第33話 続きは夢の中で
肉狩ゴーレムの練習を兼ねて、私は掘り出した岩から沢山の小人を作ることにしました。
取り敢えず、家の周辺の木を切って、積み上げてもらう作業をお願いしてる。
でも、初めの頃は、その簡単な作業も上手く行きませんでした。
木を1本だけ切って、放置するゴーレム。
斧を木に突き立てて、放置するゴーレム。
斧で素振りを繰り返すゴーレム。
切り倒した丸太を、更に切り刻んじゃうゴーレム。
どうして失敗するのか、色々と試行錯誤する中で、私はゴーレムと魂宿りの術の違いに気づくことになります。
「なるほどねぇ。魂宿りの術と違って、ゴーレムは命令に従順なんだね。ってことは、大変な作業はゴーレムに任せた方が良いのかも?」
魂宿りの術は、シーツとか箒みたいに、各々で判断して動いてくれる。
だから、作業をサボったり、手を抜いたりしちゃうんだよねぇ。
まぁ、私の魂を入れてるから、仕方ないんだけどさぁ。
対して、ゴーレムはちゃんとした命令をしてあげれば、休むことなく働き続けるんだ。
逆に言えば、命令の内容が曖昧だと、変な行動を繰り返しちゃう。
その変な行動の内容は、多分だけど、姿とか材質に依存するんじゃないかな。
「石で出来ているから、その辺に座り込んで動かなくなるんですね」
「そうみたい。前に作ったクマさんは、石だったけど、姿がクマだったから、ハチミツを食べに行っちゃったってことかな」
石で出来てるから、口周りにハチミツを塗りたくってるだけで、食べては無かったけどね。
どちらにしても、こういった情報は『ひでんのしょ』に書かれてないよ。
作ったのは私だから、当然だけどさ。
父さんと母さん、もっとちゃんと教えてくれればよかったのに。
なんて、きっと私が真剣に聞いてなかっただけなんだろうけど。
そんなこんなで、ゴーレム達が狙い通りに木を切って積上げ始めるころには、すっかり日が落ち始めちゃってた。
「あ、そう言えば、日が落ちたら休むように命令するのを忘れてた」
「それはいけませんね。明日、目が醒めたら、森が無くなってるかもしれません」
「そんなわけ……」
ないでしょ。
と言おうとした私は、黙々と木を切り倒し続けるゴーレムを見て、言葉を飲み込む。
うん。
絶対にありえないとは、言えないかもだね。
「面倒だけど。もう一度ゴーレム達を回収しなくちゃだね」
「もっかいする!?」
「うん。もっかいお願いしても良い? ハナちゃん」
「うん!!」
キャッキャとはしゃぎながら、雪の上を駆けて行くハナちゃん。
ゴーレムを集めて来るのが、そんなに楽しいのかな?
数が多いから大変だと思うんだけど。
「それでは私も、手伝って来るとしましょう」
「おいたん! 競争しよっ! ハナとおいたん、どっちがたくさん集めるか!」
「いいですね! 雪合戦のようにはいきませんよ!」
なんか、ハナちゃんとベルザークさんって、意外と仲いいよね。
良いことなんだよ?
良いことなんだけどさ。
なんか、ちょっと複雑。
両脇にゴーレムを抱えて、こっちに駆けて来るハナちゃん。
その後ろから、斧とゴーレムを手に持って歩いて来るベルザークさん。
もう完全に親子みたいじゃん!!
「はい、リッタ。ごれーむだよっ!」
「リグレッタ様。私の分もお願いします。それと、斧は危ないので、こちらに置いておきますね」
「……悔しいけど、さすがだね、ベルザークさん」
「? どうしたのですか?」
いつものダメダメなベルザークさんはどこに行ったの!?
ううん。違うよね。
ベルザークさんは、意外と出来る大人なんだ。
たまに少し、変な所があるだけだよね。
ここで彼の良い所を認めることが出来なかったら、それこそ、私が大人じゃないみたいだ。
不思議そうな表情を浮かべるベルザークさんに笑いかけた私は、無言で作業に移ることにする。
ゴーレムから魂を抜いて、脇にどかす。
今日はもう木は切らなくていいから、新しい命令は、明日の朝にでも仕込もう。
そうして、全てのゴーレムを回収し終えた私達は、順番にお風呂に入った。
汗も流したし、美味しいご飯を食べて、ゆっくり休もう。
そして、明日からまた、家づくりの準備をしなくちゃだね。
最近、ベルザークさんに教わった温かいカボチャのスープを飲みながら、私がそんなことを考えてると、不意にハナちゃんが呟いた。
「ねぇリッタ。新しいお家の名前、何にする?」
「え? お家の名前?」
「ほぉ。とても素晴らしい提案ですね、ハナちゃん。私も名前を付けるべきだと思いますよ」
名前かぁ。
家に名前って、変な感じがするけど。
でも、ちょっといいかもだね。
「そうだなぁ。どんな名前が良いかな?」
「解放者……リリーハウス。とかどうでしょう」
「ベルザークさんらしいなぁ。響きは良いね」
「ハナの家!」
「あはは。それじゃあ、ハナちゃんだけの家みたいになっちゃうよ」
「はっ! そっか!」
言われるまで気づいてなかったのかな?
ハナちゃんもベルザークさんも、スープを飲む手を止めて、真剣に考え始めてる。
でも、別に急いで名前を付ける必要は無いんだよね?
冬は長いし、時間はまだあるんだから。
じっくりゆっくり、丁寧に考えればいいでしょう。
名前っていうのは、大事なものだからねぇ。
「2人とも、家の名前はまた今度、改めて話し合おうよ。その時まで、色々とアイデアを考えてさ」
私の提案に、2人は顔を見合わせた。
「そうですね。それが良いと思います」
「ハナも良いよ!」
「それじゃあ決まりだね。良い名前を付けてあげよう」
正直なところ、今日はもうへとへとだから、名前を考える元気は残って無いんだよね。
多分、2人も同じだったのかな。
夕ご飯を食べ終えた私達は、全員すぐに寝室に向かいました。
毛布にくるまりながら、少しだけ、家の名前について考えた私。
でも、疲れてる時に良いアイデアなんて、出てこないよね。
続きは夢の中で、考えることにしましょう。