リグレッタ様は、探検に着いて来られないのですか?」
「着いてくけど、降りれないからさぁ」
「なるほど。確かにそうですね。そういうコトでしたら。お任せください」
「ありがと」
カルミアさんとのお話が終わった後の探検。
楽しみだね。
ワクワクで一杯になった私が、色々な想像をしているうちに、目的のお城に到着していました。
またまた大きな門を潜って、お城の中に入ります。
お城の中はあまり人がいなかったので、一旦ハナちゃん号から降りた私達は、そのまま大きな部屋に通されました。
応接間って言うんだって。
そこで待つこと数十分。
椅子に座ってたハナちゃんが、しびれを切らして部屋の中を探検し始めた頃。
ゆっくりと、応接間の扉が開かれたのです。