第37話 家の中の冒険
ついに。
ついに、新しいお家が完成したよっ!!
いやぁ、ホントは暖かくなってから作業を始めようかななんて思ってたけど、案外早く完成しちゃったよね。
これも、ゴーレムさんと建築の術のおかげだね。
それに、ハナちゃんとベルザークさんも手伝ってくれたし、エントさん達も手伝ってくれた。
みんな大変だっただろうから、今は全員で休憩してもらってるところです。
まぁ、これ以上ゴーレムさん達が木を切っちゃうと、森が剥げちゃうかもしれないからね。
5階にあるいつものキッチンでお茶を啜る。
いつもと同じはずなんだけど、窓から見える景色が違うから、ちょっとソワソワしちゃうなぁ。
「落ち着くような、ワクワクするような、変な感じだね」
「わくわくっ。ねぇリッタ、ハナがお家の中、案内してあげようか?」
「ホント? それは楽しみだなぁ」
椅子に座ることなく、窓から身を乗り出して外を眺めてたハナちゃんが、こっちを振り返って提案してきました。
それもそのはず。
私がここで休憩している間に、ハナちゃんはもう、家の中の冒険を楽しんで来たみたいだからね。
もう3周はしてるんじゃないかな?
そんなに急いで見て回っちゃったら、後の楽しみが減っちゃうよ?
なんて言っても、今のハナちゃんには届かないんだろうな。
「このお茶を飲み終わったら、一緒に見て回ろうね~」
「うん!」
満面の笑みで頷くハナちゃん。
その笑顔のまま、私をジーッと見つめて来るのは、もしかして急かしてるのかな?
あ、急かされてるね。
顔に、早く飲み終わってよっ! って描いてあるよ。ハナちゃん。
仕方ないなぁ~。
可愛いんだから。
ちょっと熱いけど、それくらい大丈夫だよね。
「あつっ。ん。よし、飲み終わったよ。それじゃあ、行こうか」
「案内する!! こっち!!」
コップを洗いたかったけど、急かされたら仕方ないよね。
今はとにかく、ハナちゃんの後について行こう。
「ここ! 玄関から、階段に行けるんだよ!」
「へぇ~。そうなんだね。お、玄関の外はテラスになってるのかぁ。で、そこの階段を降りれば、4階に行けるんだね」
「そ! で、ここのテラスはね、お手紙箱があるんだよっ!」
「お~。それは便利だね。お手紙は届いてるかな?」
「見てくる!!」
お手紙箱。まぁ、折り鶴が帰ってきた時に集まってもらう鳥箱みたいなものだね。
そんなお手紙箱に駆けて行ったハナちゃんは、少し残念そうに振り返って、首を振ってる。
「はいってなぁい」
「そっか。また明日、見に来ようね」
「ん」
「で、案内の続きをお願いしても良いかな?」
「っ! 次はね、こっちだよ!」
ハッと思い出したみたいに、口を開いたハナちゃんは、トテトテと階段の方に走ってく。
そのまま階段を降りた私達は、扉を通って屋内に入った。
「4階はね、たんれんの部屋と、さぎょーのお部屋があるんだよ」
「おや、リグレッタ様。ハナちゃん。もしかして、探検でもしているのですか?」
ハナちゃんが説明するまでもないよね。
4階に入ってすぐ、私の目に入ったのは、上裸で正拳突きをしてるベルザークさんだったんだから。
部屋の構造としては、無駄に広い鍛練場に、作業部屋が隣接してる感じだね。
ちなみに、作業部屋は、木彫り人形を彫ったりできるような部屋だね。
「やっぱり、鍛練場は広すぎたんじゃないかな」
「またまたそのような意地悪を仰られる。鍛練をするのであれば、このくらいの広さが必要なのですよ」
そうかなぁ?
だだっ広い部屋のど真ん中で、一人で正拳突きしてても、説得力は無いけどね。
まぁ、部屋を増やす必要が出て来たら、鍛練場を半分に割るような壁を張れば良いかな。
「つぎだよ。リッタ」
「うん。今行くよ」
まぁ、ハナちゃんにとってはあんまり興味のない部屋ばっかりだよね。
ベルザークさんはまだ鍛練を続けるみたいだから、私達はそのまま3階に降りました。
「ここはね、おっきなお風呂があるんだよ!」
「お風呂。良いよねぇ。今日は早速、こっちのお風呂に入ろうか」
「うん! 一緒に入ろ!」
「いいよ~」
3階の大浴場は、私が一番待ち望んでたものだね。
今までは、ハナちゃんと一緒に入れるほど広いお風呂じゃなかったから、仕方なく別々《べつべつ》で入ってたのです。
でも、この大浴場なら、一緒に入っても触らないようにすることができるっ!
あぁ……今から楽しみだよ。
分身ちゃんと楽しそうにお風呂に入ってるハナちゃんの声。
私が何度、羨ましさで枕を濡らしたことか……。
きっと、ベッドシーツなら分かってくれるはずだよね。
あとで、今日の分の水がちゃんと足りてるか、確認しておこう。
最近、雪が降ってたから、多分大丈夫だよね。
「お風呂のあとはね、ここでお休みできるんだよっ!」
「休憩所だね。でもハナちゃん。お風呂から上がってすぐ、ここで寝たらダメだからね。風邪ひいちゃうよ」
「は~い」
あ、ハナちゃん、今適当な返事をしたね?
ちょっと注意して様子見しないとだなぁ。
でも、この休憩所にあるフカフカのソファは、眠くなっちゃうんだよねぇ。
やっぱり、アラクネさんから貰ってた糸が、良かったからかな?
手触りが良いのです。
少しだけソファに座ってゆっくりしたいところだけど、次に行かなくちゃだね。
「ほら、ハナちゃん。続きは案内してくれないの?」
「うぅぅぅぅ」
座りたいけど、案内もしたい。
きっと、その2つで迷ってるんだろうなぁ。
それでも、私が階段の方に一歩踏み出したら、すぐに先導するために走り出すのが、良いよね。
「ここはね。本が沢山あるのと、ベッドのお部屋が沢山あるんだよ」
「図書室と寝室だったね。これで、カルミアさん達が来ても、泊めてあげることができるね」
今まではどうにか寝る部屋を作るしかなかったからね。
2階には6部屋も寝室があるから、泊まる部屋が無い問題は解決だ。
そんな2階はあんまり案内する場所が無かったのかな?
ハナちゃんはすんなりと廊下を歩いて、1階に向かう階段を降り始めた。
「ここが一番下だよ。畑と果物があるの」
「屋内菜園だね」
この畑は、もともと使ってた畑を地面ごと持ってきてる。
外じゃなくなったから、冬でも何かを育てることができるかもしれないね。
「ここはね、お日様が見えるんだよ~」
「畑だからね。お日様が当たらないと、ダメだよね」
ハナちゃんが言う通り、1階の天井と壁にはガラスが使われてて、畑に日光が当たるようになってます。
それでも、日当たりのいい場所と悪い場所が出来ちゃうのは仕方ないけどね。
最悪、エントさんに頼めば、育ててくれるから、問題ないでしょう。
そして最後に、ハナちゃんは畑の奥にある扉に向かいだした。
「ここから、お外に出れるよ」
「おぉ。ってことは、クマさんの背中の上に出れるんだね」
「うん」
「そこで何ができるの?」
そう尋ねた私に、ハナちゃんは外を指さしながら応えてくれました。
「ハナちゃん号に乗れるの!」
うんうん。
ここはハナちゃん号の発着場にしたもんね。
いやぁ、それにしてもハナちゃん。
ちゃんと案内できるようになってるね。
偉い偉い。
けっこう広いから、迷子になったりしないか心配だったけど、大丈夫そうだ。
あとは、クマさんに動き出すようにお願いするだけかな。
でも、どうしよう。
東に行くべきか。北に行くべきか。
悩んでる途中だったよね。
「うん。今考えても仕方ないかな。ハナちゃん。ちょっと早いけど、一緒にお風呂入りに行かない?」
「行く!!」
いっぱい歩いて、汗かいちゃったもんね。
お風呂で汗を流さなくちゃ。
その後、ソファでゆっくり考える事にしましょうかねぇ。