第40話 未知の世界
生まれて初めて、一歩目を踏み出した時の事を、皆は覚えているのかな?
私は覚えてないや。
どうやって歩き始めたんだっけ?
っていうか、いつ、歩けるようになったんだっけ?
普段、そんなこと考えた事なかったから、ちょっと感慨深いね。
自分の子供が初めて歩いた時って、こんな感覚なのかな?
そう考えると、応援したくなってきちゃった。
「よぉ~し! いいよ! その調子でもっと進んでいこう!!」
「ガァァブ!」
東に向けて歩き始めたネリネ。
そういえば、ネリネの足でもあるクマさんに、名前を付けてなかったよね。
いつまでもクマさんじゃ可哀そうだし、何かつけてあげなくちゃ。
「さっきから、ガブとしか言わないから、ガブちゃんとかどうかな」
「きゃはははは!! すすめぇ~!!」
「聞いてないかぁ~」
5階にあるテラスの手すりにしがみ付いて、はしゃいでるハナちゃん。
楽しそうだけど、気を付けてよね。
まぁ、シーツと箒が、落ちないように見張ってくれてるから、大丈夫だとは思うけどさ。
一歩一歩、ガブちゃん(仮)が歩くたびに、ネリネ全体に衝撃が走ってる。
その衝撃を楽しんでくれてるわけだけど、もう少しリーフちゃん達に頑張ってもらった方が良いかもだね。
建物全体を支えて、吸収してくれてるリーフちゃん達。
あとで、増員しておきましょう。
なんて考えてると、口元を抑えたベルザークさんが、手すりに掴まりながら歩いてきた。
「ベルザークさん。大丈夫?」
「……え、えぇ。だいぶ慣れてきましたので。大丈夫ですよ」
そう言う割に、声に元気が無いけど。
彼はネリネが動き始めてから、すぐに体調を崩したんだよね。
もしかしたら、この揺れが原因なのかもしれないなぁ。
「おいたん、だいじょぶ? お茶飲む?」
「大丈夫ですよ。ハナちゃん、心配してくれてありがとうございます。ですが、今は何も口に入れたくはないですね」
「なんで?」
「そ、それは……」
「ハナちゃん。ベルザークさんは気分が悪いみたいだから、そっとしておいてあげようね」
「はぁ~い」
素直に引き下がってくれたハナちゃんと私に、小さく会釈したベルザークさんは、そそくさと家の中に帰って行っちゃった。
多分、寝室で休むんじゃないかな。
それが良いよね。
「よし、それじゃあハナちゃん。私はちょっとリーフちゃんの増員をしてくるから、ここで見張りをお願いしてもいい?」
「うん! まかせてっ!!」
「シーツと箒も、お願いね」
それだけ言い残して、私は1階を目指して階段を降りる。
ベルザークさんの体調を考えると、早めに対処した方が良いと思うからね。
1階の畑から外に出て、森の木々に向けてリーフちゃんの唄を奏でる。
そうして集めたリーフちゃんを、ネリネの要所に取り付けた袋の中に誘導するんだ。
そうすることで、ハナちゃん号と同じように浮遊する袋が、家を支えてくれる。
うん。ちょっとだけど、衝撃が和らいだ気がするね。
作業を終えた頃には、ネリネの揺れは格段に小さくなった気がするよ。
うん。それは良いんだけど。
作業中に、気が付いたことがあります。
「森の中だから仕方ないけど、木をなぎ倒しちゃってるのは、ちょっと考えものだね」
ガブちゃん(仮)は、木を倒さないようになんて配慮はしないみたい。
まぁ、そんな命令を設定してなかったから、仕方ないんだけど。
「改善の余地あり、ってところかな。まぁ、ブッシュ王国に着いたら、考えよう」
いま止まっちゃうのは、なんかもったいない気がするよね。
ガブちゃんもここまで頑張って歩いてくれてるわけだしさ。
倒れちゃった木は、あとでエントさんにお願いして、治してもらいましょう。
またやることが増えちゃったけど、こういうのは、試行錯誤だよね。
そうやって、色々試してみるのが、一番楽しいんだけどさ。
なんて考えながら、5階のテラスまで戻った私は、未だに手すりに掴まってるハナちゃんを見つける。
「ハナちゃん。何か変な物とか無かった?」
「えっとね、大きなヘビと、おサルさんと、ライオンさんが居たよ!」
「え? 魔物かな? どこに行ったの?」
「逃げてっちゃった」
そう言って、ニカァと笑うハナちゃんの鼻の下には、鼻水が垂れ始めてる。
「そっか。見張りありがとね。そろそろ寒いだろうから、中に入ってて良いよ」
「まだ見てる!」
「でもハナちゃん。鼻水出てるよ」
「出てない!! ……あ、出てた」
自分でもびっくりしたのかな?
指先に付いた鼻水に、目を見開いた彼女は、むぅぅと声を漏らして、家の方に駆けてく。
夢中で外を見てたんだね。
早目に気づけて良かったよ。
シーツと箒も、ハナちゃんを追いかけて家の中に入って行っちゃった。
その様子を見送って、代わりに見張りをしようと前に目を向けた私は、森の端っこを捉える。
「お、そろそろ森を抜けるみたいだね」
それはつまり、行ったことのない場所に出るというワケで。
ちょっとだけ、ドキドキしてきちゃった。
「さてと、カルミアさん達はどっちの方に居るのかなぁ?」
今日は雪も降ってないし、見晴らしが良いから、探索にはもってこいだよね。
森の先に見える平原を、くまなく観察してみる。
そうして私は、道っぽい物を見つけたのです。
「北と南に伸びてるね。う~ん。どっちに行こうかなぁ」
ちょっとだけ考えた後、私はガブちゃん(仮)に指示を出しました。
「ガブちゃん! 取り敢えず、北の方に向かってちょーだい!」
ベルザークさんが北に行きたいって言ってたからね。
ちょっとでも近づいてた方が、良いよね。
さぁ!
ここからは未知の世界。
何があるんだろう。
楽しみだなぁ。