第36話 いいアイデア
新しい家の名前が、ネリネに決まってから、私達は本格的に家づくりに着手し始めました。
まぁ、実際に作業をしてくれるのは、建築の術だけどね。
ゴーレム達が量産してくれた丸太が沢山あったから、今回は20体の建築の術を準備できたんだよ。
木彫りの人形を作るのに手間取るかと思ってたけど、ハナちゃんが大活躍したんだよね。
私のマネをして、小さなナイフで人形を作り始めたハナちゃん。
気が付いた時には、私よりも上手に木彫りの人形を彫れるようになってたんだから。
なんだか、彼女の成長を見た気がして、ちょっとだけ涙が出そうになっちゃったよ。
ちょっとだけだよ?
そうして造り上げた人形たちが、今まで丸太を作ってたゴーレム達に、家づくりの指示を出し始めたんだよね。
だから試しに、ゴーレム達の命令を上書きしてみたんだ。
そしたら、ゴーレム達が指示通りに働き始めてさ。
そこからはかなり早かったね。
家が乗りそうな土台を組み始めたのが初日。
数日の内には、土台を組み上げちゃって、次に始まったのが家の枠組み作りだね。
冬の森の中にトンカントンカンと、乾いた音が響き渡る。
キッチンの窓からそんな工事の様子を見てた私達は、あらかじめ考えてた願望を、建築の術に伝えたのです。
徐々に組み上がっていくネリネ。
そして今日。
最後に残った作業を、私は今から始めようとしています。
「おぉぉ……。おっきいね!!」
「うん。まさか、5階建てになるなんて思ってなかったよね」
「ははは。リグレッタ様の屋内菜園が原因なのではないですか?」
「だ、だって! 冬の間も野菜が採れたら、最高でしょ!?」
「それはそうなのですが」
「それに、ベルザークさんだって、鍛練室を作ってたじゃん」
「どう考えても必要でしょう?」
「いや、要らないよ。外で鍛練しなよ」
「ふふふ。今更遅いですよ、リグレッタ様」
「ぬぐぐ」
その通りだけどっ!
なんかムカつくなぁ。
ベルザークさんが鍛練室を作ろうって言いだした時、なんかテンション上がっちゃってて、勢いで許可しちゃったんだよねぇ。
なんで許可したかなぁ、私。
一応、ハナちゃんも使いそうだから、良しとしようかなぁ。
「リッタ。やらないの?」
「え? 鍛練はしないよ?」
「ううん。鍛練じゃなくて。お家、作らないの?」
白い息を吐きながら、私を見上げて来るハナちゃん。
そうだった、今はこんなくだらないことで言い争ってる場合じゃないじゃん。
雪こそ降ってないけど、今日もいつものように寒いんだから。
ハナちゃんも、早く新しいお家に入りたいよね。
「うん。作ろう。2人とも、準備は良い?」
「えぇ。私はいつでも、大丈夫です」
「ハナもだいじょぶだよっ!」
私の掛け声に合わせて、家の土台まで駆けて行った2人が、そう返事をしてくる。
そんな返事を聞いて、私はその場にしゃがみ込み、両手を地面に添えた。
イメージは、大きなクマさん。
背中に私たちの家を乗せて歩く、大きなクマさん。
そんなクマさんを、地面の中の巨大な岩で作り上げる事こそが、私のお仕事なのですっ。
もちろん、岩1つじゃ家を背負うことなんてできないから、沢山の岩を繋ぎ合わせて、大きなクマさんをイメージだね。
今日まで、何回も小さなクマさんで練習したから、大丈夫なハズ!
ううん。成功させなくちゃダメなんだ!
「ハナちゃん! ベルザークさん!! そろそろだから! 準備してね!!」
地面の中で作り上げた大きなクマさんを、地面の上、土台の下に掘り起こしていく。
足元の地面が細かく振動し始めたのが、上手くいってる証拠だよね?
そしてついに、クマさんが地面から顔を出した瞬間。
狙い定めていたエントさんによって、絡めとられたのです。
うん。予定通りだね。
後は、クマさんを蔦で引っ張って、土台の首輪と腰ベルトに固定してあげれば、完成だよ!!
「よ~~し!! みんなっ! ひっぱれぇ~!!」
「ここが正念場ですね!!」
「え~い!!」
大きなクマさんを囲んでるエントさん達と一緒に、ハナちゃんとベルザークさんも蔦を引っ張ってる。
こう見ると、みんなでクマさんをイジメてるように見えるけど、そうじゃないんだよ。
そもそもクマさんは、私の指示を受けて動いてるんだからね。
あくまでも、クマさんが自力で家を背負えないから、手伝っているのです。
クマさんの背中には、家の土台がぴったりとハマる窪みも作ってるし、固定さえできちゃえば、良いんだよね。
今が寒い冬だってことを忘れるくらい、私達は全力で蔦を引っ張った。
そうしてようやく、私達の新しいお家『ネリネ』が完成したのです。
「やったぁぁぁ!!」
「できましたね」
「ネリネッ!! 出来たよ!! リッタァ!! はやく中に入りたい!!」
「そうだね。でも、ちょっと待ってねハナちゃん」
嬉しさのあまり、ピョンピョン跳ねてるハナちゃん。
そんな彼女を落ち着かせながら、私は元々の家に向かって声を掛けた。
「ほら、皆。お引越しだよ!!」
そう言ってすぐに、私はリーフちゃんの唄を口ずさむ。
ううん。
この唄はもう、リーフちゃんの唄じゃないかもだね。
だって、木の葉だけじゃなくて、大きな丸太まで、舞い踊ってるんだから。
ベッドシーツとか本とか箒とか、家にあった家具たちが新しい家に向かって飛んで行く中。
あらかじめ家の脇に置いてた丸太たちが、浮かび始める。
そんな丸太と一緒に、もともと住んでた家が宙に浮かび上がり、『ネリネ』の4階部分の上に乗っかった。
「ははは。まさか、もともと住んでた家を丸ごと、5階部分に乗せるなんて、考えもしませんでしたよ」
「そう? でも、いいアイデアでしょ?」
「うん! いいアイデアだよっ!!」
「そうですね。良いアイデアです」
新しい家に引っ越した後、今まで住んでた思い出の家を置いてきぼりにするのは、なんか寂しいよね?
それにさ、これは私の勝手な思い込みなんだけど、ネリネって名前は、ずっと一緒に住んでたあのお家が、私に向けて発したメッセージなんじゃないかって、思っちゃったんだ。
だとしたら……。
『また会う日を楽しみに』なんて。
そんなの、お別れみたいで寂しいジャン。
「置いて行ったりしないからね。お別れじゃないんだから。私達は、この家で沢山の人に会いに行くんだよ」
「そうですね。まさに、ミートホームですっ!」
「ミート……お肉のお家!?」
「違うよぉ! ネリネだよっ! もう、ベルザークさん、ワザとだよね!?」
ケラケラ笑うハナちゃんとベルザークさん。
そんな2人の笑顔のおかげかな。
今日は少しだけ、いつもより暖かい日になりそうな気がするよ。