第34話 待望のお返事
ゴーレムって、ちょっと苦手意識があったんだけど、慣れたらすごく便利だね。
朝から晩まで、コツコツと働いてくれるから、一日だけでも十分な量の丸太を集めることができたよ。
次は、別の作業をお願いしてみようかな。
家の改造をするためには、色々と必要になるからねぇ。
雪降る中、あくせくと働いてくれてるゴーレムを見ながら、お茶を啜る私。
そんな様子を見ながら、ちょっとだけ罪悪感を覚えて、立ち上がろうとしたその日の朝。
ついに、待ち望んでいたお返事が、届いたのです!
「リッタ!! お手紙だよ!! 届いたよ!!」
「ホント!?」
「ハナちゃん、走ると危ないですよ。そのあたりは汗が落ちてますからね」
ちょっと!?
気づいてるんなら、ちゃんと拭いてよね!?
そんな文句を飲み込んで、私はテーブルに並べられた手紙に目を落とした。
「えっと、カルミアさんからだね。これがハナちゃん宛てで、こっちがベルザークさん。私のはこれかな?」
今回届いたのは、東のブッシュ王国からの返事みたいだね。
全部で4通届いてて、1通は、この間の万能薬に関する内容みたいだ。
残りは、私達3人にカルミアさんが1通ずつ書いたみたい。
「なんて書いてある!?」
「ちょっと待ってねぇ。今開けるから」
「私の、分も、開けておいて、もらえますか? ふんっ。ふんっ」
手紙が届いたんだから、いい加減にスクワットするのやめればいいのにね。
まぁ、封を開けるくらいは全然いいんだけど。
「ここに置いておくね」
「ありがとうございます! 496、497……」
「はい、こっちはハナちゃんのだよ」
「ありがと!」
2人の分を開けた後、私はようやく自分の手紙の封を開けた。
待ってた分だけ、開ける時のドキドキが凄いね。
なんて書いてあるのかな?
『リグレッタ殿。お久しぶりでございます。お手紙、読ませていただきました。まさか、こうして手紙のやり取りができるとは思っていませんでしたので、感激しております。』
そんな書き出しから始まり、ブッシュ王国の近況について書いてくれてる。
あの会談の後、ブッシュお爺さん達は私と友好的に関わりたいと思ってくれたみたいだね。
っていうことは、暖かくなったら、また会いに行っても良いのかな?
その時は、美味しいお茶を一緒に飲めると良いね。
あと、万能薬の前払いとして、美味しいお菓子の作り方を教えてくれたよ。
あまり聞き馴染みのないバターっていう材料が使われてるけど。
手紙の返事で、どういうものか聞いてみようかな。
「うん。お手紙をしまっておく入れ物を準備しておかなくちゃだね。汚れちゃったら嫌だし」
何が良いかな?
小さな篭みたいなのがあれば、良さそうだよね。
篭を探して、キッチンの中を見渡した私は、やけにニマニマと笑ってるハナちゃんに気づいちゃった。
「ハナちゃん、どうしたの?」
「えへへ~。これ見て」
手渡された手紙は、カルミアさんがハナちゃんに書いた手紙だね。
ん!?
す、すごい!!
「ハナの絵だよっ!」
「ホントだね! すごいなぁ、カルミアさん、絵を描けるんだね」
手紙にでかでかと描かれてるハナちゃんの似顔絵。
絵の横に、「お手紙ありがとう」と1言だけ添えられてるよ。
そんな手紙の横に並んで、嬉しそうにニヤけてるハナちゃん。
うぅ~!!
よし、このお手紙は壁に貼って飾っておこう!
きっとハナちゃんも喜ぶよね。
早速、お返事を書くと言ってキッチンを駆け出して行ったハナちゃん。
よっぽど嬉しかったのかな?
その間に、私はもう1通の手紙に目を通すことにしました。
「えっと、万能薬の必要な数と、理由についてだね」
内容を簡単にまとめると、毎月5個の万能薬が欲しいとのこと。
代わりに、お茶の葉とお菓子をくれるみたい。
で、万能薬が必要な理由は、今、カルミアさん達の住んでるブッシュ王国では、邪龍による被害が増えてるんだって。
邪龍か。
そう言えば、カルミアさん達が森の中に入って来たときも、そんな話が出てたっけ?
邪龍の放つ炎に触れたら、呪いの火傷を負うって書いてあるけど、どういう呪いなんだろ?
「それも、返事で聞いてみようかな。って言うか、そんな大事な理由なら、もっと沢山必要なんじゃないのかな?」
何個必要かは分かんないけど、毎月5個じゃ、足りないよね?
美味しいお菓子の作り方も教えてもらったし、もっと多くても良いよって、手紙に書いておこう。
「ところで、ベルザークさん。難しい顔してどうしたの?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
さすがにスクワットをしすぎて疲れたのかな?
ちょっと息を荒げたままのベルザークさんは、手紙を読みながら眉をひそめてる。
もしかして、カルミアさんからの手紙に、怒りたくなるようなことが書かれてたのかな?
手紙でも喧嘩するなんて、よっぽど仲が悪いんだね。
「ベルザークさん。いい加減、カルミアさん達と仲良くして欲しいんだけど。もし仲良くできないなら、次に会いに行く時、連れて行かないからね」
「はい。分かっております」
「ホントに分かってる?」
「……そうですね。疑われるのも仕方はありませんが、ただ、この手紙を読んで、少なくとも敵ではないのだと、認識を改めましたよ」
ん?
敵じゃない?
それってどういう意味?
今までは敵だと思ってたの?
まぁ、確かに。
そんな素振りが無かったかと言われたら、滅茶苦茶あったけどさ。
手紙に、何が書いてあったんだろ。
気になるね。
「ねぇ、ベルザークさん。その手紙」
「おっと、手が滑りました」
「え!? ちょっと!?」
急に暖炉に駆けて行ったベルザークさんが、手に持ってた手紙を燃やしちゃった。
「何してるの!?」
「いやいや、少しばかり手元が滑りましてね」
絶対に嘘だよね!?
そうは言っても、何が書かれてたのか教えてくれるつもりは無いみたいだし。
むぅ。
仕方ない。諦めるしかないかな。
「もうっ。手紙を燃やしちゃうなんて。酷いと思うよ?」
「申し訳ありません。このお詫びは、必ずお返ししますので」
お返しって、私にされても困るんだけど。
「やっぱり、ベルザークさんはカルミアさんと仲良くするつもりないんだね。お留守番しておいてもらおうかな」
ちょっとだけ、ベルザークさんにはお仕置きをしなくちゃだよね。
なんて考えてた私を、彼が真剣な眼差しで見返してくる。
「? ベルザークさん?」
「そのことについてなのですが。次の春は、ブッシュ王国ではなく、私の故郷に出向いてはいただけないでしょうか?」
「え? でも、万能薬を渡さなくちゃだし」
東に向かわなくちゃ。
そう言おうとした私に被せるように、ベルザークさんは口を開いたのです。
「その薬も、きっと北で必要になると思いますので」